産業医の役割・選任

産業医面談とは?目的やメリット、拒否されたときの対処法まで解説

日付
更新日:2023.01.06

産業医面談とは、従業員と産業医が一対一で行う面談のことです。

法律で義務付けられている産業医面談ですが、「どのような制度なのか」「何を話すのか」について疑問をお持ちの方は多いかもしれません。

この記事では、産業医面談について詳しく解説します。面談の効果や種類、運用方法を解説するので、従業員の健康維持や快適な職場づくりに活かしてみてください。

 

そもそも産業医とは?

産業医とは、労働者が健康で快適な職場環境のもとで仕事できるように、専門的立場から指導や助言をする医師のことを指します。
「常時使用する労働者が50人を超える事業場」では、産業医を選任しなければいけないと法令で定められています。

産業医面談は、一般的な医師(臨床医)ではなく産業医が行います。

産業医については、以下の記事で詳しく紹介しています。参考にしてみてください。

産業医とは?設置基準や仕事内容、報酬相場や探し方まで徹底解説!

 

産業医面談とは?

産業医面談は、産業医と従業員がマンツーマンで行う面談のことを指します。
産業医面談は、従業員の心と体の健康を管理するために行われます。

ここからは、産業医面談の制度や目的について詳しくみてみましょう。

産業医面談は法律で義務付けられている制度

産業医面談は、法律で義務付けられている制度です。
労働安全衛生法では、従業員の脳・心臓疾患の発症を予防するため、長時間にわたる労働により疲労が蓄積した人に対し、医師による面接指導を実施することを義務付けています。

具体的には、「月80時間を超える時間外労働・休日労働を行い、疲労蓄積があり面接を申し出た者※」が産業医面談の対象です。
なお面談の義務は、常時50人未満の労働者を使用する事業場であっても適用となります。

さらに、事業主が自主的に定めた基準に該当する者に面談を受けさせることも、努力義務として定められています。

※出典:厚生労働省|長時間労働者への医師による面接指導制度について

産業医面談の目的

産業医面談は、従業員の心身の状態を把握し、快適に労働できるようサポートするために実施されます。

事業場には、法律で面談が義務付けられている者のほかにも、メンタルヘルスに不調がある者、健康に不安がある者などさまざまな従業員が在籍しています。

産業医の仕事は、こういった従業員が抱える健康に関するあらゆる問題解決を手助けすることです。
面談の内容を受け、従業員に対して生活面や仕事面に関するアドバイス、企業への助言などを行い、労働者の健康維持や増進を図ります。

産業医面談における義務

産業医には「守秘義務」と「報告義務」という2つの義務が課されています。

  • ・守秘義務:業務で知った人の情報を守秘する義務
  • ・報告義務:労働者に健康上の問題があった場合、事業者に報告する義務

この2つの義務はまったく正反対の性格を持つものですが、基本的には守秘義務が優先されます。
したがって、面談で話した内容が会社に共有される心配はないのです。

もちろん、本人同意のうえ健康問題が会社に報告される場合はありますが、相談の詳しい内容がすべて共有されるわけではありません。

「産業医に相談すると、話した内容が上司に知られてしまう」と考え、面談を敬遠する従業員もいることでしょう。
こういった従業員に対しては「守秘義務」についてしっかりと説明して、安心して面談を受けてもらえる環境を整えることが大切です。

産業医面談の実施方法

産業医面談というと対面で行うイメージが強いかもしれませんが、実はオンラインで行うことも可能です。

厚生労働省では、以下のような要件を満たしている場合は、オンラインで面談を実施することについて認めています。

  • ・衛生委員会等で調査審議を行ったうえで、労働者に周知している
  • ・労働者の健康管理に必要な情報が円滑に提供できる仕組みが構築されている
  • ・産業医が実地で作業環境などを確認できる仕組みを構築している
  • ・事業場の周辺の医療機関との連携を図るなどの必要な体制を構築している

近年は、リモートワークを導入する企業が増えているため、対面での面談が難しいケースも多いでしょう。
そういった企業であっても、オンライン形式であれば産業医面談を実施しやすくなります。

オンライン産業面談の要件については、厚生労働省の通達で詳しく説明されています。
実施を検討している企業は、こちらも参考にしてみてください。

参考:厚生労働省労働基準局長|情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について

 

産業医面談は意味ない?効果とメリット

従業員に面談を受けてもらい、健康維持や職場環境の改善を図るためには、産業医面談の意味を周知して理解してもらうことが肝心です。
ここでは、押さえておきたい産業医面談の効果やメリットについて解説します。

職場環境が改善できる

産業医は、従業員から受けた職場や働き方、健康に関する相談をふまえ、職場の課題や改善案を伝えてくれます。

いくら管理者や経営者といえども、社員が実際に働いている職場の環境や社員が抱えているストレス、労働状況を完全に把握することは難しいものです。
そこで産業医を活用して、職場や従業員が抱える問題を発見・改善していくことが大切なのです。

企業の健康経営に精通している産業医は、業種や勤務形態など、企業の特性に合わせたアドバイスができます。
専門的な知見をもとに適切な職場環境改善を行えれば、従業員のモチベーションアップや定着率向上、生産性アップといった効果も得られるでしょう。

従業員の健康維持につながる

産業医による面談や職場環境改善、健康指導を実施することで、従業員の健康維持・増進を目指せるというメリットもあります。

従業員のなかには、不調を感じつつも「仕事が忙しくて病院に行く時間がとれない」「心療内科や精神科には抵抗がある」と考える方もいることでしょう。
このような悩みを抱えている方でも、勤務時間内に事業所で相談できる産業医なら、利用しやすく思ってくれる可能性があります。

日常的に健康状態について相談できる窓口があれば、気軽に健康維持や病気の予防に役立ててもらえるでしょう。

生活や働き方の助言をしてくれる

産業医は、直接患者を治療することはありません。

しかし、生活や働き方についての助言を受けることは可能です。
本人に対する助言だけではなく、相談者がより快適に働けるように企業へ助言することもあります。

また、必要であれば休職や部署異動といった必要な措置を提案してくれる場合もあります。

仕事や健康について一人で悩みを抱えている従業員は、決して少なくありません。
そういった方が、医学的知見がある専門家から必要な助言や措置の提案を受けられれば、個人的に解決が難しい問題にも対処できるようになるでしょう。

 

産業医面談の種類

産業医面談でできる相談として、さまざまな種類が挙げられます。
また、法律で義務付けられている長時間労働者以外の方も、希望すれば面談を受けることは可能です。

ここでは産業医面談を7つの種類に分類し、それぞれの対象者と何を話すのかについて解説します。

健康診断

労働安全衛生規則では、「企業は健康診断に異常の所見がある従業員に関して、3カ月以内に今後の就業上の措置について意見を医師に聞くこと」と義務付けています。

意見を聞かれた産業医は健康診断と面談の内容を踏まえて、「通常勤務」もしくは「就業制限」、「要休業」のいずれかを企業に指示します。
状況によっては、作業内容や勤務時間を制限するように指示されたり、休職を勧められたりすることがあるかもしれません。
指示を受けた企業は、それに従って必要な措置を講ずる必要があります。

ストレスチェック

「常時使用する労働者が50人を超える事業場」では、ストレスを分析するためのストレスチェックを実施しなければいけません。
このストレスチェックで高ストレス者と判断されて面談を希望した人も、産業医面談の対象です。

高ストレス者との面談では、本人の健康状況やメンタルヘルス、就労状況などについて評価し、必要な助言や措置を講じます。
面談の結果、緊急性があると判断された場合は、必要な情報に限り企業に共有されることもあります。

長時間労働

厚生労働省では、以下の3つの要件に当てはまる労働者を面談の対象者として義務付けています。

  • ・月80時間超の時間外・休日労働をしている
  • ・長時間労働によって疲労の蓄積が認められる
  • ・面談を希望している

ここまでに紹介したケースと同様、面談では生活や労働に関するアドバイスなどを行います。
また、面談後企業は「面接指導の記録作成」や「労働時間の短縮といった事後措置の実施」といった適切な措置を講じなければいけません。

メンタルヘルス不調

健康診断やストレスチェックで異常がない方、長時間労働をしていない方であっても、メンタルヘルスに不調を感じている場合は面談の対象です。
産業医と面談することで、医療機関受診のアドバイスや意見書の作成など、必要な措置を行ってもらえます。

深刻な不調がない方でも相談できますし、面談の内容は企業に無断で共有されることはありません。
うつ病や適応障害といった精神疾患を防ぐためにも、産業医へ気軽に相談できる環境を整えることが大切です。

休職

心身に不調を感じ、休職を希望している従業員も面接の対象です。
産業医は企業に対し、従業員が心身をしっかりと休められる休職期間を設けるように「休職命令」を出すことが可能です。
その際、産業医は主治医の診断書や面談の内容をもとに意見書を作成し、企業へ提出します。

健康やメンタルヘルスに不調がある従業員にとって、休職の判断が遅れることは重大な不利益につながる可能性があります。
本人に病識がないケースも多々あるため、産業医の慎重な判断が必要なのです。

休職者の復職

すでに休職している従業員も、面談の対象です。
面談では復職の意思や休職中の生活、通院の状況、現在の状態などをヒアリングし、復職が可能かどうかを判断します。
産業医が問題ないと判断すれば、復職後の働き方に関する意見書を作成し、企業へ提出します。

復職の判断を急ぐと病状が悪化するおそれがあるため、休職時と同様に、復職についても慎重に判断することが肝心です。

異動希望や職場環境の改善など

上記に当てはまらない場合でも、「体調不良などが続く」「職場環境にストレスがある」と感じている人は、面談を受けることが可能です。
場合によっては、異動や職場環境の改善の希望を会社へ共有してもらうこともできます。

ただし、産業医から情報が共有されたからといって、必ずしも相談者の希望を叶える義務があるわけではありません。
最終的な判断は、会社側で下すことになります。

 

産業医面談に強制力はある?

産業医面談は法律で定められた制度ですが、強制力はあるのでしょうか。
ここでは、産業医面談の強制力について解説します。

産業医面談に法的な強制力はない

実は、産業医面談には法的な強制力はありません
面談は従業員の希望に応じて行われるため、本人が希望しない・拒否する場合はむりやり受けさせることはできないのです。

ただし、面談を受けさせなかったことで、労災事故や精神疾患による休職につながれば、企業は責任を問われることになります。
事業者の安全配慮義務を果たすためにも、適切な対応を取る必要があります。

どうしても産業医面談に応じてくれないときの対応

従業員がどうしても面談に応じてくれない場合でも、放置することは避けましょう。
前項のとおり、会社が責任を問われる可能性があるためです。

面談を拒否する従業員に対しては、産業医面談の必要性や目的、効果をしっかりと説明し、受診を促しましょう。
十分に説得しても応じてもらえない場合は、説得の履歴や経緯を記録に残しておくことが大切です。

記録を残しておけば、あとから責任を問われた際に、企業として必要な対応をしたことを証明できます。

 

従業員が産業医面談を拒否・希望しない場合の対処法

従業員が面談を拒否・希望しない場合でも、企業としては可能な限り受診させ、健康維持に役立ててもらうように説得する必要があります。

それでは、産業医面談を拒否されたときはどのように説得すればいいのでしょうか。
ここでは、3つの対処法を紹介します。

拒否・希望しない理由をヒアリングする

まずは、面談を拒否する理由についてヒアリングしてみましょう。
理由がわかれば、以下のように説得の糸口が見つかる可能性があります。

    • ・会社に話したことを知られたくない
      →守秘義務について説明する
    • ・忙しくて面談を受ける時間がない
      →業務を分担して時間を確保する
    • ・病識がない
      →より快適に働くための意見を聞かせてほしいと説得する

まずは従業員の不安や困りごとに寄り添い、気持ちよく面談を受けられるようにサポートすることが大切です。

法律によって義務付けられていることを説明する

産業医面談に強制力はありませんが、法律で義務付けられた制度であることは事実です。
対象者には、面談を受けさせずに健康や安全に問題が生じた場合、会社が安全配慮義務に問われることをしっかりと説明しましょう。

面談を受けることは、従業員だけではなく会社を守ることにもつながります。
そのことを理解してもらえれば、面談に応じてもらえる可能性があります。

産業医面談の目的や効果を説明する

産業医面談の目的や効果を理解していないと、「意味がない」「やってもやらなくても同じだ」と思われてしまうおそれがあります。
そういった誤解を解くためにも、制度の目的や効果を説明して理解してもらう必要があります。

  • ・病気を早期発見できる
  • ・プライベートや持病の相談もできる
  • ・悩みやストレスに対する対処法を助言してもらえる
  • ・職場環境を改善できる
  • ・話した内容が外に漏れることはない

以上のような面談のメリットを伝えられれば、前向きな気持ちで参加してもらえるようになる可能性があります。

 

産業医面談の運用で企業が心がけたいこと

産業医面談は、単に制度として実施するだけでは不十分です。
従業員の理解を得て意味のある制度にするためには、企業の適切な運用が欠かせません。

最後に、産業医面談の運用で企業が心がけたいことを紹介します。

産業医面談の制度について周知する

説明してきたとおり、そもそも産業医面談を行うためには対象者本人の希望が欠かせません。
そのためには制度の目的や効果、日程などをしっかりと周知し、従業員からの理解を得ることが肝心です。

大切なのは、「産業医面談を深刻に捉えすぎる必要はないこと」「安心して受けられる環境が整っていること」を知ってもらうことです。
パンフレットや掲示板、社内システムなどを活用し、気軽に制度を知ってもらえるように工夫しましょう。

面談通知方法に配慮する

産業医面談の対象となるのは、健康診断やストレスチェックでリスクが高いと判断された人や、メンタルヘルスに不調を抱えている人です。
そのため、面談の通知を受けることに恥ずかしさを感じることは珍しくありません。

企業は従業員に配慮して、面談の通知方法に気をつけなければいけません。
他の人に知られないように、メールや封書などを活用することが望ましいでしょう。

産業医面談と連携して職場改善に努める

面談後は産業医と連携し、従業員の経過観察や労働条件の変更、職場の改善などに取り組む必要があります。

また、産業医と日常的にコミュニケーションを取り、労働環境や目指す職場環境について共有しておくことも大切です。
産業医と企業それぞれが同じ方向を向いていると、理想のビジョンに到達しやすくなるでしょう。

相談窓口を設置する

メンタルに不調を抱えている人のなかには、「社内の人に不調を知られたくない」「評価や昇進に影響しないか不安」という悩みを抱えている方もいます。

もちろん、本人の許可なく相談した情報が漏れることはありません。
しかし、こういった悩みを持つ方は産業医面談に強い抵抗感を抱いているため、どれほど説明しても面談を受けてくれない可能性があります。

この場合は相談のハードルを下げるために、社外に相談窓口を設けてみるのもひとつの手です。
従業員に配慮している姿勢をアピールでき、信頼感の構築にも一役買ってくれるでしょう。

産業医面談を活用していきいきと働ける職場環境へ

産業医面談とは、長時間労働者や健康・メンタルヘルスにリスクを抱えている方を対象に行われる産業医との面談のことです。

制度を適切に運用することで、従業員の病気リスクの低減や早期改善が実現でき、業務効率向上やいきいきと働ける職場づくりにつなげられます。

産業医面談を効果のある制度にするためには、経験が豊富な産業医を選任することが大切です。

Dr.健康経営が運営する産業医紹介サービス『産業医コンシェルジュ』では、企業のニーズに応じたさまざまな産業医のサポートプランをご用意しています。
頼れる産業医をお探しの企業、産業医面談を効果的に運用したい企業は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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