【職場の喫煙対策】企業が取り組むべき対策や法的責任・企業の成功事例を紹介

日付2022.04.25
更新日:2022.05.10
【職場の喫煙対策】企業が取り組むべき対策や法的責任・企業の成功事例を紹介

非喫煙者の健康を守るための法改正をきっかけに、職場での喫煙対策を強化する企業が増えてきました。しかし、具体的にどのような対策を採るべきか悩んでいる経営者や企業担当者も多いのではないでしょうか。

本記事では喫煙対策が進んでいる背景と現状、受動喫煙防止のための法的責任、職場で求められる具体的な対策、活用できる補助制度、企業の実例などを解説します。自社の体制整備にご活用ください。

職場の喫煙対策の背景と状況

望まない受動喫煙を防ごうという世界的な運動を背景に、職場の喫煙対策を強化する企業が増えてきました。日本では法改正の効果もあって、職場の禁煙・分煙状況は急速に改善されています。ここでは、これらの喫煙対策の背景と状況を解説します。

職場の喫煙が問題になっている背景

企業に求められる喫煙対策が厳しくなった背景として、受動喫煙による健康被害の問題に伴い、職場でも禁煙や分煙を強化する動きが広まっていることが考えられます。受動喫煙とは、喫煙者のたばこの火から出る副流煙を周囲の人が吸い込んでしまうことです。副流煙にはたばこを吸った際の主流煙に比べてニコチン2.8倍、タール3.4倍、一酸化炭素4.7倍と高い毒性があります。

日本は世界保健機関(WHO)が2007年に発行した受動喫煙を法的に規制する「WHOたばこ規制枠組条約」に加盟しています。また、国内の事業者に対する規制では健康増進法と職業安定法施行規則を改正し、2020年4月に施行しました。これらによって、事業者および従業員には、より厳しく職場の喫煙問題に取り組むことが求められています。

出典:たばこの煙に含まれるものは…?|東京都国民健康保険団体連合会(参照:2022.0317)

職場の受動喫煙防止対策状況

厚生労働省の2020年の調査によると、受動喫煙防止対策状況は以下の表のとおりです。表内の第一種施設と第二種施設は特に規制が厳しい施設で以下のように定められています。

・第一種施設:学校や病院など健康被害が大きくなる可能性がある施設。敷地内禁煙がルール化されている

・第二種施設:交通施設や飲食店など第一種施設以外の多数の人が利用する施設。原則屋内禁煙がルール化されている。

区分  屋外を含めた敷地内全体を
全面禁煙にしている
屋内を全面禁煙として、
屋外喫煙所を設置している
事業所の屋内に
喫煙専用室等を設置し、
それ以外の屋内の場所を禁煙にしている
第一種施設 63.1%
33.6%
第二種施設 23.6% 49.2% 22.4%
全施設 30% 46.7% 18.8%

職場での受動喫煙防止対策として「屋外を含めた敷地内全体を全面禁煙にしている」と答えた企業の割合は、全体の30.0%でした。この結果は2018年の調査と比較すると13.7%の大幅な増加になります。

出典:厚生労働省「結果の概要」

企業には受動喫煙の法的責任がある

企業には受動喫煙の法的責任がある

事業者には受動喫煙対策を講じる法的な責任があります。健康増進法と職業安定法施行規則の法改正によってマナーから義務に変わった項目もあるため、経営者や企業担当者は内容を把握しておくことが大切です。

健康増進法

国民の健康を守るための基本的な事項を定めた健康増進法は、2018年に法律が改正され、2020年4月から全面施行されています。この改正健康増進法によって、受動喫煙防止はマナーでなくルールになりました。改正のポイントは以下のとおりです。

・望まない受動喫煙をなくす対策のルール化
・子どもや病人など健康への影響が大きい人への配慮を強める
・施設の利用者や事業の継続性などを考慮して対策を区別する

具体的には以下のような対策があります。

・多くの職場が原則屋内禁煙、病院や学校など一部施設は原則施設内禁煙
・屋内で喫煙するには喫煙室の設置が必要
・喫煙室の標識掲示が義務化
・20歳未満の人の喫煙エリア立入禁止

法改正の内容を詳しく見ていくと、諸外国では許可されている加熱式たばこも対象に含めるなど厳しい基準も含まれているため、職場環境の整備と従業員への周知徹底が重要です。もし必要な対策をしなかった場合は事業者または違反者に対して指導や勧告が行われ、それでも従わなかった者には罰金が科せられます。

出典:厚生労働省「受動喫煙対策」(参照:2022.03.17)

職業安定法施行規則

雇用の公平や職業生活の安定などのための規則を定めた職業安定法施行規則も一部改正され、2020年4月から施行されています。具体的には求人情報に就業場所でどのような受動喫煙防止対策を実施しているか明示しなければなりません。

例えば、ハローワークの求人情報のフォーマットでは、以下のように対策の有無、対策内容、特記事項の3つに分けて実施状況を記述するようになりました。就業場所によって記述するべき内容が違うことに注意が必要です。

受動喫煙防止
引用:厚生労働省「受動喫煙防止」のための取り組みを明示してください」(参照:2022.03.17)

安全配慮義務

安全配慮義務とは、労働契約法で『労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする』と定められている義務です。そしてこの義務に、受動喫煙防止対策も含まれます。

仮に受動喫煙によって健康被害を受けている従業員がいるのに企業が対策を講じなければ、従業員から訴えられて慰謝料の支払いなどが発生してしまいかねません。そのため、こうした事態が起こらないように労務管理の担当者などが従業員の声を聞き取り、産業医とも相談しながら職場環境を維持したり改善したりします。

労働安全衛生法

労働安全衛生法とは、職場における従業員の安全と健康を確保しながら、快適な職場環境を整える目的で制定されている法律です。この労働安全衛生法は2015年に改正され、事業者が従業員に対して受動喫煙防止対策を取ることが努力義務になりました。

努力義務とはいっても、具体的な施策は措置義務のある健康増進法への対策と重なります。したがって、企業の安全委員会や衛生委員会で実施する活動も実質的に法的な拘束力を受けると考えてよいでしょう。

職場に求められる受動禁煙対策の具体的な取り組み

職場に求められる受動禁煙対策の具体的な取り組み

企業には具体的にどのような受動禁煙対策が求められているのでしょうか。喫煙室の設置や説明会の実施など主な施策を解説します。

基準を満たした喫煙室を設置する

健康増進法の改正により原則屋内での喫煙は禁止になったため、喫煙できる場所は、喫煙によって粉じん濃度が増加しない、換気の気流が0.2m以上などの基準を満たした喫煙室だけです。設置できる喫煙室のタイプは施設の区分によって、以下のように異なります。

施設  設置可能な場所
設置できる喫煙室のタイプ
飲食店 屋内・屋外 加熱式たばこに限定した喫煙室
喫煙目的室(食事目的の飲食店は不可※1)
喫煙可能室(既存特定飲食提供施設のみ※2)
病院・学校 屋外 喫煙可能な場所
その他の施設 屋内・屋外 喫煙専用室
加熱式たばこ専用喫煙室
喫煙目的室

※1:ご飯やパン、麺類など主食を中心に提供する飲食店
※2:喫煙所を設置すると経営に大きく影響する小規模な飲食店

また、喫煙室を設置する場合は、どのタイプの喫煙室なのかわかる標識を提示することが必要です。外国語表記や喫煙の定義などを含めて16種類のフォーマットがあるため、厚生労働省のサイトから印刷用データをダウンロードするとよいでしょう。

なお、上記の規定は暫定的措置とされているため、今後さらに厳しくなる可能性があります。

出典:厚生労働省「各種喫煙室早わかり」

20歳未満の従業員の喫煙エリアへの立ち入りを禁止する

施設の区分と喫煙室のタイプによらず、20歳未満の人は喫煙エリアに入れません。従業員でも立ち入ることはできないことに注意しておきましょう。例えば、ミーティングや休憩の際に20歳未満の従業員を入れれば、企業が行政から指導や勧告、罰則を受ける恐れがあります。

したがって、企業は喫煙エリアへの20歳未満の人の立ち入りを防ぐための施策が必要です。利用者や働く人が理解できるようにポスターやステッカーを掲示したり、標識に20歳未満が立ち入れないことを記述したりするなどの対策をしましょう。

従業員に受動喫煙防止に関する説明を行う

従業員への受動喫煙防止に関する説明は義務ではありませんが、体制整備の一環として重要です。経営層や管理監督者には受動喫煙防止に関して理解を深めて、率先して情報発信や指導などの行動を起こすことが求められます。また、定期的に社内で勉強会を開くのもおすすめです。

抜本的な受動喫煙防止策として喫煙者に対して禁煙教室を開いたり、産業医による禁煙相談を実施したりする企業もあります。この機会に受動喫煙による健康被害のリスクも併せて説明するのもよいでしょう。

職場の受動喫煙防止対策に関する支援事業

受動喫煙防止対策を実施する際には、国からの支援を受けられる場合があります。本章では、受動喫煙防止対策助成金と受動喫煙防止対策に係る相談支援の2つを紹介します。

受動喫煙防止対策助成金

受動喫煙防止対策助成金とは、中小企業事業者が受動喫煙防止設備を整備するための助成金です。具体的には、喫煙室を設置するための設備費、工事費、備品などの経費の助成を受けられます。飲食店の場合は経費の2分の1、それ以外の事業者は3分の2で、上限額はいずれも100万円です。

助成金を受けるためには、所轄の都道府県労働局長に「受動喫煙防止対策助成金交付申請書」を提出する必要があります。また、いつでも申し込めるわけではなく、各年度で申請受付期間があることにも注意が必要です。詳しい情報は以下のサイトを参照してください。

出典:厚生労働省「受動喫煙防止対策助成金職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(財政的支援)」

受動喫煙防止対策に係る相談支援

受動喫煙防止対策に係る相談支援とは、職場の受動喫煙防止対策に関して労働衛生コンサルタントなどのサポートを個別に受けられる制度です。例えば、どの設備を導入するべきかなどのハード面や受動喫煙防止対策の意義をどのように経営層に伝えるべきかなどのソフト面についての相談、助言を受けられます。

支援は無料で受けられ、電話での相談や従業員に対する説明会への講師派遣、事業所への専門家の派遣など複数の方法が選べます。窓口は厚生労働省と提携している一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会です。

出典:厚生労働省「受動喫煙防止対策に係る相談支援職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(技術的支援)」

【事例】職場の喫煙対策に取り組む企業

本章では、敷地内全面禁煙や禁煙チャレンジ制度の実施など、職場の喫煙対策に取り組む企業事例を4つ解説します。

テルモ株式会社

テルモ株式会社は世界保健機関の「世界禁煙デー」(5月31日~6月6日)に合わせて、関連企業15社合同で禁煙のための啓蒙活動に取り組んでいます。

具体的には禁煙外来や産業医による社内禁煙外来、セミナーなどです。さらに喫煙所閉鎖や敷地内全面禁煙、禁煙パッチ・ガム購入などの費用補助などの積極的な施策も行ってきました。

これらのベースになっているのは、「健康経営」という従業員の健康管理を経営的な視点で捉える考え方です。近年では健康経営が業績向上につながることから、多くの企業が導入しています。

出典:テルモ「テルモ、15社合同で禁煙を社内啓発」

味の素株式会社

味の素株式会社も健康経営の一環として「吸わない会社」宣言を行い、非喫煙者率アップを目指している企業です。2020年度の目標であった非喫煙者率88%に対して2019年時点の達成率は86%というデータが公表されています。

そのための具体的な施策として、就業時間内の屋内喫煙の全面的禁止を全事業所で実施しています。これには喫煙リスクの低下だけでなく、受動喫煙リスクの低下も目的に含まれています。

さらに、禁煙中の従業員に対してメンタルヘルスのプログラムでサポートするなど、禁煙成功率を高める施策も並行して実施しているのも特徴です。

出典:味の素株式会社「~味の素グループで働いていると、自然に健康になる!!~味の素㈱、2020年度に「吸わない会社」へ

ブラザー工業株式会社

ブラザー工業株式会社は従業員の受動喫煙を防止するために2016年度から敷地内全面禁煙を実施しました。さらに、2018年度からは就業時間中の禁煙を徹底しています。

喫煙者にとって禁煙はなかなか難しいことです。そこでブラザー工業株式会社は「ペア禁煙」というユニークな制度を取っています。これは禁煙したい喫煙者と、その人をサポートする非喫煙者が自主的にペアを組んで禁煙達成を目指す試みです。

同社が2020年時点で公表したデータによると、成功率は約79%(117ペア中92ペア)と高い水準でした。産業医と保健師のサポートを受けながら定着できたというこのペア制度を今後も続けていくようです。

出典:ブラザー工業株式会社「「第7回 健康寿命をのばそう!アワード」において厚生労働省健康局長優良賞を受賞」

株式会社リコー

株式会社リコーは、敷地内全面禁煙と移動中や出張中を含む就業時間中の禁煙を実施しました。2015年時点では大手企業の先進的な事例であることから注目を集めたものです。

しかし、このような施策を実施する場合、喫煙の権利を侵害されたとして反感を持つ人が出てくることもあるでしょう。そこで、リコーでは社内ポータルサイトを利用して経営層の決意表明を配信し、理解の浸透を図りました。さらに、産業保健スタッフと総括産業医による説明会を設け、敷地内禁煙の必要性や受動喫煙のリスク、禁煙補助剤などの知識を丁寧に伝えています。

一連の取り組みの内容やフローは公表されているため、他社も参考になるのではないでしょうか。

出典:株式会社リコー「リコーグループ喫煙対策について」

まとめ

望まない受動喫煙を防止するための法改正をきっかけに、職場での喫煙対策を強化する企業が増えてきました。健康増進法や職業安定施行規則には、受動喫煙防止のために義務化されている項目もあるため、守らなければ行政からの指導や罰則などを受ける恐れがあります。

しかし実際のところ、細かなルールや具体的な施策を検討するのは、経営層や企業担当者だけでは無理があります。本記事で紹介した事例のように、必要に応じて産業医、産業保健スタッフのサポートも受けながら、体制整備に取り組んでいきましょう。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太(すずき けんた)
代表取締役/医師・産業医

1989年、東京都国立市出身。2009年、筑波大学医学部へ入学。
在学中にKinesiology, Arizona State Universityへ留学し、医学・経済学・人文学等を学ぶ。
卒後は国立国際医療研究センターで勤務医として働く。
予防医療の重要性に気づき、帝京大学公衆衛生大学院で健康経営を研究しつつ、産業医として多くの企業を担当する。