産業保健・健康管理
衛生推進者とは?企業の選任義務や資格・講習の要件・仕事内容を解説
従業員が安全かつ健康に働ける職場環境を整備するため、中小規模の事業場では「衛生推進者」を選任する必要があります。しかし、なかには衛生推進者の役割や必要性をよく理解できていない経営者や企業担当者もいるかもしれません。
本記事では、衛生推進者の役割や目的、選任の要件や職務内容、報告義務の有無などを解説します。記事を読めば、衛生推進者を選任する意義に関する理解が深まり、自社の職場環境を整えるためにすべきことがわかるでしょう。
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目次
衛生推進者とは?
衛生推進者とは、従業員が健康を害さずに働ける環境を整えるために必要な衛生管理責任者のことです。
まずは、衛生推進者の基本的な知識を深めていきましょう。
企業における衛生推進者の選任義務
衛生推進者は、労働安全衛生法 第12条の2で定められていた、安全かつ衛生的な職場を維持する担当者です。
「常時10人以上50人未満の従業員を使用する事業場」では、衛生管理の責任者として衛生推進者を選任しなければいけません。なお、選任義務は事業場ごとに発生します。
また、衛生推進者を選任して従業員が安心して働ける職場環境を整備することで、以下のように副次的な効果も生じます。
- ・従業員の仕事に対する意欲やパフォーマンスが上がる
- ・離職者を減らせる
- ・企業イメージが向上し優秀な人材の確保につながる
- ・労働災害を防げる
衛生推進者は企業に多くのメリットをもたらしてくれるため、要件を満たす企業はしっかりと選任し、有効活用しましょう。
※出典:e-GOV法令検索「労働安全衛生法」(参照2022-12-15)
衛生推進者の仕事内容・役割
厚生労働省が定める衛生推進者の職務内容は以下のとおりです。
- ・労働者の危険又は健康障害を防止するための措置に関すること
- ・労働者の安全又は衛生のための教育の実施に関すること
- ・健康診断の実施その他の健康の保持増進のための措置に関すること
- ・労働災害の原因の調査及び再発防止対策に関すること など
衛生推進者は、従業員が健康に働ける職場環境を整えるために、さまざまな職務を行う必要があります。具体的には、施設や設備の点検や使用状況の確認、異常時の応急処置、労働災害の調査や再発防止対策などを担当します。
衛生推進者当人が職務内容を把握することはもちろん、その他の従業員にも周知しておきましょう。
ただし、上記の職務には「安全衛生推進者」が担当する職務も含まれており、衛生推進者は、衛生にかかる職務のみを行います。安全衛生推進者と衛生推進者との違いは次章で詳しく解説するので、そちらを参考にしてみてください。
出典:厚生労働省「安全衛生推進者(衛生推進者)について」(参照2022/12/15)
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衛生推進者になる資格や要件
衛生推進者は、従業員から選任するのが一般的です。その際、衛生推進者としての職務を遂行するのに必要な能力を持っている人物を選ぶことが大切です。
それでは、衛生推進者として選任できるのはどのような人なのでしょうか。ここでは、衛生推進者になるための要件を詳しく解説します。
衛生推進者の要件
次のいずれかの要件を満たしている従業員であれば、衛生推進者に選任できます。
- ・大学または高等専門学校を卒業し、その後1年以上安全衛生の実務を経験した者
- ・高等学校または中等教育学校を卒業し、その後3年以上安全衛生の実務を経験した者
- ・学歴によらず、5年以上安全衛生の実務を経験した者
- ・厚生労働省労働基準局長が定める講習を修了した者
- ・その他厚生労働大臣が定めた者 など
すでに要件を満たす従業員がいる場合は、その人を衛生推進者に選任するとスムーズに職務を遂行できるでしょう。
該当する従業員がいない場合は、従業員に衛生推進者養成講習を受けさせることで衛生推進者として選任できるようになります。
衛生推進者養成講習は、都道府県労働局長の登録を受けた団体が主催している講習です。学歴や経験にかかわらず、誰でも受講することができます。
※出典:公益社団法人 東京労働基準協会連合「安全衛生推進者養成講習」(参照2022-12-15)
衛生推進者になるための講習の受け方
これから衛生推進者養成講習を受けようとする場合は、都道府県労働局長の登録を受けた団体の講習開催予定を確認して申し込みましょう。詳細は、各都道府県労働局で確認が可能です。
講習科目は厚生労働省労働基準局長が定めているため、どこで受けても学ぶ内容は同じです。1日の講習で、「作業環境管理と作業管理」「健康の保持増進対策」「労働衛生関係法令」などを学びます。なお、講習に要する時間や費用は事業者が負担することが原則です。
講習を受けたあとは、当日中に修了証が交付されます。この修了証をもって、衛生推進者に選任される要件を満たしたことになります。
衛生推進者と兼務が可能な有資格者
衛生推進者は、以下の資格を保有している人が兼務することも可能です。
- ・安全管理者及び衛生管理者
- ・労働安全コンサルタント
- ・労働衛生コンサルタント
また、社長や役員が衛生推進者を兼任することに法的問題はありません。しかし、専門的に業務を任せられるよう、事業場ごとに従業員から選出することが理想的です。
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衛生推進者と安全衛生推進者・衛生管理者の違い
衛生推進者と似た名称の責任者として、「安全衛生推進者」と「衛生管理者」が挙げられます。どれも似た名称のため、違いがわからない方や、どの責任者を選任すべきか改めて確認しておきたいという方もいるでしょう。
ここでは、衛生推進者と安全衛生推進者の違いを整理します。
衛生推進者と安全衛生推進者の違い
「衛生推進者」と「安全衛生推進者」は、どちらも労働安全衛生法に基づいて選任が義務付けられている責任者の名称です。また、「常時10人以上50人未満の従業員を使用している事業場を対象としたもの」であるという共通点があります。
衛生推進者と安全衛生推進者で異なるのは、対象となる業種です。以下の19業種の事業場では、安全衛生推進者を選任しなければなりません。
<安全衛生推進者の選任が義務付けられている業種>
- 林業、鉱業、建設業、運送業、清掃業、製造業(物の加工業を含む)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゅう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゅう器等小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業、機械修理業
以上の19業種では、職場の衛生管理だけでなく安全管理も徹底して行われる必要があります。そのため、安全衛生推進者を選任する必要があるのです。
衛生推進者と衛生管理者の違い
衛生管理者とは、労働安全衛生法 第12条によって定められた国家資格です。衛生管理の専門家に与えられる資格であり、労働者の健康を維持したり労働災害を防止したりする役割を担っています。
これだけを聞くと衛生推進者と同じように思えるかもしれませんが、より多くの従業員を管理し、より専門的な知識を持っているのが衛生管理者です。
衛生管理者が必要となるのは、「常時50人以上の事業場」です。なお、この要件を満たす事業場には、産業医の選任義務も生じます。
※出典:e-GOV法令検索「労働安全衛生法」(参照2022-12-15)
安全衛生推進者と衛生推進者どちらが必要か判断する方法
衛生に関する管理者には似たような名称が多いため、「どちらを選任すればいいかわからない」と混乱してしまう経営者は多いかもしれません。
以下に選任義務が発生する管理者について、従業員数と職種ごとにまとめました。自社に必要な管理者を判断したい方は、ぜひこちらを参考にしてみてください。
事業場ごとの従業員数 | 林業、鉱業、建設業などの 19業種の場合 |
その他の業種の場合 |
1~9人 | 選任不要 | 選任不要 |
10~49人 | 安全衛生推進者 | 衛生推進者 |
50人以上 | 安全管理者、衛生管理者 | 衛生管理者 |
従業員数が50人未満で19業種以外の業種の事業場では、衛生推進者を選任すると覚えておきましょう。
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衛生推進者の選任時期と報告義務
衛生推進者は、選任すべき事由が発生してから14日以内に選任する必要があります。
なお選任後は、事業場の所在地を管轄するハローワークや労働基準監督署に対して、報告したり届け出たりする必要はありません。このことから、なかには選任を怠ってしまう企業も一部存在しています。
しかし企業には、従業員が常に安全で働きやすい環境で仕事できるように配慮する「安全配慮義務」が課せられていることを忘れてはいけません。選任義務を怠った結果、従業員の健康が害されたり労働災害が発生したりすれば、企業は責任を問われることになります。
衛生推進者の選任は法律で定められた雇用者の義務であり、従業員の健康維持に欠かせないことです。怠らずに、できるだけ早く選任を済ませましょう。
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衛生推進者を選任するときの注意点
衛生推進者を選任して職務を適切に遂行するためには、3つの注意点に留意しなければいけません。ここでは、気をつけたいポイント詳しく紹介します。
掲示して従業員に周知する
衛生推進者の選任後は報告や届出の必要はありませんが、事業場で働く従業員にはしっかりと周知しなければいけません。
厚生労働省では、衛生推進者選任の周知方法について「氏名を作業場の見やすい箇所に掲示する」としています。その際、以下のような掲示を事業場に貼り出すことが一般的です。
※出典:藤沢労働基準監督署 「安全衛生推進者及び衛生推進者の選任について」(参照2022/12/15)
また、工場や作業場では「衛生推進者に腕章をつけさせる」「特別な帽子を着用させる」などの措置も推奨されています。
日々の活動を記録しておく
衛生推進者が職務を遂行するときは、日々の活動を記録しておきましょう。
記録作成については、とくに法令で定められていません。しかし、労働災害が起きたときに、「衛生推進者の選任が適正であったか」「管理体制が正しかったか」について問われることがあります。
この際、企業や衛生推進者が適切に管理していたことを証明できなければ、責任問題に発展してしまうおそれがあります。万が一の場合に備え、日々の職務を記録しておくと安心なのです。
職務の履歴が確認できればよいので、記録はメモでも問題ありません。しっかりと義務を果たしていることを証明するためにも、記録は必ず残しておきましょう。
産業医と連携する
衛生推進者の選任は、従業員の健康の保持および増進を目的として法律で定められています。しかるべき知識を持った従業員を衛生推進者に選任し、衛生管理について周知することは、従業員が安全で健康に働ける環境整備に役立ってくれるでしょう。
ただし、衛生推進者ができることには限界があり、通常業務を抱えながら衛生管理に関する職務を行うことが従業員の負担になることもあります。衛生推進者だけでは満足に対応できない場合に備え、産業医などの専門家との連携も視野に入れておきましょう。
産業医とは、労働者が健康かつ安全に働けるように、専門的見地から指導や助言を行う医師のことです。
産業医は、事業場の規模が従業員50人以上になると選任義務が発生します。衛生推進者を選任する必要が出てきたタイミングで産業医と連携すれば、将来的な職場の衛生管理にも、余裕を持って臨むことができるでしょう。
衛生推進者を適切に選任しないリスク
万が一、衛生推進者を選任しなかった場合、企業にはどのようなリスクが発生するのでしょうか。ここでは、考えられる2つのリスクを紹介します。
罰則が課される
衛生推進者の選任を怠った場合、企業は行うべき衛生管理や安全配慮義務を怠ったとみなされる可能性がある点に注意しましょう。
事業場の規模および業務区分に応じた衛生管理者を選任することは、労働安全衛生法 第12条に明記されています。また、労働安全衛生法 第120条では、この規定に違反した場合、50万円以下の罰金に処すると明記されています。
労働安全法違反で罰則が課されれば、企業のイメージがダウンは避けられません。従業員だけではなく企業を守るためにも、衛生推進者の適切な選任は欠かせないのです。
※出典:e-Gov法令検索「労働安全衛生法」(参照2022/12/15)
損害賠償請求される
衛生推進者の選任漏れは、法律による罰則の対象になるだけでなく、損害賠償のリスクもはらんでいます。たとえば、従業員が業務に起因する何らかの疾患を心身に発症した場合は、企業を相手に訴訟を起こすことも考えられるでしょう。
このような労使間のトラブルを未然に防ぐために、企業は安全な労働環境を整えておかなければいけません。そのためにも、法に則って衛生推進者を選任しておく必要があるのです。
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衛生推進者に関する疑問はDr.健康経営へ
衛生推進者の選任は、従業員が健康かつ安全に働ける職場環境を整備することにつながります。事業場の規模が拡大して衛生推進者の選任義務が発生した場合は、速やかに対応しましょう。
ただし、衛生推進者が行える衛生管理には限りがあります。より安全かつ健康的に働ける職場環境を整えるためにも、衛生推進者を選任すると同時に、産業医との連携も視野に入れましょう。
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