産業医の役割・選任

産業医とは?設置基準や仕事内容、報酬相場や探し方は?【徹底解説】

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更新日:2023.07.18

働き方改革関連法により、産業医の役割や機能が強化されることになりました。
また、近年ではワクチンの職域接種などもあって、「産業医」という言葉を耳にする機会も増えてきたのではないでしょうか。

一方で、
「産業医ってなにをしているの?」
「そもそも産業医って必要なの?」
と、具体的なことについてはあまり知られていないことが多いようです。

そこで今回は、産業医の役割、医師との違い、設置基準、仕事内容、報酬、探し方など、わかりやすく解説していきます。
従業員数が50人前後の中小企業の方、また、経営者や人事総務担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

そもそも産業医とは?

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産業医とは、職場における労働者の健康管理等について、専門的な立場から指導・助言を行う医師をいいます。
簡単に言うと、「職場の安全や健康を守るお医者さん」です。

事業者は、事業場の規模に応じて産業医を選任することが義務付けられています。

産業医の要件

産業医は、医師であって、以下のいずれかの要件を備えた者から選任しなければなりません。
(労働安全衛生規則第14条第2項)

  •   (1)厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
  •   (2)産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
  •   (3)労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
  •   (4)大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
  •   (5)前各号に掲げる者のほか、厚生労働大臣が定める者

 

一般的な医師(臨床医)との違い

一般的な医師は診断・治療を行いますが、産業医は職場における健康・安全管理が役割となり、診断・治療といった医療行為は行いません

なお、産業医には、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる「勧告権」があります。

産業医 一般的な医師
法令 労働安全衛生法 医師法
契約者 事業主 患者
活動場所 企業 病院など医療機関
対象 従業員 患者
職務 労働者の健康管理、職場管理、作業管理 検査・診断・治療
勧告権 あり なし

関連:主治医と産業医の違いとは?それぞれの役割や仕事内容・意見に違いがある場合に企業がするべき対応

産業医の設置基準

産業医は、すべての企業に選任義務があるわけではありません。
事業場の規模によって選任義務が異なります。

従業員数が50人以上の事業場に選任義務

「常時使用する労働者」が50人以上の事業場では産業医を選任しなければいけません。
人数は、法人単位ではなく事業場単位でカウントします。

なお、中小企業など50人未満の小規模事業場については努力義務となっています。

<例>
(イラスト)
本社(70名)に加えて、A支店(90名)、B支店(30名)がある場合、本社とA支店には選任義務がありますが、B支店については努力義務となります。

事業場の規模
(常時使用する労働者数)
産業医の人数 産業医の種類
50人未満 選任義務なし(努力義務)
50〜999人 1 嘱託 ※
1,000〜3,000人 1 専属
3,001人以上 2 専属

※特定業務の場合は500名以上で専属が必要

関連:従業員50人以上の事業場における義務とは?産業医の選任が必要?

嘱託産業医と専属産業医の違い

嘱託産業医とは、非常勤として勤務する産業医で、月1〜数回程度訪問して業務を行うのが一般的です。
多くの場合は開業医や勤務医が、日常診療の傍らで業務を行っています。

一方で、専属産業医とは事業場に専属する常勤の産業医で、週3〜4日程度勤務するのが一般的です。

関連:嘱託産業医とは?専属産業医との違いは?メリット・デメリットや選び方のポイント

産業医の選任を怠った場合の罰則

労働安全衛生法において、産業医選任の必要が生じた日から14日以内に産業医を選任しなければならないとされています。(労働安全衛生規則第13条第1項)
これに違反した場合、事業者は50万以下の罰金を支払わなくてはいけません。(労働安全衛生法第120条第1項)

従業員数が50人を超えそうな場合や、50人以上の拠点を新規で立ち上げる場合には、産業医選任に向けて早めに準備を進めていきましょう。

産業医の職務と主な業務内容

産業医の主な役割とは?

産業医の職務については、労働安全衛生規則第14条第1項に以下の通り定められています。

  •   (1) 健康診断の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  •   (2) 医師による面接指導、長時間労働者への面接指導並びに必要な措置の実施並びにこれらの結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  •   (3) 心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施並びに高ストレス者への面接指導の実施及びその結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関すること。
  •   (4) 作業環境の維持管理に関すること。
  •   (5) 作業の管理に関すること。
  •   (6) 前各号に掲げるもののほか、労働者の健康管理に関すること。
  •   (7) 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置に関すること。
  •   (8) 衛生教育に関すること。
  •   (9) 労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止のための措置に関すること。

具体的な業務内容に置き換えると主に次の7項目となります。

1.衛生委員会への出席

従業員数が50人以上の事業場では、衛生委員会を月1回開催することが義務付けられています。
産業医の出席は義務ではありませんが、構成メンバーとして参加することが望ましいとされています。

衛生委員会では、職場巡視の結果、長時間労働や労災の発生状況、定期健診やストレスチェックの実施、その他職場の衛生管理に関わる事柄について、報告や協議を行います。
また、テーマを定めて産業医による健康講話を行うこともあります。

関連:衛生委員会を設置する目的は?設置基準や各メンバーの役割・安全委員会との違いを解説
関連:衛生委員会を立ち上げる方法とは?4つのステップに沿って分かりやすく解説

2.職場巡視

職場巡視とは、作業現場を実際に見て、安全衛生上の問題がないかチェックし、問題がある場合は必要な措置を行うことをいいます。
従業員数が50人以上の事業場では、衛生管理者には週に1回、産業医には月に1回、職場巡視の実施が義務付けられています。(労働安全衛生規則第15条)

具体的には以下のような内容について確認します。

  •   ・温度(温度・湿度)、空気(換気・受動喫煙防止・粉じん)、光(採光・照明・照度)、音(騒音)
  •   ・整理整頓(通路や非常口の確保、作業場やトイレ・休憩室の清掃など)
  •   ・作業の安全性(VDT作業、作業姿勢など)
  •   ・救急箱・AEDの設置

 

3.長時間労働者への面接指導

長時間労働によって脳・心臓疾患発症のリスクが高まるという医学的見地を踏まえ、事業者はリスクが高い従業員に対して医師による面接指導を実施し、健康状況の把握と適切な指導を行う必要があります。

面談が必要となる長時間労働者の基準は以下のとおりです。

労働者(一般) 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者(申出)
研究開発業務従事者 月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積が認められる者(申出)
月100時間超の 時間外・休日労働を行った者(申出不要)
高度プロフェッショナル制度適用者 週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合におけるその超えた時間について月100時間を超えて行った者(申出不要)

※出典:https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000553571.pdf

4.健康診断後の就業判定・保健指導

事業者は、定期健康診断の結果に基づき、異常の所見があると診断された従業員が就業を続けることが可能かどうか、医師による意見聴取を行う義務があります。これを就業判定と言います。(労働安全衛生法第66条第4項)

就業判定は、健康診断の結果だけでなく、従事する業務内容や労働時間、過去の健康診断結果などから総合的に判断します。
就業判定は以下の3つに区分されます。

就業区分 就業上の措置の内容
通常勤務 通常の勤務でよいもの
就業制限 勤務に制限を加える必要のあるもの 勤務による負荷を軽減するため、労働時間の短縮、出張の制限、時間外労働の制限、労働負荷の制限、作業の転換、就業場所の変更、深夜業の回数の減少、昼間勤務への転換などの措置を講じる
要休業 勤務を休む必要のあるもの 療養のため、休暇、休職などにより一定期間勤務させない措置を講じる

※出典:https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11202000-Roudoukijunkyoku-Kantokuka/shishin.pdf

なお、就業区分にかかわらず、健康の保持に努める必要があると認める労働者に対して、医師または保健師よる保健指導を受けさせるよう努めなければいけないという努力義務があります。

保健指導では、日常生活面での指導、健康管理に関する情報の提供、健康診断に基づく再検査又は精密検査、治療のための受診の勧奨等を行うほか、健康保険組合等との連携を図ります。

5.ストレスチェック実施者、高ストレス者への面接指導

従業員数が50人以上の事業場では、年1回ストレスチェックの実施が義務付けられています。

ストレスチェックは、従業員自身のストレスへの気付きを促すとともに職場改善につなげ、メンタルヘルス不調となることを未然に防止することを目的としています。

ストレスチェックは医師・保健師等を実施者として行う必要があり、一般的には産業医が実施者を務めます。
また、産業医は、検査の結果「高ストレス」と判定された方に対しての面接指導も実施します。

関連:ストレスチェック制度とは?義務化の背景や労働者への対応・手順や費用など詳しく解説

6.面談・健康相談・保健指導

産業医は、長時間労働者や健康診断での有所見者、ストレスチェックにおける高ストレス者に対して面接指導を行います。

そのほか、休職していた従業員が回復し復帰をしようという場合に面談を実施し、復職の可否や就業上の配慮について意見を述べたり、メンタル不調の従業員に対して面談を実施し、メンタルヘルスケアを実施したりします。

関連:産業医面談を上手く活用するには?義務や目的・企業側が配慮すべきことを解説

7.健康教育

衛生委員会における健康講話のほかにも、産業医が健康促進や安全衛生のための社内研修を実施することもあります。

そのほか、最近では感染症対策なども産業医の役割として求められています。

産業医を選任するメリット

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従業員50人以上の事業場では産業医の選任が義務となりますが、最近では社会環境の変化もあり、50人未満の小規模事業場においても産業医を設置するケースが増えてきています。

産業医を設置することは、企業にとって様々なメリットがあります。

従業員の不調予防、生産性アップ

産業医による面談や健康指導、環境改善により、従業員の心身予防へとつなげることができます。

また、米国における研究により、アブセンティーイズム(仕事を病欠している状態)よりも、プレゼンティーイズム(健康の問題を抱えつつも仕事を行っている状態)による生産性の低下からつながるコストの方が圧倒的に多いという結果が出ています。

つまり、プレゼンティーイズムへの対策が非常に重要であり、不調者へのケアが生産性の向上につながるとも言えます。

関連:プレゼンティーズムやアブセンティーズムとは?企業に与える損失や改善で得られるメリットを解説

専門的な立場から指導や助言がもらえる

従業員の健康管理・安全衛生管理について、医療専門家である産業医に助言を求めることで、適切に対応することが可能となります。

また、復職時の就業判断などでは、主治医の診断書だけでなく、セカンドオピニオンとして業務内容や勤務状況をよく理解した産業医に意見を求めることで、偏った判断を防ぐことができるようになります。

ブランディング

産業医設置によって健康管理が適切に行われることで、従業員は安心して働くことができ、会社への信頼を与えることができます。それによる離職率の低下も期待できるでしょう。

また、健康経営に取り組んでいる姿勢を対外的にアピールできれば、企業イメージの向上やブランディングにつなげることができるでしょう。

産業医の費用相場

EAPを運用する際の注意点

産業医の費用・料金については、産業医の種類(嘱託/専属)はもちろん、従業員数、業務内容、稼働時間、エリアによっても異なります。

嘱託産業医の費用相場

嘱託産業医の費用相場は月1回程度の訪問で5〜10万円となっています。
以下、日本橋医師会が公表している報酬目安がありますので参考にしてみて下さい。

従業員数 基本報酬月額
50 人未満 75,000円~
50~199人 100,000円~
200~399人 150,000円~
400~599人 200,000円~
600~999人 250,000円~

※出典:https://www.nihonbashi-med.com/topics/topic_file32_1460600097.pdf

専属産業医の費用相場

従業員数が1,000人以上になると専属の産業医が必要ですが、専属産業医の費用相場は週3〜4日勤務、1日3時間〜が一般的で、報酬年額(年収)としては1,000〜1,500万円が目安となります。

関連:産業医の報酬の相場はどれくらい?選任する際にかかる費用や人的・時間的コストも解説

 

産業医の探し方

適応障害とは?

産業医の探し方にはいくつかの方法があり、それぞれメリット・デメリットがあります。

地元の医師会、近隣のクリニック

1つ目は、地域ごとの医師会に相談して産業医を紹介してもらったり、近隣で産業医業務を行っている病院に依頼したりする方法があります。

メリット ・無料で紹介してもらえる
・事業所の近隣で探せる
デメリット ・直接契約となるため、業務内容や報酬については企業自身で交渉する必要がある
・産業医交替の際にはまた1から探す必要がある
・複数事業所を抱える場合、拠点ごとに探す必要がある

健診機関

2つ目は、定期健康診断を実施している病院・機関に依頼する方法があります。

メリット ・健康診断の実施と産業医をまとめて依頼でき、手間が省ける
・セットで依頼することで全体的なコストを抑えられることがある
デメリット ・健康診断の繁忙期には産業医業務に手が回らなくなる可能性がある
・産業医交替の際に代わりの医師が限られている
・医師の数が限られるため、メンタル対応など自社ニーズに合わない医師を紹介される可能性がある

紹介会社

3つ目は、産業医紹介会社に依頼する方法です。

メリット ・多くの産業医の中から自社ニーズに合った医師を紹介してもらえる
・複数の事業所で必要な場合も一括で依頼できる
・産業医交替の際にも後任を探してもらえる
・業務内容や報酬などが明確で、直接交渉する必要がない
(紹介会社が対応してくれる)
・産業医業務以外にも運営面でのサポートを受けられることがある
デメリット ・紹介会社によってサービス内容や費用が異なる
・直接契約に比べて費用がやや高め

 

選ぶときの注意点

産業医を選ぶ際には、産業医としての知識経験はもちろん大事ですが、それ以上に「コミュニケーション力」「柔軟性」などがあるかを確認しましょう。

選任されれば、企業担当者からの相談や従業員との面談が発生します。
その際に、「コミュニケーションが取りづらい」「気軽に相談しにくい」という医師だと、いくら経験豊富な方だったとしても、産業医としての十分な活躍が期待できません。

「気軽に相談しやすい」「親しみやすい」「企業の要望に対して柔軟に対応してくれる」といった人柄の医師に依頼するようにしましょう。

関連:後悔しない産業医の探し方や選び方は?事前に確認しておくべきことやおすすめの方法を紹介

産業医選任の流れ

産業医面談のスポット契約とは?

依頼する産業医が決まったら、産業医(または紹介会社)との契約書を締結します。

契約締結後、「産業医選任報告」の様式に必要事項を記入し、医師免許証(写)・産業医認定証(写)とともに、管轄の労働基準監督署へ届け出をします。
届け出を受理してもらい、選任手続きは完了です。

なお、産業医が交替する際にも同じ様式を用いて届け出を行います。

資料リンク:「総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告」(様式第3号)

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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