産業保健・健康管理

「小規模事業場産業医活動助成金」を活用するには?制度の概要や助成金額・必要要件を解説

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更新日:2023.02.24

小規模の事業場では産業医の導入を考えている反面、費用の工面で行き詰まっているケースもあるでしょう。今回の記事では、小規模事業場産業医活動助成金の概要や受給する際の要件などを解説します。

この記事を最後まで読めば、国の制度をうまく活用する方法がわかり、大きな助成金を受け取れるようになります。助成金を通して健康経営を実現したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。

小規模事業場産業医活動助成金制度とは?

小規模事業場産業医活動助成金制度は独立行政法人労働者健康安全機構が設けているものです。費用面から産業医の導入をためらってしまう、小規模事業場に向けた助成金制度となっています。

小規模事業場産業医活動助成金制度は、実施する産業保健活動によって産業医コース、保健師コース、直接健康相談環境設備コースの3種類に分かれています。

産業医コースは産業医の活動に対して助成金が受けられます。また、保健師コースは2018年度以降に保健師と契約している場合、その活動に対して助成金が受けられます。

直接健康相談環境設備コースでは、事業者を介さず健康相談ができる仕組みが整っている場合に助成金の対象となります。

それぞれのコースの詳細については後の項目で詳しく解説します。

産業医コースの金額・要件・流れ・提出書類

産業医コースは先ほども解説したように産業医の活動が助成金の対象となります。産業医のニーズは事業場によって異なりますが、職場巡視や従業員に対する意見聴取や保健指導など、一般的な活動内容が助成の対象です。

産業医コースを詳しく理解するためには、助成金で支給される金額や必要な要件、助成金申請に必要な提出書類などを確認する必要があります。ここでは産業医コースの助成金額や要件、大まかな流れなどを解説します。具体的な金額など、細かい情報もあわせて紹介するので、ぜひ参考にしてください。

助成金で支給される金額

助成金で支給される金額は、産業医活動に係る契約に基づいて決定されます。契約の具体的な内容としては、職場巡視、健康診断異常所見者に関する意見聴取、保健指導など、産業医活動の全部または一部を実施するものです。

6カ月以上の継続的な産業医活動契約に基づき、実施した産業医活動の費用に対して10万円を上限に支給されます。これは、6カ月につき10万円が上限という意味なので注意しましょう。なお、1事業場につき、2回限りの助成となります。繰り返し申請できるものではないため事前に理解しておきましょう。

必要な要件

産業医コースの助成要件は以下のとおりです。

・平成29年度(2017年度)以降に、産業医と事業場が新しく産業医活動に係る契約を締結していること(医師は当然産業医としての要件を備えていること)
・産業医が産業医活動の全部または一部を実施していること
・産業医活動を行う医師は、自社の使用者や労働者ではないこと

何度か触れているように事業場によって産業医のニーズが異なるため、産業医コースの対象となる取り組みの要件はありません。ただし、助成対象になるためには産業医活動を6カ月以上継続する必要があります。

また産業医との契約書には、産業医活動の内容と契約期間、産業医活動に要する費用、勤務医の氏名(法人と契約する場合)、申請事業場の名称が必要になるため注意しましょう。

申請から受給までの流れ

産業医コースの申請時期は、6カ月間の活動を継続した後、最終月の翌月から6カ月以内になります。例えば6月から産業医活動を開始した場合、最終月が11月になるので、その翌月である12月から6カ月以内に申請するという計算です。

なお、申請時期は令和3年(2021年)5月以降です。

申請から受給までの流れは以下のとおりです。

・1.産業医と産業医活動に係る契約を締結する。契約書には必要事項を記入しておく
・2.産業医活動に係る契約に基づいて産業医活動を6カ月以上継続する
・3.契約に基づいて産業医に対して一定の金額を支払う。領収書は保存しておく。
・4.産業医コースの支給を申請する(1回目)
・5.助成金受け取り(1回目)
・6.産業医コースの支給を申請する(2回目)
・7.助成金受け取り(2回目)

助成金申請に必要な提出書類

産業医コースの支給を申請する際に、いくつかの書類が必要になります。労働者安全機構に提出する書類は、以下のとおりです。

・小規模事業場産業医活動助成金支給申請書(様式第1号)
・産業医活動実績報告書(様式第2号)
・支給要件確認申立書(様式第3号)
・小規模事業場産業医活動助成金(産業医コース)支給申請チェックリスト兼同意書(様式第4号)
・産業医との契約書のコピー
・支払金額が明確になっている領収書などのコピー
・勤務医が産業医の要件(労働安全衛生法第13条の2)を備えていることを証明する書類のコピー
・労働保険概算・確定保険料申告書などのコピー
・振込先通帳などのコピー
・返信用封筒

上記に加えて、該当する場合は、労働保険料一括納付に係る証明書が必要です。

出典:令和3年度版「小規模事業場産業医活動助成金」【産業医コース】の手引|独立行政法人労働者健康安全機構 勤労者医療・産業保健部(参照:2022.01.24)

保健師コースの金額・要件・流れ・提出書類

保健師コースは、産業保健活動を対象としたものです。産業医コースと同じく、保健師と契約を締結し、継続的な保健活動を行った場合に支給されます。産業医コースとの違いは、要件に平成30年(2018年)以降の契約と定められている点です。要件に関しては後述します。

保健師コースを詳しく理解するためには、産業医コースの場合と同じく、助成金で支給される金額や必要要件・提出書類などを確認する必要があります。ここでは保健師コースの助成金額や要件、大まかな流れなどを解説します。

助成金で支給される金額

保健師コースの助成金額は産業保健活動に係る契約に基づいて決定します。具体的な助成金額は、継続的な産業保健活動の費用に対して、上限10万円となっています。

産業医コースの場合と同じく、6カ月以上の継続的な活動につき上限10万円という計算です。単発の活動は助成の対象外となるので注意しましょう。

申請は1事業場あたり上限2回と、産業医コースと同じ内容です。ただし保健師コースを利用する場合、産業医コースとの併用も可能なので、より多くの助成を得られる可能性があります。

必要な要件

保健師コースの助成要件は、以下のとおりです。

・平成30年以降、保健師と事業場が新しく、産業保健に係る契約を締結していること
・保健師が産業保健活動の全部または一部を実施していること
・産業保健活動を行う保健師は、自社の使用者・労働者ではないこと

産業医コースと同様、助成対象となる取り組みは細かく定められていません。一般的な取り組みとしては、健康診断で異常な所見が認められた者や、長時間労働者に対する保健指導・健康相談・健康教育などが挙げられます。

なお保健師との契約書には、産業保健活動の内容、契約期間、産業保健活動に要する費用、保健師の氏名(法人と契約する場合)、申請事業場の名称などの情報が必要なので注意しましょう。

申請から受給までの流れ

保健師コースの申請期間は、産業医コースと同じく令和3年の5月以降です。6カ月間の活動を継続した後、最終月の翌月から6カ月以内に申請しなければなりません。

申請から受給までの流れは以下のとおりです。

・1.保健師と産業保健に係る契約を締結(必要事項は必ず記載しておく)
・2.産業保健に係る契約に基づいて産業保健活動を6カ月以上継続する
・3.契約に基づいて保健師に対して一定の金額を支払う(領収書は保存する)
・4.保健師コースの支給を申請する(1回目)
・5.助成金受け取り(1回目)
・6.保健師コースの支給を申請する(2回目)
・7.助成金受け取り(2回目)

助成金申請に必要な提出書類

労働者安全機構に提出する書類は、以下のとおりです。

・小規模事業場産業医活動助成金支給申請書(様式第1号)
・産業保健活動実績報告書(様式第2号)
・支給要件確認申立書(様式第3号)
・小規模事業場産業医活動助成金(保健師コース)支給申請チェックリスト兼同意書(様式第4号)
・保健師との契約書のコピー
・支払金額が明確になっている領収書などのコピー
・保健師が要件(保健師助産師看護師法第2条)を備えていることを証明する書類のコピー
・労働保険概算・確定保険料申告書などのコピー
・振込先通帳などのコピー
・返信用封筒

基本的には産業医コースと同じような書類を提出します。なお、該当する場合は、労働保険料一括納付に係る証明書も必要です。

出典:令和3年度版「小規模事業場産業医活動助成金」【保健師コース】の手引|独立行政法人労働者健康安全機構 勤労者医療・産業保健部(参照:2022.01.24)

直接健康相談環境整備コースの金額・要件・流れ・提出書類

直接健康相談環境整備コースは、産業医もしくは保健師に労働者が直接相談できる環境整備のための助成金制度です。直接というワードが重要で、労働者が事業者を介することなく相談する仕組みが求められます。

ここでは直接健康相談環境整備コースの要件や大まかな流れ、提出書類などを詳しく解説します。産業医コースや保健師コースがわかっていれば、こちらもスムーズに理解できるでしょう。先ほどの項目と合わせてご確認ください。

助成金で支給される金額

直接健康相談環境整備コースでは、6カ月あたり一律10万円が支給されることになっています。助成の対象となるためには、産業医と産業医活動に係る契約、もしくは保健師と産業保健活動に係る契約を事前に結んでいる必要があります。

産業医コースや保健師コースと同じく、1事業場あたり2回まで申請できます。上記のコースとの違いは、上限10万円ではなく一律10万円になっている点です。産業医コースや保健師コースとの併用も可能なので、最大で60万円の支給(産業医コース×2、保健師コース×2、直接健康相談環境整備コース×2)が受けられます。

必要な要件

直接健康相談環境整備コースの助成要件は、以下のとおりです。

・産業医と産業医活動に係る契約、もしくは保健師と産業保健活動に係る契約を結んでいること(平成30年以降)
・産業医や保健師に直接相談できる環境が整っている事実を労働者が知っていること(仕組みを周知するなど)
・産業医や保健師が自社の使用者・労働者ではないこと

コースの対象となる取り組みは、労働者が事業者を介さず直接相談できるような活動です。

また産業医コースや保健師コースの項目でも確認したように、契約書には以下の事項が記載されていなければなりません。

・産業医(保健師)活動の内容と契約期間
・産業医(保健師)活動に要する費用
・勤務医(保健師)の氏名(法人と契約する場合)
・労働者が直接健康相談をできる取り組み
・申請事業場の名称

申請から受給までの流れ

直接健康相談環境整備コースの申請期間は、産業医コースや保健師コースと同じく、令和3年の5月以降です。6カ月間の活動を継続した後、最終月の翌月から6カ月以内に申請しなければなりません。申請から受給までの流れは、以下のとおりです。

・1.産業医と産業医と産業医活動に係る契約、もしくは保健師と産業保健に係る契約を締結(必要事項は必ず記載しておく)
・2.健康相談を直接できる環境を整備し、労働者に周知後、取り組みを6カ月以上継続する
・3.直接健康相談環境整備コースの支給を申請する(1回目)
・4.助成金受け取り(1回目)
・5.直接健康相談環境整備コースの支給を申請する(2回目)
・6.助成金受け取り(2回目)

助成金申請に必要な提出書類

労働者安全機構に提出する書類は、以下のとおりです。

・小規模事業場産業医活動助成金支給申請書(様式第1号)
・支給要件確認申立書(様式第2号)
・小規模事業場産業医活動助成金(直接健康相談環境整備コース)支給申請チェックリスト兼同意書(様式第3号)
・契約書のコピー
・勤務医が産業医の要件(労働安全衛生法第13条の2)を備えていることを証明する書類、または保健師が要件(保健師助産師看護師法第2条)を備えていることを証明する書類のコピー
・労働保険概算・確定保険料申告書などのコピー
・振込先通帳などのコピー
・返信用封筒

必要な場合は、労働保険料一括納付に係る証明書も用意しましょう。

出典:令和3年度版 「小規模事業場産業医活動助成金」【直接健康相談環境整備コース】の手引|独立行政法人労働者健康安全機構 勤労者医療・産業保健部(参照:2022.01.24)

産業保健に関するその他の助成金

産業保健に関するその他の助成金として、職場環境改善計画助成金、ストレスチェック助成金、心の健康づくり計画助成金の3つがあります。ここではそれぞれの特徴を解説します。

職場環境改善計画助成金

職場環境改善計画助成金は、ストレスチェック実施後の集団分析結果を元に、職場環境の改善を実施した場合に支給されます。助成を受けるための取り組みの要件は、以下のとおりです。

・ストレスチェック実施後の集団分析を実施していること
・ストレスチェック実施後の集団分析結果の他に、専門家から改善すべき事項の指導を受けていること
・平成29年度(2017年度)以降、専門家と職場環境改善指導に係る契約を新しく締結していること
・専門家の指導に基づいて職場環境改善計画を作成し、その計画に基づき改善の全部または一部を実施していること
・上記の取り組みを専門家から確認されていること

助成金額は、1事業場あたり上限10万円となっています。ここまで紹介してきた、小規模事業場産業医活動助成金の各コースとは異なり、将来に渡って1度のみの支給です。

出典:令和3年度版「職場環境改善計画助成金」【事業場コース】の手引|独立行政法人労働者健康安全機構 勤労者医療・産業保健部(参照:2022.01.24)

ストレスチェック助成金

ストレスチェック助成金は、ストレスチェック実施後、医師から面接指導などの活動が行われた際に支給されます。助成を受けるための取り組みの条件は、以下のとおりです。

・ストレスチェックの実施者があらかじめ決まっていること
・事業者が医師と契約を締結し、ストレスチェックに係る医師による活動の全部または一部を実施する体制が整っていること
・ストレスチェックの実施、および面接指導を行う人物が、自社の使用者・労働者以外の者であること

ストレスチェック助成金の金額は、ストレスチェックの実施費用とストレスチェックに係る医師による活動費用の2種類に分かれます。前者は従業員1人につき500円(税込)、後者は1事業1回の活動につき21,500円(税込)です。なお、医師による活動は上限3回と定められています。

出典:令和3年度版 「ストレスチェック」実施促進のための助成金の手引|独立行政法人労働者健康安全機構 勤労者医療・産業保健部(参照:2022.01.24)

心の健康づくり計画助成金

心の健康づくり計画助成金は、事業者が心の健康づくり計画を作成し、メンタルヘルス対策の全部または一部を実施した場合に支給されます。助成を受けるための取り組みの条件は以下のとおりです。

・メンタルヘルス対策促進員の助言や支援に基づいて、新たに心の健康づくり計画を作成していること(令和2年度以降)
・心の健康づくり計画を労働者に周知していること
・具体的なメンタルヘルス対策の全部または一部を実施していること
・メンタルヘルス対策促進員から取り組みの確認を受けていること

助成金額は、1事業場あたり一律10万円です(将来に渡って1回のみ申請可能)。

出典:令和3年度版 「心の健康づくり計画助成金」 の手引|独立行政法人労働者健康安全機構 勤労者医療・産業保健部(参照:2022.01.24)

まとめ

産業医や保健師を導入するハードルが高いと考える担当者の方も多いでしょう。しかし小規模事業場産業医活動助成金をうまく利用できれば、最大で60万円の助成金を支給してもらえる可能性があります。ストレスチェック助成金など、その他の助成金制度も充実していますので、ぜひ検討してみてください。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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