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過重労働とは?長時間労働との違いや起こり得るリスク・企業の取り組み事例を解説

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更新日:2023.02.23

過重労働はさまざまな健康被害を引き起こし、過労死や自殺につながることもあります。改正労働基準法は長時間労働の是正を目指して施行されました。企業としても過重労働の防止策を実施することが求められています。

本記事では過重労働の概要、長時間労働との違い、産業医による面談が必要となる場合、そして過重労働によるリスクについて解説します。企業ができる過重労働対策、時間外労働削減の取り組み事例も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

過重労働とは?

まずは、過重労働の概要と基準、長時間労働との違い、過重労働によって産業医の面接指導が必要となる場合について解説します。

過重労働の概要と基準

過重労働とは不規則な勤務や頻繁に行われる出張、多量の業務などによって労使協定で定められる時間外労働を大幅に超えるような労働をいいます。過重労働は労働者の身体や精神への大きな負荷となり、疾病や過労死などを引き起こしかねません。

改正労働基準法で定められた法定労働時間は1週間40時間・1日8時間です。法定労働時間を超える時間外労働の上限は原則として月45時間・年間360時間と定められており、違反すれば罰則の対象となります。

なお、労働者の過重労働による疾病や過労死が考えられる場合、疾病と過重労働の関連性は労働時間だけでなく、該当労働者の業務内容や職場でのポジションなども考慮して判断されます。

過重労働と長時間労働の違い

過重労働に似たものとして長時間労働という言葉があります。長時間労働とは本来想定されている労働時間を超えて働く場合の労働を指すものです。したがって、残業や休日勤務をした場合の時間が長時間労働となります。

長時間労働だと感じる労働時間には個人差があるため、何時間以上働けば長時間労働に該当するかという明確な定義はありません。法定労働時間を基準に、労働時間が1日8時間・1週間40時間を超えた場合を長時間労働と解釈する場合もあります。

つまり長時間労働には、本来想定されている労働時間を超えた労働を指す場合と、法定労働時間を超えた労働を指す場合の2つのパターンがあるということです。一方、過重労働とは残業や休日勤務などによって、労働者が身体的・精神的に過重の負担を感じるような労働のことをいいます。

過重労働者は産業医等による面接指導が必要

時間外労働が1カ月当たり100時間を超える長時間労働者の中で、申し出を行った労働者については、労働安全衛生法によって医師による面接指導を行うことが義務付けられています。過重労働によって疲労が溜まり、心身の健康リスクが高まった労働者の健康状況を把握することが面接指導の目的です。

過重労働による面接指導を実施する場合の担当者は、医師の中でも産業医がのぞましいといえます。産業医は医療、そして労働衛生の専門家です。産業医は企業と労働者の間の中立的な立場からサポートやアドバイスを行います。過重労働について知識がある産業医を選任することで、労働者の健康管理や働き方について適切な指導が可能です。

過重労働における労働基準法の改正とは?

過重労働における労働基準法は、残業時間の上限規制、36協定届の変更といった2つの点で改正が行われました。それぞれの内容、改正点について以下で解説します。

残業時間の上限規制

2018年に『働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(働き方改革関連法)』が交付され、2019年4月1日には改正労働基準法が施行されました。改正労働基準法により時間外労働の上限が厳格に定められ、また違反した場合は罰則を受ける必要があります。

法改正前にも時間外労働は月45時間・年間360時間までと上限が定められていましたが、法的な拘束力はありませんでした。違反しても罰則などは科されず行政指導が行われるのみだったのです。

法改正後も時間外労働は月45時間・年間360時間までが上限と、定められた時間数は同じですが、特別の臨時的な事情なくこれを超えた場合は罰則の対象となります。また、特別の臨時的な事情があり、労使が合意する場合でも労働時間に上限が存在し、違反すれば6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されることがあります。

時間外労働の上限規制|厚生労働省
※画像引用:時間外労働の上限規制|厚生労働省

36協定届の変更

36協定とは労働基準法36条に基づき、労使間で結ばれた労働時間や残業等に関する協定のことです。法定労働時間を超える残業や休日出勤が行われる場合は企業と労働者の間に協定を締結し、労働基準監督署に36協定届という書類を提出しなければなりません。

働き方改革関連法の施行によって36協定にも改訂が行われ、2021年4月1日からは36協定届が新しくなりました。改定後の36協定届では使用者の押印および署名が不要となり、労働者代表についてのチェックボックスを新設しています。なお、労働者代表についてのチェックボックスは36協定の適正な締結に向けて、的確な労働者代表が選出されているかを確認するために追加されたものです。(※)

※出典:36協定届が新しくなります|厚生労働省

過重労働によって起こり得るリスク

過重労働によって起こり得るリスク
過重労働は健康障害や精神障害、自殺や過労死などを引き起こすリスクがあります。過重労働によって起こり得るリスクについて以下で解説します。

健康障害の原因になる

過重労働は身体におけるさまざまな健康障害の原因となりますが、特に脳・心臓疾患は命に係わる疾患のため注意が必要です。また、胃十二指腸潰瘍、過敏性大腸炎といった内臓疾患や、月経異常、腰痛など、身体のさまざまな部位で疾患が引き起こされる場合もあります。

また、過重労働による疲労の蓄積から注意散漫になると、職場で事故やケガが発生する危険性が高まります。特に製造の現場や自動車の運転を伴う業務では、集中力の低下が思わぬアクシデントにつながり、健康障害の原因となることもあり得ます。

精神障害を発症する

過重労働は健康障害だけでなく精神障害も引き起こします。長期にわたり過重労働を続けているとストレスが蓄積し、メンタルヘルスに不調を引き起こしかねません。また、過重労働を続ける労働者は睡眠時間が十分にとれていない傾向があります。睡眠不足はうつ病などの疾患につながる可能性があり、精神障害のリスクを高めるものです。

厚生労働省の調査によれば、「仕事や職業生活に関する強い不安、悩み、ストレスを感じる」と回答した労働者のうち、その内容として最も多く挙げられたのは「仕事の量・質」です。労働者に多大な負担を強いる過重労働は、大きな精神的負担となることが分かります。


※ 画像引用:令和3年版過労死等防止対策白書|厚生労働省

自殺や過労死の原因になる

過労死とは過重労働が原因の疾患による死亡、または自殺のことをいいます。日本では勤務問題を原因の1つとする自殺者の数が、近年では年間約2,000人と横ばいの状況が続いています。自殺者数の総数に対して、勤務問題を原因の1つとする自殺者の数の割合は平成19年以降おおむね増加傾向にあります。

勤務問題を原因の1つとする自殺者数の動機としては、職場環境の変化や仕事の失敗、職場の人間関係などがありますが、割合として最も多いのは「仕事疲れ」という結果となっています。

過労死が社会問題となっている状況を受け、2014年には過労死等防止対策推進法が施行されました。過労死等防止対策推進法は過労死のない社会を目指し、健康に働き続けられる社会の実現を目的としています。

令和3年版過労死等防止対策白書|厚生労働省
※ 画像引用:令和3年版過労死等防止対策白書|厚生労働省

過重労働防止のために企業ができること

過重労働防止のために企業ができること
過重労働防止のために企業ができることは、業務量の見直し、管理職のマネジメント能力の確認、非効率な業務展開の見直しなどです。具体的な内容と方法について以下で解説します。

従業員の業務量の見直し

長時間労働が常態化している状況であれば、過重労働を減らすためにも労働環境の根本的な改善が求められます。従業員の業務量を見直すために、まずは勤務時間を把握することが大切です。例えば、勤怠管理システムを導入することで従業員の出社・退社時間が正確に把握できます。

また、従業員へのアンケートやヒアリングをすることで、現場の声を拾い上げることが可能です。各部署の業務を棚卸ししてみれば非効率な作業が見つかるかもしれません。その他、社内レイアウトを変えて動線を最適化することで、業務効率が上がる場合もあります。

管理職に対するマネジメント能力の確認

業務の負担を職場内で適切に振り分けるには、管理職のマネジメント能力が必要です。部署単位で見れば業務量がそれほど多くなくても、部署内の個人に焦点を当てると、一人に業務量が集中しているケースがあります。業務量に偏りがある場合は、管理職によるマネジメントがうまく機能していないかもしれません。

現場で働く管理職に対して、マネジメント研修や管理責任の明確化、人事制度の見直しなどを行い、部下に過重労働をさせないための意識を高めてもらう必要があります。

非効率な業務展開の見直し

同じ業務を長く続けていると非効率な方法が定着してしまい、当事者間で無駄な業務に気付けていない場合も少なくありません。また、日本では古くから残業を努力の表れとみなす傾向があり、長時間労働に良いイメージを持っている企業があることも問題です。

過重労働をなくすためには企業風土の改革を行い、非効率的な業務の進め方を見直す必要があります。例えば、朝礼や会議、資料作成などに不要なものはないかについて、確認することが大切です。

例えば会議の質を向上させるために、事前にゴールを決めて会議を進める、会議の進行役のスキルアップなどが求められます。また、インセンティブ制度を取り入れ、労働時間ではなく成果で仕事を評価することで、従業員の業務効率改善に対するモチベーションの向上が期待できるでしょう。

時間外労働の削減企業の取り組み事例

時間外労働の削減に取り組む企業について、業務ローテーションを取り入れた事例、アルバイトの能力管理と改善提案を行った事例、計画的な従業員教育を取り入れた事例を、それぞれ解説します。

業務ローテーションにより業務効率向上

ある宿泊業の事業場では、業務ローテーションを取り入れることで業務効率を改善しました。顧客へのサービス提供を行う業種では、時間外労働をコントロールすることが難しい面もあります。本事業場では特定の従業員に業務が集中しないよう、担当業務をローテーションしています。

業務のローテーションによって従業員は現状の担当業務だけでなく、以前に担当したことがある業務も身につき、担当が違ってもお互いのサポートが可能となりました。サポートを通してコミュニケーションが活発化すると、職場全体のチームワークも良くなりました。業務量が平準化され、業務効率とチームワークが改善されたことで、結果として時間外労働の削減につながっています。(※)

※出典:時間外労働削減の好事例集|厚生労働省

パート・アルバイトの能力管理と改善提案で正社員の残業を削減

ある飲食業の事業場ではアルバイトの能力管理と改善提案で、正社員の残業を削減しました。飲食業では時期や天候などの外的要因によって、業務の忙しさが大きく変動します。本事業場では多忙な時期でも長時間労働を避けるために、アルバイトの能力向上に取り組み、時間外労働の抑制に成功しました。

アルバイトの担当作業をリストアップし、作業ごとの習熟度を掲示すれば各自ができる作業の見える化になります。習熟度は時給に直結するため、従業員の意欲もアップしました。また、アルバイトからの改善提案を受け付けることで、実用的な業務改善方法の拾い上げにつなげています。アルバイトの能力管理と改善提案によって業務負担が軽減され、正社員の残業削減に成功しました。(※)

※出典:時間外労働削減の好事例集|厚生労働省

計画的な従業員教育で効率的に能力アップ

ある事業場では計画的な従業員教育によって従業員の能力を適切に把握し、効率的なスキルアップを可能にしました。各部署で業務力量表を作成し各個人の能力を見える化することで、スキルアップへの意欲を高めています。また、管理職と従業員が相談のもと「教育訓練計画実施表」を作成し、今後の教育計画を立案し効率的な能力向上に役立てています。

業務力量表と教育訓練計画実施表の作成によって従業員の現状の能力と向上の程度が可視化されました。教育を受ける側と教育する側の両方で、教育におけるロスがなくなったことが業務の効率化につながっています。(※)

※出典:厚生労働省「時間外労働削減の好事例集」

まとめ

過重労働を見過ごしていると、従業員の心身に不調をきたす恐れがあります。企業内に過重労働者がいる場合、労働者の健康を守るためにも産業医による面接指導が必要です。また、従業員が健康で長く働き続けるためにも、企業が率先して過重労働防止に努めることが求められています。

株式会社Dr.健康経営の『産業医コンシェルジュ』は、さまざまな経験やスキルを持つ産業医が多数登録しています。メンタルヘルスや長時間労働の状況チェック、ストレスチェックなどに幅広く対応しており、従業員の健康を守ります。産業医をお探しの際は、ぜひお気軽にご相談ください。

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些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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