産業保健・健康管理
新型うつの特徴とは?従来のうつ病との違いや社員への対処法も解説
近年、若い世代を中心にして増加傾向にある「新型うつ」。従来のうつ病とは異なる症状があらわれるため、うつ病だと気づかずに放置してしまう人も少なくありません。
新型うつには、特徴的な症状があります。会社全体の生産性を維持するためには、新型うつになりやすい社員の特徴を理解して、適切な対処をとらなければなりません。
そこでこの記事では、新型うつの特徴や症状、適応障害との違い、適切な対処法について紹介します。社員が快適に働ける職場環境をつくるためにぜひ参考にしてください。
目次
新型うつの特徴
従来のうつ病との違い
新型うつと従来のうつ病には、次のような違いがあります。
従来のうつ病 | 新型うつ |
自責思考 | 他責思考 |
常に気分が沈んでいる | 気分の浮き沈みが激しい |
午前中の調子が悪い | 夕方以降の調子が悪い |
休日も気分が沈んでいる | 休日は元気 |
どこにいても調子が悪い | 職場に行くと調子が悪い |
食欲がなくなる | 過食状態になる |
睡眠時間が減る | 睡眠時間が増える |
新型うつは、従来のうつ病とは異なり、他責思考になるのが特徴です。自分自身に問題があるのではなく、親や上司のせいだと主張します。新型うつは若い人に多く、年長者との人間関係構築に苦労する原因にもなりかねません。
また、従来のうつ病のように常に気分が沈んでいるわけではないため、うつだと気づきにくいのも特徴の1つです。友だちと遊んだり自分の趣味を楽しんだりするときは調子が良いものの、職場に行くと極端に気分が落ち込みます。
新型うつでは、症状が出たり消えたりを繰り返すため、反復性うつ病のように見えるのも特徴です。
新型うつが増えた背景
新型うつが増えた要因としてあげられるのが、社会が求める理想像の変化です。
以前は集団生活を大切にして、真面目に勉強に取り組んで、会社で昇進することが理想的な人生だと考えられていました。このような理想像になれないことに葛藤して、自分自身を責めてしまうのが従来のうつ病になる原因です。
一方、現在の日本では「自分らしく生きること」が美徳とされる風潮があります。特定の集団内でナンバーワンを目指すのではなく、自分の強みを活かしたオンリーワンの存在になることが現代人の理想像です。
ゆえに他人と異なるオリジナリティを発揮できているか、会社・上司が自分らしさを評価しているかに対して、本人のなかで葛藤が生まれます。その結果、脳が疲弊して新型うつの症状があらわれるわけです。
新型うつの分類
新型うつは次の5種類に分類されます。
分類 | 特徴 |
逃避型うつ病 | 失敗・挫折を恐れて抑うつ状態になる |
ディスチミア親和性うつ病 | 漠然としたやる気のなさ・疲労感が続く |
未熟型うつ病 | 人格が未熟で衝動的な言動が増える |
現代型うつ病 | 軽度で多彩な症状が見られる |
職場結合性気分障害 | 職場での過度なストレスが原因で発症する |
それぞれの特徴を解説します。
逃避型うつ病
逃避型うつ病とは、仕事におけるささいな失敗を恐れて抑うつ状態になることです。
新型うつの先駆けとなる概念で、現代型うつ病の類型と考えられています。一見すると仕事ができるビジネスパーソンでも、困難があると逃げ出したり挫折したりして、精神的に追い込まれた結果うつ状態になってしまいます。
逃避型うつ病になりやすい人は、自尊心が強いのが特徴です。周囲の人よりも自信過剰になる傾向が強く、等身大の自分と向き合うことを避ける傾向にあります。まわりから認められるために自分を取り繕った結果、本来の自分を見失うケースも少なくありません。
ディスチミア親和性うつ病
ディスチミア親和性うつ病とは、漠然としたやる気のなさ・疲労感が続く状態です。
症状が全体的にぼやけていて「なんとなくやる気が出ない」というあいまいな状態が続きます。うつ病の診断基準を満たすものの、はっきりとした症状は見られないのが特徴です。
気分変調症(ディスチミア)に似ていますが、症状が2年以上続くことは原則としてありません。漠然とした抑うつ症状を感じるものの深刻さは少なく、疲労感がある程度だと認識されがちな状態です。
発症しているのに放置した結果、長期間にわたる生産性の低下を招く原因になります。ディスチミア親和性うつ病は症状がわかりにくいため、徹底的に予防できるかどうかが重要なポイントです。
未熟型うつ病
未熟型うつ病は、仕事や人間関係における挫折がきっかけで発症する病気です。
就職や進学など、人生のステージが大きく変わるタイミングで発症しやすい傾向にあります。幼少期に庇護的な環境で葛藤なく育った人が、大きな挫折を経験することで症状があらわれます。
未熟型うつ病を発症する人は、能力があるにもかかわらず、それをコントロールするための人格が成熟しきれていません。制御しきれないエネルギーが攻撃的・批判的な言動に出てしまうのが、未熟型うつ病の特徴です。未熟型うつ病になると、不安や焦りが強くなり、衝動的な言動が増える傾向にあります。
現代型うつ病
現代型うつ病とは、内因性うつ病のなかでも症状が軽度な状態を意味する概念です。軽度で多彩な症状が見られる病気で、新型うつの代表的な病型といえるでしょう。
自己中心的な考えが強くマイペースな性格の人は、現代型うつ病になりやすい傾向にあります。高い目標を掲げようとしない、締め切りなどの制約に弱い、自責感が乏しいといった性格の人は注意が必要です。
現代型うつ病を治すためには、本人の思想を変える必要があります。抗うつ剤による対症療法ではすぐに再発してしまうため、根本的な解決には至りません。治療には長い年月が必要です。
職場結合性気分障害
長時間労働をはじめとした、職場における過度なストレスが原因で発症する抑うつ状態を、職場結合性気分障害と呼びます。
近年のIT化にともない、あらゆる業種で求められる仕事の質・スピードが高まりました。過重労働によるメンタルヘルスの不調は、現代人の心身を疲弊させる原因となっています。
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- ・残業が多く十分な睡眠時間がとれない
- ・仕事が忙しくて心が落ち着かない
- ・注意力が散漫で小さなミスが多い
このような状態にある人は、職場結合性気分障害になっている可能性が高いので注意しなければなりません。
治療には労働環境の改善もポイントになるため、産業医と連携して仕組みを整えていく必要があります。
新型うつと適応障害の違い
適応障害とは、特定の環境に属することに対して本人がストレスを感じて、気分が落ち込んだり行動に変化があらわれたりする状態です。適応障害は病気の1つとして判断されて主に薬物療法で対処しますが、環境を変えることが最も効果的だといわれています。
新型うつは、適応障害の一部と考えられています。いくつか種類はあるものの、いずれも本人の精神状態と周囲の環境が衝突して発症する病気です。
新型うつの場合は、薬の服用で症状を抑えることができるケースもありますが、環境を変えなければ根本的な解決には至りません。
新型うつに特徴的な症状
過食による体重増加
新型うつでは、過食による体重増加が見られる人が多くいます。これは気分の落ち込みや漠然とした不安から目を逸らすために生じる現象です。
過食には、何かを口にすることで気を紛らわす以外にも、脳の欲求を満たすといった目的があります。脳のエネルギー源である糖分への欲求が高まるため、新型うつ患者のなかには「甘いものをたくさん食べてしまう」と悩む人も少なくありません。
従来のうつ病では食欲不振による体重減少が多いため、鑑別診断のヒントになる症状の1つといえるでしょう。
睡眠時間が長くなる
「朝になっても起きられない」「夜にしっかり寝たのに日中も眠い」という人が多いのも、新型うつの特徴です。従来のうつ病では不眠症になる人が大半を占めていますが、新型うつでは過眠症に悩む人が多くなります。
睡眠障害国際分類によると、以下のような状態が過眠症の特徴とされています。
-
- ・睡眠を妨げる病気や極度の睡眠不足がないにもかかわらず、日中に著しい眠気があらわれる
- ・夜間の睡眠時間が長い(10時間以上)
- ・居眠りは1時間以上と比較的長く、目が覚めたときにすっきり感が乏しい
長時間眠っても熟睡感が得られずに、長い昼寝をすることで生活リズムが乱れてきます。ストレスを感じると眠気が増したり、身体が重く感じて立っているのがつらくなったりするのも特徴的な症状の1つです。
“参考:国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所「中枢性過眠症」”
感情が不安定
新型うつになると、周囲の人々の言動に敏感に反応して、感情の起伏が激しくなる傾向にあります。これは集団における役割に対して愛着がなく、物事を自分中心で考えてしまうことにより生じる症状です。
従来のうつ病では自分自身を責め続ける人が多いのに対して、新型うつでは周囲に対して反抗的な態度をとる人が多くいます。自分の思想とは異なる言動を受けた場合に強く反発したくなるのは、新型うつの特徴といえるでしょう。
抗うつ剤だけでは不十分
従来のうつ病は、過労によるストレスが原因で発症するケースが大半を占めています。そのため、十分な休養と精神を安定させる薬により症状が改善する場合がほとんどです。
しかし、新型うつは抗うつ剤だけでは不十分なケースも少なくありません。新型うつは、本人の思想と周囲の環境のギャップにより発症することが多いため、薬により一時的に回復してもすぐに再発してしまうからです。
新型うつを根本的に解決するためには、本人の考え方や所属する環境を変える必要があります。
趣味や遊びには没頭できる
従来のうつ病と新型うつでは、症状のあらわれ方にも違いがあります。
従来のうつ病では、公私を問わず気分が落ち込み、何をしても心が晴れないという人が多くいます。外に出るのも億劫で、部屋に引きこもりがちになる人も少なくありません。
一方で新型うつの場合は、本人が好きなことをしている時間は症状があらわれないという特徴があります。会社には行きたくないものの、遊びに行くことに対しては抵抗がない人も少なくありません。自分自身を中心に考えているため、趣味や遊びには没頭できるのが特徴です。
新型うつになりやすい人の特徴
新型うつになりやすい人には、次のような性格的特徴があります。
-
- ・自己愛が強い
- ・自分の都合を優先する
- ・自尊心が強く傷つきやすい
- ・責任感がない
- ・物言いがはっきりしている
このような性格的特徴がある人は、新型うつになりやすい傾向にあります。企業としては、社員一人ひとりの特徴を見極めて適切な接し方をしなければなりません。
新型うつの社員への対処法
産業医との面談をすすめる
社員が精神的な不調を訴えてきた場合には、産業医との面談をすすめましょう。
メンタル不調の原因は多岐にわたり、この時点で新型うつかどうか判断するのは困難です。まずは産業医と面談してもらい、どのような精神状態にあるのか判断してもらう必要があります。
産業医面談の内容や流れについては、以下の記事で解説しています。
本人の努力を認めてほめる
新型うつになる人のなかには、幼少期に叱られた経験が少ないがゆえに、精神的な成熟度合いが低い人も少なくありません。上司からの説教をきっかけにして症状が顕著にあらわれる場合も多いため、社員に対して注意を促す際は気をつけなければなりません。
社員に何かを伝えるときは、まずは本人の努力を認めてほめることで、信頼関係を構築することが重要です。仕事に関するアドバイスをするときも、社員の人格を否定するような発言は避けて、具体的な行動に焦点を当てたアドバイスを心がけましょう。
職場での人間関係を考慮する
新型うつの症状が出ると、周囲の社員が振り回されるリスクがあります。新型うつの社員のまわりには、一定の心理的距離を保つのがうまい社員を配置するのも大事なことです。
自己愛が強い社員同士を近づけると、お互いに反発しあって早期退職されたり、会社に不利益をもたらされたりする危険性があります。現場のマネージャーや経営陣が一丸となって職場環境を考えていかなければなりません。
本人に合う業務や職種を検討する
新型うつは、環境の変化により改善する場合がよくあります。本人に合う業務を任せたり、職種を変えたりすることで、本来の能力を発揮してもらえる可能性があるでしょう。
新型うつをなくして会社全体の生産性を上げるためには、管理職が社員一人ひとりの適性を理解することが大切です。じっくりと時間をかけて話し合い、社員の適性にもとづいた人員配置を目指しましょう。
まとめ
新型うつは、近年増加傾向にある新しい精神疾患の1つです。従来のうつ病とは症状が異なるため、発症したことに気づきにくいのが新型うつの特徴です。
過食による体重増加や睡眠時間の延長など、新型うつには特徴的な症状が見られます。新型うつになりやすい人の特徴を理解して、適切な対処を心がけましょう。
Dr.健康経営では、産業医の紹介サービスを提供しています。新型うつ対策をはじめとした、社員のメンタルヘルス改善をサポートいたしますので、お気軽にお問い合わせください。
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