ストレス対処法にコーピングが効果的?主な種類や注目される背景・企業ができる導入方法を紹介

日付2022.04.25
更新日:2022.05.10
ストレスに悩む女性

現代では仕事でストレスを感じる人が増えており、それに伴ったメンタル疾患や休職・退職が社会問題化しています。ストレスはうまく付き合えば、仕事のパフォーマンスを高める要因になりますがマネジメントに失敗すれば健康を害する原因ともなります。

本記事では、これらの問題の解決法としてコーピングを取り上げています。企業としてコーピングをうまく取り入れられれば、労働環境の改善や従業員のモチベーションアップにつながります。コーピングの導入方法も具体的に解説しているため、ぜひ参考にしてください。

コーピングとは?

コーピングでリラックスしている女性

コーピングとは具体的にどのようなものなのでしょうか。ここではコーピングの概要や注目される背景を解説します。

コーピングの概要

コーピング(coping)とは、日本語にすると「対処」という意味です。ストレスコーピングとはストレスを和らげて良い方向へと転じるためのストレスへの対処法を言います。

人間は慢性的に強いストレスがかかると、心身に悪影響が生じて健康を害してしまうことがあります。そうなると仕事における生産性の低下や、さらには休職や退職につながる恐れがあります。長く働き続けるには、ストレスを溜め込まないことが大切です。

しかしストレスが全くない状態が望ましいわけでもなく、適度なストレスは健康や仕事のモチベーションに良いとされています。コーピングを活用すれば自身のストレスを管理し、健康を維持しながら仕事のパフォーマンスを向上させられるでしょう。

コーピングが注目される背景

コーピングが注目される背景には、医療費の増大や労働環境、過労死などの問題があります。慢性的なストレスは脳梗塞・心筋梗塞といった命に関わる疾患や、うつ病といった精神疾患を引き起こします。これらは医療保険を圧迫し、過労死や自殺につながる可能性もあります。

また、強いストレスは職場での人間関係に軋轢を生み、パワハラやセクハラを引き起こすかもしれません。厚生労働省の調査によると職場でのいじめや嫌がらせに関する相談件数は増加傾向となっています。

2020年の厚生労働省「労働安全衛生調査」では、全体の54.2%もの人が仕事などに強いストレスを感じているという結果です。

出典:厚生労働省「令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況」

仕事におけるストレスを管理し、これらの問題を解決する手段として、コーピングが注目されています。

コーピングと適応機制(防衛機制)の違い

強いストレスに対して人間が精神の安定を保とうとする仕組みに適応機制があります。コーピングと似ているようにも思えますが、コーピングは意識的にストレスに対処するのに対し、適応機制は人間が無意識に行うものです。

適応機制とは何かが思い通りにならないときに合理化や抑圧、逃避などを無意識に行うことです。例えば欲求不満があるときに、その要求を忘れるように努めて見ないようにすることも適応機制の一つといえます。

適応機制は心を守る安全装置のようなもので防衛機制とも呼ばれます。しかし、適応機制ではストレスを一時的に解消できますが、根本的な解決にはなりません。一方コーピングは意識的に技術を習得でき、心の成長につながります。

人がストレスを感じる仕組み

そもそもストレスとは人間の心に生じる緊張状態のことを言い、ストレスの感じ方には認知的評価が関わっています。ここでは認知的評価の2つのステップについて、それぞれ解説します。

一次的認知評価

ストレスの要因となる外部からの刺激をストレッサーと呼びます。ストレッサーには天候や騒音などの環境的要因、体調などの身体的要因、不安などの心理的要因、人間関係などの社会的要因があります。

同じストレッサーに対しても人によってストレスの感じ方は異なります。これは認知的評価(ストレッサーへの主観的な受け止め方)に違いがあるためです。認知的評価は一次的認知評価、二次的認知評価の2段階に分けられます。

一次的認知評価では、ストレッサー(出来事など)が自分にとってストレスとなるかの判断が行われます。この段階ではストレッサーが「無関係・無害または肯定的・ストレスフル」の3つのどれかに振り分けられます。ストレッサーがストレスフルと判断された場合、認知的評価は二次的認知評価に進みます。

二次的認知評価

一時的認知評価で「無関係・無害または肯定的」と認知されたストレッサーは、ストレスとはみなされず、二次的認知評価も行われません。一方、ストレスフルと判断したストレッサーに対しては二次的認知評価によって対処が検討されます。

二次的認知評価ではストレスへの対処について、方法を知っているか(結果期待)と、それが実現可能か(効力期待)の2つに着目します。そして、このどちらかにおいて対処が不可能だと判断された場合には、ストレスが増大してしまいます。反対に、ストレスへの対処が可能だと判断した場合にはストレスを和らげられます。

つまり一次的認知評価とは、あるストレッサーがストレスとなり得る否かの判断であり、二次的認知評価とはそのストレスに対処可能かどうかの判断評価です。一次的・二次的という名称がついてはいますが、時間的な前後関係があるわけではなく、相互に影響を与え合っています。

コーピングの主な種類

コーピングには大きく3種類あります。問題への対処を目的とする問題焦点型・情動焦点型、そしてストレスを発散させるストレス解消型です。ここではコーピングの種類ごとにそれぞれの概要や効果について解説します。

問題焦点型

問題点焦点型コーピングとは問題に直面した際、その問題に直接働きかけることでストレス状態を改善しようとするアプローチです。自身の努力や周囲の協力を必要としますが、ストレスの原因を根本解決できるメリットがあります。

例えば、仕事でのプレゼンテーションでストレスを感じる場合では、トークスキルを鍛え、人前に出ることへの苦手意識を克服することが問題点焦点型コーピングの1つといえます。上司との関係が悪い場合に上司への接し方を変えて軋轢を改善したり、長時間労働が負担の場合に業務効率を改善したりといったアプローチも問題点焦点型コーピングに含まれます。

問題焦点型コーピングの一種として、社会的支援探索型コーピングというものがあります。上司や同僚、友人など周囲の人に助けを求めることで、問題解決の協力を得る方法です。サポートや助言を受けられる上、話を聞いてもらうことでストレスが解消されるメリットがあります。

情動焦点型

情動焦点型コーピングでは、ストレスの原因そのものではなく、自身の感情に焦点を当てたアプローチを行います。ストレッサーに対するネガティブな気持ちをコントロールし、ストレスを軽減させます。問題の直接解決が難しい場合に効果的で精神的な成長が促され、ストレスに強い心を手に入れられます。

情動焦点型コーピングには、認知的再評価型コーピングと情動処理型コーピングの2つがあります。認知的再評価型コーピングとは周囲からの意見を聞き、問題をポジティブに捉え直すアプローチです。

情動処理型コーピングとは、ストレス原因に対する自らの認識をポジティブに変化させるアプローチです。例えば困難な仕事を任され大きな重圧を感じた場合、成果を挙げるチャンスと前向きに捉え直すのが情動処理型コーピングといえます。

ストレス解消型

ストレス解消型コーピングでは問題から距離を起き、ストレスの緩和や解消を図ります。比較的簡単に実行できて即効性がある方法です。ストレス解消型コーピングには、気晴らし型コーピングとリラクゼーション型コーピングの2種類があります。

気晴らし型コーピングとは、旅行やショッピングなどのレジャーによってストレスを解消するアプローチです。日頃の仕事のストレスを休日に出かけることで解消し、良好なサイクルを保っている人も多いのではないでしょうか。

リラクゼーション型コーピングでは、ヨガやマッサージなどによって心身をリラックスさせ、ストレスの解消を促します。自分なりのリラクゼーション方法を日々の生活ルーティンに取り入れておくことで、無理なく健康を維持できるでしょう。

コーピングを効果的に行うには?

コーピングを効果的に行うには?

コーピングについての概要や種類を解説してきました。ここでは、効果的にコーピングを行う方法について具体的な手段を3つ紹介します。

ストレスの軽減や解消できる方法をまとめたリストを作成する

コーピングの効果的な方法の1つは、自分なりのストレス軽減・解消法をまとめた「コーピングリスト」をつくることです。リストには、気分が晴れる行動や相談できる相手など自分にとってプラスの影響があるものを書き出します。あわせて自身の長所や、今までに褒められたエピソードなどを書いておくと読むだけで前向きになれるリストが完成するでしょう。

コーピング方法をリストとして可視化しておくと、普段から意識して実行しやすくなります。また、高ストレス状態では視野が狭くなり、ストレスへの対処に向き合えないことも珍しくありません。事前にリストを用意しておくことで、ストレスにさらされた場合でも効果の高いストレス解消法をスムーズに実行できます。

輪ゴムを活用して意識を変えてみる

輪ゴムを利用した意識の転換方法として、「輪ゴムテクニック」というものがあります。輪ゴムをはじいたときの刺激をスイッチにしてマイナス思考を切り替える方法です。

輪ゴムテクニックでは、あらかじめ手首に輪ゴムをはめておきます。仕事での出来事や状況によってネガティブな考えに支配された場合は、この輪ゴムを引っ張ってはじき、手首に刺激を与えます。

輪ゴムの刺激によってプラス思考に切り替えることを繰り返せば、習慣として定着し効果が増します。自分の感情を意識的にコントロールする力がつき、ストレスマネジメントが可能になります。

例として輪ゴムを利用していますが、思考をポジティブ転換するためのスイッチは何でも構いません。輪ゴムテクニックを応用した自分なりの方法を考えるのもおすすめです。

クリップ法を実践する

クリップ法とはクリップを利用した自己の意識に注目する方法です。方法としてはクリップをいくつか持ち歩き、自分のネガティブな思考に気付いた際にそのクリップを別の場所に移動させる行動を繰り返します。例としては、左ポケットに入れておいたクリップを右ポケットに移動させるのも良いでしょう。

このクリップ法のキーは、クリップを移動させるという、通常では行わない動作を取り入れていることです。無意識にマイナス思考になってしまったら、クリップ移動を伴わせることで思考の認識を可能にします。

無意識の思考に注意を向ける習慣がつくと、次第に考えや感情をコントロールできるようになるでしょう。まずは自分の思考パターンを認識し、ネガティブに考える癖を解消していけばストレスマネジメントの技術も向上します。

企業ができるコーピングの導入方法

従業員のストレスマネジメントのために企業ができるコーピングの導入形態にはどのようなものがあるのか、ここでは6つ紹介します。

メンター制度を活用し悩みを相談しやすい環境をつくる

メンター(Mentor)とは、助言者や指導者を意味します。メンター制度では年次の若い従業員に対してメンターとして先輩社員を選任し、相談しやすい環境を整えます。メンター制度によって年次の離れた従業員同士の絆が深まる効果もあります。チームワークが強化され、労働環境の改善にもつながります。

従業員同士でのメンター制度を取り入れるのが難しい場合には、外部機関に定期的なカウンセリングを依頼するのもおすすめです。困ったことや悩みがあるときに相談できる環境を整備することは、ストレスマネジメントの基本といえます。

心理トレーニングできる方法を取り入れる

心は身体と同様にトレーニングによって鍛えることができます。コーピングなどのスキルは、意識的に訓練することで身につきます。メンタルについての講習会やe-ラーニングを実施すれば、従業員のストレス対処スキルを向上させられます。

e-ラーニングとはITを活用した学習を指し、インターネット上でレッスンやテストを受けることができるシステムです。場所や時間に関係なく学習を進められ、比較的低コストで始められます。心理トレーニングは定期的に行うことでより効果を発揮するため、復習が容易なe-ラーニングはコーピングに適した学習方法といえます。

ストレス解消できる機会をつくる

飲み会やスポーツ大会などのストレス解消ができるイベントを設けるのも良いでしょう。最近は飲み会ではなく、昼休みなどにランチ会を開催する企業も増えています。仕事以外でコミュニケーションをとれる機会があればプライベートの話もしやすく、従業員同士の距離が近づきます。

親睦を深めるには定期的に交流することが大切です。決まった日に恒例の食事会を開催すると良いでしょう。また、スポーツ大会では部署対抗のトーナメントなどを行うことで従業員同士の連携や一体感を高められます。

部下が上司に話しやすい環境をつくる

部下が上司に話しやすい環境では、職場の風通しも良く、仕事のストレスが軽減できます。とはいえ、部下から上司に気軽に話しかけることは状況によっては難しいことも考えられます。そこで、企業が「1on1」の機会を設けると良いでしょう。

「1on1」とは上司と部下が一対一で話し合うことをいい、主に部下が話すことに重点が置かれています。部下にとっては日々の業務で感じていることや悩みなどを話す機会があることで、自身の考えを整理する効果もあります。また上司にとっても、部下の考えを把握しておくことで普段の業務でも効果的なサポートができるようになるでしょう。

オフィスに社員の希望を取り入れる

実際にオフィスで働いている社員の希望をオフィス整備に取り入れることは、良好な労働環境作りに欠かせません。空調やオフィス内の動線といった問題は働いてみないとわからないことも多く、外部からは気付けないことも珍しくありません。

働きやすく効率的なオフィスを整備することで仕事のストレスが軽減され、パフォーマンスも発揮しやすくなります。また、現場の声がオフィス作りに反映されることは従業員の満足感や肯定感にもつながります。

現場の意見を吸い上げる方法の1つとして、定期的にアンケートを実施するのがおすすめです。口頭では言いにくいことも書面やオンラインでなら回答しやすい場合があります。

専門家のカウンセリングを受ける

専門家のカウンセリングを活用すれば、新たな視点から問題を捉えることができます。例えば産業医といった医療の専門家なら、ストレスマネジメントについての知識が豊富です。産業医への相談によって実用的なアドバイスが受けられます。

産業医は専門的・中立的な立場から企業や従業員に指導やアドバイスを行う医師です。健康診断やストレスチェックの結果、健康状態に懸念のある従業員に対して面談を行うのも産業医の役割です。労働環境の改善に関して企業に助言を行うこともあります。

まとめ

仕事におけるストレスはパフォーマンスを低下させ、休職や退職を引き起こします。同じ出来事に対してどの程度のストレスを感じるかは人によってさまざまです。これはストレスの認知的評価、そしてコーピングスキルの違いによるものです。

企業として従業員のストレスを軽減するには、コーピングを導入するのがおすすめです。コーピングを取り入れるための手段としては、従業員が気軽に相談しやすい環境を整備すること、そしてコーピングに関する知識を社内に浸透させることが挙げられます。コーピングをうまく活用し、働きやすい環境づくりに役立ててください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太(すずき けんた)
代表取締役/医師・産業医

1989年、東京都国立市出身。2009年、筑波大学医学部へ入学。
在学中にKinesiology, Arizona State Universityへ留学し、医学・経済学・人文学等を学ぶ。
卒後は国立国際医療研究センターで勤務医として働く。
予防医療の重要性に気づき、帝京大学公衆衛生大学院で健康経営を研究しつつ、産業医として多くの企業を担当する。