産業保健・健康管理

企業がおこなう健康診断の種類は?診断結果が悪い従業員が出た場合の対処法

日付
更新日:2023.02.23

健康診断の本当の目的とは?

健康診断は、従業員が安全かつ健康に長く働くことを目的として、定期的に体の検査を行うことです。企業は実施することが義務であり、従業員は受診することが義務付けられており、福利厚生の一環ではありません。そのため、健康診断の実施が重要なのではなく、健診結果にもとづいて、必要に応じて産業医面談を行い、生活指導を行う、病院の受診を促す、就業制限をかけるなど予防に向けた適切な対応をすることが、企業における健康診断の本来の目的です。
企業は全従業員に対して年1回の健康診断を行う義務があり、有害性のある特殊業務を行っている従業員や、就職の際または海外赴任時などの際には追加で健康診断を行う必要があります。

健康診断にはどんな種類があるのか?

一般健康診断

全ての企業で行われる全従業員対象の年1回の一般的な健康診断が「一般健康診断」です。「一般健康診断」には、人によってはさらに追加で受けるものがあります。例えば、海外赴任または海外から日本に戻ってくる際の「海外派遣労働者の健康診断」、会社に就職する際の「雇入時の健康診断」などです。「雇入時の健康診断」は、会社と個人どちらが費用を負担すべきか法律で定められていませんが、会社が負担することが望まれます。
また、特定業務に従事する労働者、または深夜業に従事する労働者(1カ月あたり4回以上)が、6か月ごとに健康診断を受ける「特定業務従事者の健康診断」もあります。

特殊健康診断

有害性のある特殊業務に携わっている従業員が受けなくてはならないのが「特殊健康診断」です。これは6か月ごと、年に2回に受けなくてはなりません。業務の種類によっては、「じん肺健診」「歯科健診」を受けなくてはならないケースもあります。

【健康診断の種類  一覧】

健康診断の種類一覧

出典:「健康診断を実施しましょう」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000103900.pdf

一般健康診断において、40歳未満の従業員(35歳を除く)については一部の検査項目を省略できます(「労働安全衛生規則第44条第2項の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準」より)。しかし、医師の診察のうえで事前に省略許可をもらう必要があることや、若い人の健康リスクが高まっていることからも、一般健康診断の項目省略はあまり望ましくありません。

健診結果が悪い従業員は、無料で二次健診が可能

従業員全員が受ける必要があるのが「一次健康診断」です。一方で、健診結果が特に悪かった従業員は「二次健康診断(労災保険二次健康診断)」を無料で受診することができます。二次健診は任意受診のため企業側からの強制力はありませんが、可能なかぎり企業から受診を推奨しましょう。
以下の4項目すべてに該当する人が、二次健康診断の給付対象となります。また、定期健康診断から3カ月以上経過している、すでに脳や心臓の疾患がある、労災保険制度に特別加入している、などは対象から除かれます。二次健康診断の検査内容は決まっているので、詳しい内容や受診先については健康診断実施機関に連絡の上で対応しましょう。

 

【二次健康診断の給付対象】※4項目すべてに該当する必要があります
二次健康診断の給付対象

数値に異常(パニック値)がでた場合

パニック値とは〝生命が危ぶまれるほど危険な状態にあることを示唆する異常値〟のことです。パニック値の判断基準は健康診断実施機関によって異なります。多くの場合は、検査結果でパニック値に該当する従業員がいた場合、健診機関から企業に連絡が来ます。そのため、パニック値の報告を受けた場合の企業としての対応方法を産業医と人事担当者で決めておくとよいでしょう。
まずは、パニック値の報告があった時点で産業医に連絡し、その従業員に緊急受診してもらいます。その結果を産業医へ共有し、すでに治療中であっても、早急に対応する必要がないかなどを産業医から主治医に連絡を取って確認してもらいましょう。

【パニック値の参考値】
パニック値の参考値
引用:Nanasaki, et al. パニック値とは~現代版パニック値の考察~ Journal of Japan Society for Emergency Medicine.2017

健康診断結果の取り扱いは、個人情報に注意

健康診断の結果のうち、法定項目本人の同意の必要なく健康診断業者から企業に渡されます。ただし、健診結果情報を取り扱ってよい従業員は、「就業上の措置を実施するうえで必要最小限のものとなるようにする」とされているため、産業医・保健師などを除くと具体的には、健康診断の実施に従事している従業員、人事労務部門の担当者、衛生管理者などになります。
一方で、オプション検査など法定項目以外は個人情報となり、本人の同意を得なければ企業には渡されません。
人間ドックを受診し、健康診断の受診を希望しない従業員は、人間ドックの結果票のコピーを提出してもらってください。その際には法定項目以外が含まれているので、同意を取るか、法定外の部分を黒く塗りつぶしてもらうようお願いしてください。
また、個人情報保護の観点から、原則は、産業医による健診結果判定は企業内で行うようにしてください。もし別の場所(産業医の自宅など)での判定作業を希望される場合には、郵送やデータのやり取りにおいて、個人情報の保護に十分気をつけましょう。

報告書を労基署へ提出する

健康診断判定や事後措置が完了したら、労働基準監督署に「定期健康診断結果報告書」を提出します。一般的には、企業担当者から産業医へ報告書を渡し、産業医に署名・捺印をもらってから、労基署へ提出します。

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・健康診断結果報告書(労基署提出)

衛生委員会での報告も忘れずに

健康診断後の産業医面談や事後措置を行った際には、健康診断結果全体の総評(受診率、有所見者率、有所見者の多い項目、有所見者の多い部署など)を、月に1回開催される衛生委員会にて行うとよいでしょう。人事担当者が報告をする場合が多いですが、産業医が代わりに報告するケースもあります。報告は、口頭で行う場合と資料を用いて報告する場合がありますが、どちらの場合にも必ず個人が特定されない配慮が必要です。口頭で行う場合は、必ず議事録へ記載しましょう。

【平成30年の定期健康診断における有所見率(参考)】

平成30年の定期健康診断における有所見率(参考)

※数値は現在精査中(2021年7月現在)
参照:「定期健康診断実施結果」(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/127-1.html

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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