産業医とは?医療機関で働く医師との違いや企業にもたらす導入メリットを解説

日付2021.11.17
更新日:2022.02.18

働き方改革が推進され、従業員の心身の健康を確保することがますます重要視される中、産業医の存在への関心が高まっています。

自社に産業医の導入を検討している人や、産業医について詳しく知りたいという人もいるでしょう。

そこで今回は、産業医とはどのような存在なのか、役割や仕事内容、企業にもたらすメリットなどを解説します。記事を読めば、産業医を選任する意義への理解が深まるとともに、自社に産業医を迎える際にすべきことが分かるでしょう。

産業医とは?

産業医とは、労働者が健康かつ安全に働けるよう、専門的な見地から労働者、事業者の双方に指導や助言を行う医師のことです。

産業医の選任義務については、労働安全衛生法第13条で言及されています。50人以上の従業員がいる事業場(所)では、事業場ごとに産業医を選任しなければなりません。

※参考:厚生労働省.「労働安全衛生法」. https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf,(参照2021-11-12)

病院や診療所などの医療機関に勤務する一般的な医師との違いや、産業医になるために必要な条件などについては、次項で解説します。

医療機関で働く医師と産業医との違い

産業医になるには、医師資格の他、さらに必要な要件を満たさなければなりません。医療機関で働く医師に関する法令は医師法ですが、産業医の関係法令は労働安全衛生法です。

役割にも違いがあります。医療機関で働く医師は、患者を対象に検査、診断、治療などを行うのが仕事です。一方産業医は、企業を活動場所として企業と労働者の間に立ち、労働者の健康管理や職場管理、作業管理を行います。産業医は、病気を治療するのではなく、予防のための指導や助言を行うのが主な役割です。

産業医の役割や業務については、この後詳しく解説します。

産業医になるための条件

産業医には、労働者の健康管理を行うための知識が必要です。このため、医師免許に加えて、日本医師会や産業医科大学での産業医研修を修了するなど、一定の要件を備える必要があります。

産業医になるための要件は、厚生労働省の定める労働安全衛生規則第14条第2項に、以下のとおり定められています。

一 法第13条第1項に規定する労働者の健康管理等(以下「労働者の健康管理等」という。)を行うのに必要な医学に関する知識についての研修であって厚生労働大臣の指定する者(法人に限る。)が行うものを修了した者
二 産業医の養成等を行うことを目的とする医学の正規の課程を設置している産業医科大学その他の大学であって厚生労働大臣が指定するものにおいて当該課程を修めて卒業した者であって、その大学が行う実習を履修したもの
三 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験の区分が保健衛生であるもの
四 学校教育法による大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授又は講師(常時勤務する者に限る。)の職にあり、又はあつた者
五 前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者

※引用:厚生労働省.「産業医の関係法令」.https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf,(参照2021-11-13)

産業医の種類

産業医には、非常勤の嘱託産業医と、専属的に勤務する専属産業医の2種類があります。両者には勤務形態だけでなく、選任される事業場の規模にも違いがあります。

嘱託産業医

嘱託産業医とは、企業から依頼を受けた日に事業場を訪問する非常勤の産業医のことです。一般的に月1回、1~2時間ほど訪問して産業医としての業務を行います。普段は勤務医や開業医として、医療機関で患者に対する診療を行っているケースが多く、日本で活動する産業医のほとんどは嘱託産業医です。

嘱託産業医を産業医として選任できるのは、常時50人以上999人以下の労働者を使用する事業場です。

常時1,000人の労働者を使用する事業所では、嘱託産業医を産業医として選任することはできません。後述する専属産業医の選任が必要です。また、例外として、500人以上の事業場であっても専属産業医の選任が必要になるケースもあります。

専属産業医

専属産業医とは、対象となる事業場に所属し、その事業場の産業医業務に専念する産業医のことです。事業場と直接雇用契約を結び、週に3~4日ないし週5日、事業場に出勤して業務を行います。

前述のとおり、常時1,000人以上の労働者を使用する事業場では、専属産業医を選任しなければなりません。

また、厚生労働省が労働安全衛生規則第13条第1項第2号において指定する、特定の業務に従事する労働者が常時500人以上の場合にも、専属産業医を選任する必要があります。例えば、深夜勤務がある業務や有害物を取り扱う業務、暑熱または寒冷な場所での作業を強いられる業務などが含まれます。

※参考:厚生労働省.「労働安全衛生規則13条第1項第2号」.https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf,(参照2021-11-13)

さらに、常時3,000人を超える労働者を使用する事業場の場合、専属産業医を2人以上専任する必要があります。

産業医の業務内容

50人以上の労働者がいる事業場では、産業医の選任が必要です。では、具体的に、産業医にどのようなことをしてもらう必要があるのでしょうか。ここでは、主な9つの業務から産業医の業務内容をわかりやすく解説します。

職場巡視

職場巡視とは、産業医が企業に赴き、実際の職場環境を観察することです。安全衛生上の問題がないか確認し、問題点があれば衛生委員会などで報告します。職場巡視は、労働安全衛生法で定められた産業医の法定義務です。2カ月に1回以上行う必要があります。

職場巡視の実施にあたり、企業は巡視チェックシートを作成するのが一般的です。チェック項目を定めることで確認すべきポイントを明確にし、巡視漏れを防げます。

チェック項目は企業により異なりますが、職場環境の室温や明るさ、適切に整理整頓、清掃が行われ、清潔に保たれているかなどを巡視します。

衛生委員会への出席・意見

衛生委員会とは、労働者の健康を維持、推進するため、労使がともに参加して話し合うことを目的とした委員会のことです。常時50人以上の労働者を使用する事業場では、労働安全衛生法第18条により設置が義務付けられています。

※参考:安全衛生情報センター.「労働安全衛生法 第3章 安全衛生管理体制(第10条-第19条の3)」. http://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-1/hor1-1-1-3-0.htm#3-18-1,(参照2021-11-13)

衛生委員会は、毎月1回以上の開催が義務付けられており、産業医は衛生委員会の構成員の一人として会に出席し、意見を述べます。

健康診断後の就労判定と高リスク者への産業医面談

健康診断後、結果を産業医に確認してもらい、労働者が就労できる状態かどうか、今までと同様の働き方で問題はないか意見を仰ぎます。就労が難しいと判断された場合や健康上のリスクが認められる場合、必要に応じて該当の従業員と産業医とで面談を行います。

面談では、産業医は専門的な立場から従業員に保健指導を行ったり、医療機関の受診を勧めたりします。

ストレスチェック後の就労判定と高ストレス者への産業医面談

企業が従業員に対して年1回行うストレスチェックに関わることも、産業医の業務の一つです。

労働安全衛生法第66条では、ストレスチェックの実施者について「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」としています。このため、ストレスチェックの実施者として、制度の実施規定や実施計画の作成から携わる産業医が多いです。

さらに、ストレスチェックで高ストレスと判断された労働者に対しては面談も行い、専門的な見地から就業に関して助言します。

参考:e-Gov法令検索.「労働安全衛生法」. https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347AC0000000057, (参照2021-11-13)

長時間労働者への産業医面談

長時間労働は、心身の健康に不調をきたす要因となり、労災認定の要件にも含まれています。労働者の健康障害を未然に防ぐため、企業は一定のケースに当てはまる長時間労働者に対し、医師による面接指導を受けさせる義務があります。

例えば、時間外・休日労働時間が1カ月当たり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が見られる労働者から申し出があった場合、産業医による面接指導が行われます。産業医は、労働者の心身の健康状態や勤務状況を確認するとともにアドバイスを行い、企業側に結果を報告します。

メンタル不調者への産業医面談

産業医は、メンタルに不調を抱える従業員との面談も行います。メンタルの不調は、うつ病などの疾患や社内でのトラブル、休職などに発展することもあるため、早期にサポートを行うことが大切です。

面談では本人の体調を確認するとともに、必要に応じて企業側に業務負荷の調整や休職の助言などを行います。また、産業医は診断や治療を行わないため、状況に応じて医療機関を紹介することもあります。

休職・復職者への産業医面談

休職・復職面談も産業医の業務です。

休職面談は、従業員から休職の希望があった場合や、体調不良による欠勤や遅刻、早退が続き、企業側が休職指示を検討している場合に行われ、休職の意思や就業できるかどうかなどを確認します。

復職面談は、復職を希望する従業員と行います。本人の意思や病状などを鑑みて、復職が可能かどうか判断します。

産業医による休職・復職面談は、休職者や復職者への対応に慣れない人事担当者にとって心強いでしょう。

衛生講話

衛生講話とは、従業員の健康増進と衛生管理を目的とした、産業医による研修のことです。衛生講話は義務ではありませんが、社員の意識向上のため、取り入れる企業も多いです。

衛生講話のテーマはさまざまです。ストレスや喫煙、飲酒、食生活、睡眠など、従業員にとって身近なテーマなら、興味を持ってもらいやすいでしょう。

衛生講話は、従業員が産業医の人柄などを知り、親しみを持ってもらう機会としても効果的です。

その他健康保持促進のための提言

産業医の業務は、労働者が健康かつ安全に就労できるためのサポート全般です。このため、上記の業務以外にも、必要に応じて健康の保持・促進のためのさまざまな提言を行います。

例えば、病気の治療が必要な労働者が仕事の継続を希望したとき、どのように治療と仕事を両立させるか、専門的な立場でアドバイスすることができます。

産業医が企業にもたらすメリット

産業医は、企業にさまざまなメリットをもたらします。ここでは、主な6つのメリットを紹介します。

無駄な採用コストを減らせる

産業医を活用し、高ストレスな従業員や時間外労働が多い従業員、健康診断でリスクが認められた従業員などに対して適切な措置を講じることは、従業員の健康障害を未然に防ぐことにつながります。

その結果、心身の体調不良による休職者や離職者を減らすことができるため、人材の補完に必要な採用コストを減らすことができます。

企業と労働者の中立なセカンドオピニオンとなる

例えば、従業員が心身に不調を訴えた場合、医療機関で働く医師は主治医として患者側の立場に立つ存在のため、実態として労働者が望むような形で診断書を書くことも少なくありません。

一方、産業医は、企業と労働者の間に立つ中立的な存在です。労使のどちらにも偏らない、第三者の専門家として労働者の健康状態を確認するため、企業側は無用なトラブルを回避できるというメリットがあります。

労働者のメンタル不調の発生を予防する

メンタルヘルスに不調をきたした場合、そのまま放置してしまうと場合によっては過労死やうつ病の発症を引き起こします。休職を余儀なくされるケースも少なくありません。

しかし、産業医による面談やストレスチェック、健康診断の結果チェックなどを通じて、高ストレスな労働者や健康診断で気になる所見があった労働者に適切なサポートを行えば、労働者のメンタル面での不調の発生を予防できます。

労働者の健康意識を向上させる

衛生講話でメンタルヘルス教育を行ったり、定期的な職場巡視で声掛けやアドバイスを行ったり、産業医の存在が職場環境に浸透することで、労働者の健康意識が向上するというメリットもあります。

労働者自身の健康意識が高まり心身の健康が確保されれば、業務へのモチベーションや集中力も高まるでしょう。

事業場の訪問では目が届かない、テレワークを行っている労働者については、別途面接を行うなど、健康意識の向上と健康障害の防止のための工夫が必要です。

企業の生産性をあげる

産業医の導入に伴うさまざまな取り組みによって、労働者の健康は適切に管理され、心身の健康維持につながるでしょう。結果として、企業全体の生産性向上が期待できます。

企業の生産性が向上するということは、業績アップにもつながります。また、労働者が健康的に働ける環境作りをすることによって、離職や休職の防止も可能です。

企業のイメージアップにつながる

従業員の健康管理を目的とした産業医の導入は、従業員を大切にしている会社という印象につながります。このため、社内外での企業のイメージアップにつながる点もメリットの一つです。

社外でのイメージアップは、求職者からの評価を高め、優秀な人材の確保につながることが期待できます。一方、社内では、従業員が自社に好意的なイメージを持てるようになることで帰属意識が高まり、業績や利益の上昇につながるでしょう。

企業が産業医を迎える上で行うべきこと

産業医は、働き方改革が目指す健全な職場環境の実現に欠かせない存在ですが、業務を効果的に実施するには、企業の受け入れ態勢も重要です。では、具体的に企業はどのようなことに留意すればいいのでしょうか。

ここでは、企業が産業医を迎える上で行うべき3つのことを解説します。

産業医の活動環境を整備する

前述のとおり、産業医の業務内容は多岐に渡ります。それぞれの業務をスムーズに進め、社員の健康が適切に管理されるようにするためには、企業は、産業医の活動環境を整備する必要があります。

例えば、健康診断結果や長時間労働している従業員の情報提供が、円滑に行われるような仕組みの整備が必要です。産業医は提供された情報から職場環境の状況を把握し、問題を改善するためのアドバイスを行います。

また、産業医の発言力を強化するとともに、改善に向けた助言や指導を積極的に取り入れる姿勢も重要です。

労働者が安心して健康相談を受けられる環境づくり

労働者の視点に立った環境整備も必要です。特に面談は、基本的に労働者の申し出によって行われるため、労働者が安心して産業医に相談したいと思える環境を作れるかどうかは、産業医の存在を活かせるかどうかに関わります。

まずは、産業医の存在や業務内容を社内に周知しましょう。心身の不調を感じた時などに相談できる窓口であると知ってもらい、相談を申し出るにはどのような手順を踏めば良いかも併せて伝えます。

労働者は、秘密が守られるかどうかを不安視し、産業医への相談を躊躇するケースも多いです。産業医は面談内容を全て会社に報告する必要はなく、報告義務と同時に守秘義務も併せ持つことをしっかり知らせましょう。労働者が産業医を信頼してこそ、面談は有意義なものとなります。

長時間労働者への対応を強化する

長時間労働は心身の健康にさまざまな不調を引き起こす原因となるため、特に産業医による是正が必要となる部分です。しかし、時間外労働を申告制で把握している企業では、長時間労働の実態を把握しきれていないケースがあります。

企業には、長時間労働を行っている従業員に対して通知を行う義務もあるため、産業医を迎えるならまずは労働者の勤務時間の把握に努めましょう。

例えば、出勤・退勤が自動で打刻される勤怠管理システムを利用すれば、正確な勤務時間を把握することが可能です。

産業医を導入し労働者と企業に安心を

働き方改革の推進が活発化する中、労働者と企業の双方に安心をもたらす産業医の存在感は、今後ますます増していくことでしょう。

従業員が50名未満の事業所の場合、ストレスチェックの実施や産業医の導入については国の助成金を活用することも可能です。助成金などの制度も利用しながら、従業員のメンタルケアを積極的に行っていきましょう。

Dr.健康経営が運営する産業医紹介サービス『産業医コンシェルジュ』では、質の高い産業医をさまざまな業種・規模の事業所へ紹介し、高いサービス満足度を得ています。産業医の選任をお考えの方は、ぜひ利用をご検討ください。

 

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太(すずき けんた)
代表取締役/医師・産業医

1989年、東京都国立市出身。2009年、筑波大学医学部へ入学。
在学中にKinesiology, Arizona State Universityへ留学し、医学・経済学・人文学等を学ぶ。
卒後は国立国際医療研究センターで勤務医として働く。
予防医療の重要性に気づき、帝京大学公衆衛生大学院で健康経営を研究しつつ、産業医として多くの企業を担当する。