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中小企業も対象になったパワハラ防止法とは?企業が行うべき措置や有効な対策を解説

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更新日:2023.02.24

パワハラ防止法の施行により、企業に対してパワハラ防止措置の実施が義務化されました。同法案の成立には、パワハラが社会問題として注目されつつあります。

本記事ではパワハラ防止法の概要や対象、パワハラの定義、パワハラ防止法に違反した場合について解説します。企業として気を付けたいことも紹介するので、パワハラ防止や労働環境改善、パワハラ防止法について理解を深めるための参考にしてください。

パワハラ防止法とは?

本章では、パワハラ防止法の概要や成立した背景、パワハラ防止法の対象企業について解説します。

パワハラ防止法の概要と背景

パワハラ防止法は企業でのパワハラ(パワーハラスメント)の解消を目的として、2019年に成立し、2020年6月に施行されました。パワハラ防止法により大企業では2020年6月1日から、中小企業では2022年4月1日からパワハラ防止措置の実施が義務化されています。

これまではパワハラについて法的な取り決めがなく、パワハラ対策は各企業に任されていました。しかし、職場での対人関係による労働環境の悪化が社会問題化していることを受け、パワハラ防止法が成立しました。同法案によって初めてパワハラが法的に定義され、パワハラ防止のための雇用管理上の措置が企業の義務になったのです。

中小企業もパワハラ防止法の対象に

前述のとおり、2022年4月から中小企業でもパワハラ防止措置の実施が義務となりました。パワハラ防止法には罰則規定がありませんが、パワハラ防止措置を怠ると行政より指導や勧告を受ける可能性があります。具体的には、パワハラ被害の相談窓口の設置・運営が適切ではない場合やパワハラ被害者を解雇した場合などが該当します。

なお、中小企業の定義については、原則として以下のように定められています。
・資本金または出資の総額が3億円以下、または常時従業員300人以下の製造業その他
・資本金または出資の総額が1億円以下、または常時従業員100人以下の卸売業
・資本金または出資の総額が5千万円以下、または常時従業員50人以下の小売業
・資本金または出資の総額が5千万円以下、または常時従業員100人以下のサービス業
※ 出典:中小企業庁「中小企業・小規模企業者の定義」

パワハラ防止法~気を付けるべき基準


ある言動がパワハラに当たるかどうかは3つの基準によって見分けられます。優越的な関係を背景としている、業務上必要な範囲を超えている、労働者の就業環境が害されているといった基準をすべて満たすものはパワハラとみなされます。

※ 出典:厚生労働省|雇用環境・均等局「パワーハラスメントの定義について」

①優越的な関係を背景とした言動

優越的な関係を背景とした言動とは、業務を遂行する際に言動を受ける労働者が行為者とされる上司などに対して抵抗や拒絶ができない関係を背景として行われることです。

優越的な関係の典型例は、上司と部下、先輩と後輩など職務上の地位に差がある関係が考えられます。ただし、職場での上下関係に限らず、業務上不可欠な知識や経験の有無による優劣、集団であることの優劣によっても優越的な関係が生じることがあるため注意が必要です。

②業務上必要な範囲を超えた言動

業務上必要な範囲を超えた言動とは、上司や事業主などの言動が明らかに業務上必要でなく、ふさわしくない様子を指します。

したがって、業務に関する適切な指示や指導はパワハラに該当しません。ただし、労働者に問題行為があり指導する必要があっても、人格を否定するような発言をすればパワハラに該当します。

具体的には、注意をしても業務の改善が見られない部下に対して「親の育て方が間違っている」「病気じゃないのか」など業務の遂行と関係なく人格を否定するようなケースです。

③労働者の就業環境が害される言動

労働者の就業環境が害される言動とは、上司などの言動によって労働者が心身に苦痛を与えられ労働者の就業環境が悪くなることです。

この判断に当たっては、平均的な労働者の感じ方を基準とする必要があります。つまり苦痛を受けた労働者の感じ方だけでなく、社会一般の労働者が同様の状況で同じような言動を受けた場合、業務を遂行する上で支障を感じるかなども基準になります。言動の頻度や継続性なども判断基準の一つです。

パワハラ行為の主な種類

パワハラ行為の主な種類
パワハラ行為の代表的なものとして、以下の6つの類型があります。

身体的な攻撃
(暴行・傷害)
殴る・物を投げる・掴みかかるなど
精神的な攻撃
(脅迫・名誉毀損・侮辱・暴言)
人格を否定するような発言をする・必要以上の長時間の叱責を行う・他の労働者の前で罵倒するなど
人間関係からの切り離し
(隔離・仲間外れ・無視)
意味のない別室に隔離する・集団で無視する・業務上の協力を拒否する・悪い噂を流すなど
過大な要求
(明らかに不要なことの強制・遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)
多すぎる業務量を押し付ける・達成不可能なノルマを押し付ける・業務とは関係ない私的な雑用を強制する・新人に対して必要な教育をせずに高い業績目標を課すなど
過小な要求
(能力とかけ離れた程度の低い仕事を命じること・仕事を与えないこと)
役職にそぐわない雑用を任せる・自主退職を促すため労働者に仕事を与えないなど
個の侵害
(プライバシーに過度に立ち入ること)
病歴などのセンシティブな情報を他の労働者に公開する・スマートフォンや私物を勝手に見る・休暇の理由を執拗に尋ねる・業務外でも労働者を継続的に監視するなど

※ 出典:厚生労働省「事業主の皆さまへNOパワハラ」

パワハラ防止法を守るために企業がするべき措置

パワハラ防止法によって企業には主に4つの義務が課せられています。4つの義務とは、事業主としての方針を周知すること、従業員が相談しやすい体制を整えること、パワハラに対し迅速な対応をすること、相談者や行為者のプライバシーを保護することです。

※ 出典:厚生労働省「パワハラ防止指針」

1.事業主としての方針を周知する

事業主としてまずはパワハラを規制する旨やどのような言動がパワハラに当たるのかなどの方針を明確にし、従業員に対して周知や啓発を行うことが大切です。職場全体でパワハラへの理解を深めて認識を統一することがパワハラの発生や深刻化を抑えることにつながります。

具体的な施策としては、パワハラを禁止する旨を就業規則に記載する、懲戒規定を定めることなどが挙げられます。ただし、規定があるだけでは周知されないことも考えられるため、社内報などで積極的に啓発することも大切です。

また、研修や講習を実施することでも社内のパワハラ防止意識を高められます。パワハラが起こる原因や起こりやすくなる状況について学ぶことで従業員は自らパワハラに気付き、パワハラ防止に取り組めるようになるでしょう。

2.従業員が相談しやすい体制を整える

従業員からパワハラの相談を受けた場合、企業は事実関係を確認した上で相談者やパワハラ行為者に対して適正な措置を行うことが大切です。

パワハラ防止法ではパワハラに関する相談窓口の設置が義務化されています。大企業だけでなく、2022年4月1日からは中小企業も義務化の対象となっているため適切な対応が必要です。

なお、厚生労働省が告示しているガイドラインでは、パワハラなどのハラスメント相談窓口に関する規定が明記されています。内容としては、相談窓口を設置して労働者に周知する必要性や相談者の適切な対応などが記載されています。

相談窓口は外部機関に委託することも可能です。相談窓口の担当者に対しては相談内容や状況において適切な対応ができることを求められるため、外部機関に委託すると安心です。外部機関に委託するとメンタルヘルス対策に強い産業医などが対応してくれるケースもあります。

また、社内に直接相談窓口を設置する場合は、相談窓口の担当者に研修を行う、対応マニュアルを用意するなどの体制を整える必要があります。

※ 出典:厚生労働省「職場におけるハラスメント関係指針」

関連:【パワハラ防止】ハラスメント相談窓口の義務化とは?設置方法や流れ・社内周知の重要性を解説

3.パワハラに対し迅速な対応をする

パワハラに関する相談があった場合、企業には迅速な対応が求められます。事実関係を正確に確認し、パワハラの事実があれば被害者に対してケアを行うことが大切です。

パワハラの内容や状況によっては、被害者とパワハラ行為者の関係を改善する手助けを行う、または両者を引き離すために配置転換を行うなどの対応が必要となります。被害者の労働条件上の不利益を回復し、産業保健医などによるメンタルヘルス不調への対応も大切です。

また、パワハラの再発防止に向けた措置を講じることも必要とされています。改めてパワハラの禁止を従業員に周知するとともに、研修や講習を実施することでパワハラについての啓発を行いましょう。

4.相談者や行為者のプライバシーを保護する

パワハラ防止措置では「併せて講ずべき措置」が定められており、その中でも主なものは相談者や行為者のプライバシーを保護することです。その他には、パワハラに関して相談したこと、もしくは事実関係の確認等に協力したことを理由として解雇や不利益な扱いを受けないことが定められています。

パワハラに関わる相談者・パワハラ行為者の情報は、プライバシーに属するものとして保護対象となっています。プライバシー情報としては、性的指向・性自認や病歴、不妊治療に関してなど、センシティブな個人情報も含まれています。

適切なプライバシー保護のためには、相談窓口・担当者に対する研修の実施や、マニュアルを定めておくことなどが有効です。また、プライバシー保護のための措置を実施していることを社内報などに掲載し、周知することが望ましいとされています。

まとめ

社内のパワハラを見過ごしていると行政からの指導や勧告の対象となる恐れがあります。また、パワハラの発生は労働環境を悪化させ、従業員のパフォーマンスを低下させてしまいます。企業としてはパワハラに適切・迅速に対応することが大切です。

パワハラ解消に有効な施策として産業医の活用もおすすめです。パワハラ相談窓口を産業医に委託することで従業員にとって安心して相談できる環境が実現します。また、企業にとっては中立的で専門的な意見を取り入れられるでしょう。

社内の労働環境改善やパワハラ防止法の対策として、産業医も上手く活用してみましょう。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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