メンタルヘルスで重要な予防とケアとは?業種による取り組み事例を紹介

日付2021.11.20
更新日:2022.02.18

近年、業種を問わず多くの企業でメンタルヘルスに不調をきたし、休職する労働者が増えています。メンタルヘルスの問題を放置しておくと従業員の健康問題はもちろん、企業の業績低下にもつながります。

今回は、社員のメンタルヘルスを良好に保つために必要な対策の方針やストレスチェックなど厚生労働省が推奨している取り組みとその具体的な事例についてご紹介します。

従業員が働きやすい職場環境作りのためには、メンタルヘルスについて理解を深めておくことが大切です。ぜひ参考にしてください。

そもそもメンタルヘルスとは?

そもそも、メンタルヘルスとはどのような意味なのでしょうか。まずは、メンタルヘルスの概要や重要性などについて解説します。

メンタルヘルスとは心の健康状態のこと

メンタルヘルスを英語から日本語に直訳すると「心の健康状態」となります。そのためメンタルヘルスが不調であるということは、「心の健康状態が良くない」ことを意味します。

厚生労働省は、メンタルヘルスの不調について以下のように解説しています。

」精神および行動の障害に分類される精神障害や自殺のみならず、ストレスや強い悩み、不安など、労働者の心身の健康、社会生活および生活の質に影響を与える可能性のある精神的および行動上の問題を幅広く含むものをいう」

※出典:厚生労働省.労働者の心の健康の保持増進のための指針
https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/060331-2.pdf
(参照 2017-11-13)

メンタルヘルスが不調であるという状態は、単にうつ病をはじめとした精神疾患を患っているだけでなく、仕事で強いストレスや重い悩みを抱えていたり、またそれによって不安や焦りの気持ちを持ち続けながら日々を送っていたりすることも指します。

こうした不調による労災請求件数は年々増加傾向にあり、平成26年から平成30年にかけて約20%も増加しているというデータが出ており、医療・福祉、製造業、卸売業・小売業といった業種での請求が多くを占めています。

※出典:厚生労働省.「平成30年度「過労死等の労災補償状況を公表します」
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_05400.html
(参照 2021-11-13)

事業者によるメンタルヘルス対策が重要

労働者がメンタルヘルスの不調を抱えているとき、それは当事者のみの問題ではなく、組織全体の問題となる可能性もあります。

メンタルヘルスに問題が生じた際、精神面の症状として集中力の低下が引き起こされることが多く、他の従業員でカバーできない場合には業務の進捗状況が悪化します。

また症状がより深刻な場合には休職や離職を検討せざるを得なくなるため、最終的に人材不足によって企業の業績が悪化することも十分に考えられるのです。

メンタルヘルスの問題を放置すればするほど組織に与えられるダメージも増大するばかりなので、事業者が常日頃から積極的に対策を実施することが重要です。労働環境の改善を第一歩とし、さらにカウンセリングの充実などを通じて労働者のストレスを軽減することが求められます。

メンタルヘルスの不調にはサインがある

メンタルヘルスの不調を抱えている人には、特有のサインが現れます。それは主に行動の変化や体調の変化です。管理職や人事部門の方がメンタルヘルスに不調をきたしている従業員を一刻も早く見付けるために具体的なサインの特徴について解説します。

行動面に現れる3つのサイン

メンタルヘルスに不調をきたすと、行動面では主に「出退勤の変化」「パフォーマンスの低下」「行動や態度の変化」の3つの面でサインが現れます。

1.出退勤の変化
今までは無遅刻でしっかり残業をすることも多かった従業員が突然遅刻や早退を繰り返すようになったり、有給休暇の取得率が急激に上昇したりするのは明確なサインです。また遅刻や早退はなくとも、業務中の離席や休憩回数が多くなった場合もまた十分な注意が必要となります。

2.パフォーマンスの低下
色々なことに集中できなくなったり、判断力が著しく鈍ったりすることも重要なサインです。業務連絡が遅れがちになっている場合や、仕事のクオリティーが目に見えて低下している場合にはメンタルヘルスの悪化を疑った方が良いでしょう。

3.行動や態度の変化
明るく快活だった従業員に覇気がなくなったり、他の社員と関係が良好だった従業員が怒りっぽくなるなどして対人関係でトラブルを起こすようになったりするのも大きなサインです。

体調面に現れるサイン

メンタルヘルスの不調は体調の悪化を引き起こすこともあります。慢性的な体の痛みや食欲不振、咳・鼻水・頭痛といった風邪のような症状の長期化がよく見られます。

また動悸や耳鳴り、不眠症といった症状が出ていた場合、もちろんメンタルヘルスが原因の場合も多いですが、命に関わるような大きな病気の兆候を抱えている場合もあるため早急に病院での受診を勧める必要があります。

「軽い症状だから」「疲れが出ただけだ」と判断せずに、まずは医師の診断を仰ぐように心がけることが重要です。

メンタルヘルスの不調を未然に防ぐ段階

メンタルヘルスの不調を未然に防ぐための対策には「一次予防」「二次予防」「三次予防」の三段階があります。それぞれについて詳細を解説します。

一次予防

一次予防は、メンタルの不調そのものを未然に防ぐことを指します。まずは労働者自身がストレスを抱えているかどうか気付くように促し、その上で個別のアドバイスや労働環境の改善を行うといった対策をすることが大切です。

事業者はストレスチェックやストレスマネジメント研修を取り入れることで、従業員一人ひとりの精神面に対する意識を高めてもらうように働きかける必要があります。

また、必要であれば休養を取ってもらったりセルフケアの方法を指導したりすることも有効です。

いずれにしても、ストレスを取り除くことは労働者自身の力だけで行うことは難しいため、ストレスの要因を取り除くための作業を事業者側が積極的に行うことは必要不可欠です。

二次予防

二次予防は、既にメンタルヘルスに不調をきたしている労働者について、早期発見の上適切な対策を講じることを指します。

労働者自身で対処できる程度の軽い不調の場合は、休養を取ってもらうなど事業者側の対応で事足りますが、そうでない深刻な場合も多々あります。放置した場合にはより本格的なメンタル不調に陥ったり、誰もが目に見える形での精神疾患を患ったりする可能性が高いです。

メンタルヘルスが不調な従業員に対しては産業医が適切なアドバイスを行ったり、いつでも相談に行ける窓口を設置したりするなどの対策も有効です。

二次予防として、事業者や周囲の従業員が可能な限り不調に気付いてあげられることがメンタルヘルスの早期回復につながります。

三次予防

三次予防は、メンタルヘルスの不調により休職している従業員の職場復帰を支援するというものです。

残念ながら現在、企業の規模や業種を問わず、一定以上の人々がメンタルヘルスの問題により就業不能な状態に陥っています。

厚生労働省が公表した「労働安全衛生調査(実態調査)」によれば、職場や仕事で不安やストレスを感じたことのある労働者の割合は58.0%にものぼります。対策が不十分だった場合には、多くの人が休職する可能性も十分にあるのです。

※出典:厚生労働省.「平成 30 年「労働安全衛生調査(実態調査)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/h30-46-50_gaikyo.pdf
(参照 2021-11-13)

こうした従業員は過度なストレスを抱えており、常に不安や焦燥感にかられていることも多いため最大限ストレスを軽減させるためのフォローが大切です。職場復帰に向けた支援を行い、復帰直後してからしばらくは業務量を抑えるなどの配慮が必要となります。

厚生労働省が公表した「4つのケア」

労働者のメンタルヘルスの不調を可能な限り防ぐため、上記の3つの予防を行う必要がありますが、厚生労働省はそれらに加えて「4つのケア」を継続的に行うことも重要だと公表しました。その4つのケアの内容について解説します。

セルフケア

「セルフケア」は、労働者自身が日頃からストレスを予防し、ストレスを抱えていることに気付いた際は適切な対処を行うことを指します。

労働者が自分の抱えているストレスに気付くには、心理面や行動面で発生するストレス反応について理解を深め、精神状態を正しく理解することが必要です。正しい知識を持っていなければ、自分自身で問題に対処することは困難になります。

そこで事業者は労働者に対して教育研修や情報提供を行う体制を整え、その上でストレス反応がないか調べるためのストレスチェックを定期的に実施することが重要です。また、自分でストレス反応をチェックするセルフチェックを行うよう促すようにしましょう。

チェックの結果、ストレス反応があった場合は、産業医に相談するなどの対策を自ら行えるようになることが大切です。

ラインによるケア

「ラインによるケア」は、管理監督者が日頃から職場のストレス要因を調査・把握し、改善を行うことを指します。

実際にストレスを抱えている労働者がいる場合には積極的に相談に乗り、職場環境の改善につなげることが重要です。そのため事業者は管理監督者に対して、実際にケアを行うための教育研修・情報提供などを行う必要があります。

ただし、業務を一時的なプロジェクト体制で実施する場合など、通常のケアを行うことが困難なケースもあるでしょう。その場合は、業務内で指揮命令系統の上位にあたる人がケアを行える体制を構築し、可能な限り通常の場合と同じくケアを行える環境を作る必要があります。

事業場内の産業保健スタッフ等によるケア

事業場内の産業保健スタッフとは、産業医や衛生管理者、保健師、人事労務管理スタッフなどを指します。こうしたスタッフが、労働者や管理監督者のサポートを行ったり、メンタルヘルスケアを行う際の具体的な企画を立案したりすることも企業のメンタルヘルス対策で重要なポイントです。

産業医は事業場でメンタル面の健康を維持するための計画策定に携わり、助言・指導を行ったり対策の実施状況を把握したりすることが求められます。

衛生管理者は産業医の助言・指導を踏まえた上で教育研修の企画・実施を行ったり、心の健康に関する相談がしやすい環境作りを日頃から行ったりすることが主な役目です。

保健師はセルフケアやラインによるケアの支援を、人事労務管理スタッフは管理監督者だけでは把握しきれない人事労務管理がもたらす従業員の心の健康を把握することが求められます。

事業場外資源によるケア

「事業場外資源によるケア」は、メンタルヘルスケアの専門知識を有する外部機関やサービスを活用してメンタルヘルス対策を行うことを指します。

メンタルヘルスケアを実施するにあたっては、事業場が抱える問題に応じて、専門知識が豊富な事業場外のサービスを活用することも有効です。

人間関係や気持ちの問題から事業場内での相談を望まない労働者も少なくありません。こうした労働者のためにも事業場外の機関に相談できる体制を作ることは効果的といえるでしょう。

ただし、事業場外の機関やサービスを利用する場合には、事業者自身がメンタルヘルスケアを主体的に推進することを意識し、全てを外部に依存してしまわないことが重要です。

また、労働者が外部機関に相談する際の手続きなど、実際にサービスを利用するための体制を事前に整えておくとスムーズな対策ができます。

メンタルヘルス対策として有効な取り組み

厚生労働省は、ここまで紹介した労働者のメンタルヘルス対策を行うにあたり、いくつかの有効な取り組みを推進しています。ここではそれぞれの取り組みについて詳細を解説します。

ストレスチェック制度の実施

「ストレスチェック制度」とは、ストレスチェック及びその結果による面談指導の実施、集団ごとの集計・分析等、事業場における一連の取り組みを指します。

ストレスチェックを行うことで、従業員がどれくらいストレスを抱えているかを自分で把握することができ、高ストレスの従業員には速やかに面談指導を受けてもらうよう促すことも可能です。また場合によってはストレス軽減のために配置転換を行うなどの対策を早期に検討できることから、メンタルヘルスの不調を最大限防止することにつながります。

企業におけるストレスチェックの実施は2015年に義務化され(50人未満の事業場では努力義務)、一定以上の規模の職場では当たり前のように行われています。

ストレスチェックを行うために株式会社Dr.健康経営が提供しているサービスに、「ストレポ」があります。ストレスチェックの煩雑な手続きや面談報告書の作成提供など、ストレスチェックの実施に必要な作業を代わりに行います。また、高ストレス者に対しては、産業医による医師の面談が可能です。

※出典:株式会社Dr.健康経営.「ストレポ」
https://dr-hpm.co.jp/service/strepo/
(参照 2021-11-13)

産業医との連携

労働安全衛生法では、労働者が50人以上の事業場には産業医を選任することが義務付けられています。

一方で従業員が50人未満の企業に関しては努力義務に留まってはいますが、産業医と連携することはメンタルヘルス対策を行う上で有効です。

産業医の主な役割には、健康診断の実施や結果分析、長時間労働を行っている従業員への面談指導やストレスチェックの実施などが挙げられます。医師とは言っても病名診断を行うことはせず、あくまで従業員の状況に応じて医師を紹介したり、その他アドバイスを行ったりすることが主要な業務です。

また、事業場外の機関やサービスの利用の検討やメンタルヘルスケアの積極的な実施表明を事業者が主体的に行うことも重要です。

従業員支援プログラム

従業員支援プログラムは、「EAP(Employee Assistance Program)」とも言われ、メンタルヘルス不調の従業員のケアを目的とした従業員支援のことを指します。

EAPを導入する目的は、従業員の心身の健康を保ち、業務のパフォーマンスを高めることです。そのため職場内での問題はもちろんのこと、家庭における悩みなど個人的に抱えている問題に関しても相談を受け付け、あらゆる面から精神面でのサポートを行います。

EAPには、産業医が企業に常駐する場合と外部の機関・サービスと連携する場合があり、前者の取り組みは「事業場内の産業保健スタッフ等によるケア」、後者の取り組みは、「事業場外資源によるケア」などです。

ストレスマネジメント研修

社員が50人未満といった小規模な事業所でも導入しやすい取り組みとして、ストレスマネジメント研修などの教育活動があります。

メンタルヘルスに関する基礎知識を専門の講師が指導し、全社員が考え方のパターンやストレス解消の仕方、またそれにつながるポジティブ思考などを習得します。

結果として労働者が自らストレスに気付いて対処を行ったり、管理監督者が不調を抱えた従業員のケアを早期に行ったりすることが可能となるのです。

研修を行う常駐の産業医がいない場合には、外部サービスを利用することが効果的です。

メンタルヘルス対策の取り組み事例

厚生労働省は様々な業種について、職場におけるメンタルヘルス対策の取り組みの事例を公表しています。その事例についてピックアップして紹介します。

IT産業の場合

IT企業は、社会の情報インフラを構築するという重要な役割を負っており、今や私たちの生活には欠かせない存在です。だからこそ、従業員が日々新しい技術を習得しながら仕事を継続できるよう、心の健康を保ち続けることは大変重要です。

また、トラブルへの緊急対応や修正要望など新たな業務が常に発生しやすい環境で長時間労働を引き起こしてしまうことも少なくありません。スムーズに業務を遂行することが難しいケースが多くストレスが生まれやすい業種の一つでもあります。

そのためまずは、セルフケアによって自身で問題を解決できるよう指導することが重要です。その上で、従業員が問題を一人で抱え込むなどの孤立状態に置かれないようにするという対策も求められます。

実施の取り組み事例として、相談窓口の実施や複数の社員の交代勤務、また睡眠時間を確保するための勤務間インターバル制度の導入などがあります。

※出典:厚生労働省.「事業場におけるメンタルヘルス対策の取組事例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/000615709.pdf
(参照 2021-11-13)

外食産業の場合

外食産業には、レストラン・ファストフードに喫茶店といった様々な業態があり、また規模についても全国展開のチェーンから個人経営まで様々なものがあります。

外食産業においては、店長の場合は売り上げの心配や休日の少なさ、一般の従業員の場合は接客でのトラブルや他の従業員との人間関係が主なストレスの原因となっています。

実施の取り組み事例として、労働時間の正確な把握を通じた長時間労働の是正が挙げられます。本人認証システムが必要な勤怠管理システムを導入することで、労働時間を正確に管理し、シフト前後の打刻の徹底を呼びかけています。

※出典:厚生労働省.「事業場におけるメンタルヘルス対策の取組事例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/000615709.pdf
(参照 2021-11-13)

医療従事者の場合

医療は社会における重要なインフラの一つで、医師や看護師をはじめとして様々な職種が従事しています。高齢化社会で医療需要が増える中でも、人の命を預かっていることから高い緊張の中で仕事を行う必要があります。

医療従事者においては、医師の場合は個別患者の病状における心配や休日の少なさ、看護師の場合は職場の人間関係が夜勤の負担が主なストレスの原因となっています。

実施の取り組み事例として、メンタルヘルスの不調を相談しやすい環境づくりが挙げられます。専属の産業保健スタッフを男女両方配置することで、相談者自身で相談相手を選べる仕組みを構築しているのです。

また、産業医が自ら定期的に職場に運び従業員とコミュニケーションを取ることで、より相談のしやすい工夫もなされています。

※参考 厚生労働省.「事業場におけるメンタルヘルス対策の取組事例集」
https://www.mhlw.go.jp/content/000615709.pdf
(参照 2021-11-13)

労働者のメンタルヘルスは早めの対策が重要

労働者のメンタルヘルスは、日々の業務において企業の業績に直結する問題です。有効な対策を講じなければメンタルヘルスが悪化し、業務の停滞、また最悪の場合には社員の休職・離職にもつながってしまいます。

労働者の健康を守るため、産業医との連携によりメンタルの不調を未然に防いだり、早期発見したりする体制づくりや、ストレスチェックの積極的な実施などを日頃から行うことが重要です。

Dr.健康経営が運営する産業医紹介サービスの『産業医コンシュルジュ』では、産業医をさまざまな業種や規模の事業所に紹介しています。産業医の設置をお考えの方はぜひ一度ご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太(すずき けんた)
代表取締役/医師・産業医

1989年、東京都国立市出身。2009年、筑波大学医学部へ入学。
在学中にKinesiology, Arizona State Universityへ留学し、医学・経済学・人文学等を学ぶ。
卒後は国立国際医療研究センターで勤務医として働く。
予防医療の重要性に気づき、帝京大学公衆衛生大学院で健康経営を研究しつつ、産業医として多くの企業を担当する。