メンタルヘルス・ストレスチェック

「心の健康づくり計画」は企業の義務?助成金申請の流れ・成功事例も紹介

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更新日:2023.02.19

厚生労働省はメンタルヘルス対策の推進を目的として、労働者の心の健康を保持増進するための指針を定めています。企業はこの指針に則り、心の健康づくり計画を作成・実施することが必要です。

本記事では心の健康づくり計画とはどのようなものなのか、必要となる3つの予防や4つのケア、関連する助成金などを解説します。心の健康づくり計画に基づいた具体的なメンタルヘルスケアの実施としてどのような取組事例があるのかも紹介しています。ぜひ参考にしてください。

『心の健康づくり計画』とは?

まずは「心の健康づくり計画」とはどのようなものなのか解説します。

労働安全衛生法で定められた義務

心の健康づくり計画とは労働衛生安全法で企業に義務付けられている施策です。企業はメンタルヘルスケア促進の取組みとして、この心の健康づくり計画を策定しなくてはなりません。

心の健康づくり計画の作成にあたっては、事業者や衛生担当者、産業保健医が衛生委員会で審議する必要があります。厚生労働省・独立行政法人労働者安全機構による、心の健康づくり計画に盛り込むべきとされている事項は下記のとおりです。

1.事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表明に関すること
2.事業場における心の健康づくりの体制の整備に関すること
3.事業場における問題点の把握及びメンタルヘルスケアの実施に関すること
4.メンタルヘルスケアを行うために必要な人材の確保及び事業場外資源の活用に関すること
5.労働者の健康情報の保護に関すること
6.心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見直しに関すること
7.その他労働者の心の健康づくりに必要な措置に関すること

引用:厚生労働省「職場における心の健康づくり」(参照:2022-06-18)

目的は『メンタルヘルス対策の推進』

心の健康づくり計画の策定は従業員のメンタルヘルスを守ることが目的です。企業が個々にメンタルヘルスケアの施策を考えるのは、職場環境や従業員の性格といった複雑な要因が関係してくるため難しい場合があります。

メンタルヘルスケアに取り組む事業所の割合は、厚生労働省の調査によると50%台に留まっています。厚労省の労働災害防止計画ではメンタルヘルスケアに取り組んでいる事業場の割合を、80%以上に引き上げることを目標としました。
出典:厚生労働省「第 13 次労働災害防止計画 」(参照:2022-06-18)

厚生労働省「職場における心の健康づくり」画像引用:厚生労働省「職場における心の健康づくり」(参照:2022-06-18)

厚生労働省が定めた心の健康づくり計画は、企業が行うべきメンタルケアの指針の一つです。心の健康づくり計画を基本方針として、そこから各企業に合わせた施策を考えることで、企業の実態に則した効果的なメンタルケアが可能となります。

心の健康づくり計画に必要な3つの段階

心の健康づくり計画に必要な3つの段階
心の健康づくり計画の実施に当たっては、一次予防、二次予防、三次予防を順次行う必要があります。それぞれについて解説します。

一次予防

メンタルヘルスケアの一次予防とは、メンタルヘルス不調を未然に予防するための対策を指します。人によってはメンタルヘルス不調について聞いたことがあっても、自分に関係することとして捉えず、知識やスキルの修得機会を逃してしまうことが珍しくありません。

また、メンタルの不調は自分では気づきにくいという特性があります。特に深刻なのは知らないうちにストレスをため、不調に気づいたときには既に重い精神的疾患となってしまい治療が困難なケースです。

一次予防ではメンタルヘルスケアの必要性の周知を行い、ケア方法の情報発信を通して従業員の一人ひとりが意識的にメンタルに目を向けられる環境を整えます。メンタルヘルスケアのスキルが身についていれば自分の心を丁寧に扱うことができ、不調を未然に防ぐことが可能です。

二次予防

二次予防とはメンタルヘルス不調を早期発見するための施策です。一次予防をしていてもメンタルヘルスに不調をきたすことはあります。精神的な不具合は目に見えず、日々の仕事が忙しいと、ついつい自己のケアは後回しになりがちです。メンタルヘルス不調を完全に予防するのは難しいといえます。

二次予防では生じてしまったメンタルヘルス不調を早期に発見し、適切な措置を通して早期に治療することを目指します。研修や社員教育によってメンタルヘルス不調の特徴を周知しておくことが大切です。

メンタルヘルス不調の兆候を感じた場合、そして同僚や上司のメンタルヘルスに懸念がある場合に周囲に相談しやすい環境作りも欠かせません。

三次予防

三次予防はメンタルヘルス不調の発症者が職場に復帰しやすくなるようにすることです。メンタルヘルス不調は一次予防・二次予防によって防止または早期治療するのが理想です。しかし、予防しきれず不調が欠勤や休職にまで発展することも珍しくありません。

従業員が休職してしまった場合に大切なのは、悪化や再発をしないように配慮しながら職場復帰のサポートをすることです。復職は誤ったタイミングで行えば不調が悪化する恐れもあるため、判断は慎重に行う必要があります。

三次予防では従業員本人や企業の判断のみに頼るのでなく、専門家である産業医の助言をあおぐことで、より安全な復職支援ができます。

心の健康づくり計画推進に必要な4つのメンタルヘルスケア

心の健康づくり計画推進に必要な4つのメンタルヘルスケア
前述の心の健康づくり計画に必要な3つの段階を実行するには、4つのケアの推進が必要です。それぞれについて詳しく解説します。

セルフケア

セルフケアとはメンタルヘルスやストレスを正しく理解し、自己の精神状態を良好に維持することです。自らの心の状態を意識的に把握し、負担やストレスを緩和することがセルフケアでは大切といえます。セルフケアの確立は心の健康づくり計画を推進するための第一歩です。

企業としては従業員一人ひとりが適切なセルフケアを実行できるよう、メンタルヘルスの知識を拡散することが大切です。ストレスチェックの結果、ストレスが多いと判断された従業員に対してアドバイスやサポートといったケアを行いましょう。メンタルの問題で助けを必要としている従業員がいれば、深刻化する前に相談できるように窓口を設置するのもおすすめです。

ラインケア

セルフケアの他には、上司が部下の状態を把握するラインケアが大切です。管理監督者の意識の持ち方は従業員のメンタルヘルスに大きな影響を与えます。ラインケアで重要なのは、部下の様子に変化がないか管理監督者が注意して見ることです。普段と違う部下の行動、例えば遅刻・早退・欠勤の増加や仕事効率の悪化、服装の乱れなどはメンタル不調が原因かもしれません。

上司が部下の不調にいち早く気づき、適切に対処するためには日頃から部下に関心を持つ必要があります。もし不調を察知した場合は産業医と連携を取り、病気かどうかの判断や回復のためのアドバイスにつなげましょう。企業としては管理監督者が適切なラインケアを実施できるよう、研修などでラインケアの知識や重要性の教育を徹底することが大切です。

事業場内産業保健スタッフ等によるケア

事業場内産業保健スタッフ等とは、働く人々への支援を行う職業の総称です。産業医や産業カウンセラー、衛生管理者、保健師・心理職、精神科医等医師や人事労務スタッフが事業場内産業保健スタッフ等に含まれます。

事業場内産業保健スタッフ等の役割は、セルフケアやラインケアの効果的な実施をサポートすることです。メンタルヘルスケアの具体的な計画立案や実行、外部の専門機関とのネットワーク作り、パーソナルな健康情報の管理や復職支援なども担います。

心の健康づくり計画の実施に当たっては、事業場内産業保健スタッフ等が中心的な役割を果たします。労働衛生の専門家のサポートがあれば、従業員や企業はより実践的なメンタルヘルスケアが可能です。

事業場外資源によるケア

事業場外資源とはメンタルヘルスケアや労働衛生についての外部の専門機関のことです。産業保健総合支援センターや従業員支援プログラム(EAP)機関、産業保健サービスを提供する民間企業などが含まれます。また、厚生労働省が主体となって運営するメンタルヘルスのポータルサイトとして『こころの耳』というサイトがあります。企業にとって役立つ情報が掲載されているため参考にしてみてください。

出典:厚生労働省「こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト」(参照:2022-06-18)

事業場外資源の活用によって、企業はメンタルヘルスに関する研修の依頼や相談などが可能です。事業場外資源に関する情報をあらかじめまとめておき、必要に応じて最適なものを選択できるようにしておきましょう。

『心の健康づくり計画助成金』とは?

心の健康作り計画を作成・実施している企業は、メンタルヘルスケアにかかる費用について、心の健康づくり計画助成金を申請できます。心の健康づくり計画助成金とは、厚生労働省が産業保健活動総合支援事業の一環として設けたものです。従業員が50人未満の事業所でもストレスチェックを実施している場合は対象となります。

なお、心の健康づくり計画助成金には申請条件が定められています。助成金額や申請手続きなどについて以下でそれぞれ詳しく解説します。

※追記:想定を上回る申請があった為、令和4年4月22日時点で「令和3年度産業保健関係助成金」の受付は停止中です

心の健康づくり計画助成金を受ける条件

心の健康づくり計画助成金を受けるには独立行政法人労働者健康安全機構が定める、事業場の要件・取組の要件をクリアする必要があります。まず、助成金を申請できるのは労働者を雇用している法人、または個人事業主です。労働保険の適用事業所かつ、登記上の本店または本社機能を有する事業場であることも必要です。

上記の事業場の要件を満たした上で、メンタルヘルス対策促進員の訪問・助言・支援に基づいた心の健康づくり計画を作成し、労働者に周知していることも条件となります。さらには、心の健康づくり計画に則った具体的なメンタルヘルス対策を実施する必要があります。メンタルヘルス対策促進員によって具体的なメンタルヘルス対策が実施されたことの確認ができれば、心の健康づくり計画助成金が申請可能です。

助成金額

心の健康づくり計画助成金では、法人または個人事業主あたり一律100,000円が支給されます。

前述のとおり心の健康づくり計画助成金を受け取るにはメンタルヘルス対策促進員によるアドバイスや確認を受けることが必要です。メンタルヘルス対策促進員とは産業保険センターに在籍するメンタルヘルスの専門家です。

心の健康づくり計画助成金は企業にとってメンタルヘルス対策促進員からのアドバイスに基づいたメンタルヘルスケア計画が立てられ、その上助成金が受け取れる制度です。ただし一法人(1個人事業主)につき、助成金の受け取りは将来にわたって1回限りとなります。

申請手続きの流れ

心の健康づくり計画助成金の申請の流れは下記のとおりです。

1.メンタルヘルス対策促進員の訪問支援を産業保健総合支援センターに申請する
2.訪問したメンタルヘルス対策促進員から心の健康づくり計画の作成についてサポートやアドバイスを受ける
3.アドバイスに基づいた心の健康づくり計画を作成する
4.作成した心の健康づくり計画は企業全体に周知する
5.心の健康づくり計画に基づきメンタルヘルス対策を実施する
6.メンタルヘルス対策を実施するだけでなく、メンタルヘルス対策促進員によって確認を受ける
7.必要書類を揃えて労働者健康安全機構へ助成金の支給申請を行う
8.支給決定通知が届けば助成金が振り込まれる
独立行政法人労働者健康安全機構「令和3年度版 「心の健康づくり計画助成金」 の手引」
画像引用:独立行政法人労働者健康安全機構「令和3年度版 「心の健康づくり計画助成金」 の手引」(参照:2022-06-18)

なお、受給に関する要件は随時変更される可能性があるので、最新情報は独立行政法人労働者健康安全機構(JOHAS)の公式ページをご確認ください。
JOHASホームページ:https://www.johas.go.jp/

心の健康づくり計画に必要なメンタルヘルス取組事例

心の健康づくり計画に基づいた具体的なメンタルヘルス対策とはどのような取組みを指すのか、厚生労働省『心の健康づくり事例集』を元に紹介します。

中間管理職にメンタルヘルスに関する研修を行う

はじめに当時の労働者数が84名、労働者の平均年齢が38歳と報告されている介護事業所による事例を紹介します。

当事業所では離職者の多さが問題となり、従業員の仕事における人間関係が離職に大きく作用していると考えました。当時は個々の従業員の心理的環境に視点を当てた検証・面談体制がなかったことから、メンタルヘルス対策支援事業を利用し、メンタルヘルスケアに取り組むことにしました。

調査の結果浮き彫りとなったのは中間管理職の立場における自信のなさです。解決方法として中間管理職がリーダーとしての自信を養い、部下と円滑に関わるための研修が必要だと判断されました。

講師派遣による実践研修を行った結果、中間管理職においては自己のストレスコーピングや部下の悩みに対する傾聴手法などのスキルが深まりました。事業所としてもメンタルヘルスケアの重要性を認識し相談窓口を設置するなど、働きやすい職場環境の整備に務めています。

出典:厚生労働省「心の健康づくり事例集」(参照2022-06-18)

メンタルヘルス支援室の新設

次の事例は当時の労働者数1,034名、労働者の平均年齢が40.2歳と報告されている製造業の事業所です。当事業所では既にメンタルヘルス不調に対しての個別的対応を実施していましたが、さらに予防や自己管理を取り入れたいと考えました。社内でセルフケアを浸透させるために、心の健康を担当する組織として、メンタルヘルス支援室が新設されることになりました。

メンタルヘルス支援室はセルフケアを中心に、メンタルヘルスケア全般のサポートを担い、教育研修や情報提供、職場環境の把握と改善、不調の察知と対処などを実施します。メンタルヘルスに特化した組織を新たに設けたことは、社内の意識向上に効果を発揮しました。

従来の復職支援中心のメンタルヘルス対策から、セルフケア・ラインケアといった予防目的の対策へ幅を広げたことは、メンタルヘルス不調の予防、早期発見・早期治療に有効だと感じられました。

出典:厚生労働省「心の健康づくり事例集」(参照2022-06-18)

メンタルヘルスに関する相談体制の推進

最後に当時の労働者数710名、労働者の平均年齢が40.6歳と報告されている医療業の事業所の事例を紹介します。当事業所では復職についての対応が個別的なものに留まっており、休職者の復帰支援やメンタルヘルス対策について試行錯誤していました。医療機関では専門職が多く、メンタルヘルス対策も難しく感じられたため、メンタルヘルス推進支援専門家による研修やカウンセリングが実施され、並行して心の相談室が解説されました。

心の相談室とはメンタル不調だけでなく、自分のことや職場の悩みを気軽に相談できる窓口です。体験カウンセリングも実施し、気軽に問い合わせや予約ができるよう、運営側による存在の周知や声かけが行われました。

研修やカウンセリングによって、従業員の自己分析が深まり、同時にメンタルヘルス不調者への見方も変わったといいます。今後も職場のストレス軽減や、心の不健康発生の予防・早期発見に務め、取組の発展を目指します。
出典:厚生労働省「心の健康づくり事例集」(参照2022-06-18)

まとめ

心の健康づくり計画を策定・実行することで、企業は従業員のメンタルヘルス対策を促進できます。心の健康づくり計画では3つの予防、そして4つのケアが大切です。心の健康づくり計画助成金の申請では、心の健康づくり計画に基づいた具体的なメンタルヘルス対策の実施を認められる必要があります。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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