産業医の役割・選任

休職中の社員に対して産業医面談で退職勧奨してもらうことは可能?

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更新日:2023.07.18

休職復職対応に悩む企業が年々増えています。その中で、休職を何度も繰り返す社員がいる…復帰可の診断書を持ってきたが、明らかにまだ勤務が難しそう…といった、従業員対応にお悩みの人事労務担当者の方は多いのではないでしょうか。

本記事では退職勧奨を検討している事業者に向けて、退職勧奨と解雇の違いや、退職勧奨について産業医ができる対応を紹介します。

退職勧奨は一歩間違えると、パワハラなどの社会的な問題に発展しかねないので、会社には慎重な対応が求められるでしょう。

退職勧奨の際の注意点や、リスクなどの今後の会社の健康経営にとって重要なポイントも解説します。

産業医との面談によって退職となったケースなどの事例も踏まえて紹介するので、会社の人事総務担当者の方はぜひ最後まで読んでください。

退職勧奨とは?解雇との違いは?

退職勧奨とは、会社側が従業員に対して退職をすすめることです。あくまで「退職をすすめる」段階なので、従業員が合意しない場合は退職にはいたりません。

一方、解雇とは、就業規則に基づき、従業員をやめさせることです。解雇は会社側が自由にできるわけではなく、会社もしくは従業員にさまざまな原因があり、解雇せざるをえない状況があれば可能となります。

  • ・就業規則に反することが継続している場合
  • ・経営においての人員整理が必要な場合

その他にもさまざまな理由で解雇を判断しますが、少なくとも30日以上前に解雇予告、もしくは30日分以上の平均賃金である解雇予告手当を支払うなど、解雇には一定のルールが存在します。

解雇は双方合意というよりは、会社側からの通達であるため、会社側と従業員間でトラブルが発生する可能性もあるでしょう。

トラブルを防ぐためには、きちんとした手順を踏んで退職勧奨を行うことが重要であり、近年、多くの企業でも注目されるようになっています。

産業医に退職勧奨してもらうことは可能?

産業医は、従業員の安全と健康を守る役割を担う存在です。そんな産業医に退職勧奨してもらうことはできるのでしょうか。

産業医は退職勧奨できない

産業医面談の場で、従業員に退職勧奨してもらいたいと考える会社も少なくないようで、実際に従業員が産業医面談で退職勧奨されたケースもあるようです。

しかし、産業医が従業員に対して退職勧奨する行為は、法律で認められていません。退職勧奨は、産業医の職務範囲を超えており、従業員の安全と健康を守る立場としてもふさわしくない行動といえます。

あくまでも退職勧奨は会社と従業員の間で行うべき内容であり、退職勧奨に至る理由や内容を事業者みずから真摯に説明する必要があります。

産業医による退職勧奨は認められていないものの、産業医と相談しながら、職場環境を改善していくことで、退職勧奨の必要がなくなるという可能性はあるでしょう。

産業医の面談における役割は、従業員の状態を確認し、必要に応じて従業員本人や会社に助言をすることにあります。退職勧奨を依頼することのないように注意しましょう。

産業医の職務範囲

退職勧奨は産業医の役割ではないと解説しましたが、産業医の職務範囲は以下の通り定められています。

  • 産業医の職務(安衛則第14条第1項)
  • 健康診断の実施とその結果に基づく措置
  • ②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
  • ③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
  • ④作業環境の維持管理
  • ⑤作業管理
  • ⑥上記以外の労働者の健康管理
  • ⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
  • ⑧衛生教育
  • ⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

“出典:独立行政法人労働者健康安全機構中小企業事業者のために産業医ができること」”

産業医は、会社で働く従業員の安全と健康を守るために、事業所を働きやすい環境に整える役割があります。

しかし、従業員に対して退職勧奨するという職務、あるいは権限はないので、産業医に依頼することのないようにしましょう。

産業医との面談がきっかけで退職となるケース

ストレスチェックや健康診断の結果、もしくは復職する場合に、産業医は従業員と面談を行います。

産業医面談の際、会社に従事し続けることが、従業員にとって適切ではないと判断した場合は、産業医が退職をすすめるケースもあります。

実際に産業医との面談がきっかけで退職となったケースを2つ紹介します。

  • 例1
  • 「現在、心身の都合により、休職中の従業員が復職を申し出があった。しかし、心身の状態の回復が見られず、産業医がまだ復職できる状況ではないと判断。従業員の休職が続き、休職期間が満了となり、退職となってしまった。」
  • 例2
  • 「休職中、もしくは健康診断やストレスチェックの結果により、産業医と面談。作業場所の変更もしくは勤務時間の調節を提案したが、従業員が専門的な職務だったため、部署の移動が困難であった。退職をした方が都合がよいと従業員が判断したため、退職にいたったのである。」

このように、産業医との面談で話を進めていくうちに、従業員が退職に至ったケースはあります。

しかし、あくまで産業医は中立的な立場であるため、会社側に頼まれて退職をすすめるような行動はしません。

休職者や復職者に対して実施される産業医面談も、心身の不調がある従業員に関して、会社が適切な判断を行うために実施されます。

安全配慮義務の観点から、専門家である産業医の意見を聴取するための面談なので、産業医面談に退職勧奨は期待できないのです。

無理に退職勧奨をすすめるリスク

解雇よりも重たくない退職勧奨を選択したいと考える事業者は多いでしょう。

しかし、退職勧奨で済ませたい気持ちが先走り、知らずしらずのうちに無理に退職をすすめていたというケースもあります。

退職勧奨を強引にすすめることで、従業員からパワハラなどと捉えられ、大きなトラブルに繋がりかねません。

いきすぎた退職勧奨により、慰謝料として損害賠償を求められることがあり、会社のイメージダウンに繋がるリスクも考えられます。

退職勧奨は、あくまでも従業員との合意の上で成り立つことなので、強要されたと捉えられないように慎重に行うべきです。

退職勧奨する上で、手順や言動に不安がある場合は、これから紹介する退職勧奨の注意点を参考にしてください。

事業者が退職勧奨する際に注意すべきこと

ここでは、事業者側が退職勧奨する際の注意点を紹介します。退職勧奨する際には、就業規則を見直し、従業員に寄り添うリハビリ勤務なども検討しつつ、無理な退職勧奨とならないように注意しましょう。

就業規則の見直し

就業規則に、退職または解雇の基準を定めておくことで、事業者と従業員両者に対し退職の目安ができます。

例えば、就業規則に「休職期間が満了した際、職場に復帰できない状態が続く場合には退職とする」などの定めがあれば、休職期間が満了すると自動的に退職となります。

また、多くの会社の就業規則では、普通解雇事由として「心身の障害により、業務に耐えられないとき」という項目を定めています。

事業者が職場環境や労働時間を見直し前向きに検討したにもかかわらず、従業員の心身の状態が回復する目処が経たない場合には、就業規則に沿って解雇することも可能となるケースもあります。

退職勧奨がうまくいかなかった場合でも、就業規則の定めがあれば、認識のズレが起こりにくく、たとえ解雇ということになったとしても不満も出にくいでしょう。

ただし、不当解雇とならないよう、事業者は従業員へ慎重に説明することが重要になります。さらに、就業規則は法律ほどの効力はないという点も念頭におき、丁寧に対応していきましょう。

リハビリ勤務などの段階を踏む

従業員に心身の不調があり、業務を遂行することが困難になった場合でも、いきなり退職勧奨することはかなりのリスクがあります。

休職している従業員がいる場合、まず会社側は復職した際の環境を整えるなどの対応が必要です。環境の一つとして、復職した際は、短時間の労働や負担の少ない作業環境から慣れていけるよう、リハビリ勤務を提案する方法もあります。

リハビリ勤務に決まりはありませんが、事例がない場合は、厚生労働省による「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援手引き」などを参考にしてみましょう。

リハビリ勤務は、従業員にとっても、この先この会社で継続して勤務できるかを判断する機会となります。

退職勧奨する前に、お互いにとって良い結果となるよう、歩み寄る姿勢が求められるでしょう。

“出典:厚生労働省心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援手引き」”

まとめ

退職勧奨でも退職は、お互いにとってスムーズではあるものの、さまざまなリスクも存在するため退職勧奨する前段階で産業医に相談し、職場環境を見直しておくことをおすすめします。

職場環境を見直した結果、従業員の働く環境が改善し、退職勧奨の必要がなくなる可能性もあります。

事業所に不適切な環境はないか、従業員の安全や健康を守ることができる環境であるかを見直すためにも、まずは一度専門家である産業医に相談してみましょう。

双方にとってより良い環境を作るために、適切な判断ができる産業医探しは、ぜひDr.健康経営にお任せください。

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Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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