産業医の役割・選任

産業医の「名義貸し」に注意!行われる理由や企業に与えるリスク・防ぐ方法を解説

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更新日:2022.09.29

産業医の業務を適切に行わない医師を「名義貸し」や「名ばかり産業医」と呼びます。名義貸しは違法であり、企業にさまざまなリスクをもたらすため避けることが大切です。本記事では、名義貸し産業医の概要や具体例、産業医の名義貸しが行われる理由、名義貸し産業医が企業に与えるリスクなどについて解説します。あわせて名義貸し産業医を防ぐ方法も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。

名義貸しを行う産業医とは?

まずは、名義貸しを行う産業医とはどういうことを指すのかについて具体例を解説するとともに、産業医が名義貸しを行うと違法になるのかについてそれぞれ解説します。

「名義貸し」産業医の具体例

一般的に名義貸しというと他者に名義を貸し、契約上のみの名義人になることを言いますが、名義貸し産業医では意味合いが異なります。産業医として選任されているにもかかわらず、労働安全衛生法で定められた産業医としての責務を十分果たさない、書類に名前があるだけの産業医などを名義貸し産業医と言います。

名義貸し産業医のよくある行動としては、企業を訪問せず書類に押印する、企業を訪問しても職場巡回を行わず雑談だけして帰ってしまうなどです。また、ストレスチェックを実施しない、ストレスチェック後の高ストレス者に対する面接指導を行わない、メンタル面に問題を抱える従業員に対応しないといったことも考えられます。

「名義貸し」産業医は違法?

産業医の名義貸しは違法です。産業医が労働安全衛生法で定められた業務を怠った場合、労働安全衛生法違反となります。名義貸し産業医であることが発覚すれば労働基準監督署からの調査が入り、6カ月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。

また、50人以上の従業員がいる事業場では毎月1回以上、一定の条件を満たした場合では少なくとも2カ月に1回、産業医が作業場を巡回する必要があります。ある一定の条件とは事業者の同意があり、また毎月所定の情報が産業医に提供されることです。

働き方改革やメンタルヘルスの改善に注目が集まる中で、労働者の健康を守る役割の産業医が機能していないとなると、その産業医を選任した企業の社会的信用を失う可能性があります。従業員の健康を大切にしない企業というイメージが定着しないように注意が必要です。

産業医の「名義貸し」が行われる理由

産業医の名義貸しが行われる理由
産業医の名義貸しが行われる場合には、産業医に原因があるケース、企業に原因があるケース、そして産業医と企業が共謀しているケースがあります。それぞれ以下で解説します。

産業医に原因があるケース

同じ企業に長期間採用されている産業医によくあるケースは、産業医が自身の職務範囲について理解していないケースです。また、産業医側の都合で一部の業務を断ったり、忙しさを理由に企業の訪問を怠ったりするケースもあります。

近年では長時間労働や過労死が社会問題となり、産業医に求められる役割も拡大しました。2019年4月に施行された労働安全衛生法では、産業医の権限が大きくなり企業からの独立性が高まるなど、産業医の責任が大きくなっています。ストレスチェックの実施なども法令で義務化された産業医の業務の一つです。(※)

※出典:改正労働安全衛生法のポイント|東京労働局

企業に原因があるケース

産業医に原因があるケースの一方で、企業の人事担当者が産業医の職務範囲を理解しておらず、労働安全衛生法違反に気付いていないケースがあります。特に、産業医を初めて選任する場合や、産業医を選任して間もない場合では、担当者が産業医の役目について詳しく知らないことも少なくありません。

産業医の業務は職場の労働衛生環境の確認・巡回、従業員の心身の健康状態のチェック、指導や相談の受付など多岐にわたり、中には法的に義務付けられたものもあります。しかし、企業側が産業医の義務や役割を理解していなければ、たとえ産業医が十分に責務を果たしていなくても気付くことができません。

ブラック産業医について詳しくは『ブラック産業医の実態とは?企業が知っておくべきことや注意するべきことを解説』も参考にしてください。

産業医・企業が共謀しているケース

悪質なケースとしては、コスト削減のために産業医と企業がコストを抑えるために示し合わせている場合が挙げられます。産業医と示し合わせることの企業側のメリットは、相場よりも安い費用で選任義務が果たせることです。たとえ産業医が責務を怠っていても、労働基準監督署への提出書類に産業医の名義が書かれていれば、実態が発覚しない限りは安全配慮義務違反に問われないだろうという考えを持っています。

一方、産業医側のメリットは名義を貸すだけで、きちんと業務を行わずとも報酬が得られるということです。従業員の健康問題に真摯に取り組まない企業と、簡単に報酬を得ようとする産業医は双方とも意識が低く問題があるといえます。

産業医の「名義貸し」が企業に与えるリスク

義貸し産業医が企業に与えるリスク
企業が選任した産業医が「名義貸し」の状態になってしまっていると、していると、労働安全衛生法違反に基づく罰則、企業名の公表、追加調査といったリスクが発生します。企業にとって十分に注意が必要な部分なので、内容をしっかりと把握しておくことが大切です。

労働安全衛生法違反に基づく罰則(罰金)

産業医の業務の中には法的な義務として定められるものもあり、企業は産業医を選任するだけでなく業務の実施を管理することが重要です。先述のとおり、産業医が職場巡視を怠った場合は労働安全衛生法第13条第1項違反となります。したがって、職場巡回がきちんと行われていない場合、50万円以下の罰金を支払う必要があります。

また、職場巡視が適切に行われていない中で労働災害が発生すれば、企業が安全配慮義務違反に問われる恐れもあります。知らず知らずのうちに違反し罰則を受けないためにも、企業は産業医が業務を適切に実施しているか確認することが大切です。

企業名の公表

名義貸し産業医を選任していることが発覚し、労働基準監督署から指摘が入ると『労働基準関係法令違反に係る公表事案』として企業名が公表されることも考えられます。厚生労働省のホームページなどで公開されるため、企業名が公表されることによって、職場環境が整っていないブラック企業として広く認識されることになるかもしれません。社会的信用を守るためにも、産業医の選任では名義貸し産業医を避けることが大切です。(※)

※出典:労働基準関係法令違反に係る公表事案|厚生労働省

追加調査

前述したように、名義貸し産業医の選任が発覚すれば労働安全衛生法違反として、労働基準監督署からの指摘を受けることになります。また、名義貸しをきっかけに労働基準監督署の追加調査が入る可能性も高く、さらに広い範囲での捜査が行われてもおかしくはありません。

追加調査で賃金や産業代の未払い、長時間労働などが発覚すれば多額の罰金を支払うことになる可能性もあります。産業医の名義貸しにおける罰則は50万円以下の罰金となっていますが、名義貸しをきっかけにはるかに大きな罰金を受けたり、厳しい罰則が科されられたりする可能性もあるため注意が必要です。

企業にリスクを与える「産業医の名義貸し」を防ぐには?

名義貸し産業医を防ぐには、企業側が産業医についての理解を深める、依頼したい内容を産業医に伝える、そして適正に業務を遂行する産業医を選ぶことが大切です。それぞれ解説します。

企業側が産業医業務や法令についての理解を深める

名義貸し産業医を選任しないためには、企業側があらかじめ産業医の職務範囲についてしっかりと把握しておくことが大切です。特に産業医の業務の中でも、労働安全衛生法で定められている事柄については、内容や要件を正確に押さえておく必要があります。

企業側に知識がないまま産業医を選任してしまうと、その産業医が適切に責務を果たしているのかの判断ができず、たとえ名義貸し産業医だったとしても気付くことができません。企業の人事・労務を担当する方や事業者の方が産業医に関する業務についての基礎知識を身につける必要があります。

産業医に必要な役割について詳しくは『産業医に関する罰則規定とは?職場巡視の必要性や頻度などについても解説』を参考にしてください。

依頼したい内容を産業医に伝える

産業医を選任する際には産業医が必要となる理由を考えることが大切です。快適な労働環境の整備には何が求められているのか、自社の特性に合わせてニーズを洗い出す必要があります。ニーズを正確に把握できれば最適な産業医を選びやすくなるでしょう。

例えば、女性が多い企業なら女性の産業医、企業のメンタルヘルスを改善したいならメンタルケアに強い産業医を選ぶのがおすすめです。

また、自社のニーズに合った産業医を選任した後は、依頼したい業務の範囲や産業医に求めている内容を産業医にしっかりと伝えることが大切です。

適正に業務を行ってくれる産業医を選ぶ

産業医の名義貸しを防ぐには、産業医選びが重要です。従業員の健康管理などを行うために必要な医学的知識を備え、必要な指導や対応を行ってくれる産業医を選任しましょう。産業医が実施すべき業務は職場巡視、従業員との面談、健康診断結果やストレスチェックの確認などです。

とくに、産業医の定期的な職場巡視は労働安全衛生法で定められているため、怠ることは認められません。その他、衛生委員会への参加は必須ではありませんが、不参加の場合は議事録を確認する必要があります。産業医を選任する前に、対応できる業務範囲を選任予定の産業医に確認しておくと安心です。

また、信頼できる産業医を選ぶことに迷ったら、産業医紹介サービスを利用する方法があります。メンタルヘルスや感染対策など、幅広い業務に対応できる産業医の中から自社に合った産業医がみつかるでしょう。

まとめ

労働環境を改善する役割を担う産業医ですが、中には適正に業務を行わない「名義貸し」の状態になっている産業医も存在します。産業医の「名義貸し」状態を続けてしまっていることは企業にとって損失です。従業員の健康が守られないばかりか、法的な罰則を受けるリスクも生じます。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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