【勉強会レポート】2020年8月「職場の過重労働対策」


2020年8月の勉強会テーマは、「職場の過重労働対策」についてです。
今回の勉強会では、産業保健スタッフとして、以下のことを学ぶ事が出来ます。
・過重労働対策の基本的な知識を理解する
・実践に役立つポイントを身につけることができます。
具体的には、以下の事をできるようになります。
・過重労働の現状、対策を行わないことによる事業者のデメリットについて説明ができる
・過重労働対策の5つのポイントについて説明ができる
・長時間労働者への面接指導において報告書・意見書を記載できる、過重労働対策について事業者へ適切な提言をすることができる
それでは以下の順に解説していきます。
1.過重労働とは
2.過重労働対策のポイント
3.ケーススタディ(長時間労働者への面接指導)
1.過重労働とは
過重労働の定義
過重労働について、実は厚生労働省等による明確な定義はありません。
人事用語としては、「不規則な勤務や頻繁な出張、労使協定で定めた時間外労働を大幅に超える状態」を指します。
日本と諸外国との労働時間の比較
労働政策研究・研修機構のデータブック国際労働比較2016によると、日本は欧州諸国と比較して、年平均労働時間が長く、韓国の2,124時間、アメリカの1,789時間に次いで、日本は1,729時間となっています。
また、時間外労働(40時間/週以上)者の構成割合が高く、特に49時間/週以上働いている労働者の割合は韓国の32.4%に次いで2番目に高く、日本は21.3%となっています。
過重労働による健康被害とは
長時間労働は、労働の負荷を大きくするだけでなく、睡眠・休養時間、家庭生活・余暇時間の不足を引き起こして、疲労を蓄積させます。
一方、長時間労働の背景には、高い仕事の成果要求(業務量が多い、質的に高度な仕事)が存在することが多く、これは精神的負担、仕事密度の増加をもたらすことで、疲労の蓄積のもう一つの原因になります。
過労性の健康障害としては、脳・心臓疾患、精神障害・自殺、その他にも様々な疾患(胃十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎、腰痛、月経障害など)が発生します。事故・ケガ(労災も含む)も長時間労働が一因になっている場合があります。
労働時間と脳・心臓疾患の健康障害リスクとは
・月45時間以内の時間外・休日労働時間:健康障害リスクは低い
・単月100時間超または2~6カ月平均で月80時間を超える:健康障害リスクは高い
労働時間が長くなるほど健康障害リスクも徐々に高くなる傾向にあります。
長時間労働による健康問題中で最も致命的なものは、脳・心臓疾患です。
厚生労働省の統計による脳・心臓疾患の労働災害請求、決定、支給決定件数の推移では、労働災害として認定された脳・心臓疾患の件数は、現在でも年間300件近く発生しており、注意が必要です。
過重労働による会社のリスク
過重労働対策を行わないことは、労働者個人だけでなく、事業者側のリスクも潜んでいます。
違法な長時間労働や過労死の発生等により以下を引き起こしてしまうと、経営にも大きく影響しかねません。
・労働基準監督署による書類送検や刑事罰
・事業場名の公表
・労災認定
・民事訴訟による多額の賠償金の支払
・社会的信用の失墜(レピュテーションリスク)
・新規採用率の低下
2.過重労働対策とは
過重労働対策の5つのポイント
①事業者による意思決定と方針表明
産業保健活動を行う上で、事業者による意思決定と方針表明は最重要です。なるべく事業者の言葉で、全労働者に周知することが効果的です。
②衛生委員会等の活用
衛生委員会は、実施計画の策定、面接指導の実施方法・実施体制、面接指導対象者・措置内容の基準策定、不利益な取り扱いの排除方法、周知方法等を調査審議し、取組を主体的に推進していく役割があります。
③過重労働対策推進計画の立案
計画には、推進体制の構築、勤務状況の把握方法、時間外労働削減対策、年次有給休暇の取得促進、労働時間等の設定の改善等について記載します。
④各部門の役割と連携
職場の管理監督者、衛生管理者・衛生推進者、産業保健スタッフ、人事労務担当者等の役割を明確化し、チーム体制で対策を推進していきます。
⑤健康確保の徹底
健康診断・事後措置の確実な実施、長時間労働者への面接指導・医師からの意見聴取、事業場の時間外・休日労働時間の基準設定等、労働者の健康を確保するための取組を実施します。
過重労働者への医師面談
過重労働対策の中で特に産業医の役割が大きいのは、長時間労働者面談です。
基本的には時間外・休日労働時間が月80時間を超えた労働者には面接指導の申出を促すことが義務となっていますが、その他高度プロフェッショナル制度適用者等は時間が異なります。担当事業場の労働者が面接指導のどの要件に満たしているのか各自確認をしましょう。
3.ケーススタディ(長時間労働者への面接指導)
今回のケーススタディは、長時間労働者の面接指導の方法、それをふまえた会社への提言になります。
事例紹介
製造ラインで働く53歳男性Aさん。
受注増や機械の不具合で残業時間が増え、休日出勤もしていました。その状況が3カ月ほど続き、月80時間を超えたのは1カ月のみでしたが、3カ月の平均は72時間でした。
社内の面接指導基準は80h/月以上あるいは3カ月平均70h/月以上の者全員です。
疲労の蓄積度は3、抑うつ症状は2項目該当でした。
自覚症状としては、寝つきが悪い、疲労感、頭重感がみられています。
健康診断の結果では、2年前に狭心症を診断され、降圧剤等を内服していますが、最近は忙しく、定期通院できていないことで内服もできていない様子です。面談時の血圧は165/97mmHgでした。
さて、Aさんに対して産業医としてどのような面接指導を行いますか?
面接前に使用する参考テンプレート
長時間労働の対象者には、医師による面接指導の前に以下のチェックリストを記入してもらいます。それにより、事前に疲労蓄積やメンタル面の状態を把握することができ、本人へ適切な指導を行っていくことができます。
・疲労蓄積度チェックリスト
・心身の状況のチェックリスト
・抑うつのチェックリスト
【疲労蓄積度チェックリスト】
【心身の状況のチェックリスト】
【抑うつのチェックリスト】
面接後の本人と会社へのアドバイス
面接指導の指導区分としては、1カ月後に要再面談および現病治療継続が妥当です。
かかりつけ医を受診できておらず、面談時も血圧が高い状況であり、早急な医療機関への受診が必要です。
このケースの場合は、就業上の措置に係る意見書には、就業制限・配慮とし、時間外労働の制限や休日出勤の禁止に加え、早急な受診のために配慮を行うよう意見します。
また、1カ月後に再面談を設定し、受診状況や症状等の確認を行います。
本人の同意が得られれば上司への状況を報告するよう記載し、希望があれば上司とも面接を行うことが可能であると提言するのがベストでしょう。
参考文献:
厚生労働省の労働者の健康を守るために
(https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/101004-8.pdf)