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介護離職の解決策は?活用できる制度や助成金・企業ができる対策を解説

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更新日:2023.02.23

介護を理由に離職する人の割合は増えています。介護離職に限らず、離職者が増えることは企業の生産性の効率が下がる可能性があるため、企業としては対策を講じることが大切です。

介護は誰でもいつ必要になるのか分かりません。従業員が介護に直面する以前からあらかじめ介護支援体制を整えておくことで、企業側もゆとりのある対応ができ、従業員も安心して働き続けられるでしょう。

本記事では介護離職の実態や介護で利用できる制度、介護離職の防止策などについて解説します。ぜひ参考にしてください。

介護離職とは?

まずは介護離職の概要と実態を解説します。介護離職をする人は中高年、そして女性が多い傾向です。

介護離職の概要

家族が疾病などで要介護状態となり、介護に専念するために仕事を辞めることを介護離職といいます。介護は育児や病気と同様で仕事の継続を妨げる要因の1つです。

介護離職者は中高年を中心に増加しています。2016年の厚生労働省による調査では、男性ではパートタイム労働者の65歳以上、女性はパートタイム労働者の55~59歳で介護離職する人が多いという結果が報告されています。

高齢化が進む今、介護によって離職を余儀なくされる人の割合は高まっていくことが予想されます。企業にとって介護離職は人材の流出となり、生産性を下げる原因になります。介護離職を減らすためには、仕事と介護を両立できる環境づくりが必要です。

出典:厚生労働省「平成28年雇用動向調査結果の概況」(参照:2022-06-15)

介護離職の実態

内閣府の調査によると2015年において介護を理由に離職した雇用者数は全体で約90万人であり、その74%を女性が占めています。その中でも女性が介護者となっている実態が読み取れます。

【介護・看護を理由により離職した雇用者数】
介護・看護を理由により離職した雇用者数

画像引用:内閣府「高齢者の健康・福祉」(参照:2022-06-15)

介護離職者の数や割合は性別によって大きな差があるとはいえ、女性が介護を担当し離職する場合、家族にも経済的負担が発生し、一概に介護離職が女性をメインとした問題であるとはいえません。

介護離職が増えている背景

介護離職が増加する背景には日本が高齢化社会を超えて超高齢化社会に突入していることが考えられます。平均寿命が長くなった結果、生じているのが要介護者の増加です。

一方、少子化によって若い人の数は減っており、家族の介護における1人当たりの負担は大きくなっています。従来なら家族の人数が多かったため負担を分散しやすく期間も比較的短かった介護ですが、今では1人が中心となって介護を担当する機会が増えたことで仕事と介護の両立が困難な人が増えているのです。

現代社会では以前と比べて働く人の年齢が高く、それに伴って従業員の親や配偶者の年齢も高い傾向です。要介護者を抱える労働者が増加することによる介護離職の問題はつきません。

介護離職防止のために活用できる制度

介護離職防止のために活用できる制度

介護離職者を減らす取り組みとして、国は介護支援制度を設けています。制度の対象者は拡大されており、要介護の家族として認められるのは配偶者(事実婚を含む)、父母(養父母を含む)、子(養子を含む)の他、同居・扶養していない祖父母、兄弟姉妹となっています。

まずは、従業員が介護離職を決断する前に利用できる支援制度がないか確認するのがおすすめです。支援制度の中には事業主対応が義務または努力義務とされているものもあります。介護離職防止に活用できる制度として、具体的にどのようなものがあるのか解説します。

介護休業制度

介護休業制度とは従業員の家族に要介護状態の人がいる場合に休職できる制度です。従業員が離職することなく、休職期間中に介護に専念できるよう設けられています。介護休業制度では要介護状態の家族1人につき、年間で93日間を上限として休職できます。

休業制度の対象となる従業員は、休職の取得予定日から起算して93日を経過する日から、6カ月を経過する日までに契約期間が満了・更新されないことが明らかでない労働者です。

要介護状態とは2週間以上の期間にわたり、常時介護を必要とする状態を指します。
要介護状態に該当する家族は、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫のうち要介護状態の人です。
介護休業制度を利用する人で雇用保険の被保険者であり、かつ一定の要件を満たす場合には、介護休業期間中に賃金月額の67%の介護休業給付金が受け取れます。これは復職した後に支給される給付金です。

介護休暇制度

介護休暇制度は介護休業制度と同じく介護のために仕事を休める制度ですが、1日や半日単位で利用できる点に違いがあります。要介護者1人あたり年間5日間の休暇を取得できます。したがって、半日単位で取得する場合は要介護者1人あたり最大10回の利用が可能です。

休暇制度の対象となる従業員は休業制度と同じく、休職の取得予定日から起算して93日を経過する日から6カ月を経過する日までに契約期間が満了・更新されないことが明らかでない労働者です。

要介護状態に該当する家族も休業制度と同じく、配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫のうち要介護状態の人です。手続きについては書面の提出に限定されておらず、口頭での申し出も認められています。ただし、社内規定がある場合はそちらが優先されます。

勤務時間の短縮

勤務時間の短縮等の措置とは、従業員が家族の介護をするために所定労働時間の短縮を受けられる仕組みです。企業は短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、介護費用の助成措置のうち、いずれか1つ以上の制度を設ける必要があります。利用できる期間は、要介護状態の家族1人につき、利用開始日から連続する3年以上の期間で2回以上です。

勤務時間の短縮等の措置の対象となる従業員は、要介護状態の家族を介護する労働者です。ただし労使協定を締結している場合、入社1年未満の労働者や1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外となります。

要介護状態に該当する家族は配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫のうち要介護状態の人です。要介護状態の定義は介護休業制度・介護休暇制度と同じで、2週間以上の期間にわたり常時介護を必要とする状態です。

労働時間の制限に関する制度

労働時間の制限に関する制度では介護のために残業が免除されます。この制度は1回につき、1カ月以上1年以内の期間の利用が可能で回数の制限はありません。

対象となる従業員は、要介護状態の家族を介護する労働者です。ただし労使協定を締結している場合、入社1年未満の労働者や1週間の所定労働日数が2日以下の労働者は対象外となります。

要介護状態に該当する家族は配偶者(事実婚を含む)、父母、子、配偶者の父母、祖父母、兄弟姉妹、孫のうち、要介護状態の人です。手続きは開始予定日の1カ月前までに、書面などで請求を行う必要があります。ただし、事業の正常な運営が妨げられると判断した場合、従業員からの請求を事業主は拒むことができます。

両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)

従業員の仕事と家庭の両立支援に取り組む事業者に向け、厚生労働省より両立支援等助成金が提供されています。

助成金は中小事業者で、介護支援プランを作成しプランに沿って介護を支援した企業が対象です。従業員が介護休業を取得した、または介護両立支援制度を利用した場合に企業は介護を支援したとみなされます。

支給要件は企業があらかじめ介護休業取得や復職、介護両立支援制度についてプランに沿って支援する旨を、従業者に周知していることです。介護支援プランは従業員との面談によって作成される必要があります。

介護休業の場合には合計5日以上の介護休業が取得され、かつ当該労働者を復職後、雇用保険被保険者として3カ月以上継続雇用している場合、事業者に助成金が支給されます。

介護両立支援制度で助成金が支給されるのは、従業員が下記制度のいずれか1つ以上を合計20日以上利用し、かつ雇用保険被保険者として継続雇用されている場合です。

・所定外労働の制限制度
・時差出勤制度
・深夜業の制限制度
・短時間勤務制度
・在宅勤務制度
・フレックスタイム制度

下記の制度を利用し、利用開始から6カ月を経過するまでの間に一定の要件を満たした場合でも助成金が支給されます。

・法を上回る介護休暇制度
・介護サービス費用補助制度

出典:厚生労働省「両立支援制度等助成金」(参照:2022-06-16)

介護離職を防止するために企業ができる対策

介護離職を防止するために企業ができる対策

従業員が介護に直面した場合に、企業としてできる介護離職防止策はいくつかあります。ここでは介護制度の周知やメンタルヘルスケアの注力といった方法を解説します。

利用できる介護制度について従業員に周知する

介護離職を防ぐためには、介護しながら仕事も続けられることを従業員に知ってもらうことが大切です。家族が要介護状態になった従業員の中には、介護と仕事は両立できないと考え離職を決断する人がいるかもしれません。

介護のために仕事の負担を減らせる制度があっても、制度を必要とする従業員が知らなければ意味がありません。企業が日頃から介護制度について周知し、いざ介護に直面した場合でも従業員が安心して制度を利用できる環境作りが大切です。

メンタルヘルスに注力する

介護は身体的、精神的に大きな負担となる場合があります。仕事と介護の両方をこなすことによって忙殺され、メンタル不調を起こす従業員も少なくありません。多忙な従業員のメンタルヘルスケアには産業医や産業保健師を導入し、アドバイスやサポートが受けられる体制を整えることが大切です。

産業医は労働衛生の専門家としてさまざまな現場経験があるため、仕事と介護の両立についても相談を受けられます。

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リモートワークを導入する

従業員の介護を支援するには、リモートワークの導入も有効です。通勤する必要がなくなることで、仕事と介護の両立がしやすくなり、従業員にとって時間に余裕が生まれるでしょう。

新型コロナウイルスの流行によってリモートワークを導入する企業は増えました。リモートワークは介護の必要がある従業員だけでなく、さまざまな状況の従業員の働き方を変化させています。上手に利用することで業務の効率化が図れる方法です。自社でリモートワークを採用していない場合は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。

勤務制度を見直す

介護離職を防止するために勤務制度の見直しを行う企業も増えつつあります。育児・介護休業法では、以下のいずれか1つの措置を講じることは企業の義務となっています。
・短時間勤務制度
・フレックスタイム制度
・時差出勤制度または労働者が利用する介護サービス費用の助成
・その他これに準ずる制度

この中でも短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤制度を取り入れることは、企業全体の働きやすさ向上にもつながり、介護離職を含めた離職全般を減らすことにつながります。

社内相談窓口を設置する

社内に相談窓口を設置することで、従業員が悩みや不安を打ち明けられるようになります。「家族や同僚など身近な人への相談は気が引けてしまう」など難しい場合も少なくありません。そんな時、専門の相談窓口があれば、相談のハードルが低くなり気軽に利用できます。

企業によってはいつでも相談できるように、24時間対応の外部フリーダイヤルサービスを福利厚生として提供しているところもあります。また、介護の相談専門の窓口を置くことも効果的です。困ったときにすぐ相談できる場所があることで、安心感をもたらしストレスの軽減につながるでしょう。

まとめ

介護離職者は増加傾向にあり、企業の人材流出にも直結しています。厚生労働省は介護離職を減らす施策として、介護と仕事を両立しやすくする制度を設けています。従業員が家族の介護をする必要がある際に備えて、日頃から介護制度の存在を周知し、支援体制を整えておきましょう。

また、従業員にとって仕事と介護の両立が難しい理由の1つに、精神的な疲労の蓄積が挙げられます。産業医の導入などによって従業員のメンタルヘルスケアに力を入れることも、介護離職防止に有効です。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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