産業医が知っておくべき、治療と仕事の両立支援における、代表疾患と対策のポイント

日付2021.07.30
更新日:2022.03.31
産業医が知っておくべき、治療と仕事の両立支援における、代表疾患と対策のポイント

両立支援の代表的な病気

企業は、病気や障害を抱える従業員に対して、仕事と治療の両立を支援する必要があります。両立支援が求められる代表的な病気は以下の6つです。
ここでは、これらの代表的な病気についての考え方や就業制限のポイントを解説します。

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①がん
②脳血管疾患
③高血圧
④糖尿病
⑤てんかん
⑥結核

① がんについて

ポイント

●がんに罹患していることだけを理由に就業を制限してはならない。
●通院を継続できるように、就業時間やシフトなどを配慮する。
●職場復帰時には産業医面談を行い、症状や障害、その後の治療方針などを確認し、復帰後の病状が増悪しないように、業務内容や時間を配慮する。

必要な就業制限のレベル

●がんの症状や障害によっては、通常の事務作業であっても、なるべく業務を軽減する。残業、夜勤、出張、階段昇降、長距離運転、重量物運搬、高所作業、一人勤務、窓口業務、外部折衝の免除などを考慮する。
●間食の接種許可、処置用の個室準備、トイレ近くへの配置など就業中の病状管理にも配慮する。
※産業医面談における本人の病状などについて、会社への説明内容は、本人の同意を得てプライバシーに配慮する。

② 脳血管障害について

ポイント

●再発のリスクが高い場合、重大事故に繋がりかねない業務への就業を制限する。また、再発が予防されるよう業務内容を配慮する。
●後遺症や残存機能を確認し、装具・補助具の活用によって多様な業務に従事できるよう、職場や作業の改善を配慮する。
●労災認定にあたるような、長時間労働、不規則勤務、寒冷、騒音、精神的緊張などのある業務への従事歴について調べる。

必要な就業制限のレベル

●通常の業務作業にも支障がありそうな脳血管障害の後遺症(麻痺等の神経症状、高次脳機能障害、うつ状態、症候性てんかんなど)については、長時間労働、出張、階段昇降、車両運転、高所作業、一人勤務を禁止するなど、業務をなるべく軽減する。また、生活習慣の改善、通院の継続など、疾病の管理にも配慮する。
●一過性脳虚血発作(TIA)の症状を認める場合は、約30%で脳梗塞を発症するので、就業を禁止して直ちに専門医を受診させる。
●意識障害を生じる恐れの高い場合は、重大事故に繋がりかねない運転業務、高所作業、一人作業などへの就業を制限する。

③ 高血圧について

ポイント

●明らかな高血圧を放置している場合、重大事故に繋がりかねない業務への就業を制限する。
●高血圧による動脈硬化性病変が就業によって自然経過を超えて増悪し、虚血性心疾患を生じないよう予防する視点から、職場や作業の安全について配慮する。
●万が一、虚血性心疾患や脳血管障害が発生した際に、労災認定にあたるような長時間労働、不規則勤務、寒冷、騒音、精神的緊張などがないかを確認し、該当した場合は指導する。

必要な就業制限のレベル

●高血圧緊張症(血圧≧220/≧125mmHg、視神経乳頭浮腫を伴う頭痛、腎機能の急激な悪化、うっ血性心不全の発症など)は、脳出血をはじめとする臓器障害が進行するおそれがあるので、就業を禁止して直ちに専門医を受診させる。
●明らかな高血圧によって突然の意識障害を生じるおそれの高い場合は、重大事故に繋がりかねない運転業務、高所作業、一人作業などへの就業を制限する。
●日本高血圧学会が作成した「高血圧治療ガイドライン2014」(JSH2014)の「診察室血圧に基づいた心血管病リスク層別化」で高リスクに該当する場合は、身体負荷の高い業務をなるべく回避し、疾病管理(生活習慣の改善、受診、通院の継続など)に配慮するよう管理監督者に伝える。

★「高血圧治療ガイドライン2014 電子版(JSH2014)」(特定非営利活動法人日本高血圧学会)

https://www.jpnsh.jp/data/jsh2014/jsh2014v1_1.pdf

④ 糖尿病について

ポイント

●コントロール不良な糖尿病を放置している場合は、重大事故に繋がりかねない業務への就業を制限する。
●糖尿病が就業によって自然経過を超えて増悪しないように予防する視点から、職場や作業の改善について配慮する。
●糖尿病のコントロールが不良とならないように、生活リズムが乱れやすく体内時計に負担がかかる深夜業・交替勤務・長時間労働への従事をなるべく回避する。

必要な就業制限のレベル

●糖尿病性ケトアシドーシス(尿中ケトン強陽性、血糖値≧250mg/dL、動脈血pH<7.30)や非ケトン性高浸透圧性昏睡(血糖値≧600mg/dL、血清浸透圧>320mOsm/L)による意識障害を生じる恐れのある場合は、就業を禁止して直ちに専門医を受診させる。
●糖尿病のコントロール不良による高血糖、またはインスリン使用による低血糖による意識障害を生じる恐れのある場合は、本人やその上司と相談の上で、重大事故に繋がりかねない運転業務、高所作業、一人作業などへの就業を制限し、疾病管理(生活習慣の改善、受診、通院の継続など)に配慮する。
●内服薬・インスリンによる治療を受けている場合は、主治医に就業時間や業務内容などを説明し、本人と主治医で服薬・注射量や食事時間について相談してもらう。

糖尿病患者の就業に配慮が必要な業務

●長時間労働
長時間労働による就寝直前の食事・ストレスの増加・座位時間の増加・運動不足・睡眠不足→インスリン抵抗性の増大→グレリン増加・レプチン低下による摂食障害→耐糖能の悪化
●深夜業・交替勤務
深夜業による体内時計の異常→耐糖能の悪化・意識障害の発見遅延
●心理的ストレス
心理的ストレスの増加→下垂体ーコルチゾール系の亢進→耐糖能の悪化
●高温環境下での作業
高温環境下での脱水・糖質入り飲料の過剰摂取→高血糖性高浸透圧状態→非ケトン性高浸透圧性昏睡
の危険
●寒冷環境下での作業
寒冷環境下での抹消血流の異常→無痛性心筋梗塞の危険
●異常気圧下での作業
異常気圧下での意識障害の対応遅延
●接待業務
接待業務によるアルコールの接種→耐糖能の悪化
●海外勤務・出張
海外生活での専門医療機関の不足・時差による体内時計の異常→耐糖能の悪化
●長距離運転業務・高所作業・一人作業
低血糖発作・糖尿病性ケトアシドーシス・自律神経障害→事故の危険

⑤ てんかんについて

ポイント

●他者を危険にさらす意識消失発作を経験した従業員は、本人の承諾に係わらず就業制限が必要であるが、病状の経過や発作の頻度に合わせて過大な制限を取らないように配慮する。

必要な就業制限のレベル

●症状の内容、発作の頻度、最終発作からの期間、発作の誘因、内服薬の内容、就業内容に基づいて、就業配所を判断する。
●本人の治療に関するアドヒアランス、主治医と産業医との連携、発作時に受けることができる周囲のサポートも考慮する。
●抗てんかん薬による眠気・めまい・ふらつきなどの副作用も考慮する。
※管理監督者や同僚に伝える際は、なるべく本人同意を得てプライバシーに配慮する。

注意すべき作業

●症状増悪を招く恐れのある作業、症状が事故などを招くおそれのある作業などは、就業制限や配置変えを配慮する。
●疾病増悪を招くおそれのある作業。
●深夜業、交替制勤務、長時間の時間外労働、海外勤務、飲酒を伴う作業、点滅光を見る作業など。
●高所作業、一人作業、運転作業(通勤時を含む)、危険物取扱作業、危険物の周囲で行う作業、重量物の運搬作業、重大な器物損壊の危険を伴う作業。
●法令に基づいて従事が規制される作業。
●重火器などを扱う業務(銃砲刀剣類所持等取締法)、車両運転業務(道路交通法)など。

※てんかんを含む「一定の病気等」に該当する運転免許保有者を診察した医師は、任意で診察結果を公安委員会に届け出ることができます。

診断基準、ガイドラインなど

●運転手などには、てんかんに関する医学的性の基準があり、航空法施行規則は航空機乗務員の身体検査基準として「てんかん又はその既住歴がないこと」を規定しており、JR各社は鉄道運転士登用時に脳波検査を全員に実施しててんかんの疑いがある者は登用不可としています。
詳しくは以下のサイトを参考にしましょう。

★「てんかんと自動車運転」(公益社団法人日本てんかん学会)

https://www.jea-net.jp/epilepsy/drive

⑥ 結核について

ポイント

●職場での飛沫核感染(空気感染)の拡大を防止する。
●ハイリスクグループ(結核の罹患・再燃リスクが高い群)とデインジャーグループ(万一発病すると多くのものに感染させるリスクが高い群)は、ツベルクリン反応歴とBCG接種歴を確認し、定期健康診断で胸部エックス線検査を省略せずに実施する。
●医師として初めて診断した場合は、感染症法に従い結核届を保健所に届け出る。
●排菌が疑われる従業員は休業させ、保健所と連携して接触者調査などの対策を講じる。
●当該患者が発生した職場の従業員たちに対し、プライバシーに配慮した上で当該疾患の臨床的症状がないか経過観察を行う。

必要な就業制限のレベル

●排菌が疑われる従業員(喀痰・胃液・気管支鏡の検体で、塗抹・培養・核酸増幅法の検査結果が陽性の者)は、専門医に紹介し本人が承諾しなくても出勤を禁じる。
●ハイリスクグループの従業員のうち、結核を疑う自覚症状や他覚症状を認める者は、感染が否定されるまではデインジャーグループの職場での就業を回避させる。

注意すべき作業

●ハイリスクグループの従業員は、社員寮などの集団生活、閉鎖空間での作業、多数の者に接触する業務(医療、介護、教育など)では特に注意する。

ハイリスクグループにあたる者

・結核を疑う自覚症状(微熱を伴う2週間以上続く咳や痰等の呼吸器症状など)を認める者。
・胸部エックス線検査で結核を疑う所見を認める者。

要観察が必要な者

・家族、友人その他の感染者と接触者。
・肺結核や胸膜炎の既住(症状、治療歴など)がある者。
・カラオケボックス、麻雀店、漫画喫茶、ネットカフェなど、感染リスクの高い施設(密閉性の高い施設)の利用者。
・HIV陽性者。
・糖尿病・じん肺・胃切除術後・慢性腎不全の者。
・潰瘍性大腸炎・関節リウマチなどの自己免疫疾患の者。
・ステロイド剤・免疫抑制剤・抗TNFα抗体製剤などの使用者。
・結核蔓延国からの入国者。
・フリーター・日雇労働者・アルバイト労働者。
・喫煙歴のある者。
・高年齢者。

デインジャーグループにあたる職場

・学校・幼稚園・保育所
・病院・診療所・助産所・介護老人保健施設
・社会福祉施設
・学習塾
・人材派遣事務所
・タクシー・バス・航空機・船舶など
・理容店・美容店
・宿泊施設
・遊技場
・飲食店

診断基準、ガイドラインなど

下記の「結核症の基礎知識改訂第5版」に従って診断や保健指導を行いましょう。

★「結核症の基礎知識改訂第5版」(一般社団法人日本結核・非結核性抗酸菌症学会)

http://www.kekkaku.gu.jp/books-basic/index.html

また、保健所への届け出は、下記のサイトに従って行いましょう。

★「感染症法に基づく医師及び獣医師の届出について 2.結核」(厚生労働省)

http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-02-02.html

その他の疾患について

上記の代表的な疾患以外(整形外科疾患、睡眠時無呼吸症候群(SAS)、妊婦、鉄欠乏性貧血などコントロール不良の慢性疾患、HIV感染症、障碍者など)に関する対応方法については、下記の『嘱託産業医スタートアップマニュアル』が参考となります。

また、各疾患について、本人の病状などの詳細を産業医から会社へ共有する際は、本人の同意を得てプライバシーに配慮することが大切です。

★『嘱託産業医スタートアップマニュアル ゼロから始める産業医』 勝木美佐子・奥田弘美 著/日本医事新報社

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太(すずき けんた)
代表取締役/医師・産業医

1989年、東京都国立市出身。2009年、筑波大学医学部へ入学。
在学中にKinesiology, Arizona State Universityへ留学し、医学・経済学・人文学等を学ぶ。
卒後は国立国際医療研究センターで勤務医として働く。
予防医療の重要性に気づき、帝京大学公衆衛生大学院で健康経営を研究しつつ、産業医として多くの企業を担当する。