ブラック産業医の実態とは?企業が知っておくべきことや注意するべきことを解説

日付2022.02.14
更新日:2022.02.14

産業医の仕事は、従業員が安心して安全に働けるようにサポートすることです。しかし、責務を果たさないブラック産業医を専任してしまうと企業と従業員の両方に問題が生じるため注意しましょう。

本記事では、ブラック産業医の実態とブラック産業医を生み出さないために企業が注意するポイントを解説します。自社の産業医の勤務状態をチェックして企業と従業員を守りましょう。

産業医の本来の役割

産業医とは、企業で働く従業員の健康や職場の安全管理に気を配り、専門的な立場から指導や助言を行う医師です。一般的な医師は、不特定多数の患者の治療に努めます。一方、産業医の見守る対象は選任先の従業員に限られます。

産業医の役割は、従業員が安全・安心に働けるようサポートすることです。従業員の健康を管理するために、産業医は定期的に健康診断やストレスチェックなどを実施し、結果を従業員や企業に伝えます。また、産業医は2カ月に1度のペースで職場巡視を実施し、衛生委員会の構成員にも所属しなければなりません。

産業医の働きかけにより健やかな従業員が増えると、企業の生産性の向上が期待できます。また、健康を重視する環境が世間に評価されると、企業イメージの向上が見込まれます。

産業医について、詳しくは「産業医とは?医療機関で働く医師との違いや企業にもたらす導入メリットを解説」も参考にしてください。

ブラック産業医とは?

従業員の体調を悪化させる、従業員の健康障害に気が付きながら対応しないなど、正しく職務を遂行しない産業医もいます。従業員と企業に悪影響をもたらすブラック産業医について解説します。

不当な解雇に手を貸す

ブラック産業医が不当な解雇に手を貸す目的は、健康面に不調を抱える従業員を退職に追い込むためです。本来、産業医は企業と従業員のどちらに対しても中立な立場です。しかし、ブラック産業医は企業の利益を追求するあまり、働けなくなる可能性のある従業員をいち早く辞めさせようとします。

ブラック産業医が不当な解雇に手を貸すと企業は貴重な人材を失ってしまいます。また、働ける状態の従業員に辞められてしまうと企業は採用活動や育成に費やした経費を回収できません。

不当に解雇を促された従業員側は、心理的にダメージを被ります。ブラック産業医の言うままに退職してしまうと、生活が困窮しかねません。このように、不当な解雇に手を貸すブラック産業医は企業にも従業員にも悪影響をもたらします。

守秘義務違反を行う

産業医は、従業員に対して守秘義務を負う必要があります。例えば、従業員の意思を確認せずに健康診断の具体的な結果や病名や症状などを漏らす行為は守秘義務違反です。また、パワハラ・セクハラなどの事案に関して、当事者の承諾なしに情報を漏らすことも守秘義務違反となります。

ブラック産業医が守秘義務を守らないと従業員は安心して産業医に相談できません。本来なら健康に過ごせたはずの従業員を救えなければ、企業力が落ちてしまいます。また、隠したかった内容をバラされることで、ストレスを抱える従業員も少なくありません。

一方、従業員の心身の健康や周囲の安全を確保するためには情報を開示してもらう必要があります。従業員本人が感染症にかかっている、自殺する恐れがあるなどの緊急性を要する場合には、産業医は情報を開示すべきです。

名義貸しや職場巡視無視を行う

名義貸しとは産業医の活動が行われていない状況です。名義貸し状態の産業医は、労働衛生法で定められた職務を実行しません。従業医の相談を受けつけない、健康診断やストレスチェックなどを行わない産業医がいると、健全な労働環境が損なわれます。

また、職場巡視無視をする産業医もいます。通常、産業医は月に1度のペースで職場巡視をするよう法的に義務付けられています。しかし、中には企業から頼まれた時だけしか職場を巡視しない産業医もいます。

このようなブラック産業医を選任すると、企業や産業医が従業員から訴えられる恐れがあるため気をつけることが重要です。労働安全衛生法に違反したとしてさまざまなペナルティを受けたり、企業のイメージダウンにつながったりしないように産業医の選任は慎重に行いましょう。

「疾病性」と「事例性」とは?

産業医が正しく業務を遂行するためには、疾病性と事例性の違いがポイントです。特に、従業員の復職判断の際には、疾病性と事例性の2つの観点から従業員の状態をチェックする必要があります。

疾病性とは、病名や症状に関する内容です。例えば、ウイルス性胃腸炎や風邪などの病名や、胃もたれがする、夜に眠れないなどの症状は疾病性です。また、疾病性について判断を下せるのは一般の医師のみです。産業医の立場では疾病性について断定できません。

事例性とは、疾病性により業務上もたらされる弊害を指します。業務に集中できない、始業時間に遅刻しがちである、などの状態は事例性に該当します。なお、産業医の仕事は、事例性の影響を少なくするようサポートすることです。

企業が従業員の復職を判断する時には、主治医の診断書と産業医の意見書の両方を確認して決定を下します。

疾病性と事例性の違いがわからない産業医は、勝手に疾病性について判断するため適切な意見書を作りません。従業員の職場復帰の可否を正しく判断するために、疾病性と事例性を分けて考えられる産業医を選任しましょう。

産業医の判断によっては、企業が訴えられることもある

産業医の復職判断に従業員が不服を抱くと産業医が訴えられる場合があります。平成23年10月25日には、不当に従業員の復職を認めなかった産業医に、大阪地裁により賠償命令が下されました。

産業医は「病気やない、甘えなんや」、「薬を飲まずに頑張れ」などと従業員を叱咤するなど客観性と公平性を欠いた態度が問題になりました。

裁判の争点は、産業医として課せられた注意義務です。当時、従業員は自律神経失調症を患っており、産業医の態度は、従業員の健康を悪化させるとして注意義務違反と判断されました。また、「病気ではない」「薬を飲む必要はない」という発言は疾病性に関するもので、産業医の仕事の範疇を超えているとみなされました。

復職判断に関して産業医が訴えられるケースは、大阪地裁による判決以前はあまり見られませんでした。しかし、このような平成23年の判決をきっかけに、今後は産業医が訴えられるケースが増えると考えられます。産業医を選任した企業側も、訴えられる可能性はゼロではありません。

企業が注意するべきこととは?

ブラック産業医に関わると、企業も従業員も被害を受けます。自社の産業医との関わり方を見直し、適切な産業医と連携しましょう。ブラック産業医を生み出さないための注意点を紹介します。

(産業医と結託して)不当な退職・解雇をしない

休職中の従業員と面談する際は、「復職のためにどうすればよいか」という方向で話し合いましょう。退職を前提に面談を行うと、不当な解雇や退職が起きる場合があります。

復職が厳しいと思われる従業員に対しては、復職の妨げとなる理由を提示します。その上で、課題解消に向けて産業医と従業員とで話し合ってもらいましょう。ただし、双方に信頼関係がなければ、従業員から産業医に対して意見を言いにくい場合があります。産業医には言葉選びに注意してもらってください。

なお、企業から産業医に企業側の都合で動くように指示してはいけません。産業医は企業と従業員にとって中立の立場であるべきであるためです。

休職・復職規定を就業規則に設ける

明確な休職・復職の規定があれば、産業医と主治医の双方が、従業員の休職・復職について判定を下しやすくなります。

休職規定には、「〇カ月欠勤すると休職とする、同一または類似の理由で断続的に欠勤した場合は通算して欠勤とする」などと記載します。欠勤を通算しなければ、健康状態が不安定なまま勤め続ける従業員が出かねません。従業員にきちんと休業してもらい、健康な心身を取り戻してもらいましょう。

復職規定では、出勤日のスケジュールをこなせるかどうかを復職の基準とします。例えば、就業時間の〇時間前に起床できるか、規則正しい時間に食事を摂れるか、通勤のために電車に乗れるかなどの項目を規定に盛り込みます。

産業医の職務規定に努める

職場巡視や従業員と面談しない産業医、名義貸しをする産業医は違法な存在です。従業員に裁判を起こされると、職務規程を守らない産業医は問題となります。

産業医が職務規定を怠っていたことが発覚すると、連携する企業には労務リスクが発生します。労働安全衛生法に則って罰金を命じられたり、企業名を公表されたりする恐れがあるため注意しましょう。

さらに、労働安全衛生法違反をきっかけに、労働基準監督署が企業を調査するケースもあります。調査により別の違法行為が発覚すると、さらに厳しいペナルティが課せられます。

メンタルマネジメントができる産業医と連携する

従業員に生き生きと働いてもらうためには、メンタルマネジメントができる産業医と連携することが重要です。

近年、メンタル面の疾患を抱える従業員が増えています。正しくメンタルマネジメントをしなければ、休職・退職を選ぶ従業員が増加してしまいます。メンタルの問題は早期発見が重要といわれているため、メンタルマネジメントに長けた産業医と連携することが従業員を守るポイントです。

ただし、産業医の中でもメンタルマネジメントができる医師は限られています。メンタルマネジメントのスキルや、コミュニケーション能力を重視して、連携する産業医を決めましょう。

まとめ

不当に解雇・退職を促したり、職務規程を守らなかったりする産業医をブラック産業医と呼びます。企業と従業員を守るために適切な産業医と連携しましょう。なお、従業員のメンタルをケアするためには、メンタルマネジメントに長けた産業医が必要です。

株式会社Dr.健康経営の産業医コンシェルジュは、メンタルマネジメントに強い産業医を紹介します。同社には、厳格な面接を突破した産業医のみ所属しています。人柄やコミュニケーションスキルも重視しており、サービスレベルの高い産業医がそろっています。産業医を選任する際は、ぜひ産業医コンシェルジュをご検討ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太(すずき けんた)
代表取締役/医師・産業医

1989年、東京都国立市出身。2009年、筑波大学医学部へ入学。
在学中にKinesiology, Arizona State Universityへ留学し、医学・経済学・人文学等を学ぶ。
卒後は国立国際医療研究センターで勤務医として働く。
予防医療の重要性に気づき、帝京大学公衆衛生大学院で健康経営を研究しつつ、産業医として多くの企業を担当する。