産業医の役割・選任

【勤務形態別】産業医の報酬相場|選任でかかるコストや会計処理も解説

日付
更新日:2023.07.26

従業員の健康維持には産業医の存在が重要です。その一方で、「できるだけ報酬額を抑えたい」「産業医へのマネジメントの負担を軽くしたい」と考えている企業担当者も多いでしょう。

そこで本記事では、産業医に支払う報酬の目安を専属産業医と嘱託産業医ごとに紹介します。また、産業医を紹介してもらう4つの方法と、産業医に関連して発生するコストの種類などを解説します。

リソースを節約しながら、自社に合った産業医に働いてもらうために役立ててください。

産業医とは

産業医とは、従業員の健康管理などについて専門的な立場から指導・助言を行う医師のことです。

産業医は、職場の環境を守りながら従業員の健康維持や増進に努めます。一般的な医師のように診断や治療などは一切行いません。あくまで従業員の健康・安全管理が目的です。

産業医に関しての詳細は、以下の記事も参考にしてみてください。

産業医に支払う報酬の目安

産業医は専属産業医と嘱託産業医の2種類に分けられ、報酬の目安も異なります。

さらに勤務形態や従業員数などによっても報酬が変わるため、大体の相場を把握しておくことが大切です。

専属産業医

専属産業医の報酬年額の目安は。以下のとおりです。

勤務形態 報酬年額
週1日勤務 300~400万円
週2日勤務 600~800万円
週3日勤務 900~1200万円
週4日勤務 1200~1500万円
週5日勤務 1500~2000万円

上記の報酬年額の目安は、以下の計算式で求められます。

年俸=(300~400万円)×(週あたりの勤務日数)

この計算式は、産業医学振興財団「産業医活動に関する調査報告書」などで得られる一般的な専属産業医の報酬額を踏まえて作成されています。簡易的なものですが、おおまかな相場を知るために活用できるでしょう。

専属産業医は事業所に週1~5日勤務する専属の産業医です。一般的には、専属産業医の選任が法律で義務付けられている従業員1,000人以上の事業所で雇われています。専属産業医は派遣社員に似た雇用形態になるため、企業が提示する雇用条件によって報酬額に幅があるのが特徴です。

“出典:産業医活動に関する調査報告書|産業医学振興財団

嘱託産業医

嘱託産業医の報酬月額の目安は、以下のとおりです。

従業員数 報酬月額
100人以下 50,000円以上
101~200人 65,000円以上
201~300人 80,000円以上
301~400人 95,000円以上
401~500人 110,000円以上
501~600人 125,000円以上
601~700人 140,000円以上
701~800人 155,000円以上
801~900人 170,000円以上
901~999人 1185,000円以上

“出典:愛知県医師会産業保健部会「嘱託産業医報酬の目安」

事業規模によって報酬が変わるのは、従業員が多いほど業務負担が増える傾向があるからです。また、嘱託産業医は月1回~数回、1回あたり数時間勤務するのが一般的で、業務時間によっても報酬が変わります。

なお、報酬月額の相場は地域によっても差が出ることを知っておきましょう。例えば、上記の愛知県医師会のデータと東京(日本橋)医師会のデータを比べると、報酬月額がおおよそ1.8倍になります。

“参考:公益社団法人日本橋医師会「産業医報酬基準額について」

産業医の探し方や契約方法によって報酬が変わる

産業医の紹介を受けるには、以下のいずれかに依頼するのが一般的です。

    • 医師会
    • 医療機関
    • 地域保健センター
    • 産業医紹介会社

それぞれの報酬額や特徴が異なるため、自社に合った方法を選びましょう。

医師会

地域の医師会に相談して産業医を紹介してもらうと、その他の方法よりも報酬額の相場が高めになります。

その理由は、最終的に産業医との直接契約になるため、複数の産業医の比較や価格交渉をしづらい面があるからです。特に、専門的な知識を持つ産業医と契約する場合は、相場よりも高額になる傾向があります。

医師会から紹介されるのは、医師会に登録している地域の開業医が中心です。そのため、医師会は医師の能力を詳しく把握しており、適切な人を紹介してもらいやすいことがメリットです。また、同じ地域に住んでいる医師が多いため長期契約しやすい傾向もあります。

医療機関

地域の特定の医療機関に頼んで産業医を紹介してもらった場合の報酬額は、医師会よりも低い傾向があります。その理由は、産業医と健康診断の契約がセットになっていることが多いためです。

つまり、労働安全衛生法に関連して実施する定期健康診断を契約した産業医が担当し、必要に応じて医療機関のサービスを利用するので割安になります。したがって、医療機関経由の契約が向くのは産業医と一緒に健康診断も手配したい場合です。

地域保健センター

地域保健センターとは、従業員数50人未満の事業者に対し、無料で産業医の派遣や労働安全衛生法に関する保健指導などを実施している団体です。地域保健センターは全国の市区町村に設置されています。地域の労働局の労働衛生課に問い合わせてみてください。

地域保健センター経由の産業医との契約は定められた条件を満たし、利用回数(事業所あたり2回までなど)の範囲内なら無料です。ただし、従業員数50人未満の事業者しか利用できません。また、定期的に産業医に勤務してもらいたい場合は、別途契約が必要です。

産業医紹介会社

産業医紹介会社のような、産業医を紹介するサービスを利用する方法もあります。産業医紹介会社を利用した場合の報酬額は、医師会より割安です。

産業医紹介会社には多数の開業医や産業医が登録されているため、自社に適した人材を派遣してもらいやすいからです。また、産業医紹介会社同士の価格競争によって、コストが下がる傾向もあります。

産業医紹介会社によっては、1回ごとに数万円程度で契約できるサービスを提供しています。また、嘱託産業医を月額3万円程度から派遣している会社もあり、一般的な報酬額よりも割安です。

近年では、オンライン相談や診療によってリーズナブルなサービスを提供している業者もあります。産業医紹介会社を上手に活用すれば、費用削減が見込めるでしょう。

産業医の選任でかかるコストは?

産業医に関するコストは、産業医への報酬だけではありません。産業医の選定やマネジメントする担当者の人的、時間的コストも含めて考える必要があります。

また、自社と産業医のミスマッチによって、従業員に悪い影響が出る恐れもあるため、自社に適した産業医を雇用できる方法を総合的に考えることが重要です。

産業医に支払う報酬

産業医と契約した際にまず必要になるのは、産業医に支払う報酬です。先に説明したとおり、産業医への報酬は専属産業医と嘱託産業医のどちらにするかで変わります。また、事業所の従業員数や勤務条件、産業医を紹介してもらう方法などによっても異なるため注意が必要です。

産業医のスキルや実績によっても支払う報酬は変わります。例えば、有害物質の取り扱いがある事業場では、特別な知識が求められるために割増になるのが一般的です。また、外国人労働者が多い事業所では語学力のある人材が向きますが、こうした人材の契約では報酬額が上がる可能性があります。

交通アクセスが悪い場所や気候が厳しい地域に事業所があるなど、産業医が進んで勤務を希望しない条件がある場合も、産業医に支払う報酬が高くなる傾向があります。

産業医を探すコスト

産業医を探すための採用担当者の業務時間も、実質的なコストです。特に医師会や医療機関に紹介を依頼する場合は、時間的なコストが増えやすいので注意が必要です。

例えば、従業員が50人以上になってから産業医を探す場合は、どの団体に依頼すればよいのかから調べなければいけません。この場合は14日以内に産業医を見つけなければ法律違反になるため、担当者の残業時間が増えたり、割高の条件で契約したりする場合もあるでしょう。

事業所数に対して産業医の数は慢性的に不足しているため、探してもすぐには見つからない可能性もあります。医師会や医療機関に登録しているものの、休止中の医師や条件が良くないと契約するつもりのない医師も多いのでなおさらです。

したがって、産業医を探すコストを抑えるには、産業医紹介会社を利用するのが効果的です。産業医紹介会社に依頼すれば、基本的には希望条件を伝えるだけでの手間で済みます。自社に合った人材を選んで紹介してくれるため、産業医を探すコストを最小限に抑えられるでしょう。

選任した後にかかるコスト

産業医を選任した後も、マネジメント業務のコストがかかります。

特に嘱託産業医に対しては、勤務日のスケジュール調整などで時間を取られがちです。有害物質を取り扱っている場合や不規則な労働日間があるなど、特殊な事情を産業医に伝える場合はさらに負担が増してしまうでしょう。

また、本人が契約更新をしないなど突発的な事態が発生するリスクもあります。この場合、契約の再交渉や新しい産業医を探すコストが発生します。

この点、産業医紹介会社は交代を前提とした体制になっているため安心です。急に産業医が辞めても、新たな人をすぐに派遣してもらえ、業務の引き継ぎ連絡もある程度業者が行ってくれます。また多くの場合、交代に関する手数料は必要ありません。

産業医が自社に合わなかった場合のコスト

産業医が自社とミスマッチしてしまった場合は、新しい産業医を探すか、研修や話し合いを繰り返して自社に合わせてもらうコストが発生します。

例えば、女性社員が増えたため、女性の産業医に勤務してもらいたいケースがあります。健康経営優良法人の認定を目指すため、メンタルヘルスに強い産業医に代わってもらいたい場合もあるかもしれません。単純に、自社の社風に合わなかったり、仕事ぶりに不満が出てしまったりすることも考えられます。

ミスマッチは産業医に関連するコスト増加につながるとともに、企業の生産性を低下させる恐れがあります。例えば、メンタルヘルスの知見に乏しい産業医が対処したことで、従業員が離職してしまえば企業の大きな損害となるでしょう。

したがって、大企業で専属産業医を雇用する場合を除き、自社に適した嘱託産業医に切り替えながら契約するのが効率的です。そのためには、人材が限られる医師会や医療機関ではなく、産業医紹介会社のほうがコントロールしやすいメリットがあります。

産業医報酬を会計処理する際の注意点

ここでは、産業医報酬を会計処理する際の注意点を紹介します。

産業医報酬の勘定項目

産業医報酬の勘定項目は、以下のように分類されます。

    • 医療法人の勤務医:福利厚生費
    • 開業医:給与

勘定項目とは、企業の取引をわかりやすく分類するための項目です。「なぜお金が出ていったのか」「どこからお金が入ってきたのか」を明確にします。

医療法人に勤務する医師は、医療法人の収入となるため給与として扱われることはありません。反対に、開業医に支払う場合は、個人宛の報酬になることから給与として処理することが可能です。

産業医報酬の税金

産業医報酬の税金は、以下のとおりです。

勤務医 開業医
消費税 課税対象 不課税
源泉徴収 不要 必要

勤務医と開業医は報酬の扱いが異なるため、税金に対する処理にも違いが見られます。

まとめ

産業員の報酬の目安は、専属産業医か嘱託産業医かによって変わります。

また、勤務条件や産業医の能力、産業医を紹介してもらう方法によっても差が出ます。産業医の選定や契約後のマネジメント、交代時の対応などを総合的に考えると、多くの企業に向くのは産業医紹介会社を利用する方法です。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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