産業医の役割・選任

産業医面談で聴取すべき内容とは?面談記録の記載方法も解説

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更新日:2023.02.24

6種類の産業医面談に共通する内容とは?

産業医面談は主に、法律で義務となっている「長時間労働者面談」「高ストレス者面談」、法定義務ではない面談「健診後面談」「メンタル面談」「健康相談」「休職・復職面談」と6種類あります。
それぞれの面談において、面談の背景や経緯、面談後の事務手続きやアドバイスは異なる一方、面談における聴取項目、面談記録の書き方は共通する部分があります。
ここでは、6種類の産業医面談すべてに対応できるよう、聴取項目や面談記録の書き方を説明していきます。

適切な産業医面談をどう行えば良いかお困りの方は、お気軽にDr.健康経営までご相談ください

※Dr.健康経営が提供するテンプレートはこちら!ぜひご活用ください。

・産業医面談記録テンプレート
・産業医意見書テンプレート
・面談者事前記入シート
「産業医面談記録テンプレート」は、今回説明する面談における聴取項目が記載されています。テンプレートの項目を順番に確認することで情報を聴取することができ、そのまま面談記録として企業へ提出することができます。
※会社の要望があれば「産業医意見書テンプレート」も活用してください。
「面談者事前記入シート」を企業へ提供し、事前に面談者に記入してもらうとよいでしょう。聴取内容の一部を事前に把握することで面談時間の短縮にもつながります。

産業医面談で聴取すべき内容、面談記録の記載方法を解説!

産業医面談において聴取すべき項目を順番に解説していきます。面談に慣れてきたら、それぞれの面談に合わせて必要な項目を掘り下げて聞いていくとよいでしょう。

1.面談者情報

面談日時、事業所名
対象者氏名、年齢、性別、所属、職位、入社日、雇用形態
同席者の有無、同席者氏名
所属や職位、入社日や雇用形態などの情報は、本人の能力や身体・精神状態に見合った仕事が任されているかを判断する情報となります。

2.面談経緯・目的

面談の種類(例:メンタル不調者面談)
面談に至った経緯や問題事項(面談に至るまでの身体・精神状態の変化、業務や勤怠の変遷)
経緯について時系列で記入するとよいでしょう。過去のイベントが面談理由や現在の症状に大きく関わっている場合、その項目に関して詳しく聴取する必要があります。

3.面談内容

【業務状況】
●業務内容
現在たずさわっている業務内容を確認します。有害物質の取り扱い、高所・熱暑での作業、運転や危険業務の有無必ず確認しましょう。また、実際に就業時間において、いつ、どのような作業をしているかを把握するため1日のスケジュールを聞くことも有効です。
●業務負荷
業務時間(定時)、時間外労働(月何時間か)、休憩時間、休日出勤:就業制限する際に参考となります。
通勤手段、通勤時間:通勤時間が長い場合は業務時間が短くても疲労が回復しにくい傾向があります
勤怠状況(欠席・遅刻・早退):勤怠に影響が出る場合は、メンタル不調の初期症状の可能性が疑われます。
●労働時間以外の労働負荷
不規則な勤務、深夜勤務、出張勤務、人間関係、作業環境などを確認しましょう。労働時間が適正でも、それ以外の労働負荷により精神的・身体的な悪影響がないかを確認します。特に、人間関係のストレスが不調の原因となっていることが多いので、この情報に関しては慎重かつなるべく詳細に把握しておくことが必要です。

【生活睡眠状況】
●食事
1日何食か、食事量と内容、決まった時間に食べているか、間食や夜食の有無、過食・拒食の有無、ここ数カ月での体重の増減を確認しましょう。
●運動
運動習慣、運動内容を確認しましょう。
●飲酒・喫煙
通常の摂取量を確認し、最近摂取量に大きな変化がないかも確認します。
●睡眠
就寝・起床時間、入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠感、日中の眠気
睡眠は仕事や生活に大きな影響を与えます。特にメンタル不調の初期症状として表れやすいため、必ず聴取しましょう。また、睡眠状態の推移として、増悪傾向か改善傾向かを確認し、増悪傾向である場合は医療機関の受診や就業制限も考慮しましょう。また、睡眠薬使用の有無、睡眠時無呼吸の確認、就寝前のアルコール摂取などの情報も必要に応じて聴取してください。
●疲労蓄積
1日のリズムまたは1週間のリズムの中で、業務による疲労が回復できているか確認しましょう。疲労蓄積が増悪している場合、将来的に業務を継続できなくなってしまう可能性があるため、疲労蓄積の原因の確認を行い、現在の業務負荷の軽減などの対応をしましょう。
●1日や休日の過ごし方、趣味
規則正しい生活が送れているか、趣味などによりリフレッシュして疲労回復できているか、などを確認しましょう。特に、休職中の社員で復職が見えてきた段階では、復帰に向けて生活リズムが整い、活動量が増加しているかを確認する必要があります。

【現在の症状】
現在の症状を身体症状と精神症状に分けて確認するとよいでしょう。また、各症状が横ばい状態か、改善傾向または増悪傾向なのかも確認しましょう。
●精神症状(メンタル不調が疑われる場合)
直近2週間〜1カ月の期間で、下記症状が出現しているかを確認します。
また、なるべく定量的に、かつ時系列の推移を把握する目的として、下記の各項目を10段階評価(大きいほど強い)で本人に評価してもらう方法がよく用いられます。また各項目において、症状がある場合は症状の経過や推移も確認するとよいでしょう。
<基本症状>
① 抑うつ気分
② 興味または喜びの喪失
③ 活動性の減退による易疲労感の増大や活動性の減少
<他症状>
(a) 集中力と注意力の減退
(b) 自己評価と自信の低下
(c) 罪責感と無価値観
(d) 将来に対する希望のない悲観的な見方
(e) 自傷あるいは自殺の観念や行為
(f) 睡眠障害
(g) 食欲不振

【ストレス状況】
仕事のストレス要因と、仕事以外でのストレス要因を記載します。複数のストレス要因がある場合は、面談となった理由や出現している症状に最も強く関連するものを中心に記載してください。また、ストレス軽減方法を本人が持っているか、それがどのくらい有効であるかを確認します。

【治療状況】
●既往歴
特に、精神科や心療内科系の既往、脳心臓疾患の既往を確認しましょう。
●通院
通院頻度、診察時間、自宅や会社からの距離(通院の継続性)を確認しましょう。メンタル疾患の場合に処方のみの診察になっている可能性を探り、その場合主治医の就業に関する意見をうのみにしないよう注意が必要です。
●内服
内服薬の種類・容量・服用頻度、服薬コンプライアンス、副作用の有無を確認しましょう。
●主治医の意見
現在の治療状況、今後の治療方針、就業に関する主治医の意見を確認しましょう。
●診断書
主治医から診断書が出ている場合、具体的に以下のことを確認しましょう。
・確定診断の内容、治療経過、休養の必要性
・(休職の診断書であれば)休養期間と休養中の注意点
・(復職の診断書であれば)復職判断と復職後の就業上の注意点
●健康診断結果
直近の健康診断の結果があれば確認するとよいでしょう。指摘事項がある場合は、その後再受診したか、治療経過はどうかについても確認しましょう。

【個人要因の改善状況、周りの支援】
現状で本人が最も困っていること、または産業医判断で最も重篤な症状や事例にフォーカスしてヒアリングしましょう。その症状や事例が、改善・増悪・横ばいかも確認し、増悪傾向の場合は、医療機関の受診や就業制限・休職などの措置も検討しましょう。また、その症状や事例の背景や原因を本人がどう捉えているか、改善に向けた見つめなおしができているか、現状を緩和するだけではなく、将来的な業務継続のために原因が解消できているかも確認する必要があります。また、職場の支援や家庭の支援の状況も確認しましょう。

【会社への希望】
現状に対する本人から会社への希望などを確認しましょう。実現可能・不可能に関わらず聴取しますが、その際「解決します」「なんとかします」などとは答えないよう注意してください。「ご希望をお話くださりありがとうございます。今伺った内容をふまえて会社(やその他関係者)にお伝えし、検討してみますね」などと答えるとよいでしょう。

4. 会社への共有の同意取得

面談最後に、面談内容を会社に共有してよいかを必ず本人へ確認してください。同意取得の有無は、必ず面談記録にも記載しましょう。同意された場合は、「以上、面談内容の会社への情報開示/情報共有に同意された」という文言を記載します。記録が正式かつ本人の同意の下、会社へ共有していることの証明となります。会社への共有に同意されない場合、同意されない部分はふせて、産業医意見を会社へ提供しましょう。

5. 本人への指導

面談内容をふまえて、本人への指導を行いましょう。医療機関受診の必要性、医療記録の提出、就業制限の実施内容などの情報を本人に伝え、面談記録に記載しましょう。本人への指導を面談時に判断しかねる場合や決定できない場合は、その場で適当な意見を言わず「就業制限などの意見は一度持ち帰って検討し、後日会社から直接お伝えします」と伝えましょう。その後、調べたり、他の産業医や専門家(社労士や弁護士など)に相談するなどした上で、適切な意見を会社へ提供しましょう。

6. 産業医意見

会社へ産業医意見を提供しましょう。産業医意見として、就業制限の内容、休職復職の可否の判断、会社に求めるアクションなどが含まれます。会社への産業医意見を判断しかねる場合は、こちら「就業制限などの意見は一度持ち帰って検討し、後日お伝えします」と伝えましょう。

【就業判定】
面談内容を総合的に考慮し、就業制限を決定します。就業制限や休職の明確な基準はありませんが、睡眠などの生活リズムが乱れている場合や、精神症状が増悪傾向の場合は何らかの就業制限を行うことをお勧めします。
下記より1つまたは複数を選択し、詳細事項も合わせて記載します。

1. 入院療養
2. 自宅療養
3. 就業時間短縮( ○時間勤務  :  ~  :   )
4. 時間外勤務禁止
5. 時間外勤務制限( 月○時間まで。ただし、1日あたり○時間まで )
6. 業務内容( ○○業務禁止、〇〇業務は制限 )
7. その他(                 )

また、就業制限が必要な期間も記載しましょう。その際の注意点として「いつ」「どのように本人の状態を再確認し」「どうなったら就業制限が緩和されるか」を決めておく必要があります。「次回面談まで」「○カ月後まで」「主治医の判断があるまで」などの記載がよく使用されます。

7. 次回予定・面談日

次回の面談日などの決定事項があれば記載します。次回の予定がない場合や、今回で面談終了となる場合は「次回面談予定なし」「面談によるフォロー終了」と記載しておきましょう。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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