職場における安全配慮義務の必要性とは?義務違反になるケースや対策方法を解説

日付2021.11.20
更新日:2022.02.18

働き方改革が推進され、企業に労働者の働きやすい環境作りを意識することが求められる中、安全配慮義務への関心が高まっています。しかし安全配慮義務がなぜ必要なのか、また具体的にどのような内容なのかについて、実はよくわからないという企業担当者の方もいるのではないでしょうか。

そこで今回は、安全配慮義務の基礎知識と違反事例、対策方法などについて解説します。記事を読めば、安全配慮義務への理解が深まり、使用者としてどのようなことに気を付ければ良いか分かるでしょう。

安全配慮義務とは?

安全配慮義務とは、従業員が安全かつ健康に働けるように、企業が配慮や対策を行う義務のことです。安全配慮義務の必要性や見解などについて、詳しく解説します。

安全配慮義務に関する法律

安全配慮義務は使用者が負わなければならない義務である旨が法律で定められています。このため安全配慮義務の欠如によって従業員が怪我や病気など何らかの損害を被った場合、安全配慮義務違反となり、企業側が損害賠償を求められるケースも発生しているのです。

使用者の労働者に対する安全配慮義務は、平成20年3月に施行された労働契約法第5条に、次のように定められています。

<労働契約法 第5条(労働者の安全への配慮)条文>
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

※引用:厚生労働省.「労働契約法のあらまし」
https://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/roudoukeiyaku01/dl/13.pdf
(参照2021-11-10)

安全配慮義務の規定は、職務中に死亡してしまった労働者の事件や事故に関する判例をきっかけに、明文化されるようになりました。例えば陸上自衛隊事件(昭和50年2月25日最高裁第3小法廷判決)では、陸上自衛隊員が自衛隊内で車両整備中にトラックにひかれて死亡した事例で、国の公務員に対する安全配慮義務が認定されています。

安全配慮義務の必要性

前述したように、使用者が労働者に対する安全配慮義務を負うことは、労働契約法で規定されています。しかし安全配慮義務の実施にあたり、企業が具体的にどのようなことを行うべきかまでは法律で定められていません。

このため従業員が安全に働くために必要となる措置については、企業自らが考え、対策する必要があります。

対策を考える際には「作業環境」と「健康管理」の2つの要因が軸となります。

作業環境を軸とする対策とは、従業員が安全に作業できる環境を整備するための対策です。具体的には機器や設備の導入とメンテナンス、機器の操作方法の指示や指導などが含まれます。

一方、健康管理を軸とする対策は、従業員が心身ともに健康な状態で働けるようにするための対策で、健康診断やメンタルヘルスチェックの実施、長時間労働の防止などが挙げられます。

安全配慮義務違反に関する見解

労働時に従業員に怪我や病気などの損害が生じた場合、使用者が安全配慮義務を講じていなければ、安全配慮義務に対する違反となります。

具体的には「使用者側があらかじめ危険な事態や被害の可能性について予想できたか」「使用者側が予想できた危険や損害について回避できたか」の2点から、安全配慮義務違反となるかどうか判断されます。

前述の労働契約法第5条にある「生命、身体等の安全」の解釈にも注意が必要です。「生命、身体等の安全」には、肉体的、身体的な安全だけでなく、精神的な安全と健康、メンタルヘルスも含まれます。

このため工場や建設現場など身体的な危険に遭遇しやすい環境だけでなく、オフィスワークなどにおいても、使用者は労働者の健康と安全に十分配慮する必要があります。

安全配慮義務における罰則

安全配慮義務を果たすべき立場にある企業担当者の方は、仮に自社が安全配慮義務違反をした場合、どのような罰則があるのかについても把握しておく必要があります。

安全配慮義務の罰則については、労働契約法の条文には直接的な記載はありません。

ただし企業の安全配慮義務違反を要因として労働者が怪我や病気などの損害を被った場合、以下のような民法上の規定によって、損害賠償請求が発生することがあります。

● 債務不履行(民法415条)
● 不法行為(民法709条)
● 使用者責任(民法715条)

実際に前述した陸上自衛隊事件でも、陸上自衛隊員が公務中の事故で亡くなったことに対して、雇用主である国に損害賠償責任が認められています。

安全配慮義務違反の事例

安全配慮義務をしっかり果たすためにも、安全配慮義務違反となるのがどんな場合なのか知っておくことは有益です。そこで安全配慮義務違反になる典型的なケースと実例を紹介します。

安全配慮義務違反になるケース

労働に関して従業員が事故やトラブルを被った際、全てが安全配慮義務違反に当てはまるわけではなく、違反となるかどうかは前述した基準によって判断されます。

安全配慮義務違反となるケースはさまざまですが、その中でも典型的なケースを2つ解説します。

まず過労死ラインを超えて時間外労働をさせたケースです。過労死ラインとは、長時間労働による健康障害のリスクが高まるとされる、時間外労働時間の目安です。「2~6カ月の平均残業時間が80時間」または「1カ月の残業時間が100時間」とされています。

過労死ラインはあくまで目安であり、時間内であっても健康障害と業務の因果関係が認められることもあります。ただし過労死ラインを超えて労働をさせた結果、従業員が心身に不調をきたした場合には、安全配慮義務違反となるケースがほとんどです。

次に、平均気温28度以上など室内環境の基準を超えた職場環境で労働させたケースです。労働安全衛生法に基づく事務所衛生管理基準規則では、努力義務として、室内環境が28度以下になるよう努めなければならないとしています。

※出典:「事務所衛生基準規則 第2章 第5条」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=347M50002000043_20161001_000000000000000,(参照2021-11-10)

労働安全衛生法では、快適な職場づくりが事業者の努力義務とされ(第71条の2)、厚生労働大臣から「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」も公表されています。

<h3>安全配慮義務違反とされた実例</h3>
安全配慮義務違反とされた実例をいくつか紹介します。

月100時間を超える時間外労働などによりうつ病を発症した研究員が、損害賠償と上司の嫌がらせに対する慰謝料の支払いを求め、会社および上司を提訴しました。これに対し2019年、北海道地裁は会社の安全配慮義務が欠如していたとして請求を認め、賠償を命じる判決を出しています。

いじめやパワハラに関する実例もあります。2018年にはパワハラを受けて自殺したとして、遺族が会社に損害賠償を求めた裁判で、徳島地裁は会社側の安全配慮義務違反を認め、約6千万円の賠償を命じています。

また昨今では職場での新型コロナウィルスの感染について、企業の安全配慮義務が問われるケースもあります。職場クラスターなどにより労災認定された場合、企業に対する損害賠償請求に発展するリスクも考えられます。

安全配慮義務の対策方法

企業が果たすべき安全配慮義務には、さまざまな対策方法があります。ここでは主な7つの対策方法を解説します。

衛生管理体制の構築と安全衛生教育の実施

企業は労働安全衛生法の定めにより、事業場の規模や業種に合わせて安全管理体制を整えなければなりません。安全管理体制の整備は、安全配慮義務を遂行するためにも必要です。

例えば従業員50人以上の事業場では、安全衛生委員会の設置や衛生管理者の選任は必須です。また従業員10人以上50人未満の事業場では、安全衛生推進者または衛生推進者を選任しなければなりません。衛生管理者や安全衛生推進者、衛生推進者は、事業場の安全衛生が保たれているか巡視し、必要な措置を講じる役割があります。

その他、労働災害の防止を目的に労働者の指揮などを行う作業主任者や産業医、産業保健師などを設置することも有効です。

また新しく配属された労働者には速やかに安全衛生教育を実施し、労働災害を防止する必要があります。

危険を防止する安全装置の設置

労働災害を防止するためには、労働者の安全に対する意識を高めるだけでなく、設備面からも対策を講じることが大切です。

特に金属加工や林業、建設業、ビル清掃業など、作業に危険が伴う業種では、事故や怪我などが発生しやすい場所に危険を防止する安全装置の設置が必要です。

例えば高所作業時にはフルハーネス安全帯を着用したり、手押し車に足がはさまれないようストッパーを設置したり、熱源に対して安全な距離を保つための囲いを設置したりと、危険防止のために設置し得る安全装置にはさまざまなものがあります。

安全装置は設置後の整備や点検も忘れずに行うことが大切です。

健康診断の実施と産業医との連携

従業員の健康を配慮する観点から、健康診断を実施することも大切です。業種や職種、勤務時間に関係なく、全ての事業者は労働者に対して年に1回、必ず健康診断を受けさせる義務があります。

また放射線業務や有機溶剤を使用するような有害な業務、深夜業務などに関わる労働者に対しては、配置転換時や半年に1回の健康診断が必要です。

従業員に対する健康診断は、労働安全衛生法で制定された企業の義務です。このため健康診断を実施しないと労働安全衛生法違反の罪に問われ、50万円以下の罰金刑に処せられる可能性があります。

健康診断を実施する際、産業医を選任している事業所では、実施計画や注意点についての助言を求めましょう。また健康診断後には、異常の所見のある従業員について、就業上の措置が必要かどうか判断を仰ぐ必要があります。産業医と連携し、日頃から従業員の健康に気を配ることが安全配慮義務の遂行につながります。

ストレスチェックの実施

ストレスチェックの実施も安全配慮義務の対策として有効です。昨今、過度な労働や職場の人間関係などによるストレスを抱える労働者が増えています。

労働者の心の健康を保つための取り組みが企業に求められる中、2015年に労働安全衛生法が改正され、労働者が50人以上いる事業所ではストレスチェックの実施が義務化されました。

ストレスチェックの実施目的は、労働者が自身のストレス状態を把握し、ストレスが高い状態だった場合、医師から助言を受けたり、会社側に仕事を軽減するなどの措置を取ってもらったりして、「うつ」などの心身の不調を未然に防ぐことにあります。

人間関係の配慮

人間関係が要因となり、従業員が安全かつ健康に働けなくなるケースも少なくありません。安全配慮義務を果たすため、企業は職場の人間関係にも配慮する必要があります。

特に最近では、テレワークの普及によって以前よりも従業員同士のコミュニケーションが不足し、問題となっている職場も見られます。

人間関係が職場環境を悪化させる原因として、典型的なものにハラスメントや差別があります。ハラスメントや差別は嫌がらせやいじめとなって、被害を受けた従業員のメンタルヘルスを悪化させます。

ハラスメントや差別は故意に行われるケースばかりではないことも認識する必要があります。中には無意識に、ハラスメントと取られかねない言動や行動をしてしまう従業員もいます。どのようなケースがハラスメントや差別に該当するのか、従業員に研修や教育を実施することも大切です。

労働時間の管理

労働時間と労働者の健康は密接に関わっています。長時間労働が原因となり、体調に不調をきたす労働者も少なくありません。

長時間労働の是正に関しては、国の規制も厳しくなっており、企業には従業員の労働時間を管理することが求められています。

従業員の長時間労働を是正するための対策の一つが、労働時間の見える化です。正しく従業員の労働時間を把握するためには、自己申告による申請時間に頼る方法では不十分といえます。時間外労働や休日労働を可視化する方法として、始業・終業時間が打刻されるシステムを導入し、自己申告に頼らない勤怠管理を行うことが効果的です。

その他、有給休暇取得の推進、管理者に対するマネジメント研修の実施などの対策も併せて行いましょう。

海外赴任者への配慮

安全配慮義務は国内で勤務する従業員に対してだけでなく、海外赴任者に対しても果たさなくてはなりません。企業は海外に従業員を送り出す場合にも従業員の安全と健康への配慮を徹底する必要があります。

例えば好ましくない治安の地域へ赴任させる場合には、従業員の安全を考慮してボディーガードをつけたり、安全に移動できる車を手配したりする配慮が必要です。

また感染症のリスクが高い地域へ渡航する前には、事前に予防接種などを受けさせなければなりません。従業員自身が安全衛生上のリスクを回避できるよう、治安情報やウイルス感染に対する事前研修を行うことも効果的です。

海外赴任者は仕事上の責務や環境の変化によって、心因性の不調を訴える人が少なくありません。産業医と連携するなどして電話やメールを用いた遠隔でのメンタルサポートができるよう、あらかじめ準備しておくことも大切です。

安全配慮義務を意識して働きやすい職場作りを

企業には安全配慮義務を意識し、従業員が安全かつ健康的に働ける職場環境を作る責務があります。安全配慮義務を果たすためにすべきことはさまざまですが、中でも社内のメンタルケアは、特に気を配りたいことの一つです。

従業員のストレスチェックや休職復帰などのメンタルケアをスムーズに行うには、産業医のサポートを受けるのが安心です。

安全配慮義務を意識し、従業員が働きやすい職場を作りたいとお考えの企業担当者の方は、ぜひ産業医との連携を視野に入れてみてください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太(すずき けんた)
代表取締役/医師・産業医

1989年、東京都国立市出身。2009年、筑波大学医学部へ入学。
在学中にKinesiology, Arizona State Universityへ留学し、医学・経済学・人文学等を学ぶ。
卒後は国立国際医療研究センターで勤務医として働く。
予防医療の重要性に気づき、帝京大学公衆衛生大学院で健康経営を研究しつつ、産業医として多くの企業を担当する。