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部下からの逆パワハラとは?要件や事例・企業が行うべき予防法を解説

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更新日:2022.08.30

逆パワハラとは部下から上司に行われるパワハラのことです。パワハラに比べると広く認知されていない逆パワハラは対策の整備が追いついていないこともあり、対処が難しい問題といえるでしょう。しかし、逆パワハラを放置すると企業の競争力低下につながるため適切な対処が必要です。

本記事では逆パワハラとはどのようなものか、逆パワハラになる事例や起こりやすい職場について解説します。あわせて逆パワハラが起こる原因や予防法も紹介するので職場環境改善の参考にしてください。

逆パワハラは部下からのパワハラのこと

逆パワハラとは部下から上司に対して行われるパワハラ行為のことです。まずは厚生労働省によるパワハラの概念と、パワハラの6つの類型を解説します。

そもそもパワハラの概念とは?

厚生労働省によるとパワハラは、『優越的な関係に基づいて』『業務の適正な範囲を超えて行われる』『就業環境を害すること』と定義されています。したがって、この3つの要件を満たさない事例はパワハラに該当しません。

画像引用:厚生労働省 雇用均等・均等局「パワーハラスメントの定義について」(参照:2022-07-17)

パワハラというと上司が部下に対して行うものと捉えられがちですが、部下が上司に逆パワハラを行うケースもあります。職場環境や部下の性格・能力などによっては、部下が上司に対して精神的・身体的な苦痛を与えることもあるのです。

厚生労働省の指針はパワハラの例として、部下による行為で、当該行為を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの、部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるものなどを挙げています。つまり、部下から上司への言動も厚生労働省の定義においてパワハラになり得るということです。

出典:厚生労働省 雇用均等・均等局「パワーハラスメントの定義について」(参照:2022-07-17)

パワハラには6つの類型がある


画像引用:厚生労働省 雇用均等・均等局「パワーハラスメントの定義について」(参照:2022-07-17)

パワハラは『身体的な攻撃』『精神的な攻撃』『人間関係からの切り離し』『過大な要求』『過小な要求』『個の侵害』の6つの類型のいずれかに該当するケースとされています。

身体的な攻撃とは叩く、蹴るなどの体罰です。精神的な攻撃とは、暴言や大勢の前での叱責、指導せず放置すること、物を叩くなどの威圧的な態度が該当します。人間関係からの切り離しとは特定の社員を意図的に会議に呼ばないことやプロジェクトから阻害することを指します。

過大な要求とは多すぎる業務を割り当てることや休日出勤を強いることです。過小な要求とは能力があるにもかかわらず、プロジェクトへの参加を妨げることなどです。個の侵害とはプライベートを詮索することや、懇親会などの欠席の理由を聞き出すことなどがあてはまります。

ただし、一見この6類型に該当するような行為でも、『優越的な関係に基づき』『業務の適正な範囲を超えて』『就業環境を害する』に該当しなければ、パワハラにならない場合があります。たとえ、周りから見てパワハラだと感じられても叱責された本人が妥当と考えていれば、その事例はパワハラに該当しない可能性があるのです。

逆パワハラになる事例

逆パワハラになる事例
逆パワハラになる具体的な事例について、誹謗中傷する・指示の無視・SNS上での誹謗中傷・必要以上にパワハラ認定することの4つを解説します。

誹謗中傷する

部下が上司に対して「仕事ができない」などといった誹謗中傷を、上司本人に聞こえるように言い続けてメンタルヘルス不調を生じさせた場合、逆パワハラと見なされる可能性があります。誹謗中傷を行った部下が一人ではなく、集団で誹謗中傷を続けた場合は、優越的な関係を背景とした言動として認められやすくなるでしょう。

また、「仕事ができない」といった侮辱は職務に関係がなく、業務の適正な範囲を超えています。上司がメンタル不調によって職務を遂行できなくなれば、就業環境が害されていることになりパワハラの3つの要件が満たされます。

業務上の指示を無視する

上司は部下に対して業務上の指示を出す立場です。部下が指示を無視したり理不尽な反論をしたりすることによって、業務の円滑な進行が妨げられる場合も逆パワハラと見なされる可能性があります。

専門的な知識・スキルを必要とする仕事であれば、業務遂行できる従業員が限られることも珍しくありません。専門スキルを有する部下が上司の指示に従わない場合、上司は責任を問われ叱責や減給を受ける可能性も考えられます。こうしたケースは部下が専門スキルの保持という優越的な関係を背景に、業務の適正な範囲を超えて就業環境を害したと見なされることで、逆パワハラに該当するかもしれません。

SNSやメールで誹謗中傷する

直接対面でなされる行為以外の言動でも逆パワハラと見なされるケースがあります。部下がSNSやメールを介して上司を誹謗中傷し、メンタルヘルス不調によって上司が業務を遂行できなくなれば、逆パワハラに認定されることが考えられます。

SNSやメールは顔が見えず気軽に発言できることから言論が過激になる傾向です。部下から上司への侮辱も次第にエスカレートしやすく、大きな精神的苦痛を生じさせることが考えられます。また、SNSへの書き込みは内容によっては名誉毀損に該当することも少なくありません。部下が優越的な関係にあったと見なされれば業務の適正な範囲を超えて就業環境を害したことにより、逆パワハラとなる可能性もあるでしょう。

必要以上にパワハラを訴える

パワハラが社会問題として認知されるにつれ、パワハラの存在を逆手に取った逆パワハラが見られるようになりました。もちろん上司による悪質なパワハラに対してはしかるべき対処をする必要があります。しかし、業務上必要な指示・指導であるにもかかわらず、部下が上司の言動をパワハラだと主張するケースもあります。

上司によってはパワハラで告発されることを恐れ、部下の顔色を伺うことになるでしょう。部下が必要以上にパワハラを訴え、業務の遂行を妨げたり上司のメンタルヘルス不調を引き起こしたりすれば、その言動は逆パワハラと見なされる可能性があります。

【逆パワハラにつながる】パワハラが起きやすい職場とは?

【逆パワハラにつながる】パワハラが起きやすい職場とは?
厚生労働省による『職場のパワーハラスメントに関する実態調査』によるとパワハラは、上司と部下のコミュニケーションが少ない、残業が多い、休暇を取りづらい、ハラスメント防止規定が制定されていない、失敗が許されない、失敗への許容度が低いといった特徴のある職場で起きやすい結果となっています。

また業績が低下している、従業員の年代に偏りがある、遵守しなければならない規則が多い、高い規律が求められるなどの職場にもパワハラは起こりやすいです。パワハラが起きやすい職場では同じく逆パワハラも起きやすいといえます。逆パワハラを起こさないためには、パワハラが起きやすくなる職場の特徴を知り対処することが大切です。

画像引用:厚生労働省「令和2年度 厚生労働省委託事業 職場のハラスメントに関する実態調査 主要点」(参照:2022-07-17)

逆パワハラが起きる主な原因

逆パワハラが起きる主な原因としては部下への指導力低下、部下のスキルが上司を上回ること、従業員の認識不足という3つの原因があります。

部下への指導力の低下

上司の性格によっては部下とのトラブルを恐れるあまり、部下に対して毅然と指示や指導をできない場合があります。部下にとって事なかれ主義の上司は尊敬しづらく、軽視の対象となることも考えられます。上司が部下の信頼を得られていなければ、逆パワハラが起きやすくなるでしょう。

また人手不足の労働環境において上司は、管理職としての指導と実務との両方を担うことになります。業務で忙しく部下の指導が不十分な状況では、部下の不満が溜まりやすく、逆パワハラが誘発されます。部下を指導することは、上司にとって権限であると同時に責任です。日頃から適切な指導を通して部下との信頼関係を築いておく必要があります。

部下が上司のスキルを上回っている

部下が上司を上回る知識やスキルを持っている場合、逆パワハラが起きやすくなります。近年では科学技術が目覚ましく進歩し、ビジネスで必要となるスキルも変化しています。特にIT業界ではこの傾向が顕著で若手の部下が上司と比べて最新の知識を持っている、より高度なスキルを獲得しているといったことも珍しくありません。

また中途採用などの事情によって、部下が上司より年配で経験豊富な場合があります。上司が自分より若くて知識や経験が浅いと感じられると、部下は上司を尊敬しづらく、場合によっては逆パワハラを行ってしまうことが考えられます。

従業員の認識不足

パワハラの問題は広く知られるようになりましたが、逆パワハラはまだあまり世間に浸透していません。従業員の認識不足によって社内で逆パワハラが生じている可能性もあります。パワハラは上司から部下に対して行われるものだという認識は根強いです。企業でも管理職に対するパワハラ研修は、実施しても一般の従業員に対するハラスメント教育はあまり重視していない傾向があります。

またある言動が逆パワハラに該当するかどうかは、目に見える基準がないため明確ではありません。部下によっては特に意識することなく逆パワハラに該当する言動を行っていることが考えられます。

企業が行うべき逆パワハラの予防法

企業が行うべき主な逆パワハラの予防法としては、研修の実施、社内相談窓口の設置、パワハラの定義の周知の3つがあります。それぞれ解説します。

パワハラ研修を実施する

逆パワハラを予防するために有効な方法の一つはパワハラ研修の実施です。パワハラ研修ではどのような行為がパワハラに該当するのか、問題を生じさせないための手段といった知識を学びます。従業員がパワハラについての知識を得ることで、逆パワハラについても正しく知ることができます。

パワハラ研修を通して上司は逆パワハラへの適切な対処ができます。部下は逆パワハラと見なされる言動を意識的に改善していきます。また、部下から上司への逆パワハラでも処罰を受ける可能性があることを周知しておきましょう。

研修は一度行っただけでは内容が社内に十分浸透しづらいため、定期的に繰り返し実施することが大切です。研修以外でも社内報など目に付くところに、パワハラや逆パワハラへの注意喚起を置いておき、日頃から意識できるようにしておくのもおすすめです。

社内相談窓口を設ける

2020年6月1日に施行されたパワハラ防止法によって、企業での社内相談窓口の設置が義務化されました。パワハラ防止法とは『改正・労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』の通称です。

企業はパワハラ相談に対応する担当者を定めるか、相談対応のための制度を設ける義務があります。外部機関にパワハラ相談の対応を委託することもできます。

相談窓口では既に生じたパワハラだけでなく、パワハラ発生の恐れがある場合、パワハラに該当するか当人では判断しきれない場合であっても相談に対応することが必要です。早い段階から相談を受けられれば、パワハラや逆パワハラが深刻化する前に対処しやすくなります。相談窓口の運営においては相談者のプライバシーを守り、相談しやすい環境を整備することが重要です。

出典:厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」(参照:2022-07-17)

パワハラの定義を周知する

パワハラや逆パワハラを予防する上で大切なのは、パワハラの定義を社内でしっかり浸透させることです。逆パワハラを行う部下の中には、自身の言動が逆パワハラに該当するという意識がない人もいます。パワハラに関する知識不足を解消するためにも、日頃からどのような行為がパワハラに当たるのか徹底的に周知しましょう。

社内においてパワハラの定義を明確にするためには、就業規則に規定を設ける必要があります。既にパワハラ防止の規定を定められている場合でも、内容を知らない従業員がいることを考え、文書やeラーニングなどで周知します。規定がない場合には新しく盛り込む必要があります。企業がパワハラに対して、毅然とした防止策を講じていることをアピールすることが大切です。

ハラスメントの早期発見・対策は健全な職場環境づくりに必須

部下から上司に行われる逆パワハラは、従業員のメンタルヘルスを損なわせ企業に不利益をもたらします。企業の生産性を向上させるには従業員の健康維持が欠かせません。社内の健康管理や職場環境改善には産業医など専門家の力を借りるのも一つの方法です。

株式会社Dr.健康経営はメンタルケアに強い産業医サービスです。『産業医コンシェルジュ』では経験豊富なプロの産業医の紹介を行っており、従業員の健康管理や職場環境改善に役立てられます。まずはお気軽にご相談ください。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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