健康経営・職場改善

感情労働とは?肉体労働や頭脳労働との違い・問題点と対応方法を解説

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更新日:2022.12.28

感情労働は、自分の感情をコントロールするため、ストレスが溜まりやすい仕事と言われています。メンタルヘルスなど社員の体調不良者や休職者が増え、対応したいと考えている企業の担当者も多いでしょう。

この記事では感情労働の概要やその問題点、対応方法などを解説します。この記事を最後まで読めば、状況に応じた適切な対処法が理解できます。ぜひ今回の内容を参考にし、社員のメンタルヘルスケアに役立ててください。
産業医と連携し健康経営の実現を目指したい方は、お気軽にDr.健康経営までご相談ください

感情労働とは?

感情労働は、自分の感情を抑圧し、それと引き換えに報酬を得る労働です。感情労働に並ぶ概念として、肉体労働と頭脳労働の2つがあります。ここでは感情労働の定義や肉体労働・頭脳労働との違いを解説します。

感情労働の定義

感情労働は、自分の感情を誘発または抑圧し、顧客満足に尽くす労働を指します。アメリカの社会学者であるアーリー・ホックシールド氏によって提唱された概念で、近年注目されるようになっています。

感情労働を行うためには、自分の精神と感情の調和が必要です。会社からも管理・指導され、常に規範的な感情を求められます。怒りたいときや泣きたいようなときでも、感情を押し殺して業務を遂行するため、精神面に大きな負荷がかかることもあります。

感情労働に並ぶ概念として存在するのが、主に肉体を駆使する肉体労働や、頭を使って新しいアイデアを出すなどの頭脳労働です。肉体労働や頭脳労働については、この後詳しく解説していきます。

肉体労働との違い

感情労働は感情を抑圧することで賃金を得ます。一方、肉体労働は積極的に身体を動かし業務を進めていきます。かつては青い襟の作業着を身につけて働く人が多く、ブルーカラーと呼ばれていました。またブルーカラーのカラーとは、色(color)ではなく襟(collar)を指します。

肉体労働に該当する業種は、建築に関わる建設業、主に工場で働く製造業などです。農業や林業、水産業などの第一次産業も、肉体労働として扱われることが多いです。もちろん肉体労働も業務の中で頭を使うため、身体だけを動かすわけではありません。

頭脳労働との違い

頭脳労働は感情労働や肉体労働と区別され、主に頭を使って仕事を行う労働を指します。そのため感情を抑圧して報酬を得る感情労働とは労働方法が異なります。オフィスで働く人をイメージして、肉体労働のブルーカラーに対して、ホワイトカラーと呼ばれることもあります。

頭脳労働に分類される職種としては、企業の企画や事務が挙げられます。また専門的な知識を活用して報酬を得る医師や弁護士、税理士のような仕事も頭脳労働と言えるでしょう。専門的な研究をし、それによって報酬を得る研究職も頭脳労働の代表的な職種です。

感情労働の代表的な業種や職種

感情労働は、自分の感情を抑圧する労働なので、主に顧客と関わる仕事が多いです。ここでは感情労働の代表的な業種や職種を紹介します。それぞれの業種・職種の特徴や主な仕事内容についても触れていくので、ぜひ参考にしてください。

接客・サービス業

接客・サービス業は感情労働の代表的な職種です。例えばレジ打ちをするスタッフは、笑顔で対応してくれることが多いでしょう。しかしこの笑顔はスタッフ本来のものではなく「規範的なレジ打ちのスタッフ」を演技することで成り立っていることが多々あります。

サービス業の代表的な職種としては、飲食や販売、美容師などがあります。サービス業が提供するものは「モノ」「情報」「快適さ」などさまざまです。サービス業の職種は、生きていく上で普段の生活に欠かせないものが多く、現在も多くの人がサービス業に従事しています。

営業職

営業職は商品やサービスを勧め、顧客の購買意欲を引き出す仕事です。営業は成果につなげるために、自分の感情をコントロールしなければならない場面が多くあります。顧客との距離もかなり近いため、貢献を実感しやすい仕事でもあります。サービス業と並んで、感情労働の代表的な存在です。

営業職は大きく分けて法人営業と個人営業の2つがあります。いわゆるBtoBとBtoCです。営業形態や営業手法もさまざまで、海外営業や医薬営業(MR)などの特別な営業もあります。営業はほとんどの業種に欠かせない存在なので、学生からの人気も高いです。

教師や保育士

教師や保育士のような教育に関連する業務も感情労働に分類されるのがほとんどです。教師は生徒や学生の規範的な存在であることを求められるため、自分自身の感情を抑圧する場面も多いです。

子どもを相手にするため、想定外の事態が発生することも多く、何事にも冷静に対処する能力が求められます。場合によっては生徒を叱る必要もあるため、感情のコントロールの負担が極めて大きい仕事と言えるでしょう。

特に子どもの面倒を見る場合は、保護者とのコミュニケーションも重要です。よくある職種としては、学校や学習塾の先生、保育士などです。

医療従事者

医療従事者は主に患者と接する仕事です。主な業務内容は医療技術の提供ですが、患者の不安や悩みを聞き、安心できるような言葉かけをすることもあります。このように時には患者への精神的なサポートも必要になるため、感情をコントロールする負担が大きい仕事です。

医療従事者は医師や歯科医師をはじめ、薬剤師や保健師、助産師、看護師、歯科衛生士など多くの職種が含まれます。医療事務も医療の現場で働く仕事ですが、厚生労働省の定義によれば、医療従事者には含まれません。医療従事者の範囲は、主に患者と接するかどうかで大きく変わってくるでしょう。

感情労働の種類

感情労働を提唱した社会学者であるアーリー・ホックシールド氏は、感情労働を「表層演技」と「深層演技」の2種類に分けています。ここでは表層演技と深層演技それぞれの特徴や該当する業種・職種を解説します。

表層演技

表層演技は自分の感情にかかわらず、顧客から求められる感情を表現する行為です。もっと簡単に言えば、表面的な演技です。ニュアンスとしては俳優の演技に近く、自分の感情とは異なる感情を表現する必要があります。

例えばレジ打ちのスタッフは、表面的には笑っていても、心の奥底に別の感情を抱いているかもしれません。しかし立ち振る舞いや表情などを顧客から求められるものに固定し、相手を満足させることで価値を発揮します。

企業の接客・サービス研修では、表層演技のテクニックを指導されることも多く、そのような業種ではよく知られた概念です。

深層演技

深層演技は自分の本当の気持ちも表面的な演技と同じ感情を持つようにする行為です。つまり自分の深層にある感情をその場に即したものに染める必要があります。例えば非常識な顧客に接する場合も心から笑顔で接して親切な対応を心がけなければなりません。

深層演技を行う代表的な職種は、客室乗務員です。客室乗務員は数ある接客・サービス業の中でも、感情のコントロールに優れています。会社によっては、深層演技をするよう訓練されているケースもあり、表層演技の職種に比べてより徹底した感情のコントロールを行います。

感情労働の問題点

感情労働はスタッフの感情を抑圧する都合上、いくつかの問題点があります。特に深層演技を求められる職種は、感情をコントロールする負担も大きくなるでしょう。ここではストレスやバーンアウトなど、感情労働の問題点を解説します。

ストレスを抱えやすい

感情労働の大きな問題点はスタッフのストレス問題です。感情労働の現場では、自分の感情をコントロールし、穏やかで顧客にとって快適な対応が求められます。本来の自分とは違う自分を演じなければならないため、ストレス負荷が大きくなります。

感情労働でストレスを抱えやすい原因が、クレーマーなどの理不尽な顧客です。どれだけ理不尽な目に遭っても、感情を表に出すことなく、業務を遂行し続けなければなりません。そのため感情労働に分類される業種や職種は、ストレスを溜め込みやすいと言われています。

感情労働は日常的なストレスが蓄積しやすいため、最悪の場合はうつ病などの疾患が発症することもあります。企業の担当者としては、スタッフのメンタルヘルスに気を付ける必要があるでしょう。

バーンアウト(燃え尽き症候群)

日常的にストレスを抱えて、肉体的・精神的疲労が蓄積し、疲れ果ててしまうことがあります。この状態を燃え尽きたように活力がなくなってしまう様子から、バーンアウト(燃え尽き症候群)と呼びます。

バーンアウトの原因は、日常的な感情の抑制とそれによる肉体的・精神的疲労の蓄積です。特に業務を忠実に行い、情熱や信念を持って取り組む人ほど、その反動によってバーンアウトに陥りやすいと言われています。

バーンアウトの兆候はいくつかあります。例えば普段は温厚な人が急に配慮のない発言をするようになった場合は、バーンアウトが疑われます。自己肯定感や個人的達成感の低下、情緒の乱れもバーンアウトの分かりやすい兆候です。

仕事への意欲の低下

ストレスやバーンアウトとも関連しますが、感情労働で心をすり減らし、仕事への意欲が低下してしまう問題もあります。日常的に感情をコントロールし、ストレスを抱える日々が続くことで、仕事に対するやる気や満足度が低下していきます。

ここで懸念されるのは食欲不振や睡眠不足など、肉体的な影響です。睡眠不足になれば、仕事のパフォーマンスが低下し、より一層ストレスが増すという悪循環に陥ります。うつ病などの精神疾患が発症するリスクもあるため、適切な対応が求められるでしょう。

特に感情労働では、仕事でのストレスが回復しにくいと言われています。休職や離職につながれば、従業員本人だけでなく、会社にも大きな影響を与えます。次の項目でも触れますが、従業員のメンタルヘルスケアの徹底はとても重要です。

感情労働の問題点の対応方法

ここまで見てきたように、感情労働にはストレスやバーンアウトなどさまざまな問題点があります。そのためストレスチェックや産業医面談など普段のメンタルヘルスケアが重要になります。ここでは感情労働の問題点の対応方法を解説します。

ストレスチェックや研修を行う

感情労働のストレスは本人も気がついていないケースが多いです。普段は仕事熱心な従業員が、突然メンタルヘルスの不調やバーンアウトになってしまうこともあります。そのため従業員を守るためにも、企業側からの働きかけが必須です。

代表的な対応方法として、定期的なストレスチェックや表層演技や深層演技を学ばせる従業員研修などがあります。自分の精神状態と向き合う機会を定期的に与え、重大な精神疾患を未然に防ぐようにしましょう。

もちろん企業側の働きかけだけでなく、従業員自らが自分のストレスに気がつくことも大切です。定期的なストレスチェックを徹底すれば、従業員が自分のストレスやバーンアウトの兆候に自覚的になる機会も増えます。

気軽に相談できる環境を整える

ストレスを抱える従業員が気軽に相談できる環境を整えるのも重要です。管理職やチームメンバーとの定期的なコミュニケーションや定期的な面談、社内相談窓口の設置など、従業員が心の変化を話しやすい環境を整備しましょう。

感情労働はストレスを溜め込みやすい仕事です。気軽に相談できる環境があれば、従業員が胸の内を吐き出せます。問題の解決はもちろん、相談をするだけでも従業員のメンタルヘルスに良い影響を及ぼします。

ここで重要なのは、改まった面談ではなく気軽に話せるような雰囲気を作ることです。堅い雰囲気の面談にしてしまうと、従業員が自分の悩みを相談しづらく、余計にストレスを溜め込んでしまうリスクがあります。

産業医との連携

産業医は一般的な医師とは異なり、治療や処方はせず、医療機関の紹介など具体的なアドバイスを行います。従業員のメンタルヘルスを正常に保つためにも産業医との連携は必須です。

2019年4月から施行された働き方改革では、従業員の残業時間が月80時間を超え疲労が認められる場合、産業医の面接指導を義務づけています。長時間労働はメンタルヘルスの不調を招きやすいため、産業医の面談を通して、精神疾患などの発症を未然に防ぐ必要があります。

産業医は第三者のポジションなので、管理職やチームメンバーに相談しにくい事柄でも、気軽に打ち明けられます。従業員本人が希望しなければ、相談内容を会社側に共有されることもありません。なるべく産業医と連携し、相談しやすい環境を整えましょう。

※出典:働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000474499.pdf

感情労働を理解し必要に応じて適切な対策を

ここまで感情労働について解説しました。従業員が常時50名以上の会社は、産業医の選任が義務付けられています。従業員が50名未満の場合は、ストレスチェックや産業医の導入について、国の助成金を活用できます。

国の制度を利用しながら、従業員の効果的なメンタルケアを行いましょう。産業医コンシェルジュは、プロの産業医が従業員のメンタルヘルスをケアし、健康経営の実現をサポートしています。ぜひお気軽にご相談ください。

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些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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