産業医の役割・選任
産業医に関する罰則規定とは?職場巡視の必要性や頻度も解説
産業医を導入するにあたって企業はどのようなことに注意を払えばいいのでしょうか。産業医の選任や職場巡視を怠った場合、事業者は罰せられる恐れがあるため、注意が必要です。
本記事では、産業医に関する罰則規定の内容や職場巡視の必要性などを解説します。すでに産業医を導入している場合や導入を検討している際の参考にしてください。
目次
産業医の主な役割とは?
産業医の役割を把握しておくことで、選任する際にどのような人材を選べばいいのか理解しやすくなります。まずは、産業医にはどのような役割があるのか確認しておきましょう。
職場巡視
産業医の主な役割の一つは職場巡視を行うことです。職場巡視とは産業医が事業場を訪問し安全面や衛生面で問題や課題がないかをチェックする作業を指します。
主な内容は、職場環境の衛生管理や受動喫煙の予防、非常経路の確認などです。職場巡視を行うことで従業員が安全に働ける環境を確保できるようになります。職場巡視は従業員の安全衛生を守る上で重要な役割を果たしています。
健康診断の結果の確認
従業員の健康診断結果の確認も産業医の役割です。産業医による健康診断結果の確認は労働安全衛生法に定められています。企業は従業員の健康を保持するために、産業医などの医学的なアドバイスに基づいて必要な措置を講じなければなりません。産業医が健康診断結果を確認する手順は以下の流れで行われます。
1.従業員が健康診断を受ける
2.健康診断結果が事業場に届く
3.産業医は健康診断結果を確認し、従業員の就業判定を行う
4.必要に応じて、医療機関への受診を勧める、保健指導を行う
従業員への保健指導
産業医の職務には従業員への保健指導も含まれています。保健指導は生活習慣上の問題に気付きを与え、従業員が自主的に健康管理を行うように促すために必要です。保健指導は栄養指導と健康指導、生活指導を中心にした指導を行うことが大切です。
栄養指導では食習慣の問題点の指摘や栄養バランスの良い食事のとり方などをアドバイスし、健康指導は心身の健康の維持・促進を目的にした運動習慣などを含むアドバイスを行います。生活指導では、睡眠や喫煙などの生活習慣に関する指導が実施されます。
社員との面談
産業医は、長時間労働者や高ストレス者を対象に面談を行う役割を担っています。長時間労働や強いストレスを受ける状態が続けば、従業員がメンタル面の不調などを引き起こすリスクが高まるでしょう。
1カ月で80時間を超える時間外労働や休日出勤を行っている従業員、もしくはストレスチェックで高ストレス者に判定された従業員から面談の申し込みがあった場合は、事業者は産業医による面接指導の場を設けなければなりません。
面談では従業員の現状をヒアリングし、医学的な見地によるアドバイスを行います。事業者は産業医のアドバイスに基づき、従業員の労働環境や職場環境の改善などの必要な措置を講じなければなりません。
衛生委員会への参加
衛生委員会とは、職場環境や健康管理のための社内体制、従業員の働き方に関する内容の議論を行う場です。産業医は衛生委員会の構成メンバーに含まれていますが、衛生委員会に参加する必要はありません。しかし、産業医が参加することで医学的な視点による意見も含めた議論を深めることができるため、参加するのが望ましいとされています。
また、産業医が衛生委員会に参加すれば、どのような問題が起きているのか、事業場の現状などの情報収集に役立ちます。仮に産業医が衛生委員会に参加しない場合は議事録の内容を確認し、社内でどのような議論がなされているのかを把握しておくことが大切です。
産業医選任に関する主な罰則とは?
産業医の選任を怠った場合、事業者は罰せられる可能性があります。本章では産業医の選任に関する罰則規定を解説します。どのような罰則規定があるのかを確認し、誤った選任を行わないように注意しましょう。
産業医の選任を怠った場合の罰則規定
産業医の選任は法律によって義務付けられています。産業医の選任に関する規定を設けているのは、「労働安全衛生法第13条」と「労働安全衛生法施行令5条」です。50人以上の従業員が働いているなど、特定の要件を満たしている事業場は産業医の選任が義務付けられています。
また、産業医を選任する際は注意しなければならないことがあります。例えば、選任の義務が発生した日から14日以内に従業員数に応じた人数の産業医を選ぶ必要があります。
選任期間内に産業医を選ばなかった場合は、50万円以下の罰金を支払う必要があります。社員よりもパートやアルバイトの従業員が多い場合でも、要件を満たしていれば選任の義務を果たさなければなりません。
『従業員50人以上の事業場における義務とは?産業医の選任が必要?』も参考にしてください。
名義貸し産業医も罰則規定に抵触する
1,000人以上の従業員が働く事業場や、有害物質などを扱う有害業務を行う従業員が500人以上いる事業場には、専属の産業医の選任が義務付けられています。該当しない事業場では専属の産業医を置く必要はないものの、1~2名以上を選任する義務があります。
中には名義貸し産業医を選任してしまい、気付かないうちに罰則規定に違反している事業場もあります。名義貸し産業医とは、責務を果たさず名前だけ貸している産業医などです。
労働安全衛生法では名義貸し産業医を違法と定めており、違反すれば50万円以下の罰金が科されます。名義貸し産業医を選定するなどの問題が発生してしまうのは、事業者が職場巡視などの産業医の職務内容を把握していないからです。
産業医の職場巡視は必要?
職場巡視は産業医の役割の一つで、従業員の安全衛生管理を行う上で重要なチェック作業です。本章では、産業医の選任義務の違反行為を避けるために把握しておくべき、職場巡視の目的や頻度、違反した場合の罰則などを解説します。
産業医の職場巡視の目的
職場巡視とは、産業医が従業員の作業環境を巡回し、安全衛生上の問題がないか産業医が確認することです。
職場巡視を行う目的は、従業員が働く労働環境に問題が生じていないか、安全衛生上の課題はないかを確認するのはもちろん、問題があれば改善していくことです。したがって、産業医及び事業者は事業場の労働環境や職場環境に問題が見つかった場合は適切に対処しなければなりません。
事業者は産業医が職場巡視を実施する機会と同時に、従業員の労働環境の問題を見極めるために必要な情報を提供する必要があります。産業医から情報の提供を求められた場合に迅速に提供できるよう準備しておくことも大切です。
産業医の職場巡視の頻度
産業医による職場巡視は月に1回以上が義務付けられていました。しかし、2017年に労働安全衛生規則が改正されたことで、条件を満たした場合は2カ月に1回の頻度に緩和されています。
職場巡視を2カ月に1回の頻度に減らすための条件は、事業者の同意と労働安全衛生規則に定められている所定の情報を産業医に毎月提供する義務を果たすことです。所定の情報には、次の項目があげられます。
・衛生管理者による週1回の定期巡視の結果
・衛生委員会で審議を行った結果、事業者が産業医に提供すべきと判断した情報
・休憩時間を除く、週40時間以上の労働時間が月100時間を超えた従業員の氏名・労働時間に関する情報
ただし、法改正によって上記の情報を毎月提供すれば、職場巡視の頻度は2カ月に1回に減りますがチェック項目などの内容は緩和されません。
産業医の職場巡視の主な内容
産業医は職場巡視でどのような点をチェックしているのか解説します。産業医の職場巡視では従業員の職場環境を中心に、チェック項目に沿って安全衛生面の問題や課題を確認しています。産業医の職場巡視の具体的な内容の一例は以下のとおりです。
・職場や休憩スペース、トイレなどの衛生管理が行われているか
・労働環境に適した快適な温度や湿度が保たれており、十分に換気できているか
・作業に適した明るさを保てる照明が設置されているか
・AEDや消火器などが設置されているか
・長時間労働対策が実施されているか など
職場巡視は従業員の職場環境を確認するだけではありません。産業医が従業員と円滑なコミュニケーションをとる上でも有効な場です。従業員とのコミュニケーションがスムーズに行えるようになれば、目で見ても分からない問題や改善点に気付くためのヒントになります。
産業医の職場巡視に違反した時の罰則は?
産業医による職場巡視は労働安全衛生規則の第15条で義務付けられています。職場巡視を実施しなかった場合、事業者は義務を果たしていないと判断されるため労働安全衛生法に定められている罰則規定が科せられることになります。
産業医が職場巡視を怠ったなど違反した場合の罰則は、50万円以下の罰金もしくは6ヵ月以下の懲役です。産業医が職場巡視などの役割を果たさず事業場で労災が発生してしまった場合は安全配慮義務を怠ったことになるため、事業者は法的な責任を問われる場合があります。
安全配慮義務とは、従業員の生命や身体などの安全を確保した労働環境を整備しなければならない義務のことです。安全配慮義務には職場環境への配慮だけでなく、従業員の心身の健康も含まれています。従業員から労災申請があった場合、労災かどうかを認定するために労働基準監督署の査察を受けなければなりません。
産業医の職場巡視のステップ
産業医の職場巡視は実際にどのような流れで行われるのでしょうか。事業者が安全配慮義務の責務を果たすためには、職場巡視の全体の流れを把握しておくことが大切です。本章では3つのステップに分けて解説します。
1.職場巡視を行う準備
職場巡視を行う際は事前の準備が必要です。十分な準備をしなければスムーズな職場巡視を行えません。一方で、事前準備をしっかりしていれば効率良く事業場を回ることができます。具体的な準備の内容を確認しておきましょう。
職場巡視を効率良く行うためにはどの部署からどの順番で確認するのか、繁忙期を避けた適切な日はいつかなど具体的な計画書を作成しておきます。計画書を作成しておくことで職場巡視での実際の行動イメージが湧きやすくなるでしょう。
また、当日に確認すべきチェック項目のリストを作成しておけば、どこを観察すればいいのか分からないと悩む必要がありません。チェックリストを準備しておくことで確認漏れを防止できます。さらに、事業場のマップを作成しておけば現在地が分からない、目的の部署に辿り着けないなどのトラブルを避けられます。
2.職場巡視を行う
職場巡視を実施する際に押さえておくべきポイントがあります。職場巡視は事前準備で策定した計画書やチェックリストに沿って実施しますが、事業場を観察するだけでは従業員の健康や安全の障害になるリスクを発見できません。
観察する際は事業場の特徴や状況を把握した上で、どのような労災事故が発生する可能性があるかなどの視点を持ち、職場巡視を実施しましょう。職場巡視を行う際は以下の点を押さえておく必要があります。
・従業員と同じ服装で職場巡視を行う
・従業員が働く全ての場所で実施する
・産業医の安全を確保してから行う
・設備の不備や作業環境に問題がないか確認する
・分煙などの喫煙対策が行われているかチェックする
・災害が起きた場合に危険な作業場所や間接的な要因がないかをイメージする など
職場巡視のポイントは、指摘ばかりせずに良い点も伝えることです。
3.職場巡視後の記録の保存
職場巡視後は事業場を巡回した際の記録を作成し、しっかりと保管しておくことが大切です。職場巡視の記録は法律で義務付けられていません。しかし、職場巡視の結果などを衛生委員会で共有する必要があるため、記録を残しておけばスムーズに共有できるでしょう。
また、記録を作成・保管しておくことで、過去の記録からデータの分析なども可能です。他にも、労働基準監督署の査察などが必要になった際に、情報の提示を求められた場合でも迅速に対応できます。
職場巡視後の記録を作成する場合は、巡視で改善が必要だと感じたことや事業場で指摘した内容、事前準備で作成したチェック項目の結果などを記載しましょう。記録の作成後はリスク評価を実施し、衛生委員会などの報告が必要な部門と共有した上で健康診断結果や衛生委員会の議事録などの保管期間に合わせて保存します。
まとめ
産業医の選任義務や職場巡視を怠った場合や名義貸し産業医に該当するなど、労働安全衛生法などに違反すれば罰金や懲役などの罰則が科せられてしまいます。事業者は産業医の役割を把握した上で信頼できる人材を選任するようにしましょう。
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