産業医の役割・選任

産業医を安全衛生委員会に出席させる必要はある?役割を徹底解説

日付
更新日:2023.07.18

労働安全衛生法に基づき、設置が義務づけられている「衛生委員会(安全衛生委員会)」の構成員である産業医。開催が義務である安全衛生委員会には、産業医を毎回出席させる義務や、罰則はあるのでしょうか。

本記事では、安全衛生委員会への産業医の出席の義務や、安全衛生委員会での産業医の役割を詳しく解説します。

また、安全衛生委員会に産業医が欠席した場合の対処法や、安全衛生委員会の開催の注意点もあわせて解説しますので、安全衛生委員会についての知識を深めたい、産業医と連携を図り事業所の健康経営に努めていきたい企業の担当者の方は、ぜひ参考にしてください。

そもそも安全衛生委員会とは

安全衛生委員会とは、安全委員会と衛生委員会を統合したもので、労働安全衛生法に基づいて設置しなければなりません。

衛生委員会は、従業員が50名以上の事業所での設置が義務付けられており、業種に限らず設置が必要です。一方、安全委員会は、従業員50人以上の特定の業種、または100人以上の特定の業種で設置が義務付けられています。

条件によっては、安全委員会と衛生委員会の両方の設置が義務付けられていて、その場合は安全衛生委員会として統合し、設置が可能です。

安全委員会並びに衛生委員会を構成するメンバーは、以下の表の通り定められています。

安全委員会 衛生委員会
1.総括安全衛生管理者又は事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者(1名)
2.安全管理者※
3.安全に関し経験を有する労働者※
1.総括安全衛生管理者又は事業の実施を統括管理する者若しくはこれに準ずる者(1名)
2.衛生管理者※
3.産業医※
4.衛生に関し経験を有する労働者※

※1以外の委員については、事業者が指名することとされています。

※1以外の委員の半数については、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合(過半数で組織する労働組合がない場合は労働者の過半数を代表する者)の推薦に基づき指名しなければなりません。

  • 事業者は労働者のうち、作業環境測定を実施している作業環境測定士であるものを衛生委員会の委員として指名することができます。
  • 議長は、1の委員が務めます。
  • 委員会の構成員の人数については、法令上の定めはありません。事業の規模、作業の実態に即し、適宜決定して差し支えありません。

“出典:厚生労働省安全委員会、衛生委員会について教えてください。

産業医は安全衛生委員会に出席する義務がある?

安全衛生委員会には、産業医に出席してもらう必要はあるのでしょうか。

産業医の出席は義務ではない

産業医が安全衛生委員会に出席するのは、義務ではありません。

しかし、労働安全衛生法第18条では、委員会の構成員として産業医の設置が義務付けられています。構成員として選出されている以上、安全衛生委員会に必要な人員であることは間違いないでしょう。

ところが、出席は任意とされていることもあり、なかには産業医が安全衛生委員会に出席していない事業所が見受けられます。本来、安全衛生委員会は「労使が一体となって労働災害防止の取り組みを行う」という目的があります。

その目的を果たすためにも、産業医という専門家の立場から意見をもらい、企業の健康意識を高め、職場の衛生環境を向上させる必要があるでしょう。

産業医には毎回出席してもらうのが望ましい

残念ながら、一部の企業において産業医の安全衛生委員会への欠席が常態化してしまっているケースがあります。

ですが、労働安全衛生法第18条では「事業者は、政令で定められた規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない」とされています。

  • 調査審議の項目
  • 一  労働者の健康障害を防止するための基本となるべき対策に関すること。
  • 二  労働者の健康の保持増進を図るための基本となるべき対策に関すること。
  • 三  労働災害の原因及び再発防止対策で、衛生に係るものに関すること。
  • 四  前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項

“出典:中央労働災害防止協会安全衛生情報センター「労働安全衛生法 第三章 安全衛生管理体制(第十条-第十九条の三)

こういった内容を審議する際には、やはり専門家である産業医の意見や助言が必要な場面もあります。出席は義務ではありませんが、できるだけ産業医に参加してもらうのが望ましいでしょう。

産業医の欠席の常態化は不適切

前述した通り、産業医の安全衛生委員会への欠席が常態化してしまっているケースがありますが、産業医が安全衛生委員会に欠席すると、本来の目的を果たせなくなってしまうかもしれません。

欠席が常態化することで、構成員として産業医の名前のみを登録している「名義貸し※」状態となり、労働安全衛生法違反で罰則が発生する可能性もあります。

※1 労働安全衛生規則14条1項で定められている、産業医の職務を行わず、事業所に産業医として名前だけ登録している状態

安全衛生委員会における産業医の役割

安全衛生委員会での産業医の役割は「労働災害防止」の観点から、専門家の立場で意見または助言することです。本来、安全衛生委員会を設置する目的の一つは、従業員の職場環境を向上させることにあります。

その目的を踏まえた上で、産業医の役割について紹介します。

専門家の立場として意見または助言をする

産業医は、労働者の健康管理等に必要な、医学に関する知識を持っている専門家です。

安全衛生委員会では、事業所の現状を把握した上で、職場環境を「維持・改善・向上」するために、産業医という専門家の立場から意見または助言をします。

事業所側がどれだけ努力しても、専門家ではないため、気づけない問題点が出てくる可能性は高いでしょう。

しかし、専門家である産業医の意見や助言により、問題点を早い段階で解決しておくことは、大きなトラブルに発展するリスクを軽減できます。働く環境の改善や向上は、従業員だけでなく事業所側にもメリットが大きいといえるでしょう。

提議や最終決定は事業者側が行う

安全衛生委員会での議題や最終決定は事業者側が行い、産業医には専門的な立場から意見や助言をもらうことが目的です。

議題や判断まで産業医に求めることはできず、最終決定はあくまで事業者側の責任となります。

安全衛生委員会を運営する際には「安全衛生年間企画」の作成も必要です。危険は待ってくれないので、議題は適宜見直しし、流行性の病気が発生するなどの突発的なことがあれば柔軟に対応しましょう。

“出典:厚生労働省安全衛生年間計画書」”

産業医が欠席となる場合の対応とは

産業医が、やむを得ない理由で安全衛生委員会を欠席した場合は、議事録を提供し、次回の委員会までに意見や助言を求める必要があります。

議事内容を提供し助言・指導を受ける

産業医が、やむを得ない理由で安全衛生委員会を欠席した場合は、議事録を提供し、次回の委員会までに意見や助言を求めるようにしましょう。

議事録は、データなどで産業医に共有し、確認してもらった上で、必要に応じて意見をもらいます。データでの共有でも問題ありませんが、産業医に安全衛生委員会に出席してもらうと、その場で質問ができます。

さらに、質問だけでなく、構成員全員に意見や助言を聞いてもらえるので、出席してもらうメリットは大きいといえるでしょう。

可能であれば日程を再設定する

他の構成員の日程調整ができるのであれば、産業医が出席可能な日で日程を再設定することをおすすめします。安全衛生委員会の目的を考えると、やはり産業医には出席してもらいたいところです。

構成員である以上、安全衛生委員会にとって必要な存在なので、全てのメンバーが揃うことが望ましいといえます。

まとめ

産業医に安全衛生委員会に参加してもらうことは、従業員の安全や健康の面を守ることはもちろん、長期的に見て事業所を守ることにつながります。

事業所が努力していても、専門家にしか気づけない問題点や、専門家だからこそ見える課題もあるでしょう。

専門家でもあり、第3者でもある産業医に意見や助言をもらうことで職場環境の「維持・改善・向上」ができ、事業所の発展にもつながります。

安全衛生委員会の目的を把握し、産業医の参加を促すことは事業者の責任であり「名義貸し」状態になっていると罰則も発生するので、企業にとってはマイナスになってしまいます。

反対に、今後ますます増えるであろう健康問題への取り組みは、企業のイメージ向上にもつながるでしょう。

企業と従業員にとって、より良い労働環境を整備するためにも、産業医には毎回安全衛生委員会に参加してもらいましょう。

そのお悩み、Dr.健康経営に相談してみませんか?

「従業員数が初めて50名を超えるが、なにをしたらいいかわからない…」
「ストレスチェックを初めて実施するので不安…」

そんなお悩みを抱える労務担当者の方はいませんか?
Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

関連記事