産業保健・健康管理

労働安全衛生法とは?企業が行うべきことや目的・徹底することで得られるメリットを解説

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更新日:2021.11.20

企業には労働者の安全や健康を守り、快適な職場環境を整える義務があります。これを定めた法律が労働安全衛生法です。労働安全衛生法とは、具体的にはどのような法律なのでしょうか。

この記事では、労働安全衛生法の概要や具体的な規則、違反した場合の罰則や企業に対する責務の規定などを紹介しています。あわせて、2019年の法改正によって労働安全衛生法がどう変わったのかも解説しています。

労働安全衛生法への理解を深め法令を守ることで、安全で快適な労働環境が保たれます。労働安全衛生法について疑問がある場合は参考にしてください。

労働安全衛生法とは?

労働安全衛生法を分かりやすく説明すると、労働者の安全や健康を守るための法律です。ここでは、この法律の目的や成立経緯はどのようなものなのかを解説します。

労働安全衛生法の目的

労働安全衛生法は、職場における労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境を形成することを目的として制定されました。

この法律では、労働災害防止のための事項が規定されています。具体的には、危険物や有害物、機械や安全衛生教育に関する決まり事です。その他、職場においての責任の所在などを明確にするために責任者の選任や、衛生委員会、安全委員会などの組織の設置を義務付けています。

目的達成のための手段は「労働災害の防止のための危害防止基準の確立」、そして「責任体制の明確化」、「自主的活動の促進の措置」などです。これらによって総合的で計画的な安全衛生対策が図られます。

労働安全衛生法成立の経緯

労働安全衛生法は昭和47年(1972年)に可決された法律です。

この法令の成立以前、元々労働安全衛生関連の規定については、昭和22年(1947年)の新憲法制定に合わせて整備された法令の中で、「労働基準法」第5章に定められていました。しかしこれでは安全な労働環境のための法令として不十分だったのです。

その後の高度成長期に毎年6000人を超える労働災害死亡者が発生し、労働環境の改善が社会的な課題として認識されるようになりました。こういった状況を受け、昭和44年には労働省を中心として労働安全衛生法令の整備の取り組みが始められ、昭和47年に労働安全衛生法が成立することになったのです。

労働安全衛生法と労働安全衛生規則

労働安全衛生法と労働安全衛生規則には深い関係があります。似たような印象を受けるこれらの法と規則にはどのような違いがあるのでしょうか。それぞれの罰則について解説します。

労働安全衛生法と労働安全衛生規則の違い

わかりやすい違いとしては、労働安全衛生法は「法律」、労働安全衛生規則は「省令」に当てはまることが挙げられます。法律と省令では、管轄の機関や法的拘束力が異なります。

・「憲法」「法律」「政令」「省令」の関係性
これらは一見似た単語ですが、実は異なる意味を持っています。これらの法令は縦の関係にあり序列がつけられています。

・憲法
日本国憲法は国の最高法規として序列の最も上に位置します。

・法律
憲法に基づき国会で制定された決まりです。行動の指針として強い法的拘束力を持ちます。

・政令
法律に基づいて内閣が定めた命令です。法律で定められた原則をより具体的な規定として定めています。

・省令
各省の大臣が発した命令をいいます。政令をさらに細かく落としこんだものです。労働安全衛生規則は厚生労働省が発令したものです。

労働安全衛生法に違反すると罰則を受ける可能性がある

労働安全衛生法に違反した場合、「懲役」または「罰金」の罰則が科される可能性があります。罰則の対象となるケースはいくつかあります。

作業主任者選任義務違反
・作業主任者をその義務生じているにもかかわらず選任しなかった場合
・作業選任者が作業者の監督を怠った場合
・50万円以下の罰金、もしくは6カ月以上の罰金

安全衛生教育実施違反
・従業員に対して必要な安全衛生教育を行わなかった場合
・50万円以下の罰金

無資格運転
・資格が必要な特定の業務(クレーンの操作等)を、無資格者が行った場合
・50万円以下の罰金、もしくは6カ月以上の懲役

労災報告義務違反
・労働災害が発生したにもかかわらず、労働基準監督署に労働者死傷病報告を提出しない場合
・労働者死傷病報告において虚偽の報告を行った場合
・50万円以下の罰金

これらは違反の一部の例です。他にも罰則の対象となる事柄が存在します。

労働安全衛生法の「安全基準」と「衛生基準」「特別規制」とは?

労働安全衛生法では「安全基準」「衛生基準」そして「特別規制」が定められています。これらはどのような内容でどのような違いがあるのかを解説します。

安全基準

労働安全衛生法では「安全基準」についての規定があります。業務における危険の回避を目的として安全基準を守るために定められています。

新たに労働者を雇用した場合や労働の作業内容に変更が合った場合には、安全衛生教育の実施が必要です。

説明や指導を必要とする事項
・使用される機械、原料等の危険性・有害性
・使用される機械、原料等の取扱要領
・安全装置、有害物抑制装置などの作業手順、点検方法
・保護具の性能、取扱方法
・業務における疾病
・事故時の対応
・職場の清潔保持

※上記は一部の例で他にも業務に合わせた安全衛生教育が求められます。

衛生基準

労働安全衛生規則では「衛生基準」についての規定があります。労働者が安全で衛生的に働ける環境作りのために定められたものです。

衛生基準の内容の例
・有効な休憩設備の用意
・有害な作業場において、作業場の外に休憩設備を用意すること
・坑内作業における通気設備の用意
・労働現場における照度の決まり
・月に1度以上の産業医の巡視
・防毒マスク、粉塵マスク、囲いなどの用意
・現場の温湿度の調節
・照明設備の定期的な点検
・夜間労働者のための仮眠設備の用意

※上記は一部の例で他にも細かい規定が存在します。

特別規制

労働安全衛生規則には「衛生基準」の他に「特別規制」という規則もあります。

特別規制の内容の例
・建設業の元方事業者(仕事を元請けする事業者)は厚生労働省が定める場所において、危険を防止するための措置を行う
・クレーン等の運転における合図の統一
・事故現場等の標識の統一
・有機溶剤等の容器の集積場所の統一

※上記は一部の例で他にも細かい規定が存在します。

安全で衛生的な労働環境を実現するため、これらの基準や規制が整備されています。

労働安全衛生法において選任すべき役割と組織

労働安全衛生法では特定の役割や組織の選任が義務付けられています。どのようなものがあるのかについて、その概要や目的を解説します。

選任する役割

労働安全衛生法では、事業場の労働者数に応じて総括安全衛生管理者、安全管理者、衛生管理者、産業医など安全衛生の中心となる管理者を選任することが義務づけられています。

・総括安全衛生管理者
一定以上の規模の事業場では事業全体を統括管理する者の選任が必要です。規模の基準は業種によって異なります。

・衛生管理者
安全衛生業務のうち、衛生に関わる技術的な事柄を管理する者です。50人以上の従業員が在籍する事業場では衛生管理者の設置が義務となります。衛生管理者となるには、第一種または第二種衛生管理者免許が必要です。

・産業医
安全衛生業務のうち労働者の健康管理に関わる事柄を管理します。事業場に一定以上の人数が在籍している場合は選任の義務が生じます。

・安全管理者
安全衛生業務のうち、安全に関わる技術的な事柄を管理する役割です。安全管理者になるには一定の要件を満たし、かつ厚生労働大臣の定める研修を修了する必要があります。

その他、建設業や造船業など業種によっては労働安全衛生法で定める別途の責任者が必要なケースもあります。

選任する組織

労働安全衛生法では、一定の基準に該当する事業場での安全委員会、衛生委員会(あるいは両委員会を統合した安全衛生委員会)の設置が義務付けられています。

これらの委員会は、労働災害の防止に労使が協力して取り組むことを目的としたものです。一見似た単語ですが設置基準などに違いがあります。

・安全委員会
事業場はその業種と規模によっては、安全委員会を設置する義務を有します。職場の安全や労働災害の防止に関する取り組みを行います。

・衛生委員会
業種にかかわらず、50人以上の労働者が在籍する事業場は衛生委員会を設置する義務があります。衛生委員会の目的は労働者の健康障害の防止です。

・安全衛生委員会
安全委員会と衛生委員会の両方を設置する必要がある場合、2つを別々に設けるのではなく両組織をあわせた安全衛生委員会の設置に代えることができます。

安全衛生法における事業者の責務

安全衛生法において事業者はいくつかの責務を負います。ここでは、そもそもの事業者の定義とは何か、そしてどのような責務があるのかを解説します。

労働安全衛生法で定義される「事業者」とは?

労働安全衛生法における事業者とは「事業を行う者で、労働者を使用するもの」と定義されています。

法人企業では、事業者は経営者ではなく法人を指します。個人企業なら事業者は経営者本人です。

事業者は危険防止措置や就業時の必要措置、労働者の健康保持のための措置などを労働安全衛生法に従って徹底する義務があります。

ただし、事業が請負契約に基づいて行われる際には事業者のみならず、元方事業者にも一定の義務が生じるケースがあります。元方事業者とは、請負契約における注文者のことです。

危険防止の措置

事業者は労働者が設備や作業によってケガや病気をすることがないように危険防止措置をとる責務があります。

事業者が危険を防止するための措置を講じる責務は以下のとおりです。
・機械、器具その他の設備による危険
・爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険
・電気、熱その他のエネルギーによる危険
・掘削、採石、荷役、伐採等の業務における作業方法から生ずる危険
・労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が崩壊するおそれのある場所等に係る危険

事業者は以下の健康障害を防止するための措置を講じる責務があります。
・原材料、ガス、蒸気、粉塵、酸素欠乏空気、病原体による健康障害
・放射線、高温、低温、超音波、騒音、振動、異常気圧等による健康障害
・計器監視、精密工作等の作業による健康障害
・排気、排液又は残債物による健康被害

就業に必要な措置

事業者は労働者を雇った場合、業務に関する安全衛生教育を実施する必要があります。この労働者には派遣社員、パート、アルバイトも含まれます。

・労働者を雇用したときや労働者の作業内容が変更された時には、従事する業務に関する安全衛生教育を行う義務があります。

・事業者は、業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務についた職長や労働者の指導、監督にあたる者に対して安全衛生教育を行う必要があります。

・特に危険有害業務に労働者が携わる場合は、資格取得や法令で定められた特別教育を実施するよう義務付けられています。

労働者の健康保持や健康増進のための措置

事業者は労働者の健康のため、作業環境を良好に保ち健康管理をする措置が必要です。

・作業環境測定/作業管理
作業環境に有害な物質や、騒音、振動、高温、低温、高湿度等がある場合には、これらを除去してある程度まで低減させる必要があります。これらの対策で不十分なら、保護具、保護衣などで労働者の健康を守らなくてはなりません。

・健康診断・保健指導
事業者は労働者に、年に一度医師による健康診断を受けさせる義務があります。健康に異常が見つかった場合は、それを考慮した適切な措置が求められます。

その他、50人以上の労働者がいる場合は、年に一度ストレスチェックを実施し労働基準監督署に結果を提出することが必要です。50人未満の企業でもストレスチェックは努力義務として推奨されています。

安全衛生法改正のポイント

1972年に成立した安全衛生法は2019年4月に大きく改正されています。ここでは、どのような点が変更されたのかについて改正された内容を解説します。

労働時間の把握の徹底

安全衛生法の改正によって、労働時間の適正な把握が義務化されました。

事業者は全ての労働者の労働時間を客観的な方法により把握することが必要です。客観的な方法とは、タイムカードによる記録や、パソコンのログインからログアウトまでの時間の記録等とされています。

面接指導の強化の徹底

長時間労働者は医師による面接指導を受けなくてはならないとされています。

面接指導の要件について、従来は週の実労働時間が40時間を超えた時間が月に100時間を超えた場合とされていました。改正後は80時間を超えた場合に短縮されています。ただし、研究開発業務に従事する労働者や高度プロフェッショナル制度の対象者は除かれます。

また、ひと月あたり80時間を超えた場合、事業者は該当労働者に速やかに超えた時間に関する情報の通知を行わなくてはなりません。その他、事業者は該当労働者の情報を産業医に提出する必要があります。

産業医・産業保健機能の強化

安全衛生法の改正後は産業医のあり方が見直され、産業保健機能が強化されました。

・産業医による勧告の強化
産業医は労働者から健康管理等の実施に必要な情報の収集を行います。また、必要があれば労働者の健康確保のために事業者に勧告を行うことが可能です。

・衛生委員会等に対する調査審議の求め
産業医は労働者の健康確保の観点から、衛生委員会に調査審議を求めることができます。委員会での意見等の記録は3年間の保存が必要です。

・産業医の独立性、中立性の強化
産業医は産業医学の専門家として独立性や中立性をもって職務を行う必要があります。

法令等の周知方法の徹底

安全衛生法の改正によって、産業医を選任した事業者は産業医の業務の内容等を労働者に告知することが義務付けられました。

周知の内容
・産業医の業務の具体的内容
・健康相談の申し出方法
・労働者の心身状態に関する情報の取り扱い方法

周知の方法
・作業場所の見やすい箇所に常時掲示する
・書面での交付を行う
・電子掲示板へ掲載する
・データとして記録して常時確認できる機器を設置する

労働者の心身の状態に関する情報の取扱いの徹底

検診や面接指導、ストレスチェック検査結果等にはセンシティブな情報が含まれています。安全衛生法では、労働者の心身の状態に関する情報の取扱いについては以下のように定めています。

・労働者の心身の状態に関する情報を収集等するに当たっては、健康確保に必要な範囲内においてのみ行い、保管、使用することが必要

・労働者が心身の状態に関する情報を管理するため必要な措置を講じる

労働安全衛生法の徹底で安心して働ける職場に

労働安全衛生法は、労働環境の安全性を高め、従業員の健康を守るための法律です。事業主と従業員の双方にこの法律遵守の義務があります。

快適な労働環境の実現のためには労働安全衛生法の徹底が大切です。安心して働ける職場では、従業員の健康が保たれ企業全体の生産性が上がります。

「株式会社Dr.健康経営」は、メンタルケアに強い「産業医」サービスです。従業員一人ひとりが生き生きと働けるように健康経営のサポートを行っています。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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