産業保健・健康管理
健康診断の事後措置のやり方は?流れや注意点を解説
医師による健康診断の実施は、労働安全衛生法で義務付けられています。健康診断の目的は、事業場で働く従業員の健康状態の把握や生活習慣病などの防止を図ることです。健康診断は実施するだけで終わらず、診断結果を基に必要な措置を取らなければなりません。
本記事では、健康診断の事後措置の流れや実施の際の注意点を詳しく解説します。健康診断の事後措置に関して迷っている担当者の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
健康診断事後措置の流れ
まずは、健康診断の事後措置の流れを確認しておきましょう。健康診断の事後措置を決定するまでの流れを5つのステップに分けて以下で解説します。また、事後措置後に必要な報告書の作成や保管方法にも触れているので参考にしてください。
1.健康診断結果の通知
健康診断の実施後は、健康診断を受けた医療機関から健康診断結果が送付されます。健康診断結果の通知先は医療機関によって異なり、企業に送付されるケースと従業員の自宅に送付されるケースがあります。
企業に通知が届いた場合は、労働安全衛生規則第51条に基づき、健康診断を受けた従業員に速やかに診断結果を通知しなければなりません。一方、従業員に送付された場合は会社に対し、事業者から従業員に診断結果の提出を依頼する必要があります。
2.二次健康診断の受診を勧奨
人事担当者は従業員の健康診断結果に目を通し、異常所見が確認された場合は、該当の従業員に医療機関の受診を促す必要があります。ただし、二次健康診断の受診は従業員の意思に基づいて実施されなければならず、事業者は受診を強制できません。事業者は安全配慮義務に基づいて従業員に対し、あくまでも二次健康診断の受診を促す立場であると定められているからです。
なお、二次健康診断の受診を勧奨する方法としては、人事担当者が口頭で伝える手法や産業医と連携して書面で通知する手法があります。口頭で伝えるよりも、書面で通知した方が受診の勧奨に有効とされています。
3.産業医等が保健指導を実施
二次健康診断の受診を強く促すほどの必要はないが、保健指導が必要とされる従業員に対しては、産業医などによる保健指導を行います。ただし、保健指導においても二次健康診断の受診と同様に従業員へ保健指導を強制的に受けさせることはできません。
企業側は従業員に対し、「生活習慣病を発症するリスクが高いため、保健指導を受けることが望ましい」と伝えることが大切です。従業員に保健指導を受けることの重要性を説明することによって、従業員自らが進んで保健指導を受ける状態が望ましいと言えるでしょう。
4.産業医等が就業判定を行う
産業医などによる保健指導が行われた後は、保健指導や健康診断の結果を踏まえ、対象者がこれまで通りの就業を続けても問題ないのかについて事業者による就業判定を行います。就業判定を決定する際は、事業者が独断で決めることがあってはなりません。医学的知識と労働衛生の両面に精通した産業医の意見が不可欠です。
労働安全衛生法第66条には、事業者が従業員の就業判定をする際に産業医の意見を聴取しなければならない旨が記載されています。事業者は、健康診断の結果だけでなく、該当する従業員の労働時間や作業環境などの労働環境に関する情報も産業医に提供する必要があるのです。
※画像引用: 職域における一般健康診断の位置と活用|一般健康診断結果を用いた 就業措置区分の判定について
5.事後措置を決定・実施する
産業医から聴取した意見を踏まえて、従業員にヒアリングを実施し意見聴取を行います。事業者は従業員が納得できる事後措置を決めるために、従業員の実情に即した丁寧な意見聴取を行い、スムーズな話し合いの場となるように配慮が必要です。
事後措置の最終決定者は事業者ですが衛生委員会を設置している事業場なら、医師や従業員の意見を委員会で取り上げて審議した上で決定してください。
従業員からの意見聴取を行った後は産業医の意見を基に、事業者が就業区分に応じた措置を決定します。事後措置の決定・実施の際は、事後措置の対象になる従業員のプライバシーを守り、不当な扱いをしないように注意が必要です。人事担当者をはじめ、衛生管理者や産業医などが継続的にサポートを続けられる仕組みを整備する必要があります。
6.定期健康診断結果報告書を作成・提出する
事後措置の決定・実施後は、労働基準監督署への定期健康診断結果報告書の提出が必要です。労働者が50名以上いる事業所は、定期健康診断結果報告書の提出が義務付けられています。
提出の期限は明確に定められていませんが、定期健康診断を実施してから原則3カ月以内の提出が望ましいとされています。定期健康診断結果報告書の作成は、人事担当者が行うのが一般的です。各種健康診断の結果報告書の様式は、下記の厚生労働省のホームページから入手でき、インターネット上での作成もできます。(※)
なお、記入方法や記入例などについて詳しくは『「健康診断結果報告書」の記入方法を解説!【記入例あり】』も参考にしてください
7.個人票を保存する
労働安全衛生規則では、健康診断個人票の作成と一定期間の保存が事業者に義務付けられています。事業者に義務付けられているものの、実際に健康診断個人票を作成するのは健康診断を実施した医療機関が行うことが一般的です。事業者は、医療機関によって作成された健康診断個人票を保存する必要があります。
健康診断個人票の保存期間は健康診断の種類によって異なります。一般健康診断の場合は5年間の保存が必要です。一方、特殊健康診断の場合は、5~40年間の保存が定められています。
健康診断事後措置の注意点
健康診断の結果を踏まえて事後措置を決定する際、事業者は従業員の健康情報に基づき健康確保に必要な範囲を超えて不利益な取り扱いを行うことを禁じられています。
また、労働契約法第5条により、事業者は労働者の生命や健康を守る安全配慮義務が定められています。したがって、医師の意見と異なる事後措置を行ったり、医師の意見を取り入れずに措置を行ったりすることもしてはなりません。
なお、事業者が事後措置を決定・実施する際に医師の意見を聞かなかった場合、安全配慮義務に違反する可能性があるため注意が必要です。
出典: 健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針|厚生労働省
まとめ
健康診断の結果が事業者もしくは従業員本人に通知された後は、健康状態に異常所見が見られる従業員に二次健康診断の受診を勧奨します。二次健康診断が必要ない従業員の中で健康面の不安がある場合は、産業医による保健指導を促してください。
従業員の就業判定は事業者が決定しますが、産業医や従業員の意見を踏まえた上で判断しなければなりません。主治医や産業医の意見と異なる事後措置を決定して実施した場合、安全配慮義務に違反する可能性があります。また、事業者は従業員の健康を守るため、従業員自らが納得して健康診断を受けられるような職場環境を目指すことが大切です。
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