COLUMN

2021.01.07.Thu

実践向け勉強会 2020年9月「職場のメンタルヘルス対策」

9月の勉強会テーマは、「職場のメンタルヘルス対策」についてです。

今回の勉強会では、産業保健スタッフとして、以下の事が出来るようになります。
・メンタルヘルス対策の基本的な知識を理解する
・実践に役立つポイントを身につける

具体的には、以下の事をできるようになります。
・メンタルヘルス対策の現状について説明ができる
・メンタルヘルス対策の基本的内容と進め方について説明ができる
・メンタルヘルス面談で的確なアセスメントができる
・また事業者や対象者へ適切な提言をすることができる

それでは、以下の順に解説していきます。
1.メンタルヘルス対策とは
2.メンタルヘルス対策の取組方法
3.ケーススタディ(メンタル不調者への面接指導)

1.メンタルヘルス対策とは
▼第13次労働災害防止計画
第13次労働災害防止計画には、2018年4月から2023年3月までの5年間に実施すべき主な取組が示されています。そのうちメンタルヘルス対策では、以下の目標が設定されています。
・仕事上の不安、悩みまたはストレスについて、職場に事業場外資源を含めた相談先がある労働者の割合を90%以上
・メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業場の割合を80%以上
・ストレスチェック結果を集団分析し、その結果を活用した事業場の割合を60%以上

▼メンタルヘルスケアの実施状況
平成29年度労働安全衛生調査(実態調査)によると、以下の取組状況がわかります。
・心の健康対策に取り組んでいる事業所の割合は58.4%
・事業所規模別にみると、100人以上のすべての規模で9割超え、50人以上のすべての規模で8割超え
心の健康対策に取り組んでいる事業所のうち、心の健康対策の取組内容は、「ストレスチェック」(64.3%)が最も高く、次いで「労働者への教育研修・情報提供」(40.6%)、「事業所内の相談体制の整備」(39.4%)の順です。

 

▼労働者のストレス状況

労働者の心の健康に関する現状としては、労働者の約6割は職業生活で強いストレスを感じており、その原因は、「仕事の質・量」が最も多く、次いで「仕事の失敗、責任の発生等」、「対人関係(セクハラ・パワハラを含む)」となっています。

▼精神障害に関する労災補償状況
労災請求件数は年々増加傾向にあり、業種別請求件数は「医療・福祉」、「製造業」、「卸売業・小売業」の順に多く、年齢別請求件数は「40~49歳」、「30~39歳」、「20~29歳」の順に多い現状です。つまり、働き盛りで中間管理職を担っている30~40代に精神障害における労災が発生しやすいことがわかります。

▼メンタルヘルス施策の経年変化
メンタルヘルス対策における施策は、近年急速に変化がみられています。
特に、事業場における労働者の心の健康保持増進のための指針、過労死等防止対策推進法、労働安全衛生法改正に伴う働き方改革関連法は十分把握しておくことが必要です。

▼会社におけるメンタルヘルスケアの考え方
メンタルヘルスケアの基本的な考え方で重要なのは、一次予防から三次予防の取組を、4つのケア(セルフケア、ラインケア、事業場内産業保健スタッフ等によるケア、事業場外資源によるケア)の中に組み込むことです。
①一次予防:メンタルヘルス不調を未然に防止する
②二次予防:メンタルヘルス不調を早期に発見し、早期に適切な措置を行う
③三次予防:メンタルヘルス不調となった労働者の職場復帰の支援等を行う

▼会社におけるメンタルヘルスケアのポイント
メンタルヘルスケアの進め方のポイントは、まずは衛生委員会等において十分調査審議を行い、「心の健康づくり計画」を策定することからスタートします。
「心の健康づくり計画」では、中長期的視点に立って継続的かつ計画的に行われるようにし、推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聞きつつ事業場の実態に則した取組を行います。

 

2.メンタルヘルス対策の取組方法
メンタルヘルス対策として主な内容は、以下の3つになります。
2.1 セルフケア
2.2 ラインケア
2.3 職場環境改善


2.1 セルフケア

セルフケアでは、労働者自身が行うストレスへの気づきとその対処および自発的な健康相談、さらにはストレスの予防を含みます。
事業者は労働者に対して、ストレスやメンタルヘルスに対する正しい理解、ストレスチェックなどを活用したストレスへの気付き、ストレスへの対処等について教育研修、情報提供を行うなどの支援をすること、そしてセルフケアの対象として管理監督者も含めることが求められています。

セルフケアの普及啓発・情報提供は一次予防として重要です。
パンフレット・リーフレット媒体の配布、過労死等防止啓発月間等を有効活用したキャンペーン、イントラネットでの周知やe-ラーニングの導入、社内研修などがあります。
事業場の特色に合わせて適宜導入をします。

2.2 ラインケア
ラインケアでは、管理監督者が「いつもと違う」部下の様子に早く気づき、早急に対処することが重要です。
また、管理監督者には部下である従業員の健康を守る義務も課されており、日頃から部下の健康状態を把握しておく必要があります。
特に、長時間労働等により疲労の蓄積が認められる労働者などからは、話をよく聴き、適切な情報を提供し、必要に応じ事業場内産業保健スタッフ等や事業場外資源への相談や受診を促します。

ラインケアの具体的な流れは4ステップあります。
①日ごろの気配り
まずは、日ごろから気配りをすることです。人間関係づくり、本人の性格や状態を把握する、健康相談体制づくり、職場内への普及啓発、などを行うことがポイントです。
②本人への声かけ
次に、声をかけることです。部下や同僚の異変に気付いたら、まずは声かけをしましょう。その際のポイントは、客観的に感じた異変を事実のまま伝えることです(身体的・精神的・行動的側面から)。声を掛けたら、話を聞きます。この時、聞き役に徹して相手を受容すること、そして叱咤激励やなぐさめはしないことが重要です。
③共感・傾聴
また、共感の姿勢を示し、対象者の言葉を反復して問題の方向性に間違いないか確認しつつ、問題や話の要点をまとめて、対象者が一体何に問題を感じているのか明確にするためのアシストがポイントです。
④専門家との連携
もしも管理監督者自身で解決不可能な場合は、産業医や保健師、人事労務担当者に相談し連携を図ることが望ましいです。この段階で、職場不適応あるいは精神疾患か否かは勝手に判断しないことです。

2.3 職場環境改善
職場環境改善は、専門家の指導、職場上司や労働者による自主的活動など、さまざまな進め方があります。
職場環境等の改善においては、産業医や衛生管理者などの産業保健スタッフだけでなく、人事・労務担当者、管理監督者、労働者に参加してもらうことで効果的に対策が実施できます。
米国のNIOSHでは、職場環境等の改善を通じたストレス対策のポイントとして以下を示しています。
・過大あるいは過小な仕事量を避け、仕事量に合わせた作業ペースの調整ができること
・労働者の社会生活に合わせて勤務形態の配慮がなされていること
・仕事の役割や責任が明確であること
・仕事の将来や昇進・昇級の機会が明確であること
・職場でよい人間関係が保たれていること
・仕事の意義が明確にされ、やる気を刺激し、労働者の技術を活用するようにデザインされていること
・職場での意志決定への参加の機会があること

なお、職場環境改善は、メンタルヘルス対策が確立し、セルフケアやラインケア等がある程度浸透した後に、次のフェーズとして実施すると効果を発揮しやすいです。
ある研究では、ストレスチェック後の集団分析結果を活用した職場環境改善は有効であるとの結果が示されており、集団分析結果を効果的に活用することがポイントであるといえます。

3.ケーススタディ(メンタル不調者への面接指導)

今回のケーススタディは、メンタルヘルス不調者への面接指導を想定し、事業者や本人への具体的な提言を考えてみましょう。

▼メンタルヘルス不調者への面接指導において、産業保健スタッフが確認すべき項目
・勤務の状況(労働時間、業務内容、勤務態度、上司・同僚とのコミュニケーション状況など)
・疲労の蓄積の状況
・心身の状況(自覚症状等の確認)
・病歴(現病歴、既往歴、健康診断・ストレスチェック結果、過去の産業医面談カルテなど)
・生活習慣(喫煙、飲酒、運動、食事、睡眠、生活リズムなど)
・今後の方針や見立て(情報開示内容の同意、受診勧奨、支援体制・期間、就業規則の確認など)

▼面接前に使用する参考テンプレート
長時間労働の対象者には、医師による面接指導の前に以下のチェックリストを記入してもらいます。それにより、事前に疲労蓄積やメンタル面の状態を把握することができ、本人へ適切な指導を行っていくことができます。
・疲労蓄積度チェックリスト
・心身の状況のチェックリスト
・抑うつのチェックリスト


【疲労蓄積度チェックリスト】

【心身の状況のチェックリスト】

【抑うつのチェックリスト】

▼事例紹介
Aさん36歳男性、営業職(営業課営業第2係)営業業務を5年以上継続している。
同僚より、「最近デスクワーク中にぼーっとしていることが多い、仕事のミスも目立っているから、少し疲れているのではないか。一度産業医に相談した方がよいのでは?」と言われた。自分では自覚していないので、「必要ない」と答えたものの、心配した同僚に再度産業医面談を勧められ、仕方なく面談を依頼した。
先月はお客様との商談の過程でトラブルがあり、残業時間も増えた。忙しさもあってか、疲労感を感じていた。これまで楽しんでやれていたジョギングも楽しめなくなった。睡眠時間はこれまでと同程度は取れていたが、起床時の体のだるさは軽度みられた。営業業務を始めた5年前、仕事のストレスで睡眠障害(入眠困難、中途覚醒)となった経験あり。
上司は営業課長。ややパワーハラスメント傾向で、最近エスカレートしている。先月のお客様トラブル以降、さらにひどくなった。営業課長とはコミュニケーションをあまり取りたくない。係内の同僚との人間関係は問題なし。
・時間外労働時間:5月42時間、6月50時間、7月72時間(長時間労働者に対する面接指導の基準:80h/月以上の者は全員が対象。)
・疲労の蓄積度:2、抑うつ症状:2/5項目
・飲酒:ほぼ毎日(日本酒換算1~2合/日)、喫煙:10本/日
・既往歴:小児喘息だが、現在は発作なし。その他生活習慣病なし。
・家族:妻、子ども2名。通勤時間片道45分。
・健康診断の結果:BMIは24.5、中性脂肪がやや高め。ストレスチェックの結果:過去一度も高ストレス者と判定されたことなし。

▼事業者と本人への具体的な提言例
・就業制限なし。ただし条件付き(労働時間の継続的モニタリング、自覚症状・疲労感・生活リズム・睡眠状況・飲酒量や喫煙本数の変化をチェックすること)
・事業者側へ情報提供の依頼:営業課長のパワーハラスメント傾向について、なるべく状況を把握すること。
・Aさん側への指導:自覚症状・疲労感・生活リズム・睡眠状況・飲酒量や喫煙本数の変化チェックすること。
・1ヶ月後に再度、産業医面談を予定。
・その際、状況によっては就業制限を検討する可能性あり。次回面談時までに事業者側へ準備依頼:受診勧奨方法、支援体制・期間、就業規則の内容。

メンタルヘルス対策やメンタル面談は、様々な事業場でニーズが高く、産業医としてのスキルが問われる取組です。個人アプローチはもちろんですが、集団に対しても適切なアドバイスができるようになりましょう。

参考文献:
厚生労働省のRELAX 職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf

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