健康経営・職場改善
健康経営戦略マップはなぜ必要?健康投資管理会計との関係・作成方法を解説
企業が健康経営を行うためには、健康経営戦略マップの作成が必要とされています。
健康経営戦略マップとは健康経営を進めるための計画書です。しかし、健康経営戦略マップの作り方や活用方法が良く分からないという方も多いのではないでしょうか。
本記事では、健康経営戦略マップが必要とされる理由や具体的な作成方法、健康投資管理会計との関係性などを詳しく解説します。
また、健康経営戦略マップの作成によって得られる効果や、活用方法などについても紹介するので、健康経営戦略マップを作成する際に役立ててください。
目次
健康経営戦略マップとは?
まずは、健康経営戦略マップとはどのようなものかを解説します。
健康経営戦略マップの作り方や活用方法を正しく理解するためには、概要をしっかり把握しておくことが大切です。
経営産業省「健康投資管理会計ガイドライン」の一つ
健康経営戦略マップは、経済産業省の『健康投資管理会計ガイドライン』に記されているドキュメントの一つです。
健康投資管理会計とは、持続可能な事業経営を進めていく中で従業員の健康の保持・増進に対する投資活動の効果を客観的に測定し、伝達する仕組みを指します。
健康投資管理会計の実施には健康経営戦略マップの他に、健康投資シートや健康投資効果シート、健康資源シートの4種類のドキュメントを作成すると良いとされています。
健康投資とは、従業員の健康の保持・増進のために活用される人件費・外注費などのコストのことです。健康投資効果とは、健康投資を行うことで従業員の生活習慣や健康状態、組織の活力などにみられる成果を意味します。
健康投資効果の評価には、従業員の意識・行動変容に関する指標を用いるのが一般的です。指標を軸に、最終目標の達成度などから健康投資効果を分析します。
健康資源とは健康投資を継続的に行い、得られた効果を蓄積することで企業内部の健康の保持・増進に役立てられる資源のことです。社風や制度、従業員の健康状態などが挙げられます。
健康経営を進めるための計画書
健康経営戦略マップは、企業が健康経営を実施するための計画書です。健康経営とは、企業の経営課題に従業員の健康管理を盛り込み、計画的に行う経営手法を指します。
従業員の健康を保持・増進するための取り組みを積極的に行うことで、従業員のモチベーションが上がれば、生産性の向上や組織の活性化などの複利効果も期待できるでしょう。
健康経営戦略マップは、後ほど解説する5つの記載事項に沿って作成するため、企業内の健康課題や具体的な取り組み内容、健康経営の実践で解決できる経営課題などが可視化されるようになっています。
誰が見ても分かりやすく健康経営戦略が記載されているため、経営陣や従業員、ステークホルダーへの説明もしやすくなるでしょう。また、健康経営戦略マップは社内外に公開されます。他社の健康経営戦略を参考にして自社の戦略やマップ作成に活かすことも可能です。
健康経営戦略マップの作成の必要性や、どのような効果を得ることができるのかについて次の章で解説します。
健康経営戦略マップの必要性
健康経営における戦略マップを実際に作成する前に、具体的な必要性を確認しておくことが大切です。健康経営を成功させるためには、従業員の健康への投資が不可欠です。
実際に健康経営を施策する場合、運動不足の解消に向けて社内ジム施設を導入したり、食生活の向けて改善に社員食堂を導入したりといった例が挙げられます。
しかしこれらを実施させるためには、費用がかかるため経営陣の同意を得る必要があります。そこで会社全体が一願となって取り組むために必要なのが「健康経営戦略マップ」です。
戦略マップの作成によって、経営課題・健康課題・目標を全ての従業員が把握することが可能になり、健康経営に取り組む環境を目指しやすくなります。
健康経営マップを作成することで得られるメリット
健康経営戦略マップを作成するメリットは、健康経営担当者と経営陣の齟齬を補えることや、健康経営を実現するための問題点を改善できることなどが挙げられます。
それぞれのメリットについて以下で解説します。
健康経営担当者と経営陣とのズレを補える
健康経営を実践する中では、健康経営担当者と経営陣の考え方にズレが生じる場合があります。健康経営担当者と経営陣との間に生じたズレを補うことにも健康経営戦略マップの作成は有効。戦略マップを作ることで、両者の認識のズレが可視化できます。
例えば、健康経営企業として認定を受けられるホワイト500の認定取得の難しさを経営陣に上手く伝えられず、必要な予算を増やしてもらえないといったケースがあります。健康経営戦略マップを作成すれば、認定を受けるまでに必要な流れやインフラの整備などを具体的に説明しやすくなるため、経営陣との考え方のズレを解消できます。
ただし、健康経営戦略マップは健康経営担当者のみで作成しても意味がありません。経営陣の承認を受けて作成しなければ実効性のある戦略を立てられなくなります。健康経営担当者は、健康経営戦略マップの作成に必要なデータや資料などを準備しておく必要があります。
健康経営実現のための問題点が改善される
画像引用:経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」(参照:2022-07-17)
健康経営戦略マップは、PDCAサイクルのうち、P(計画)の役割を担っています。経済産業省の『健康投資管理会計ガイドライン』では、健康経営戦略マップはP(計画)で、健康投資と健康投資効果、健康資源はD(実施)に該当すると解説しています。
従来の健康経営の手法では、しっかりと計画を立案せずに、D(実施)・C(評価)・A(改善)が進められてきました。最終的な目標を事前に明確にしていても健康経営を実現するための計画が不明瞭だったため、具体的に何をどのように進めればいいのか分からないままだったのです。
また、形だけの評価や検証が行われたため、改善につなげることができない企業も少なくありませんでした。
一方、健康経営戦略マップの作成が推奨されることで計画書を可視化できるようになりました。さらに、健康経営を実現するまでの流れや手順などが分かりやすくなったため、健康経営を高い視点から評価・改善などにつなげられるようになったのです。
健康経営戦略マップの手順と作り方
健康経営戦略マップは、手順に沿って作ることが重要です。「1.目的・課題→2.効果→3.計画」の順に作成することにより、作成・戦略がスムーズに行えます。
早速、健康経営戦略マップの手順と作り方を見ていきましょう。
STEP1:健康投資の目的をはっきりさせる
まずは、健康経営戦略マップを作成する前に「健康投資をする目的を明確化し、解決すべき経営課題について考える」必要があります。その理由は、目的が明確でなければ、健康経営に関係ないことにコストを割いてしまう可能性が高いからです。
作り方としては、根本的な健康投資の目的・経営課題を具体的に書き出すことが大切。例として、「メンタル面の不調による休職・離職を減らしたい」「人材確保のために企業価値を高めたい」などが挙げられます。
また健康投資の目的は、健康経営で成功を収めている他社と同じ目的にすれば、必ずしも同じような成果を得られるとは限りません。企業の経営課題や理念などによって、健康投資の目的が異なるからです。
健康経営を目指すためには、自社の健康投資で叶えたい目的を明確化させながら、見失わないことが大切です。
なお、健康投資市場の中で企業価値を向上させ、円滑に資金調達を行いたい場合は経済産業省の『健康投資管理会計ガイドライン』を参考にするのもおすすめです。
“出典:経済産業省「健康投資管理会計ガイドライン」”(参照:2022-07-17)
STEP2:自社の健康課題を可視化する
健康投資をする目的を明確化させたら、次に自社の現状をしっかりと把握し、健康課題を分析することが大切です。
例えば、体調不良やメンタル面の不調を訴える従業員の割合が増えている場合、残業時間や休日出勤の日数を確認すると働きすぎで体調が悪化しているのか、それ以外に原因があるのかを分析できます。
残業時間や休日出勤の日数が多かった場合は、部署や役職、年代や時期別に分析を行うことで長時間労働の原因を探ることが可能です。
また原因や対策の設定は、それぞれの会社状況によって大きく異なります。そのため、社内アンケートや1on1ミーティングなどによるヒアリングの実施で健康課題を可視化させることがおすすめ。現場の声を聞く機会を設けることにより、健康課題を解決する方法が考えやすくなります。
STEP3:健康課題を解決する方法を考える
健康課題を可視化した後は、具体的な解決策の検討に入ります。
例えば、仕事に対するモチベーションが低いと感じる場合には「ワーク・エンゲイジメントの向上」、体調不良の欠勤が多い場合には「運動促進活動を通じて健康維持」などテーマを決めながら、作業工程の見直し、改善や書類の電子化などの解決策が効果的です。
また、社内コミュニケーションの低下により、正しい伝達がされずミスが増えるなどのコミュニケーションに関する課題を解決したい場合は、社内コミュニケーションツールの導入を検討するのもよいでしょう。
健康課題を解決させるには、従業員アンケートや1on1ミーティングで得た意見を盛り込ませた取り組みを行うことが大切。従業員の会社に対する信頼が高まり、社員エンゲージメントの向上も期待できるでしょう。
従業員からの企業評価が高まれば、社外にも効果的な発信ができるため、優秀な人材の確保や社会的な評価を向上させることができます。
STEP4:健康投資効果ごとに目的を分ける
最後のステップとして、健康投資効果ごとに目的を細分化していくようにしましょう。
目的を細分化することは、計画を立てる上で非常に重要なポイント。例えば、従業員の意識・行動変容に関連する指標や、従業員の健康状態に関する指標などが対象です。
具体的には、意識・行動変容を促し、いつまでにどのような意識の変革や行動の現れを目指すのか、健康診断やメンタルヘルス制度の結果がどのように変化したことを持って目標が達成されたと評価するのかを検討していきます。
また、「高ストレス者を○%まで減らす」「年に○回スポーツイベントを開催する」などのように、数値ベースで考えることも重要です。健康経営戦略マップを作成する前に明確にした健康投資の目的と相違がなければ、適切に戦略マップが作成されている証拠です。
さらに、健康投資の施策の実施後は、PDCAサイクルを回していき、健康経営戦略マップを定期的に見直すようにしましょう。
健康経営戦略マップの活用方法
健康経営戦略マップは健康経営に取り組む上で重要な役割を担っていますが、他にも活用する方法があります。以下では、健康経営戦略マップの活用方法を紹介します。
戦略マップ施策への参加量を管理し改善する
健康経営戦略マップは、健康経営のための施策に対する参加量の管理・改善に活かすことができます。施策に対する参加量は、一般的にアウトプット指標のことを指します。
アウトプット指標は、施策のバランスが取れているか、効果や目標達成に十分な参加量を確保できているのかなどの観点から評価するための指標です。
アウトプットの指標を定点管理し、改善していくことで、パフォーマンス指標にも良い変化を与えられるようになります。例えば、健康経営戦略マップで設定した指標を定期的にモニタリングすれば、従業員に対して適切な時期に改善策を提案できるようになるでしょう。
指標間の相関関係を確認する
健康経営戦略マップは、指標間の相関関係を分析する際に便利です。
例えば、メンタルヘルス制度で高ストレス者と判定された従業員のうち、産業医による面接指導を受けた人と受けなかった人のメンタルヘルスの変化を確認できます。
面接指導を受けた人は産業医から日常でできるセルフケアの具体的な方法を教えてもらえるため、自身が受けているストレスに気付き、自分で対処できるようになります。
一方で、自分が高ストレス者と認知しただけで面接指導を受けなかった人の場合、ストレス度が変化しない、さらに悪化するなどの変化があることに気付く可能性があります。指標間の相関関係を確認すれば、健康経営の取り組みを進めていく中で、成功例や失敗例などの検証にも活かすことができるでしょう。
経営戦略マップの検証結果を経営陣にも共有する
健康経営戦略マップの活用によって指標間の相関関係が可視化されるようになれば、健康経営の取り組みで得られる効果はもちろん、具体的な行動に落とし込める改善策の提案などを経営陣に説明する際に利用できます。
具体例としては、「運動習慣のない従業員が多いので、スポーツイベントを社内で開催したい」や「従業員の栄養バランスの改善が必要なため、管理栄養士が考案したメニューを社員食堂で提供したい」「高ストレス者が多いので、面接指導の重要性を伝えるための説明会を実施したい」などが挙げられます。
また、健康経営戦略マップの検証結果を基に提案を行うことで説得力が増すため、経営陣からの承認や納得感を得やすくなることも期待できます。
まとめ
健康経営戦略マップは、企業が健康経営を進めるために必要な計画書です。
健康経営戦略マップの作成により、健康経営担当者と経営陣との考え方のズレを補えるなどのメリットを得られます。健康経営を進めるための健康課題に取り組むなら、従業員の健康管理を行えるプロの産業医と連携を取るのがおすすめです。
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