産業医の役割・選任

産業医が必要な「事業場」の定義とは?規模ごとの条件や届出を解説

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更新日:2023.07.18

従業員の健康維持や快適な職場環境を維持するため、常時50人以上の事業場(事業所)では産業医を選任しなければいけないと法令で定められています。

しかし、「事業場の定義がよくわからない」と、自社に産業医の選任義務があるかどうかを疑問に思う経営者は決して珍しくありません。

そこで本記事では、産業医の選任が必要になる事業場(事業所)について解説します。法令を遵守して健康経営を推進するためにも、正しい事業場の定義を理解しておきましょう。

産業医の選任が必要になる事業場とは?

まずは、産業医の選任が必要になると定められている事業場の条件をみてみましょう。

常時50人以上の従業員がいる事業場は産業医が必要

労働安全衛生法 第13条と労働安全衛生法施行令 第5条では、「常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、産業医を選任する必要がある」と定めています。また、選出するときや変更を行うときには、所轄の労働基準書への届け出が必要です。

「常時50人以上の労働者」とは、すべての従業員のことです。勤務時間や雇用形態、契約期間にかかわらず従業員としてみなされるため、社員はもちろんアルバイトや派遣社員、嘱託社員なども全て含まれます。

なお、常時使用する従業員の数は、企業ではなく「事業場」単位でカウントされます。間違えやすいため注意しましょう。

従業員が50人未満の事業場の注意点

従業員が50人未満の事業場では、産業医の選任義務は発生しません。

しかし、労働者の健康管理等を行うことは事業主の義務です。そのため、医学に関する必要な知識を持っている医師などに、労働者の健康管理を行わせるように努めなければいけないとされています。

また、従業員が10~49人の事業場では、安全衛生推進者もしくは衛生推進者の選任が必要であると定められています。

なお、安全衛生推進者や衛生推進者は、人事や総務といったほかの業務と兼任することが可能です。漏れている企業も多く見られるので、忘れずに選任しておきましょう。

産業医選任における事業場の定義とは?

産業医の選任基準は「事業場単位の従業員数」ですが、この「事業場」という言葉の定義がわかりにくいと考える方は多いかもしれません。

事業場の定義を知らなければ、自社に産業医が必要かどうかを正しく判断することは難しいものです。ここでは、事業場について詳しくみてみましょう。

事業場の定義

労働安全衛生法や労働基準法で定義されている事業場とは、「同一の住所で従業員が働いており、組織として独立して業務を行っている場所」を指します。

つまり、社内の人間が同じ場所で働いている場合は1つの事業場、地理的に離れている場合は別の事業場ということになります。

文言だけを見ると判断基準は非常にシンプルですが、実務上では同一の事業場かどうか判断がつきにくいケースは多いものです。例外的な判断も存在しているため、自社がどのように扱われるのかをしっかりと把握する必要があります。

同一の事業場として定義されるケース

ここからは、ケース別に事業場の分類をみてみましょう。

たとえば、以下のようなケースは同一の事業場として判断されます。

  1. 同じ敷地内に複数の事業場がある場合
  2. 同じビル・同じフロアに別の事業場がある場合
  3. 同じビルの複数フロアに事業場がある場合
  4. 本社の近くに小さな営業所がある場合
  5. 在宅勤務の場合

1~3の場合は住所が同じになるため、1つの事業場として数えます。

また、本社の近くに著しく小さな事業場がある場合は、事業場としての独立性が低いと判断され、本社とまとめてカウントされることがあります。判断が難しいケースなので、不安であれば所轄の労働監督基準所に確認しておくと安心でしょう。

在宅勤務の場合、自宅を独立した1つの事業場として取り扱うことは難しいと判断されます。そのため、所属している営業所などと一括して1つの事業場として取り扱われます。

別の事業場として定義されるケース

以下のようなケースでは、別の事業場であると判断されます。

  • 住所が違い、同じ業務を行っている場合
  • 同じ敷地内にあるが、事業内容が著しく異なる
  • 同じビルにA社と完全子会社であるB社が入居している場合

業務内容が同じであっても、住所が異なる営業所がある場合は、別の事業場として数えられます。

反対に同じ住所であっても、一方は医療機関で一方は飲食店など、事業内容が著しく異なる場合は、別の事業場となります。また、親会社と子会社が同じ住所内に入居している場合も、法人が別であれば、異なる事業場として扱われる点に注意しましょう。

産業医の人数と種類は事業場ごとに異なる

産業医を選任するときは、事業場の規模ごとに必要な人数と種類にも気をつける必要があります。

労働者数 有害業務に従事する事業場 その他の事業場
1~49人 医師等による健康管理
(努力義務)
医師等による健康管理
(努力義務)
50~499人 産業医(嘱託可) 産業医(嘱託可)
500~999人 産業医(専属) 産業医(嘱託可)
1,000~3,000人 産業医(専属) 産業医(専属)
3,000人超 2人以上の産業医(専属) 2人以上の産業医(専属)

“出典:公益社団法人 東京都医師会産業医とは」”

有害業務に従事する事業場とは、労働安全衛生規則 第13条第1項第2号で定められている業務を行う事業場のことです。たとえば、化学薬品を取り扱う事業場や異常気圧下における業務を行う事業場などが含まれます。

また、産業医には「嘱託」と「専属」の2種類があります。嘱託とは、日常診療の傍らなどに産業医の仕事を担っている非常勤の産業医のことです。専属とは、事業場に常勤している産業医のことです。

このように、取り扱う業務や事業場の規模によって、産業医の人数と種類は異なります。自社の事業場規模とともに、必要な産業医の条件についても把握することが大切です。

産業医の事業場兼任は可能?

産業医を選任するときに気になるのが、「事業場を兼任してもいいのか」というポイントでしょう。なかには、事業場ごとに異なる人材を選任することを手間に感じたり、信頼できる1人の産業医に全て任せたいと考えたりする企業もあるかもしれません。

ここでは、産業医の事業場兼任について解説します。

条件を満たせば産業医の事業場兼任は可能

専属の産業医が不要な事業場(非専属事業場)においては、産業医の事業場兼任は可能です。では、専属の産業医が必要な事業場ではどうなのでしょうか。

結論から言いますと、以下の条件を満たせば産業医の兼任が可能であるとされています。

  • 兼任先の事業場が非専属事業場であること
  • 兼任する事業場の労働衛生管理が相互に密接・関連して行われていること
  • 労働の態様が類似していること
  • 非専属事業場への訪問回数や移動時間が職務に支障を与えないこと

“出典:厚生労働省基発0331第5号「専属産業医が他の事業場の非専属の産業医を兼務することについて」の一部改正について」”

大切なのは、「複数の事業場を兼任することで業務遂行に支障が生じないこと」です。そのため、兼任は多くても2~3事業場ほどに収めることが現実的であると考えられます。

事業場の兼任ができないケース

前項で紹介した条件を満たしていても、兼任ができないケースがあります。

それは、「対象労働者数が3,000人を超えてしまう場合」です。対象労働者が3,000人を超えてしまうと、産業医業務に支障が出る可能性があります。

また、法人の代表等が自らの事業場の産業医を兼務することはできない点についても理解しておきましょう。これは、労働者の健康管理と事業経営上の利益が一致しない可能性があるためです。

珍しいケースではありますが、医療系の会社を経営している方は十分に注意してください。

事業場における産業医選任の届出と罰則

先述してきたように、常時50人以上の従業員が所属している事業場は産業医を選任して届出を出す必要があります

もしも、この義務を果たさなかった場合はどうなってしまうのでしょうか。ここでは、事業場における産業医選任の届出と罰則について解説します。

産業医を選任した事業場は届出が必要

労働安全衛生規則 第13条では、常時使用する従業員が50人に達したタイミングから、14日以内に産業医を選任しなければいけないと定めています。

さらに、「産業医選任報告書」を作成し、必要書類を揃えて所轄の労働基準監督署へ提出しなければいけませんなお、欠員が出た場合や交代した場合も、同じように14日以内に産業医を選任し、届出を行う必要があります。

産業医の選任を行わなかった場合の罰則

産業医の選任義務がある事業場であるにもかかわらず選任を行わなかった場合は、労働安全衛生法違反となり罰則が科されます。同法 第120条には、産業医の選任義務に違反していると判断された場合、50万円以下の罰金に処すと定められています。

産業医の選任基準に勤務形態は影響しません。たとえ、社員が数人でアルバイトやパートの方が多い事業者であっても義務は発生します。

産業医選任以外にも!50人以上の事業場における義務

常時使用する従業員が50人以上の事業場には、産業医の選任以外にも多くの義務が発生します。ここでは、知っておきたい3つの義務について説明します。

健康診断の結果報告

労働安全衛生法では、事業主に対して従業員に健康診断を受けさせることを義務付けています。

従業員が50人以上の事業場になると、健康診断の実施に加え、結果の報告義務も課されます。健康診断を実施したあとは、産業医が内容を確認し、所轄の労働基準監督署へ報告しなければいけません。

また、健康診断の結果に異常がみられた従業員に対しては、面談を行います。仕事や生活に関するアドバイスをするほか、就業継続の可否について判断することもあります。

ストレスチェックの結果報告

ストレスチェックとは、従業員に質問票へ回答してもらい、ストレスの状態について把握する検査のことです。従業員が50人以上の事業場には、ストレスチェックを実施する義務が生じます。

ストレスチェックを実施するときは、産業医が検査や結果の確認を行うことが一般的です。ストレスチェックの結果も健康診断と同様に、労働基準監督署へ提出することが義務付けられています

検査の結果、高ストレスであると判断され、なおかつ希望がある従業員に対しては面談を実施します。

衛生委員会の設置と衛生管理者の選任

衛生委員会とは、事業場の衛生に関する事柄を調査し、事業者に意見を伝えるための場です。従業員が50人以上の事業場では、衛生委員会の設置が義務付けられており、違反した場合は50万円以下の罰金が科されます。

衛生委員会は、産業医や衛生管理者などを構成員として含めなければいけません。衛生管理者は誰でもいいというわけではなく、資格試験に合格して免許を取得した人を選任する必要があります

産業医はどこにいる?探し方をチェック

企業が産業医を選任するときは、労働安全衛生規則によって定められた要件を満たす人材を探さなければいけません。産業医になるためには厳しい要件があるため、一般的な臨床医を探すよりも難しいといわれています。

産業医の探し方としては、以下のような方法が挙げられます。

  • 医師会に相談する
  • 健康診断を行っている医療機関に相談する
  • 近隣の医療機関に相談する
  • 産業医サービスを利用する

地域の医師会や医療機関、健康診断を行っている医療機関などに相談するのがもっとも手軽な方法です。

また、産業医の派遣を専門としているサービスを利用することもおすすめです。産業医専門のサービスなので、各事業場や業務の特色に合った人材を派遣してもらえます。プロに従業員の健康維持や職場改善を行ってもらえるため、より健康経営に役立てられるでしょう。

まとめ

常時使用する従業員が50人以上となる事業場は、14日以内に産業医を選任しなければいけないと法令で定められています。ここでいう事業場とは、「同一の住所で従業員が働いており、組織として独立して業務を行っている場所」のことです。

ただし、同一の住所で働いていても別の事業場として扱われるケース、別の住所で働いていても同一の事業場として扱われるケースもあります。「自社はどうなのかな」と判断に迷ったときは、労働基準監督署に確認を取ることが大切です。

事業場において産業医の選任義務が発生したら、ぜひDr.健康経営までご相談ください。1社1社に最適な産業医を選任し、健康経営をサポートいたします。

そのお悩み、Dr.健康経営に相談してみませんか?

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Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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