産業医の役割・選任

産業医機能の強化とは?働き方改革関連法による改正点を解説

日付
更新日:2023.02.24

職場環境の改善が社会的課題となりつつある現代では、産業医機能の活用が求められています。産業医機能の強化とは具体的にどのようなことを指すのか、産業医機能の強化が職場環境改善にどのようにつながるのかなど、疑問をお持ちの方もいるのではないでしょうか。

この記事では産業医機能の概要と目的、産業医強化のポイントなどを解説します。ぜひ参考にしてください。

産業医機能の強化とは

産業医機能の強化について概要や目的を解説します。

概要と目的

2019年4月1日に施行された働き方改革関連法に基づいて、産業医・産業保健機能と長時間労働者に対する面接指導等が強化されました。産業医とは事業場において労働者が快適に仕事を行えるよう、専門的立場から指導や助言を行う医師のことです。産業保健とは働く人々の生きがいと生産性の向上を目的とするものです。

現代の日本では長時間労働や過労死の発生、メンタルヘルス不調者の増加などが社会問題となっています。労働の課題解決のため政府は産業保健を企業発展の基盤と位置付け、機能強化を推進しています。

産業医について詳しくはこちらを参考にしてください。

産業医機能の強化と働き方改革のポイント

働き方改革関連法によって強化された産業医機能のポイントは以下の通りです。

  • 1.産業医の独立性と中立性
  • 2.産業医への権限と情報提供の強化
  • 3.産業医活動と衛生委員会等との関係強化
  • 4.健康相談の体制整備と労働者情報の取り扱い
  • 5.産業医における業務内容の周知
  • 6.長時間労働に対する面接指導の強化

それぞれの項目について以下で詳しく解説していきます。

1. 産業医の独立性と中立性

産業医の独立性と中立性
産業医に求められる独自性・中立性の強化に関する3つのポイントは、1.独立性と中立性を強化すること、2.産業医の知識・能力の維持向上、そして3.産業医の辞任・解任時の衛生委員会への報告です。それぞれについて詳しく解説します。(※)

※出典:事業主・産業医・その他産業保健関係者の皆様へ|厚生労働省

産業医の独立性と中立性を強化する

改正労働安全衛生法第13条第3項によって、産業医の独立性と中立性を強化することが定められました。産業医は産業医学の専門家として労働者の健康管理に必要な知識に基づき、独自性や中立性が高い職務を誠実に遂行することが求められます。

事業者は産業医の業務を妨げないよう活動環境を整えることが大切です。産業医と従業員が面談しやすい環境を用意し、また産業医が独立的で中立的に動けるよう、事業者に対して意見できる権限を与えることが求められます。労働災害が起きそうな場合などの緊急時には、従業員に対して必要な措置を実行できる権限がなければいけません。

産業医は知識や能力を維持の向上に努める

改正労働安全衛生規則第14条第7項によって、産業医は知識や能力の維持向上に努めなければならないことが定められています。産業医に必要な知識や能力とは、医学的知識や労働衛生に関する知識だけでなく、コミュニケーション能力やカウンセリング能力なども含まれます。また、労働者からの相談を待って健康指導を行うだけでなく、組織内の健康課題に逸早く気付き、改善していける能力も必要です。産業医は従業員の健康を守るため、これら総合的なスキルをアップデートさせていくことが求められています。

産業医の辞任や解任した場合の衛生委員会等への報告

改正安衛則第13条第4項によって、産業医が辞任した場合や解任された場合は、衛生委員会などへ報告することが定められています。産業医が独立性や中立性を保って職務を遂行するためには、産業医としての身分を安定する必要があります。

事業者は産業医の辞任や解任の際に、遅滞なく(およそ1カ月以内に)衛生委員会または安全委員会に対して、その旨や理由を報告しなければなりません。なお、体調の問題など産業医にとってセンシティブな理由で辞任や解任が行われた場合には、産業医の意向を確認した上で「一身上の都合」や「契約期間満了」などを理由としてもよいことになっています。

2.産業医への権限と情報提供の強化

産業医への権限と情報提供の強化
産業医への権限と情報提供の強化に関する3つのポイントは、産業医の権限の具体化、産業医に対する情報提供、勧告内容等の記録保存です。(※)

※出典:事業主・産業医・その他産業保健関係者の皆様へ|厚生労働省

産業医の権限を具体化する

改正安衛則第14条の4第1項、第2項によって、産業医の権限を具体化することが定められています。事業者が産業医に付与すべきとされている権限は3つです。

1つ目は産業医が事業者または総括安全衛生管理者に対して意見を述べる権限です。産業医は労働環境改善を目的として、改善のための措置方法を事業者に提言する役割があります。

2つ目は労働者の健康管理を実施するために産業医が必要な情報を、労働者から集める権限です。労働者から情報収集する場合は、対面での質問やアンケート調査を実施することになります。産業医は収集した情報によって、労働者に人事上の不利益が生じないよう注意することが重要です。事業者は産業医が収集した情報の取り扱いについて、あらかじめ衛生委員会で決定しておくことが望まれます。

3つ目は労働者の健康確保のために緊急措置が必要な場合、措置を実施する権限です。例えば労働災害が発生する危険のあるケースなどを指します。

産業医に対して労働者の健康管理に必要な健康情報を提供する

事業者は、労働者の健康管理のために産業医が必要な情報を、提供しなければいけません。事業者が産業医に提供した情報は記録、保存することが望まれます。提供の義務がある情報は3つです。

1つ目は健康診断の情報、長時間労働者に対する面接指導の情報、ストレスチェックに基づいて講じた、もしくは講じようとしている措置の情報などです。また措置を講じない場合には、その理由も産業医に提供が必要です。
2つ目は1カ月当たりの時間外労働時間が80時間を超えた従業員の氏名や、超過労働時間などの情報です。該当者がいない場合であっても産業医への報告は必須です。情報提供は超過時間の査定を行った後、速やか(およそ2週間以内)に行われる必要があります。

3つ目は労働者の業務内容です。例えば長時間労働者に対して面談をする場合、産業医は当該労働者の出社、退社時刻や休日勤務の日数といった勤務状況の情報が必要になるでしょう。

勧告内容等を記録し保存する

改正安衛則第14条の3第1項、第2項によって、勧告内容等を記録し保存することが定められています。産業医は事業者に対して健康や衛生に関する問題点を勧告する立場にあります。産業医の勧告は事業者に理解、共有されなければなりません。

産業医が勧告しようとする際は、あらかじめ勧告内容について事業者の意見を求める必要があります。また事業者は勧告を受けた場合に改善のための措置を講じ、その内容を記録して3年間保存しなくてはなりません。また、勧告を受けたにもかかわらず措置を講じない場合には、その旨と理由も記録しておく必要があります。

3.産業医活動と衛生委員会等との関係強化

産業医活動と衛生委員会等との関係強化のための3つのポイントは、勧告を受けた際の衛生委員会への報告、産業医が衛生委員会に対して調査審議を求められること、安全委員会や衛生委員会の意見の記録や保存です。(※)

※出典:事業主・産業医・その他産業保健関係者の皆様へ|厚生労働省

産業医の勧告を受けたときの衛生委員会等への報告

改正安衛法第13条第6項、改正安衛1 則第14条の3第3項、第4項によって、事業者は産業医の勧告を受けた場合に、遅滞なく衛生委員会等へ報告することが定められています。勧告後から衛生委員会等へ報告はおよそ1カ月以内に行うようにしましょう。

衛生委員会とは労使双方が従業員の健康管理について審議するための協議の場です。従業員が50人以上いる事業場では衛生委員会の設置が義務付けられています。

産業医は衛生委員等に対して調査審議を求められる

改正安衛則第23条第5項によって、産業医は衛生委員等に対して調査審議を求められることが定められています。常時50人以上の労働者が働く事業場では衛生委員会の設置が義務付けられており、毎月一回開かれる衛生委員会に産業医の出席も可能です。衛生委員会に出席した産業医は衛生委員等に対し、医療に関する専門的立場から安全衛生に必要な措置について積極的な提案を行う権限が与えられています。

安全委員会や衛生委員会等の意見等は記録して保存する

改正安衛則第23条第4項によって、事業者は安全委員会や衛生委員会等の意見を記録して保存することが定められています。安全委員会や衛生委員会が開催される度に、事業者はこれら委員会の意見や、その意見を踏まえて講じた措置における重要なものを記録し3年間保存します。衛生委員会等の意見・当該意見を踏まえて講じた措置の内容等の記録・保存は、具体的に記載されているのであれば議事録を保存することで可能です。

健康相談の体制整備と労働者情報の取り扱い

健康相談の体制整備と労働者情報の取り扱いに関する3つのポイントは、1.産業医が活動しやすい環境の整備、2.労働者の情報の取り扱いに注意すること、3.産業医の業務内容を周知することです。(※)

※出典:事業主・産業医・その他産業保健関係者の皆様へ|厚生労働省

産業医が活動しやすい環境や体制を整備する

改正安衛法第13条の3によって、事業者は産業医が活動しやすい環境や体制を整備する必要があります。例えば産業医が従業員からの健康相談を受けたら、適切に対応できるような体制を整えたり、フローを作成するなどです。

労働者が安心して健康相談を受けられる環境づくりのためには、従業員に対して健康相談の申し出方法や場所、日時、産業医業務の具体的な内容、事業場での労働者の情報の取り扱い方法を周知することなどが挙げられます。周知方法は多くの従業員が見る場所に掲示する他、書面やイントラネットでの通知などがあります。イントラネットとは従業員だけがアクセスできるネットワークのことです。多くの企業では社内ルールや内部FAQ、掲示板として利用されています。面談や健康相談などは、プライバシーが確保された場所で実施するなど事業者の配慮が必要です。

2.労働者の心身の健康状態に関する情報の取り扱いに注意する

改正安衛法第104条第1項から第4項まで、改正じん肺法第35条の3第1項から第4項まで、改正安衛則第98条の3、改正じん肺則第33条によって、事業者は労働者の心身の健康状態に関する情報の取り扱いに注意することが定められています。

従業員が不利益な扱いを受ける心配なく健康診断を受けるために、事業者は労働者の健康情報に関して、労働者の健康確保や安全配慮義務を果たすために適正に収集し活用することが義務付けられています。また、労働者の個人情報保護の観点から事業者が健康情報を取り扱えるのは、労働安全衛生法例に基づく場合や本人が同意している場合のみです。ただし、労働者の生命に関わる緊急時など本人の同意を得ることが困難な場合は、同意を得られなくても目的の範囲内で適正に取り扱うことが認められています。

5.産業医における業務内容の周知

改正安衛法第101条第2項、第3項、改正安衛則第98条の2第1項、第2項によって、事業者は産業医の業務内容を労働者に周知する必要があることが定められています。例えば、産業医業務の具体的な内容、産業医による健康相談の受け方、労働者の健康情報の取り扱い方法を周知しなくてはなりません。産業医の業務の具体的な内容とは、産業医が事業場においてどのような業務に携わっているのかといったことです。

従業員へ周知するには書面を交付したり、掲示したりする方法が一般的です。CDやDVDといった磁気ディスクなどに内容を記録し、従業員がいつでも確認できるようパソコンやDVDプレーヤーといった再生デバイスとともに作業場に置いておく方法でも構いません。その他、企業内のイントラネット電子掲示板を利用する方法もあります。

6.長時間労働者に対する面接指導等の強化

長時間労働が続くと従業員の身体やメンタルの健康リスクが高まります。労働者の健康管理のため、政府は産業医による面接指導の強化を行っています。医師による面接指導の対象となるのは、時間外労働が1カ月当たり80時間を超えていて、かつ疲労の蓄積が認められる従業員です。

ただし、研究開発業務従事者に対する面談指導の要件は、時間外労働が1カ月当たり100時間を超える従業員となっています。また、高度プロフェッショナル制度対象労働者では、1週間当たりの健康管理時間が40時間を超えた場合において、1カ月当たり100時間を超える従業員が対象となります。健康管理時間とは、対象労働者における事業場内の滞在時間と事業場外で労働した時間の合計です。研究開発業務従事者と高度プロフェッショナル制度対象労働者では、要件を満たせば、対象者からの申し出の有無にかかわらず面接指導を実施しなくてはなりません。

※出典:事業主・産業医・その他産業保健関係者の皆様へ|厚生労働省

まとめ

働き方改革関連法によって産業医機能が強化された背景には、政府が産業保健を企業発展の基盤として位置付けていることがあります。事業を発展させていくには、何より人材の活用が要です。
産業医の設置が義務付けられている企業はもちろん、産業医を設置していない企業でも事業拡大などによって産業医の設置が必要となる可能性が考えられます。いざという際に必要な措置を講じられるよう、産業医医療機能に対する理解を深めておくと安心です。

そのお悩み、Dr.健康経営に相談してみませんか?

「従業員数が初めて50名を超えるが、なにをしたらいいかわからない…」
「ストレスチェックを初めて実施するので不安…」

そんなお悩みを抱える労務担当者の方はいませんか?
Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

関連記事