健康経営・職場改善
健康経営優良法人認定に必要な費用は?2023年からの変更点も解説
健康経営優良法人を目指す企業が増えています。しかし、認定を目指したはいいものの、必要な費用に頭を抱える企業も存在するでしょう。2023年からは申請料も発生することになりました。
健康経営優良法人として認定してもらうには、認定要件を理解し、要件を満たす取り組みをする必要があります。
この記事では、健康経営優良法人を目指すうえで必要な費用や認定制度、健康経営優良法人2023からの変更点について解説します。
目次
健康経営優良法人とは
近年、注目されている経営手法のひとつに「健康経営」が挙げられます。健康経営とは、アメリカの心理学者「ロバート・H・ローゼン」が提唱した概念で、従業員の健康補助を経営戦略のひとつと捉え、その取り組みを業績向上につなげる手法です。
従業員の健康が企業にとって重要な経営資源であると考え、従業員の健康が保てれば、おのずと生産性向上につながるという考え方です。この考え方は、2009年頃から日本でも広まりだし、2016年に経済産業省より「健康経営優良法人制度」が創設されました。
健康経営優良法人認定制度とは、従業員の健康課題に対する取り組みを実施している企業を、優良企業として認定するものです。認定されれば「健康経営優良法人」ロゴマークを使用できます。
なお、健康経営優良法人は、大規模法人部門と中小規模法人部門に分けられており、大規模法人部門の上位500社は「ホワイト500」、中小規模法人部門の上位500社は「ブライト500」としてさらに高い評価を得られます。
健康経営が注目される背景
日本では、高齢化社会による人材不足により「人生100年時代」「生涯現役」という言葉が聞かれるようになってきました。
これは、定年年齢の延長を意味しており、そのためには、従業員の健康に配慮した働き方に取り組む必要がでてきました。
また、働き方改革に伴い、企業には労働時間の削減や業務効率化も求められています。健康経営への取り組みは、企業存続に欠かせないものになってきたのです。
健康経営優良法人の認定フローと認定要件
健康経営優良法人は、健康経営優良法人認定事務局ポータルサイトにて申請できます。
ただし、健康宣言事業への参加が必要です。また、大規模法人部門と中小規模法人部門では、認定要件は共通しているものの、項目や認定条件が異なります。
ここでは、中小規模法人部門の健康経営優良法人の認定フローと認定要件について解説します。
中小規模法人部門の認定フロー
中小規模法人部門の健康経営優良法人の認定フローは、以下のとおりとなっています。
-
- 1.加入済保険者の健康宣言事業に参加する(協会けんぽ、国保組合など)
- 2.健康経営優良法人認定事務局ポータルサイト「ACTION!健康経営」より、健康経営優良法人認定申請書に回答する
- 3.認定委員会による審査を受ける
- 4.調査内容をもとに日本健康会議により選考される
例年では、8月下旬〜10月下旬までが申請期間となっており、3月頃に認定法人が発表されます。
加入している保険者が健康宣言事業を実施していない場合は、各自治体が行っている健康宣言事業への参加でも代替できます。また、保険者と自治体のいずれもが健康宣言企業を行っていない場合は、自社独自の健康宣言の実施によって代替可能です。
中小規模法人部門の認定要件
中小規模法人部門の健康経営優良法人の認定要件は、以下のとおりとなっています。
認定要件 | 評価概要 | 認定条件 | |
1.経営理念
(経営者の自覚) |
・経営者が社内外に対して健康宣言を発信しているか ・経営者が健康診断を受診しているか |
必須 | |
2.組織体制 |
・担当者を設置しているか ・40歳以上の従業員の健診データを提供できるか |
必須 | |
3.制度・施策実行 |
健康課題に基づいた具体的目標を設定しているか | 必須 | |
従業員の健康課題を把握しているか | 3項目中2項目 | ブライト500は、13項目以上 |
|
健康経営に向けた土台づくりに取り組んでいるか | 4項目中1項目 | ||
従業員の心身の健康づくりに向けた具体的な施策に取り組んでいるか | 8項目中4項目以上 | ||
受動喫煙対策に取り組んでいるか | 必須 | ||
4.評価・改善 | 健康課題の評価検証や改善に取り組んでいるか | 必須 | |
5.法令順守・リスクマネジメント |
・定期健診やストレスチェックを実施しているか ・労働基準法や労働安全衛生法などの法令を遵守しているか |
必須 |
中小規模法人部門の認定事例では、労働衛生や健康経営の専門家である産業医や産業保健師を活用しているケースがあります。中小規模法人部門の認定を得るには、専門家の指導や助言を受けるのもひとつの方法です。
健康経営優良法人を目指すには費用が必要
前述したように、健康経営優良法人として認定されるには、さまざまな取り組みをする必要があります。従業員の健康を把握し、課題に対する施策実施や、その効果がでるには半年単位や年単位の月日が必要です。
例えば、これまで定期健康診断しか健康経営に関する取り組みをしていなかった企業では、従業員の健康データを収集するための施策が必要です。自社でアンケートを実施するにしても、人件費がかかります。設備投資やツールを導入するとなると、さらに費用がかかるでしょう。
健康経営への取り組みは、将来への投資であることを理解する必要があるのです。
健康経営優良法人2023では申請料金が有料化
2022年7月、健康投資ワーキンググループにて「健康経営優良法人2023」の運営方針と認定要件の素案が公表されました。健康経営優良法人2023から変更される点は、以下の5つです。
-
- 1.申請の有料化
- 2.データ利活用の促進
- 3.中小規模法人部門(ブライト500)の選定基準
- 4.情報開示の促進
- 5.業務パフォーマンスの評価と分析
ここでは、それぞれの変更点について解説します。
申請の有料化
健康経営優良法人2023から、申請が有力化されることになりました。これまでの健康経営優良法人認定制度は、経済産業省が運営していたため、申請時に料金が発生しませんでした。しかし、2023年からは民間事業者に補助金を交付し、運営を民営化することになりました。
これは、民間事業者のアイディアを活かし、プラットフォーム構築や情報発信といったサービスを向上させることが目的です。2023年は、日本経済新聞社に運用が委託されました。運営の民営化に伴い、運営コスト回収のため、認定申請料が有料となりました。
2023年の認定申請料金は以下のとおりです。認定審査を受けるには、指定の期日内に指定口座への振込を済ませておく必要があります。
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- ・大規模法人部門:8万8,000円(税込)
- ・中小規模法人部門:1万6,500円(税込)
データ利活用の促進
データ利活用の促進に関する条件も変更されました。健診情報の活用とヘルスリテラシーの向上を目的とし、これまでの40歳以上の従業員の健診データだけではなく、40歳未満の従業員の健診データも、開示が求められるようになりました。
また、健診結果がマイナポータルで閲覧できるようになるため、保険者と連携した閲覧環境の整備や従業員への周知度も問われます。
中小規模法人部門(ブライト500)の選定基準
中小規模法人部門の上位500企業に与えられる「ブライト500」に対する評価項目も追加されました。これまでの社外への情報発信だけではなく、PDCAの取り組み状況や経営者・役員の健康経営への関与度合いについても、評価項目になっています。
また、健康経営優良法人2022に比べ、配点のウエイトも以下のように変更されています。
配点ウェイト | 健康経営優良法人2022 | 健康経営優良法人2023 |
健康経営の評価項目における適合項目数(13項目以上に対し1点ごとに加点) | ウェイト3 | ウェイト3(変更なし) |
健康経営の取り組みに関する自社からの発信状況(自社サイトへの掲載) | ウェイト3 | ウェイト2 |
健康経営の取り組みに関する外部からの委託による発信状況 | ウェイト1 | ウェイト1 |
PDCAに関する取り組み状況 | 項目なし | ウェイト3 |
経営者・役員の関与度合い | 項目なし | ウェイト1 |
情報開示の促進(大規模法人)
健康経営優良法人2023では、開示情報のさらなる活用に向けて、このフィードバックシートに定量的な項目が追加されました。ただし、対象となるのは大規模法人です。
大規模法人部門の対象企業には、健康経営調査のフィードバックシートが返却されます。シートには、健康経営度評価結果や評価の内訳が記載されており、自社の健康経営の改善に活かせるようになっています。
2022年3月には、経済産業省により、2,000法人分の評価が一括開示されました。公開されたフィードバックには、メンタルヘルス不調や女性の健康などの取り組みだけではなく、従業員間コミュニケーションやワークライフバランスの取り組み状況に関する偏差値も開示されています。
2023年からは、評価の内訳に「経営層の関与」や「施策に対する従業員の参加率」に関する定量的な情報が、認定要件に追記されました。
参考:経済産業省「令和3年度健康経営度調査に基づく2,000社分の評価結果を公開しました」
業務パフォーマンスの評価と分析(大規模法人)
業務パフォーマンスの評価と分析についての設問も認定要件に追加されました。この要件も、対象となるのは大規模法人です。健康経営による従業員の心身への影響を探るため、以下の項目の経年変化や測定方法、開示状況について問われることになりました。
-
- ・疾病による欠勤(アブセンティーイズム)
- ・健康問題によるパフォーマンスの低下(プレゼンティーイズム)
- ・ワークエンゲージメント
健康経営優良法人認定取得のメリット
健康経営優良法人認定取得のメリットには、以下の3つが挙げられます。
-
- ・ワークエンゲージメントの向上
- ・自治体や金融機関などによるインセンティブ
- ・損失の軽減
ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
1.ワークエンゲージメントの向上
従業員の健康に配慮した働き方や、健康補助となる施策の提供により、ワークエンゲージメントの向上も見込めます。ワークエンゲージメントが向上すれば、一人ひとりの生産性も向上し、ひいては業績向上にもつながるでしょう。
また、従業員だけでなく、求職者へのアピールにもなります。就職先の条件として、ワークライフバランスを重視する人が増えています。健康経営優良法人に認定されれば、ワークライフバランスを重視している企業として認知され、人材の獲得にもつながるでしょう。
2.自治体や金融機関などによるインセンティブ
健康経営優良法人に認定されると、自治体や金融機関などによるインセンティブを受けられます。具体的には以下のインセンティブがあります。ただし、自治体や銀行、保険会社によって受けられるインセンティブや条件は異なるため、注意が必要です。
インセンティブ例 | |
自治体 |
・自治体が行う公共工事 |
銀行 |
・融資優遇 |
保険会社 | 保険料の割引 |
ハローワーク | 求人票に健康経営優良法人認定取得の記載ができる |
法務省出入国在留管理庁 | 在留資格審査の手続きが簡素化される |
3.パフォーマンス損失の軽減
健康経営を推進することにより、従業員の健康状態の改善や損失の軽減につながります。従業員の健康状態が良好であれば、パフォーマンスを引き出しやすい状態になっているといえます。
しかし、従業員が健康面の理由により欠勤した場合や、出勤していても健康問題により業務効率が落ちている場合、従業員のパフォーマンスを引き出している状態とはいえません。パフォーマンスを損失している状態と捉えられます。
健康経営により、従業員の健康を良好な状態に保ち続ければ、パフォーマンスの損失を抑えることにつながるのです。
健康経営に取り組む際のポイント
健康経営に取り組む際のポイントとして、以下の5つが挙げられます。
-
- ・会社として取り組む
- ・運営組織体制を整備する
- ・健康課題を導き出し、施策を実施する
- ・定期的に改善する
- ・助成金を活用する
ここでは、健康経営に取り組む際に押さえておきたいポイントについて解説します。
1.会社として取り組む
企業理念に沿った健康経営理念を定め、経営層から社内外に発信することが大切です。よくある失敗例として、健康経営の推進に対し、経営層が腑に落ちておらず、人事評価基準が現場と経営層で異なるケースがあります。
このような失敗を避けるためにも、経営層自らが健康経営について納得し、会社として取り組むことが大切です。経営層が企業としての健康経営に対する考え方を明確にすることにより、企業として取り組むことが従業員に伝わります。
健康経営に取り組む意思表示である「健康企業宣言」をすることも、ひとつの発信方法です。健康経営理念は、健康経営の目的が企業の持続的成長につながっていることが大切です。
2.運営組織体制を整備する
健康経営では、産業医や産業保健スタッフ、健康保険組合、従業員が連携したうえで取り組める体制を整備する必要があります。外部と連絡をとる機会が多い人事部のような既存部署内で体制をつくるケースや、健康経営専門の部署をつくるケースがあります。どちらのケースでも、担当者を配置することが大切です。専任でも兼任でも構いません。
ただし、担当者は健康経営を推進するためのスキルや知識を持っている必要があります。担当者に対し、健康経営に関する研修の実施をするほか、専門の資格を保有する人材を採用するのもひとつの方法です。関係者が連携し、PDCAサイクルを回しながら推進できる体制を整えましょう。
3.健康課題を導き出し、施策を実施する
健康経営を推進するうえでは、自社の従業員従業員の健康状態を把握し、どのような課題があるのかを理解しておく必要があります。ストレスチェックや健康診断などのデータを活用し、長時間労働と医療費との関係を分析したり、アンケートにより健康状態や不調と感じていることを把握したりします。
それにより「プレッシャーによりメンタルヘルス不調が増えた」「長時間労働により、腰痛になった人が多い」といった課題がみえてくるでしょう。課題を導きだしたら、具体的な健康経営の目標や取り組む施策を計画し、実施します。
実施する施策は、職場環境や働き方だけでなく、従業員の個人的な悩みを解決するような取り組みも有効です。例えば、職場環境でいえば社内食堂の整備や禁煙ルールの明確化などが挙げられます。
働き方でいえは、⻑時間労働の抑制や従業員の有給休暇取得の促進なども挙げられるでしょう。従業員の個人的な悩みを解決するような取り組みとしては、契約した産業医から健康に関する情報提供を得る場を提供したり、フィットネスクラブと法人契約し、運動の機会を提供したりすることも良いでしょう。
ただし、企業側が率先して実施することが大切です。働き方の取り組みであれば社内のルールとして制度化することも有効です。自社の健康課題を解決できるような取り組みを検討しましょう。
4.定期的に改善する
健康経営への取り組みは、実施すれば良いわけではありません。取り組みの効果を評価し、改善を繰り返すことが大切です。そのためには、施策の計画時に評価指標を定める必要があります。評価指標はできるだけ定量的なものにしましょう。
例えば、毎日の歩数や血圧などのバイタルデータは、効果測定に有効です。PDCAサイクルをまわしながら施策を推進しましょう。
5.助成金を活用する
健康経営を推進するには、健康情報の収集や分析、管理などコストが必要です。施策実施に必要なコストを理由に、健康経営に踏み切れない企業もあるでしょう。そのような企業を支援する制度として、助成金があります。
助成金を活用することにより、コストを抑えて健康経営を推進できます。助成金を受給するには条件があるものの、その条件は、健康経営優良法人の認定項目と重なる部分があるため、助成金受給のための取り組みをする必要はありません。
コストを有効活用するためにも、助成金を活用すると良いでしょう。
まとめ
健康経営優良法人認定制度とは、健康課題に取り組んでいる企業を、優良企業として認定するものです。健康経営優良法人は、ポータルサイト「ACTION!健康経営」にて申請できます。健康経営優良法人は、大規模法人部門と中小規模法人部門に分けられており、認定要件は共通しているものの、項目や認定条件が異なります。
健康経営優良法人として認定されるには、費用が必要です。従業員の健康を把握し、課題に対する施策実施や、その効果がでるには半年単位や年単位の月日が必要です。健康経営への取り組みは、将来への投資ということを理解しなければなりません。
健康経営優良法人認定取得のメリットには、ワークエンゲージメントの向上や自治体や金融機関などによるインセンティブ、損失の軽減といったメリットがあります。ただし、以下のポイントを抑えたうえで取り組むことが大切です。
-
- ・会社として取り組む
- ・運営組織体制を整備する
- ・健康課題を導き出し、施策を実施する
- ・定期的に改善する
- ・助成金を活用する
自社の健康課題を把握し、その課題を解決するような取り組みをしていきましょう。健康経営に取り組む際に助けとなるのは、産業医の助言です。産業医の導入を検討しているのであれば、まずはDr.健康経営にお気軽にご相談ください。
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