産業保健・健康管理

労働衛生コンサルタントと産業医の違いは?業務内容や役割・必要な資格を解説

日付
更新日:2022.09.29

労働環境の改善が重視される現代では、労働衛生コンサルタントの需要が高まっています。労働衛生コンサルタントとは労働環境の安全性を確認し、改善点があれば指導を行う専門的な仕事です。

本記事では労働衛生コンサルタントの概要や資格取得のための試験概要、資格取得の主な流れとポイントなどについて解説します。また、労働衛生の専門家である産業医との違いも詳しく解説しています。自社における労働環境の改善方法を検討している方や労働衛生コンサルタントの資格取得を検討している方はぜひ参考にしてください。

労働衛生コンサルタントとは?

労働衛生コンサルタントの業務内容や役割、そして労働衛生コンサルタントが特に求められる業種を解説します。

業務内容・役割

労働衛生コンサルタントとは事業所における労働環境の適正管理を行う専門家です。労働衛生コンサルタントの主な業務は以下のものです。

・安全診断・計画立案
事業所の労働衛生状況の診断、および改善のための計画立案

・安全管理教育
事業所内の社員や責任者に対する安全管理分野の教育や指導

・職場内装置の設置確認
換気装置や局所排気装置、粉じん防止装置といった安全に関わる装置の設置確認

・規則・基準の構築
労働衛生に関わる社内規則や設備などの点検基準の構築

・システム構築・管理
労働衛生を適正に保つためのシステムの構築や管理

労働環境における安全を保つためには、労働衛生管理システムが適切に構築・維持されているか絶えずチェックする必要があります。労働衛生コンサルタントの存在は、事業所における事故を防ぐために重要です。

求められる場所

どの業種の事業所でも労働衛生コンサルタントは必要とされますが、その中でも特に必要性が高いのは、業務により健康に影響が生じやすい製造業においてです。

製造現場で有害化学物質が扱われる場合には、安全対策や騒音・分煙の具体的指導を重点的に行います。有機溶剤や鉛といった、特に取り扱いに注意を要する物質に関して情報提供を行うことも大切です。また、従業員に対して生活衛生に関する教育を実施し、高齢労働者がいれば安全対策に配慮することも労働衛生コンサルタントの役割です。

労働衛生コンサルタントと産業医の違い

労働衛生コンサルタントと産業医の違い
【労働衛生コンサルタントと産業医の違い】

労働衛生コンサルタント 産業医
選任義務 事業者に選任の義務はない 常時50人以上の労働者を使用する事業者には、選任の義務が生じる(労働安全衛生法第13条)
仕事内容 事業所の安全の評価・指導など 労働者の健康管理、事業所内の点検など
必要な資格 労働安全衛生法で規定される、厚生労働省管轄の国家資格 医師免許、かつ以下の要件のいずれかを満たすこと1.日本医師会の産業医基礎研修の修了2.産業医科大学の産業医学基礎講座の修了3.労働衛生コンサルタント試験・保健衛生区分の合格4.大学で労働衛生科目を担当する/していた教授・准教授・講師

労働衛生コンサルタントと産業医の違いについて以下でそれぞれ詳しく解説します。

選任義務

労働衛生コンサルタントと産業医の最も大きな違いは、事業者が負う選任義務の有無です。労働衛生コンサルタントがいれば労働環境の安全維持に役立ちますが、その選任が事業者の義務として定められているわけではありません。

一方、産業医については選任が法的に義務付けられています。労働安全衛生法第13条によって、常時50人以上の労働者を使用する事業場では事業者に産業医を選任する義務が生じます。選任を怠った場合は罰則が課される場合があるため、産業医を選任すべき事由の発生から14日以内には選任を行う必要があります。

産業医の選任義務について詳しくは『産業医を選任する義務はいつから?選び方や違反した時の罰則も解説』を参考にしてください。

仕事内容

労働衛生コンサルタントの主な仕事は事業場の労働衛生の評価・指導ですが、産業医の仕事では労働者の健康管理が主軸に据えられます。

前述のとおり、労働衛生コンサルタントは労働環境の適正管理を行う専門家として、事業所の安全診断・計画立案や職場内装置の設置確認などを行います。

一方、産業医の仕事内容は労働安全衛生規則第14条第1項に定められるとおり、ストレスチェックや健康診断、面接指導の実施です。産業医も事業場内の巡回や点検などを行うことはありますが、業務のメインは労働者の健康管理・維持です。

産業医は労働環境の衛生面、安全面のどちらも守る役割があり、場合によっては労働衛生コンサルタントの業務を行うこともできます。

必要な資格

医師免許の有無も労働衛生コンサルタントと産業医の大きな違いの1つです。労働衛生コンサルタントとして従事する場合、医師免許は必要ありません。必要となるのは労働安全衛生法で規定された、厚生労働省管轄の国家資格です。したがって、労働衛生コンサルタントの資格のみでは、産業医として働くことはできません。

産業医として従事するには医師免許を取得し、その上で次の要件のいずれかを満たす必要があります。
1.日本医師会の産業医基礎研修の修了
2.産業医科大学の産業医学基礎講座の修了
3.労働衛生コンサルタント試験・保健衛生区分の合格
4.大学で労働衛生科目を担当する/していた教授・准教授・講師

なお、労働衛生コンサルタント試験に合格した産業医なら、労働衛生コンサルタントの業務に携わることも可能です。

労働衛生コンサルタントの資格を取得するには?

労働衛生コンサルタントの資格を取得するには?
事業所の安全水準を高める支援ができる労働衛生コンサルタントの役割は重要とされており、資格取得を目指している人も多いでしょう。そこで、労働衛生コンサルタントの資格試験の概要や、資格試験取得の主な流れとポイントについてそれぞれ解説します。

試験の概要

・受験資格
試験を受けられるのは労働安全衛生法が定める要件のいずれかを満たす者です。受験資格は多岐にわたり、試験実施機関である「安全衛生技術試験協会」のホームページで確認できます。(※)

※出典:受験資格(労働衛生コンサルタント)|安全衛生技術試験協会

・試験方法
労働衛生コンサルタントの資格試験は一次の筆記試験と、二次の口述試験に分かれています。

・出題範囲
筆記試験では労働衛生に関する一般知識や、労働衛生関係法令について問われます。口述試験の出題は労働衛生一般、および専門科目(保健衛生または労働衛生工学)についてです。

・試験会場
筆記試験は北海道、宮城県、東京都、愛知県、兵庫県、広島県、福岡県の全国7カ所で実施されます。口述試験は東京都と大阪府の2カ所です。

資格試験取得の主な流れとポイント

労働衛生コンサルタントの試験は「労働衛生工学」と「保健衛生」の2つの区分に分かれており、どちらか1つを受験します。

労働衛生コンサルタントの試験の流れは以下のとおりです。
1:筆記試験は毎年10月、口述試験は毎年1月下旬〜2月頃実施
2:合格者情報は毎年3月下旬発表
3:厚生労働大臣より合格証交付
4:公益財団法人・安全衛生技術試験協会に労働衛生コンサルタントの登録申請

労働衛生コンサルタントの資格試験取得についてのポイントは以下のとおりです。
・どちらの区分で受験・資格取得してもその後の業務に違いは生じない
・保有する受験資格によっては筆記試験の一部科目が免除されることがある(薬剤師であれば科目免除が受けられ、かつ保健衛生区分で受験することが決められているなど)
・一度資格を取得すればその後の更新の必要はない

まとめ

労働衛生コンサルタントとは労働環境の安全を管理する専門職です。産業医との大きな違いは選任義務や必要資格で、労働衛生コンサルタントについては選任義務がなく、医師免許も必要ありません。一方、産業医として従事するためには医師免許の取得が求められ、労働衛生の知識も必要となります。また、企業は常時50人以上の従業員がいる場合、産業医を選任する義務があります。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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