産業医の役割・選任

産業医の勧告権とは?勧告を無視するとどうなる?

日付
更新日:2023.07.18

産業医が労働者の健康を確保するために必要と判断した場合、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることできます。

従業員の安全と健康を守るために行使される勧告権とは、内容や書式はどのようなものなのでしょうか。

本記事では、産業医から勧告を受けるまでのプロセスや、受けた後の対応勧告を無視するとどうなるのかを詳しく解説します。

また、勧告を受けないための産業医選びについても触れているので、ぜひ参考にしてください。

産業医の勧告権とは

産業医の勧告権について、労働安全衛生法第13条3項及び4項にて、以下の通り定められています。

  • 3項:産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し、労働者の健康管理等について必要な勧告をすることができる。
  • 4項:事業者は、前項の勧告を受けたときは、これを尊重しなければならない。

“出典:厚生労働省産業医の関係法令」”

労働安全衛生法で定められている通り、産業医が従業員の健康を守るために必要であると判断した場合には、事業者に対しての勧告が可能です。

それ以外にも、労働安全衛生規則14条3項および4項に定められている通り、産業医には指導・助言権もあります。

  • 3項:産業医は、第1項各号に掲げる事項について、総括安全衛生管理者に対して勧告し、又は衛生管理者に対して指導し、若しくは助言することができる。
  • 4項:事業者は、産業医が法第13条第3項の規定による勧告をしたこと又は前項の規定による勧告、指導若しくは助言をしたことを理由として、産業医に対し、解任その他不利益な取扱いをしないようにしなければならない。

“出典:厚生労働省産業医の関係法令」”

一般的には、いきなり勧告を受けるのではなく、助言・指導からの勧告という流れになります。

勧告の具体的な内容や流れ

産業医に勧告を受ける場合、突然勧告を受けるのではなく、まずは助言・指導を経て、職場環境の見直しをすることが一般的です。

具体的な勧告までの流れや、勧告の内容を詳しく解説します。

勧告の内容とは

産業医が、従業員の健康管理において、必要だと判断した場合に勧告が行われます。勧告される内容としては以下の事例があげられます。

  • ・長時間労働が数ヶ月続き、上司に繰り返し指導したが改善されない場合
  • ・従業員の業務量が増大し、業務の負荷により、メンタルヘルス不調者が続出している場合
  • ・特定の薬剤や設備などの職場環境により、従業員の健康被害が発生しそうな場合

長時間労働に対する面接指導が実施されていない場合や、職業性の疾病予防の観点から、従業員の健康を守るために不適切な職場環境であると判断された場合にも、産業医から勧告を受けます。

産業医が事業所に勧告する際、書式は決まっておらず、口頭での勧告でも差し支えはありません。

しかし、産業医と事業者の認識のずれをなくし、正確に伝えるためには、書面で残すことが望ましいといえます。

勧告を受けた後に衛生委員会でも共有し、受けた内容や対応の記録を3年間保存する必要があるため、勧告は書面での提出を求めるべきでしょう。

勧告を受けるまでの具体的な流れ

緊急の場合を除き、産業医は、勧告する前に事業者に助言・指導を行います。

しかし、産業医が助言・指導したにもかかわらず、一向に改善が見られない場合、従業員の命や健康を守るために、産業医が勧告という手段を取ります。

勧告までは、段階的な対応が必要で、いきなり行使されるものではなく、特別な場合に使われる手段といえます。

そのため、日頃から事業所の職場環境や従業員の労働時間など、健康管理において気になる点について、事業者と産業医で意見を交換し合う関係が理想的です。

産業医と協力し、職場環境を適宜見直していれば、勧告が行われることは通常ありません。

産業医の勧告権の強化

働き方改革関連法の成立により「労働安全衛生法」ならびに「労働安全衛生規則」が改正されました。

それにともない「政策法制度委員会」において、産業医の勧告権の強化について議論されています。

背景としては、産業医から事業者にとって不都合な勧告を受けた際、事業者側が産業医を解任するケースがあり、従業員の健康管理を行うという本来の目的が果たせない状況が発生したためです。

長時間労働や、適切な職場環境ではないことを知りながら、産業医が事業者に忖度することは、決してあってはなりません。

従業員の過剰労働により、健康や命に影響が出てからでは遅いので、産業医には真摯で適切な対応が求められています。

産業医から勧告を受けた後の対応とは

産業医から勧告を受けた場合、勧告内容を衛生委員会で共有し、関係者の理解を求めます。

勧告内容を共有する際、特定の従業員に関する勧告であれば、個人情報に配慮しなければなりません。

勧告を受けたあとは、職場の環境または従業員の健康管理の面で改善すべき点を見直し、対応していきます。

特定の従業員に関する勧告であった場合、当該従業員が不利益な扱いを受けないよう、個人情報保護に関する社内規定も見直す必要があるかもしれません。

勧告を受ける前から受けた後の対応など、すべて書面で記録しておかなければならず、3年間の保存が求められます。

産業医からの勧告を無視するとどうなる?

過重労働とは?長時間労働との違いや起こり得るリスク・企業の取り組み事例などを解説

産業医から勧告を受けたにもかかわらず無視した場合、労働安全衛生法違反により、罰則もしくは懲役が課されます。

さらに、従業員の復職の可否については産業医が判断し、事業者側が産業医の判断を無視した場合にも、罰則または懲役となります。

従業員の安全や健康を守るため、産業医と事業者はともに歩み寄り、コミュニケーションを取りながら職場環境を整えていく関係です。

前述した通り、産業医からいきなり勧告を受けることはなく、勧告は産業医の意見や助言を聞き入れない場合の特別な対応です。

無視して何らかのトラブルが発生した場合、社会的な企業のイメージの低下にもつながるので、勧告を受けた場合は早急に改善に努めましょう。

勧告権を乱発する産業医に注意!

一般的には、勧告に至るまでに事業者に意見や助言をし、それでも改善されない場合、もしくは事業者が聞き入れない場合に勧告という手段をとります。

あくまで勧告は最終手段として使われますが、なかには段階を踏まずに、勧告を乱発してしまう産業医がいるようです。

勧告は目的ではなく、従業員の安全と健康を守るための手段なので、その点を理解した産業医であるかを見極めることも必要です。

一方、産業医が事業所からの解任を恐れて意見しないという状況を回避する目的で、安全衛生基準法では、以下の通り定められています。

安全衛生基準法14条

  • 4 事業者は、産業医が法第13条第3項の規定による勧告をしたこと又は前項の規定による勧告、指導若しくは助言をしたことを理由として、産業医に対し、解任その他不利益な 3 取扱いをしないようにしなければならない。(第 5 項以下略)

“出典:厚生労働省産業医の関係法令」”

法令で定められている通り、事業者の不利益を理由による産業医の解任はできません。選任後は安易な解任ができないため、根拠を示して段階を踏んだ対応ができる産業医であるかを見極めることが重要です。

産業医と契約する際には、契約前に産業医の人柄なども確認しておきましょう。

まとめ

従業員にとって安全で、健康管理が行き届いた職場であれば、産業医から勧告を受けることはありません。そのため、従業員の健康や命を守るためには、数ヶ月におよぶ長時間労働や、健康を害する作業環境は見直すべきでしょう。

従業員にとって働きやすい職場環境を整えるためには、適切に意見や助言のできる産業医選びが重要なポイントです。

Dr.健康経営では、事業者と従業員に寄り添い、臨機応変に対応できる質の高い産業医を紹介しています。

産業医選びに悩んでいる人や、どこに相談したらいいかわからない人は、まずは問い合わせだけでも、気軽にご連絡ください。

そのお悩み、Dr.健康経営に相談してみませんか?

「従業員数が初めて50名を超えるが、なにをしたらいいかわからない…」
「ストレスチェックを初めて実施するので不安…」

そんなお悩みを抱える労務担当者の方はいませんか?
Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

関連記事