産業医の役割・選任

従業員50人以上の事業場における義務とは?産業医の選任が必要?

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更新日:2023.02.27

企業は従業員が健康かつ安全に働けるよう、法律で定められた義務を全うしなければなりません。企業に課せられる義務は規模に応じて異なりますが、一つの区切りとなるのが「従業員50人以上」です。

しかし、これから社員が50人以上に増えることが見込まれる企業の人事担当者や経営者など、具体的にどのようなことをすべきかわからない人もいるのではないでしょうか。

今回は、従業員が50人以上の場合を中心に、企業が労働法令上すべきことを解説します。50人未満の場合にも触れるため、記事を読めば、現時点ですべきこと、将来に備えてすべきことの両方が分かるでしょう。

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従業員が50人を越えたら義務づけられること

企業規模に応じた義務を説明する前に、「従業員50人以上」の定義を整理しておきましょう。一般的に、従業員50人以上のケースに課せられる義務は、「常時使用する労働者の数が50人以上の事業場(所)」で生じます。

「常時使用する労働者」とは、社員だけでなく、パート、アルバイト、派遣労働者、契約社員など、臨時的労働者の数も含みます。また「事業場」とは事業を行う場所のことで、企業全体ではなく場所ごとに1つの事業場として扱われます。

例えば、本社と2カ所の工場、3カ所の営業所がある場合、事業場は6つです。6つの事業場のうちいずれかで、雇用形態を問わず、使用する従業員数が50人以上になったら、企業は該当する事業場に対して、労働法令上課せられた義務を行わなければなりません。

具体的には、以下に述べる5つの義務を行う必要があります。

産業医の選任

産業医とは、労働者が健康かつ安全に就労できるよう、専門的な見地から指導や助言を行う医師のことです。労働安全衛生法第13条で、従業員数50人以上の事業場では、事業場ごとの産業医の選任が義務付けられています。

※参考:厚生労働省.「労働安全衛生法」. https://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000qmvh-att/2r9852000000rytu.pdf,(参照2021-12-07)

産業医の役割は、労働者の健康管理、職場管理、作業管理を行うことです。活動場所とする企業の従業員が、労働によって心身の健康を害さないよう、指導や助言を行います。具体的には、職場環境に安全衛生上の問題がないか巡視したり、長時間労働者やメンタルに不調を抱えた従業員との面談を行ったりと、職務は多岐に渡ります。

産業医には、非常勤の嘱託産業医と専属的に従事する専属産業医の2種類があり、原則常時50人以上999人以下の労働者を使用する事業場では、嘱託産業医か専属産業医を1名以上選任します。(ただし、特定の業務に従事する労働者が500人以上の場合、専属産業医のみ可)

1,000人以上の場合は専属産業医1名以上を、3,000人以上の場合には専属産業医を2名以上選任します。

働き方改革が推進され、従業員の健康と安全を守ることが企業にますます求められる中、2017年には労働安全衛生規則等の改正によって産業医の権限が強化されるなど、産業医の活用にも期待が高まっています。

関連:産業医とは?設置基準や仕事内容、報酬相場や探し方まで徹底解説!

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衛生管理者の選任

衛生管理者とは、専門家として職場の衛生環境を管理する人です。具体的には、健康に問題のある従業員を見つけて処置したり、衛生教育や健康相談を行ったり、労働環境の調査と改善を実行したりします。労働安全衛生法に基づく国家資格を取得しなければ、衛生管理者になれません。

企業は、事業場の従業員数が50人以上となったときから14日以内に、有資格者の従業員を衛生管理者として選任する義務があります。また、選任後は、事業場を管轄する労働基準監督署に選任報告書を提出しなければなりません。選任しなかった場合、50万円以下の罰金に処せられることもあります。

衛生管理者の必要な選任数は、事業場の規模によって異なり、以下のように定められています。

事業場規模 選任数
常時50人以上200人以下の事業場 1名以上
常時201人以上500人以下の事業場 2名以上
常時501人以上1,000人以下の事業場 3名以上
常時1,001人以上2,000人以下の事業場 4名以上
常時2,001人以上3,000人以下の事業場 5名以上
常時3,001人以上の事業場 6名以上

衛生委員会の設置

衛生委員会とは、一定規模の事業場ごとに設置が義務付けられた委員会で労働者の健康障害防止のための取り組みを労使一体となって話し合う場です。

衛生委員会の設置は労働安全衛生法施行令第9条によって、常時50人以上の労働者を使用する事業場で設置しなければならないことが定められています。

衛生委員会では、労働者の健康障害の防止、健康の保持増進、衛生教育の実施計画などを話し合います。例えば長時間労働への対応を協議したり、役職者向けの衛生教育を計画したり、産業医からの講話の場を設けることもあります。

衛生委員会の構成メンバーは、次のとおりです。

  1. 総括安全衛生管理者または事業の実施を統括管理する者、もしくはこれに準ずる者(1名)
  2. 衛生管理者(1名以上)
  3. 産業医(1名以上)
  4. 衛生に関する経験を有する労働者(1名以上)

1の委員が議長を務め、1以外の委員の半数は、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する人の推薦によって指名されなければなりません。

※出典:厚生労働省.「安全委員会、衛生委員会について教えてください」.https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/faq/1.html,(参照2021-12-07)

定期健康診断結果報告書の提出

企業は、事業場の規模にかかわらず、雇い入れ時および基本的に毎年1回、従業員の定期健康診断を実施しなければなりません。対象は、1年以上雇用している人または雇用する予定のある人です。

従業員数が50人以上の事業場では、実施義務だけでなく定期健康診断結果を労働基準監督署へ報告する義務があります。所定の用紙(定期健康診断結果報告書)へ必要事項を記入し、提出しなければなりません。

診断結果は、基本的に1年分をまとめて報告できます。健康診断を受診した労働者の数、何らかの検査で「正常ではない」として有所見となった労働者の数、有所見となった人のうち、要検査となった労働者や休業・就業制限のかかった労働者の数などを報告します。報告書には、産業医の氏名の記入も必要です。

ストレスチェックの実施

ストレスチェックは、ストレスを抱えている従業員を発見し、メンタルヘルスの不調を防止するとともに、職場環境全体の改善につなげる目的で実施されるものです。

従業員50人以上の事業場では、年に1回ストレスチェックの実施が義務付けられています。実施の対象となるのは、定期健康診断の対象者と同じく1年以上雇用している人または雇用する予定のある人です。

ストレスチェックの実施者は、労働安全衛生法第66条で「医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者」と決められています。多くの場合、産業医がストレスチェックの実施規定や計画を作成し、実施者の役割を担います。

ストレスチェック実施後は、高ストレス者に面接指導を行い、結果を報告書として労働基準監督署へ提出しなければなりません。明確な提出期限はないものの、長期間報告を怠ると労働基準監督署から注意を受ける可能性もあります。

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従業員50未満の事業場には努力義務がある

従業員50人以上の事業場に生じる5つの義務を紹介しましたが、従業員50人未満の事業場では義務ではないものの、実施が望ましいとされる「努力義務」があります。

例えばストレスチェックの実施は、従業員50人未満の事業場では努力義務とされています。働き方改革を実施していること、メンタルヘルスの不調を訴える労働者が増加していることなどから、従業員数が50人以上の事業場でなくても積極的に行うよう、平成29年度から努力義務とされました。

従業員50人未満の事業場でストレスチェックを実施する場合、要件を満たせば助成金を受け取れます。支給金額は、ストレスチェックの実施費用で従業員1人あたり税込500円、医師の活動費に1回税込21,500円で、上限は3回までです。

助成金を受けるための要件は、従業員数が50人未満であることの他、ストレスチェックの実施者が決まっていること、事業者と医師によるストレスチェックの実施体制が整っていることなどがあります。

また、ストレスチェック以外に、医師による健康管理の実施も努力義務となっています。

従業員数が50人未満の段階でも産業医と連携することで、双方の努力義務を果たすことにつながるでしょう。

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従業員50人未満でも要注意!

従業員数が50人未満の事業場であっても、労働法令上義務付けられていることもあるため注意が必要です。

従業員10人未満、10人以上、43.5人以上の3つのケースに分けて、それぞれに義務付けられていることを解説します。

従業員10人未満でも義務になること

従業員10人未満の事業場でも義務になるのは、健康診断の実施、長時間労働者の面接、社会保険と労働保険の加入の3つです。以下でそれぞれについて詳しく解説します。

定期健康診断の実施

労働安全衛生法第66条に基づき、企業は労働者に定期健康診断を受けさせる義務があります。対象となるのは1年以上雇用している人または雇用する予定のある人です。正社員に限らず、週あたりの労働時間が正社員の4分の3以上あれば、契約社員やパート、アルバイトも対象となります。

通常の健康診断である「一般健康診断」には、主なものに雇用時の健康診断、定期健康診断、特定業務従事者の健康診断があります。

雇用時の健康診断は労働者の雇い入れのタイミングで実施します。定期健康診断は、1年に1回行わなければなりません。

特定業務従事者の健康診断は、労働安全衛生規則第13条第1項第2号で定められた、特定の環境下や化学物質を扱う業務を対象とした健康診断で、該当する業務へ配置替えとなったタイミングおよび6カ月に1回のペースで実施する必要があります。

労働安全衛生法第66条では、健康診断実施後の事業者の取り組み事項として、診断結果の保存と労働者への通知、異常所見のある労働者について医師からの意見を聴取すること、聴取した意見により必要がある場合、配置転換や労働時間の是正などの措置を講じることなども掲げています。

※出典:厚生労働省.「労働安全衛生法に基づく健康診断を実施しましょう」.https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf,(参照2021-12-07)

長時間労働者の面接

長時間労働により疲労が蓄積すると、脳・心臓疾患の発症や、メンタルヘルスを害するリスクが高まります。

このため事業者は、長時間労働による疲労が蓄積した従業員に対して、医師による面接指導を行わなければなりません。長時間労働者の面接は、2008年4月から従業員数を問わずすべての事業場で実施が義務化されています。

対象となる労働者の範囲は次のとおりです。

  • ・月80時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積があり面接を申し出た労働者または研究開発業務従事者
  • ・月100時間超の時間外・休日労働を行い、疲労の蓄積がある研究開発業務従事者
  • ・1週間当たりの健康管理時間 が40時間を超え、超えた時間が月100時間を超えた高度プロフェッショナル制度適用者

1のケースでは従業員側からの申し出が必要ですが、2、3のケースでは従業員からの申し出の有無にかかわらず面接を実施します。

※出典:厚生労働省.「長時間労働者への医師による面接指導制度について」.

https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/anzeneisei12/pdf/08.pdf

(参照:2021-12-7)

社会保険と労働保険の加入

以下の社会保険、労働保険への加入も義務となります。

  • ・健康保険
  • ・厚生年金保険
  • ・雇用保険
  • ・労働者災害補償保険(労災保険)

健康保険と厚生年金保険は、正社員だけでなく、1日または1週間の労働時間および1カ月の所定労働日数が4分の3以上のパート、アルバイトも対象です。法人の場合従業員1人から、個人事業の場合5人以上で加入義務があります。

雇用保険は、1週間の所定労働時間が20時間以上で、31日以上雇う見込みのある人を1人以上雇用した場合加入が必要です。

労働者災害補償保険は雇用形態問わず、1人でも従業員がいる場合加入します。

従業員10人以上の事業場における義務

雇用形態や契約期間を問わず、事業場の従業員数が10人以上になった場合、就業規則の作成が義務となります。

就業規則とは、給与や労働時間などの労働条件や職場内のルールをまとめた規則のことです。就業規則には、従業員、事業者側の双方が守るべき規則を明確化することで、お互いの権利を守る目的があります。

就業規則の作成や変更時は、就業規則に就業規則(変更)届と意見書を添えて、労働基準監督署へ提出しなければなりません。意見書とは、就業規則の作成、変更にあたり、従業員の過半数を代表する人の意見を聴取した証明となるものです。また、作成した就業規則は見やすい場所に掲示するなどして、従業員へ周知する必要があります。

その他、業種によって衛生推進者または安全衛生推進者の選任も必要です。

従業員が43.5人を越えたら義務になること

障害者雇用促進法により、従業員が43.5人以上の企業には障害者を雇用する義務が生じます。従業員数は、1週間の労働時間が30時間以上の人を1人、20時間以上30時間未満の人を0.5人としてカウントします。

2021年3月以降、民間企業の障害者雇用率は2.3%と定められているため、例えば従業員数45人の企業なら、雇用すべき障害のある方の人数は1人です。

従業員100人以上の企業が法定雇用率を満たさない場合、1人の不足につき50,000円の障害者雇用納付金が徴収されます。

障害者雇用率の算定対象となるのは、障害者手帳を所持している身体障害者、知的障害者、精神、発達障害者ですが、企業には、手帳を持たない方も含めてさまざまな人を支える仕組みづくりが求められています。

国は障害者の雇用促進のため、トライアル雇用や継続雇用などに対するさまざまな助成金を設けています。

まとめ

従業員が50人以上の事業場では、ストレスチェックの実施や産業医の導入が義務付けられています。また、50人未満の事業場でも、ストレスチェックを実施すれば助成金の活用が可能です。さまざまな制度を利用しながら、従業員のメンタルケアを行っていきましょう。

ストレスチェックを始めとした従業員の健康管理には、産業医との連携が効果的です。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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