健康経営・職場改善

プレゼンティーズム・アブセンティーズムとは?企業に与える損失や改善で得られるメリットを解説

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更新日:2023.02.21

プレゼンティーズムやアブセンティーズムは、どちらも従業員の業務パフォーマンスを示す用語であり、従業員の健康への投資効率を測定する際にも用いられます。しかし比較的新しいこれらの用語について、よく知らない企業担当者もいることでしょう。

そこで本記事では、プレゼンティーズムやアブセンティーズムの意味や企業の現状、改善に取り組むメリット、改善方法、企業の事例などを解説します。従業員の健康を促進し、業績向上につなげるための参考にしてください。

プレゼンティーズムとアブセンティーズムの概要とは?

プレゼンティーズムとアブセンティーズムは従業員の業務状態を示す用語で、集計すれば組織の生産性も計測可能です。このため従業員の健康に対する投資効率を可視化するためにも用いられます。とはいえ、どちらもまだ耳慣れない言葉ですので、まずは各用語の概要を解説します。

プレゼンティーズムは生産性が低下している状態

プレゼンティーズムとは、従業員が出社しているけれども何らかの健康障害があり、本来の能力よりも生産性が下がっている状態です。プレゼンティーズムは「present:存在している、出勤している」に由来する用語で、日本では「疾病出勤」または「疾病就業」と訳されます。

従業員がプレゼンティーズムになる原因は広範囲です。例えば、長時間労働による疲労感、ノルマのプレッシャーによる精神的な不安など、業務や職場環境に関連が深い心身の健康障害が挙げられます。また寝不足や二日酔いなど本人の健康管理や、花粉症やインフルエンザなど外部要因などでもプレゼンティーズムになるケースもあります。

いずれにしても無理をして出社している状態ですから、業務のパフォーマンスは低く、ミスや事故を起こしたり、接客や営業の態度が悪くなったりするなどの影響も出てしまいかねません。

アブセンティーズムは業務自体が行えない状態

アブセンティーズムとは、心身の不調が原因で業務を休んでいる状態で、通常、プレゼンティーズムを経てから起きる症状です。アブセンティーズムは「absent:不在の、欠勤の」に由来する用語で、日本では欠勤症と訳されます。

アブセンティーズムはうつ病や疲労感などで寝たきりになる人もいれば、病欠が多い人、遅刻・早退が多い人などもいて、その度合いはさまざまです。近年では「新型うつ」と呼ばれる、職場以外では元気に過ごせるアブセンティーズムも知られるようになりました。

いずれにしても業務に携わらないために生産性や効率は確実に落ちます。結果として、他の人の業務負担が多くなり、連鎖的にプレゼンティーズムやアブセンティーズムを引き起こすことも決してめずらしいことではありません。

プレゼンティーズムとアブセンティーズムにおける損失

プレゼンティーズムやアブセンティーズムの従業員が増えれば、企業に損失が出かねません。そして意外にも症状の軽いプレゼンティーズムのほうが、業務に多大な影響を与えることが明らかになっています。

プレゼンティーズムにおける企業損失は7割以上

2017年の厚生労働省保健局の調査によると、企業が支出する健康関連の総コストにおいて、7割以上を占めているのがプレゼンティーズムです。以下の図をご覧ください。

画像出典:厚生労働省保健局『データヘルス・健康経営を促進するためのコラボヘルスガイドライン』(参照2022-04-10)

これを見ますと、医療費やアブセンティーズムを大きく引き離して、プレゼンティーズムが最大のコスト要因であることがわかります。病欠や休業のほうが目立ちますが、実は大勢の従業員がなりやすいプレゼンティーイズムのほうが、トータルコストは大きいわけです。

もちろんプレゼンティーズムが悪化すれば、医療費や保険費の負担にもつながります。また離職すれば人材育成コストが無駄となり、さらに新規採用のコストもかかってしまうでしょう。近年、従業員の健康と生産性を結びつけて組織全体の最適化を目指す「健康経営」が注目されているのもこうした現状が関係しています。

プレゼンティーズムの損失額を算出するには?

プレゼンティーズムの損失額を算出する代表的な方法が「WHO-HPQスケール」です。WHO-HPQスケールでは、健康や業務のパフォーマンスについての調査票を配って従業員に回答してもらい、それを所定の計算式で算出します。

具体的には、まず以下の3項目を質問します。

【問 B9】0 があなたの仕事において誰でも達成できるような仕事のパフォーマンス、10 がもっとも優れた勤務者のパフォーマンスとした 0 から 10 までの尺度上で、あなたの仕事と似た仕事において多くの勤務者の普段のパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?

【問 B10】同じ 0 から 10 までの尺度上で、過去 1-2 年のあなたの普段のパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?

【問 B11】同じ 0 から 10 までの尺度上で、過去 4 週間(28 日間)の間のあなたの勤務日におけるあなたの総合的なパフォーマンスをあなたはどのように評価しますか?”

※ 出典:世界保健機関 健康と労働パフォーマンスに関する質問紙(短縮版)日本語版(参照2022-04-10)

次に以下の計算式で2種類のプレゼンティーズムを算出します。

絶対的プレゼンティーズムとは、健康リスクとの相関関係を測定する指標のことです。

【計算式】絶対的プレゼンティーズム=問 B11×問 B 10
(範囲は0~100%)

相対的プレゼンティーズムは、健康による損失コストのことです。

【計算式】相対的プレゼンティーズム=問 B11÷問 B9
(範囲は0.25~2.0、ただし0.25超は 0.25 に、2.0未満は 2.0 にレンジ修正)
※ 出典:東京海上日動健康保険組合『「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業者のコラボヘルスによる健康課題の可視化』(参照2022-04-10)

プレゼンティーズム・アブセンティーズムの改善で得られるメリット

メンタル不調のように気だるそうに働いている人の画像
プレゼンティーズムやアブセンティーズムを改善することによって、企業は生産性向上やコストカット、離職率低下など多くのメリットを得られます。どのようなメリットがあるのかについて具体的に解説します。

従業員の生産性が上がる

プレゼンティーズムやアブセンティーズムを改善すれば、組織の生産性は上がります。体調不良が改善されれば業務パフォーマンスは高まるでしょうし、治療のための通院などによる業務の中断もなくなるからです。

実際、厚生労働省保健局による調査によると、従業員の健康に十分留意している「健康経営銘柄」と呼ばれる企業の株価時価総額は、東証株価指数(TOPIX)のパフォーマンスを上回っています。

同様に、アメリカの健康経営企業とアメリカの代表的な企業であるS&P500社平均のパフォーマンスを、1999~2012年の投資効率で比較したデータがあり、これによると健康経営企業のほうが約1.79倍優れている結果が出ました。

つまり、プレゼンティーズムやアブセンティーズムの改善を含む健康経営は、業績と相関関係があるといえるのです。

参考:厚生労働省保健局『データヘルス・健康経営を促進するためのコラボヘルスガイドライン』(参照2022-04-10)

保険料や医療費の負担を軽減できる

働いていない従業員に対しても、保険料、医療費の半分を会社が支払うことに変わりはありません。従業員がプレゼンティーズムからアブセンティーズムになる割合を減らすことで保険料や医療費の負担を軽減できます。

例えば、長時間労働が原因で従業員が精神疾患になってしまえば、期間が長くなるほど労務コストが増大していきます。もちろん、労災認定による支出や、業務への影響も出るでしょう。

従業員の場合は傷病手当金や任意保険からの支給がありますが、企業には国の補償がないため必ず折半となり、さらに福利厚生で医療費をサポートしていれば、その分の支払いも必要です。したがって、プレゼンティーズムからアブセンティーズムにならないための早めの対策はコスト面でも高い効果を発揮します。

従業員の退職を避けられる

業務に関連した従業員への負担やストレスへの適切な対策を講じることで離職率を下げられます。具体的には、テレワークを導入して多様な働き方を実現したり、産業医によるメンタルヘルスケアを実施したり、ハラスメント防止を徹底するなどによって退職を防いでいる企業が増えてきました。

そもそも望まない退職は、従業員と企業双方にとってデメリットです。従業員は新しい職場探しが必要となり、経済的にも精神的にも不安定になる場合が少なくありません。また企業側には退職者の業務の引き継ぎ、穴埋めのほか、採用活動のためのコストもかかります。

貴重な人材にできるだけ長期間、安定して働いてもらうことは多くの企業の課題です。人材定着においても重要な従業員の健康を今一度見直してみてはいかがでしょうか。

労災の防止につながる

プレゼンティーズムやアブセンティーズムが軽度の段階で適切に対応できれば労災認定の事例が発生するリスクを減らせます。早期の対策は労災認定の基準が厳しくなった現在、ますます重要になりました。2021年には労災認定基準の見直しが行われたこともあり、長時間労働やパワハラなど業務に起因する精神疾患や過労死などが労災として認定されるケースが多くなっています。

仮に労災認定された場合、コスト面や業績面でのダメージだけでなく労働基準監督署から是正勧告を受けることで企業イメージを損なうことにもつながりかねません。近年は内部告発者によるインターネットを介した情報拡散も少なくなく、プレゼンティーズムを測定して早期に対処することは、コーポレート・ガバナンスの上でも重要です。

企業イメージが向上する

プレゼンティーズムやアブセンティーズムを意識した健康経営は、企業のイメージアップにつながることが明らかになっています。経済産業省がイメージアップやリクルート効果への実感値について5段階評価でアンケート調査した結果、健康経営優良法人とその他の企業では以下のように差がありました。

健康経営優良法人 その他上場法人
同業他社と比較した際のイメージアップ効果 4.11 3.44
採用応募者数におけるリクルート効果 2.5 2.56

(5すごくそう思う、4ややそう思う、3どちらともいえない、2あまりそう思わない、1全くそう思わない)

※ 出典:健康経営の研究|経済産業省

こうした結果が出る理由としては、「従業員の対応が明るい」「スキルの高い社員がたくさんいる」「業績が上がっている」などの状況が関係していることでしょう。

従業員の要望を取り入れる、仕事の悩みや健康面をヒアリングする機会を設ける、など働きやすい環境を整えれば従業員のパフォーマンスが上がり、上記のような結果となって現れる可能性が高まります。

プレゼンティーズム・アブセンティーズムを改善する方法

プレゼンティーズムやアブセンティーズムの改善には、専門家の支援を受けることが大切です。ここでは産業医の選任とストレスチェックの2つの方法を解説します。

産業医を選任する

メンタルヘルスや健康増進に強みを持つ産業医を専任することは有効な改善方法の一つです。産業医の職務には以下のような項目があり、これらはまさにプレゼンティーズムとアブセンティーズムを改善、予防する施策でもあるからです。項目に含まれるストレスチェックに関しては後ほど詳しく解説します。

産業医の職務(安衛則第14条第1項)
①健康診断の実施とその結果に基づく措置
②長時間労働者に対する面接指導・その結果に基づく措置
③ストレスチェックとストレスチェックにおける高ストレス者への面接指導その結果に基づく措置
④作業環境の維持管理
⑤作業管理
⑥上記以外の労働者の健康管理
⑦健康教育、健康相談、労働者の健康の保持増進のための措置
⑧衛生教育
⑨労働者の健康障害の原因の調査、再発防止のための措置

※ 出典:産業医ができること「産業医の職務(安衛則第14条第1項)」 (参照2022-04-10)

企業が産業保健に積極的に取り組むことは、従業員のパフォーマンスを高め、経営を安定させることにも関係します。そして自社に合った産業医を選任すれば、この活動を二人三脚でサポートしてもらえます。

産業医の選び方について詳しくは『後悔しない産業医の探し方や選び方は?事前に確認しておくべきことやおすすめの方法を紹介』も参考にしてください。

ストレスチェックを行う

ストレスチェックとは、ストレス状況に関する調査票を従業員に配って回答してもらい、その結果を産業医が本人に伝えることで自身のストレス状況を把握してもらうための制度です。事業者は、このストレスチェックを年1回以上実施しなければなりません。

ストレスチェックは従業員全員が対象ですので、ストレスの自覚症状がない人に気づきを与える点でも効果があります。産業医から適切なアドバイスを受ければ、プレゼンティーズムを解消できたり、アブセンティーズムへの悪化を予防できたりするでしょう。

また長時間労働者やストレスが高いと判断された従業員には、産業医が別途面談を実施します。そして面談結果をもとに、事業者も改善指導を受けられます。

ストレスチェックの費用相場などについて詳しくは『ストレスチェックは費用がどのくらい必要?費用相場など気になる疑問を解説!』を参考にしてください。

プレゼンティーズム・アブセンティーズムを意識した他社の事例

実際に企業はどのようにしてプレゼンティーズム・アブセンティーズムを意識した取り組みをしているのでしょうか。ここでは2社の事例を紹介します。

SCSK株式会社

生産性を高め、豊かな創造性を発揮することが顧客や社会への貢献につながる、という考えのもと、SCSK株式会社はオフィス環境の整備に取り組みました。

具体的には、従業員が使用するデスクの幅を1.5倍に拡大して作業効率を高めました。この結果、無理のない姿勢で作業できるなど、職場環境に対する従業員の満足度が向上したそうです。

また社内にクリニックを設け、産業医や各種の専門家が交代で勤務することにしました。これによって、仕事やプライベートで忙しい従業員でも、いつでも健康に関する不安を相談できるようになっています。また健康状態の把握に役立てられたり、従業員の健康意識が高まったりするなどの波及効果も出たということです。

※ 出典:経済産業省「健康経営オフィスレポート」(参照2022-04-10)

アマゾンジャパン株式会社

アマゾンジャパン株式会社は、社内でクライミングを楽しめるボルダリングウォールを設置するユニークな社内環境改善を実施しました。ねらいは、従業員に気軽に体を動かす機会を提供することと、職場に遊び心を取り入れることです。

アマゾンジャパン株式会社は「Work Hard」という高い目標達成を目指す標語を掲げていますが、その一方で、従業員の心身の健康をサポートする「Have Fun」の施策も充実させています。

このメリハリは多くの企業が採り入れたいところです。オフィスデザインを見直す際には、心身のリフレッシュなどの健康面も含めて検討してはいかがでしょうか。

※ 出典:経済産業省「健康経営オフィスレポート」(参照2022-04-10)

まとめ

何らかの健康問題で業務のパフォーマンスが落ちるプレゼンティーズムと、状態が悪化して欠勤や休業になるアブセンティーズムはどちらも企業経営のリスク要因です。特にプレゼンティーズムは健康関連の総コストの7割以上にもなるため、状況を改善できれば大きな効果を期待できます。

プレゼンティーズム、アブセンティーズムを改善していくためには、産業医による従業員の面談やストレスチェックが有効です。自社に合った産業医を選んで健康経営を図っていきましょう。

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Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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