メンタルヘルス・ストレスチェック

うつ病で休職するとどうなる?休職中や復帰する際に必要な企業の対応と注意点も解説

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更新日:2023.07.27

うつ病と診断された社員や、その社員を雇う企業側はどのような対応が求められるのでしょうか。特に人事担当者は、うつ病で休職する社員と面談する機会があるため、適切な対応の仕方を把握しておく必要があります。

この記事では、社員がうつ病で休職する流れや人事担当者に求められる具体的な対応、対象社員の休職中や復職する際に気をつけておくべきことを解説します。

また復職面談の確認事項や企業の事例なども紹介しているので、うつ病で休職・復職する社員へ対応する際に役立ててください。

うつ病とは

一般的にうつ病とは、食欲・睡眠欲・性欲などの意欲低下や、無気力で憂うつな状態が続いてしまう気分障害の一つです。

具体的な症状は個人差があるため一概には言えませんが、うつ病になってしまうと人との交流や仕事、家事などの社会生活がうまく送れず本人にとって苦しい状況が続きます。

うつ病の原因は、精神を安定させる働きがある脳内の神経伝達物質の減少といわれており、適切な治療を施さなければ回復しにくいです。

「無気力で何もやる気が起こらず、身体が鉛のように重たくて動けない」といった症状がみられるときは決して無理をせず、なかなか改善されない場合は休職して集中的な治療を受けることが求められるでしょう。

※参考:厚生労働省|うつ病|こころの病気について知る

こころの病気で休職する人は増えている

厚生労働省の令和2年患者調査によれば、調査日当日にうつ病を含めた気分障害で受療した患者の推計数は9万人以上(外来のみ)です。

また令和3年労働安全衛生調査によると、過去1年間においてメンタルヘルス不調で連続1か月以上の休業、もしくは退職した労働者がいた事業所の割合(複数回答)は全体の8.8%です。

この数値は令和2年の調査結果(7.8%)よりも1.0ポイント、平成30年の調査結果(6.7%)よりも2.1ポイント増加しています。

※参考:
厚生労働省|令和2年(2020)患者調査の概況
厚生労働省|令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
厚生労働省|令和2年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況
厚生労働省|平成 30 年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況

企業は適切な対応が求められる

厚生労働省の令和3年労働安全衛生調査によると、メンタルヘルス対策に取り組んでいる事業所の割合は全体の約6割を占めています

実際に取り組んでいる施策の上位5つは以下のとおりです。

取り組み内容 割合(複数回答)
職場環境等の評価及び改善
(ストレスチェック結果の集団(部、課など)ごとの分析をむ)
54.7%
健康診断後の保健指導等を通じた産業保健スタッフによるメンタルヘルス対策の実施 35.5%
メンタルヘルス対策に関する労働者への教育研修・情報提供 34.7%
メンタルヘルス対策の実務を行う担当者の選任 34.7%
メンタルヘルス対策に関する管理監督者への教育研修・情報提供 30.5%

引用:厚生労働省|令和3年「労働安全衛生調査(実態調査)」の概況

上記の表から、ストレスチェックや産業医など専門家のアドバイスを活用した職場環境の改善・メンタルヘルス対策をおこなっている企業が多いことがわかります。

また社内でメンタルヘルスに関する研修を実施し、担当者による健康増進の実行や健康意識の向上を図るケースも多いです。

社員がうつ病で休職する手続きの流れ

うつ病で休職する場合、社員側がおこなう手続きの流れを紹介します。

    • ・医療機関を受診する
    • ・診断書を提出する
    • ・就業規則の休職制度を確認する
    • ・業務の引き継ぎをおこなう

企業が手続きの流れを把握しておけば、うつ病で休職したい社員に対して適切に指示できるでしょう。

ここからは上記4つについて具体的に解説します。

1.医療機関を受診する

うつ病で休職する場合、まずは医療機関を受診します。医療機関を受診すれば休職手続きに必要な診断書を受け取れるためです。

受診時には自分がどのような状況で悩んでいるのかを具体的に伝えましょう。体調不良によって仕事や日常生活にどのような支障が出ているのかなど、医師の質問に沿って詳しく説明します。

また企業によっては産業医に相談できる場合があります。産業医とは社員が健康的に働けるよう、専門家として企業へアドバイス・指導をおこなう専任の医師です。50人以上の社員が在籍している企業であれば、1人以上の産業医の配置が義務付けられています。

かかりつけの医師がいない場合は、産業医に相談する選択肢もあります。

2.診断書を提出する

うつ病と診断されたあとは医師から診断書を発行してもらい、企業へ提出します。

診断書の内容は受診した施設によって異なるため、休職するためにも以下のような情報を記載してもらいましょう。

    • ・病名・病状(うつ病など)
    • ・受診日
    • ・症状の経過
    • ・治療方法
    • ・休職期間
    • ・必要な通院数・入院日数と間隔

記載する内容は、担当医と相談しながら決めます。

うつ病などの場合は、職場復帰に向けて企業が対応すべきことを記載してくれる場合があるため、あらかじめ相談する内容を決めておきましょう。

3.就業規則の休職制度を確認する

次に企業の就業規則に記載されている休職制度を確認します。

一般的に休職制度には以下のような内容が示されています。

    • ・休職の条件
    • ・休職期間の上限
    • ・休職中の給料
    • ・社会保険料の支払い方法
    • ・復帰するまでの連絡方法

企業によってうつ病で休職する際のルールや受けられるサポートは異なるため、あとからトラブルが発生しないように把握しておくことが重要です。

就業規則は入社時の企業冊子や、社内のポータルサイトで閲覧できます。確認方法がわからない場合は、企業の総務部や人事部に聞くことで把握できるでしょう。

関連:休職や復職に対応した就業規則とは?記載するべき項目やポイントを詳しく解説

4.業務の引き継ぎをおこなう

休職手続きをスムーズに進めるためにも、業務の引き継ぎをおこなうことが大切です。

しかし、うつ病などで体調不良を抱えている場合、業務の引き継ぎは非常に困難な場合があります。気分障害を患う人は真面目で頑張り屋なケースが多く「迷惑をかけたくない」と考えることがあるため、その分だけ無理をする可能性があるでしょう。これはうつ病を悪化させるリスクがあります。

そのため企業は社員のうつ病の症状を理解し、業務の引き継ぎよりも休養を優先させなければなりません。適切に対応することで休職者の退職を防ぎ、スムーズな職場復帰につながるでしょう。

うつ病で休職した場合に案内できる手当・支援

うつ病で休職する場合、以下の手当や支援を受けられる場合があります。

    • ・傷病手当金
    • ・労災保険
    • ・自立支援医療制度

うつ病で働き続けることが困難となれば、経済的に余裕がない状況が続くかもしれません。

生活が苦しくなるとストレスが大きくなるため、治療開始から復帰するまでに時間がかかっていまいます。そのためうつ病で休職する際に給料に不安が残る場合は、手当の申請を検討することが重要です。

ここからは上記3つについて具体的に解説します。

傷病手当金

傷病手当金とは、病気やケガで仕事を休む際に支給される給付金です。うつ病の原因が職場にない場合に支給が認められます。

傷病手当金の支給額は、過去12か月間の平均給与額を30日間で割り、3分の2をかけた金額です。例えば1年間の平均で月30万円の給与を受け取っていた場合は、月に20万円支払われます。

労災保険

労災保険においても病気やケガで仕事を続けることが難しい場合、給与などの補償を受けられます。傷病手当金とは異なり、「職場における出来事が原因」でうつ病を疾患したと認められる場合に限り支給される手当です。

うつ病によって受けられる可能性がある給付として、療養補償給付・休業補償給付・障害補償給付があげられます。療養補償給付では、給与だけでなく通院や薬などにかかる治療費も補償されます。

※参考:厚生労働省|精神障害の労災認定

自立支援医療制度

自立支援医療制度とは、医療費の負担額を抑えるための制度です。うつ病を患った場合は制度における「精神通院」に該当するため、入院費を除く治療にかかる費用負担が軽減されます。

一般的に健康保険証を提示した場合、公的医療における負担額の割合は全体の3割です。一方で自立支援医療制度が適用されると医療費の負担は1割となります。

例えば診察や薬の購入に毎月3,000円(健康保険証のみ)かかっている場合、自立医療支援制度の適用範囲となれば負担額は1,000円です。

うつ病の治療には時間を要する場合があり、経済的に余裕がなくなる可能性がある人は、検討した方が良い支援の一つといえるでしょう。自立医療支援制度には所得制限があるためあらかじめ、適用要件についてはあらかじめ確認してください。

※参考:厚生労働省|自立支援医療(精神通院医療)について

うつ病患者の一般的な休職期間

うつ病の休職期間は、症状の度合いや治療を適切に受けているかなどによって異なります。

例えばうつ病の症状が軽度の場合、休職期間は1か月で済む場合や休職する必要がないかもしれません。一方で重症の場合は休職期間は1年以上といわれています。

休職期間は個人差があるため、具体的な期間を定めることは難しいです。社員の症状や治療状況に合わせ、専門家の指示に従って目安を決めることが重要です。

うつ病で休職した社員に推奨すべき過ごし方

うつ病で休職した社員には、無理をさせずに療養させる必要があります。推奨すべき具体的な過ごし方の例として以下があげられます。

    • ・とにかく休息する
    • ・生活習慣を見直す
    • ・徐々に運動を習慣づける
    • ・気分転換に好きなことをする

それぞれ順に解説します。

とにかく休息する

まずは、とにかく休息することが重要です。

うつ病を発症する一因として、職場の業務や人間関係におけるストレスが考えられます。ほかにも私生活のトラブルやホルモンバランスの乱れなども原因としてあげられるでしょう。これらの原因を解決しないまま無理に活動してしまうと、改善されにくくなります。

そのため、うつ病で休職する際はとにかく休息する必要があります。自分のペースでゆっくりと癒すことができれば、脳内のセロトニンなどの神経伝達物質の働きが活発となり、気分の落ち込みが徐々に改善されていくでしょう。

生活習慣を見直す

うつ病による休職中は、生活習慣も見直します

生活習慣が乱れて睡眠の質が低下すると、脳が十分に休息できないため、うつ病の悪化や再発につながるかもしれません。またバランスよく栄養を摂取できない食生活であれば、脳内の神経伝達物質の働きを鈍くし、治療の効果が薄れる可能性もあります。

そのためうつ病で休職する際は生活リズムを整え、可能な限り日中に活動することが重要です。食事は栄養バランスに気をつけ、ビタミン類・ミネラル・アミノ酸・脂肪酸を中心に摂取しましょう。

徐々に運動を習慣づける

十分な休息によって回復してきたら、徐々に運動を習慣づけましょう

運動をおこなえば、ストレスホルモンの分泌が抑制され、セロトニンなどの神経伝達物質が増加して気分が安定しやすくなります。また体力や免疫力も向上し、身体的な不調も改善されるはずです。

例えば自分の体調や能力に合わせて、軽いウォーキングやストレッチングなどから始めます。最初は5分や10分などの無理のない範囲で運動し、徐々に時間や強度を増やしていきます。

午前中に運動する習慣が身につけば、朝日を浴びることで体内時計がリセットされ、生活リズムも整うでしょう。

気分転換に好きなことをする

うつ病で休職中は、気分転換として自分が好きなことに時間を使うことも重要です。自分の趣味などに時間を費やすことで自己肯定感や意欲が向上し、うつ病症状の軽減につながります。

休職していると「仕事を休んでいるのに自分は好きなことをしていても大丈夫か」と不安に感じる場合もあります。一方で面白い・楽しいと思えるような時間に没頭することは、うつ病によって失われた体力や集中力、思考力を回復させる治療の一環です。

疲れを感じない程度で好きなことに取り組むことは、職場に復帰する第一歩となるでしょう。

うつ病で休職する社員への対応や確認すべきこと

うつ病を抱える社員が休職を申し出た場合、企業は以下のように対応する必要があります。

    • 1.医師の診断書の提出を確認する
    • 2.休職期間を確認する
    • 3.休職中の給料支払や社会保険について説明する
    • 4.給付金についての説明をする
    • 5.休職中の連絡方法を決める

それぞれ順に沿って解説します。

1.医師の診断書の提出を確認する

社員がうつ病を理由に休職を希望している場合は、医師による診断書が会社に提出されているかどうかを確認しておきましょう。

一般的に社員の休職は本人の希望や会社の意向で決まるのではなく、医師が発行する診断書に基づいた判断によって休職が決定する場合が多いからです。

そのため、診断書には病名だけでなく、休業の必要性の有無や休業が必要な場合の具体的な療養期間などが記載されている必要があります。

うつ病などの精神疾患はケガなどに比べて外見から判断しにくいです。診断書があれば、医学的な見地から社員に必要な休業日数を判断できるでしょう。

社員とのトラブルを避けるためにも、休職する際の受診の義務化や受診先の医療機関を就業規則に定めておくことが重要です。

2.休職期間を確認する

休職期間は企業によって異なるため、自社の就業規則を確認しましょう。就業規則の休職期間を確認しておけば社員との面談の際にスムーズに説明できます。

うつ病の診断書に記載された休養期間を根拠に、同等の休職期間を社員から求められるかもしれません。その場合、診断書にある療養期間は休職期間を決める際の目安の一つであり、会社としては就業規則に定めた休職期間で対応する旨を説明しましょう。

さらに休職期間が満了したときに復職が困難な状況である場合は、退職の手続きが必要になることも伝えなければなりません。

休職期間満了時の自然退職について事前に社員の理解を得ておかなければ、後々トラブルに発展する可能性があるため注意が必要です。

3.休職中の給料支払や社会保険について説明する

うつ病であっても、休職期間中は給料の支払い義務は発生しない場合があります。一方で、就業規則に休職中の給与を支払うと記載している場合は、自社の就業規則に基づいて対応しなければなりません

また、社会保険料についても社員に説明しておく必要があります。休職中でも、社員の社会保険料の支払い義務が発生します。

通常であれば社会保険料は給与から天引きになりますが、休職中に給与が支払われない場合は支払方法についても確認しておきましょう。

一般的に、社員が毎月社会保険料を会社の口座へ振り込む方法や会社が立て替えて支払い、復職後に給与などから天引きして徴収する方法があります。

4.給付金についての説明をする

うつ病などで休職する場合は、傷病手当金が支給されることも社員に説明しておく必要があります。傷病手当金とは、ケガや病気が理由で勤務できなくなった際に、支払われる給付金のことです。

傷病手当金を受け取るためには社会保険への加入や、休業日数が連続4日以上で休職中に給与を受け取っていないなどの条件を満たしている必要があります。

傷病手当金の支給額は、休職前の1年分の給料に基づいて算定された金額の3分の2を最長18ヵ月受け取ることができます。また、うつ病での休職が労災と認められた場合は、労災保険と障害年金を受け取れる可能性があることも説明しましょう。

具体的な給付金や支援の例については上記の「うつ病で休職した場合に案内できる手当・支援」の項目をご覧ください。

5.休職中の連絡方法を決める

うつ病の休職する場合は、連絡方法を決めておくことも大切です。例えば、社員が会社に連絡するときの社内の連絡窓口や連絡のタイミング・頻度・内容が挙げられます。

また連絡手段として、電話なのかメールでのやり取りにするのか、具体的に決めておきましょう。ただし、休職する社員に頻繁に連絡をしたり求めたりすれば、心身を休めることができません。

ゆっくり療養させるためには、連絡の頻度を控えて休職中の社員に負担やプレッシャーを与えないように配慮する必要があります。

うつ病で休職中の社員に対応する時の注意点

うつ病で休職している社員に対して対応する際の注意点を紹介します。

    • ・労休職期間中の関わり方
    • ・復職準備期間の対応

休職期間中と復職準備期間によって企業の取るべき対応は異なるため確認しておきましょう。

上記2つの注意点を詳しく解説します。

休職期間中の関わり方

うつ病で休職する社員との距離感にも配慮しましょう。社員がゆっくり休養できるように連絡を控えることも大切ですが、放置し続けるのはおすすめできません。

休職中の社員は会社から距離をとるため、社会的に孤独を感じる傾向にあります。孤独が療養の阻害要因にならないためにも、会社側は定期的に連絡を取り、社員が孤立しないように配慮しましょう。

休職する社員には、事前に定期的な連絡を取る必要があることも説明しておくことが大切です。説明の際は、傷病手当や給与の受け取り、社会保険料の支払いなどの手続きで確認が必要になる場合もあると伝えておくことをおすすめします。

会社側は、休職する社員の負担を減らすために、連絡の頻度などの取り決めに従って連絡を取るようにしましょう

復職準備期間の対応

休職中の社員がうつ病の治療を終えて復帰を希望する場合、会社側では復職できるように準備しておかなければなりません。ただし、休職中の社員が復職できる状態かどうかを事前に確認しておく必要があります。

復職の判断は主治医や産業医との面談結果に基づいて、事業主が決めましょう。一般的に、次の条件を満たしている場合は復職できる可能性があります。

例えば、主治医が復職可能と記載した診断書の提出や、体調が悪化する原因、悪化した際の具体的な対策を把握していることなどが挙げられます。

うつ病からの復職面談で確認すべきポイント

休職中の社員が仕事への復帰を希望した場合、復職面談を実施する必要があります。うつ病から回復した社員との面談で確認すべきポイントについて確認しておきましょう。

    • ・就業意欲の有無
    • ・生活リズムの確認
    • ・体力の回復
    • ・職場への適応力の確認
    • ・通勤できるかどうか

ここからは上記5つのポイントを詳しく解説します。

就業意欲の有無

復職は会社側の判断のみで決めることは難しいでしょう。休職中の社員が就業意欲を持っているかどうかを確認する必要があります。本人が働けない場合、会社側が無理に働かせることはできません。

そのため積極的な意思表示があるかどうかを見極めることが重要です。働きたい気持ちはあってもうつ病の再発に不安があるなど、就業意欲が弱い場合は復職を見送ることもあるでしょう。

就業意欲を確認する際は、休職中の療養を労う言葉や現在の体調の様子を伺う言葉を用いて優しく質問し、ストレスを与えないように配慮する必要があります。

生活リズムの確認

うつ病から復職するにあたって、休職前の生活リズムに戻せるかどうかを確認することも大切です。休職中の社員に規則正しい生活を送れているか質問しましょう。

また起床・就寝時間や食事の摂取状況、食事の時間、外出の有無など、簡単な生活記録表を記載してもらうと、生活リズムの確認をしやすくなります。

休職中の生活リズムだけでなく、復職後3〜6ヵ月間は規則正しい生活を送れているか、体調は安定しているかなどの具体的な確認もおこなうようにしましょう。

体力の回復

うつ病や休職中の療養で体力が減っている場合もあるため、体力が回復しているかどうかの確認も忘れずにおこないましょう。体力の回復を判断する場合、睡眠時間が一つの目安になります。

生活リズムを確認する際に、睡眠時間の長さや起床時の疲労具合なども合わせて記録をつけてもらい、面談時にチェックする方法もあります。

生活リズムや睡眠時間などの記録は、面談時の復職の判断に用いるだけでなく、社員が自分の行動に対して客観的に把握できるようになることも狙いの一つです。睡眠を充分に取れていない場合は、休職の延長を検討する必要があります。

職場への適応力の確認

復職する場合、休職前に所属していた部署に戻れるかどうかの確認が必要です。うつ病で休職した社員がいる場合、うつ病の発症理由によって元の職場に戻るのが難しい可能性があります。

例えば、休職中の社員が元の職場環境に適応できない、元の職場での人間関係で問題やトラブルが起きたなどが考えられます。メンタル的に元の職場に戻れない場合は、人事担当者が他の部署への配置を検討しましょう。

通勤できるかどうか

休職中の社員が復職する場合、通勤が必要になることも考慮しておかなければなりません。

うつ病やその他の精神疾患を抱えている人の症状の一つに、人混みに出るのが苦手と感じることがあります。そのため、交通機関を利用して通勤するのは可能かどうかを確認しておきましょう。

本人は通勤できると主張しても、実際に通勤できるかは人混みに入ってみなければわかりません。復職の許可を出す前に、実際に通勤時間と同じ時間帯に自宅からオフィスまで移動してみて問題がないか確認しておくことをおすすめします。

休職者を復職させる際の注意点

実際にうつ病によって休職していた社員に復職してもらう際は、以下の点に注意する必要があります。

    • ・場合によっては配置転換や業務転換を検討する
    • ・産業医との連携が必須
    • ・休職期間が終了しても復職が難しい社員への対応

ここからは休職者の復職時における3つの注意点を具体的に解説します。

場合によっては配置転換や業務転換を検討する

休職者を仕事に復帰させる場合、休職前に所属していた部署へ戻すのが原則です。しかし、人事異動が原因でうつ病などを発症した場合は、元の部署へ戻すのではなく配置転換や業務転換を検討する必要があります。

復職面談を実施する際に本人の症状や意向を聞いた上で、適している職場へ復帰させるようにしましょう。復職直後は、休職前のようにスムーズに業務を進められない可能性があるため、無理なく働ける環境を整えてあげることが大切です。

例えば、フルタイムではなく短時間勤務から始める、残業や出張を制限する、軽作業やルーティンワークに従事させるなどの方法が挙げられます。

産業医との連携が必須

うつ病などで休職した社員が業務に復帰する場合、産業医と連携を取れる仕組みを整備しておきましょう。

本人の希望で復職した場合でも、業務に復帰したことで症状が悪化し、医学的な視点から療養が必要になると判断される可能性があります。

休職前や休職中だけでなく、復職できるかどうかを判断する際は産業医の診断を基に決めることが大切です。産業医は会社の体質などを把握しているため、社員にとって適した治療法や復職時の注意点などを提案します。

対象の社員だけでなく、他に休職者を出さないためにも産業医と連携を取り、社員のメンタルヘルスケアに取り組むようにしましょう。

休職期間が終了しても復職が難しい社員への対応

休職期間が満了となった場合でも、うつ病の治療が足りないなどが原因で仕事への復帰が難しいケースもあります。休職者が復職できない場合の対応について検討しておくことが大切です。

休職期間を満了して復職できない場合は、就業規則が定めている規定に基づいて自然退職を促す場合が一般的です。

しかし、休職者本人は復職を希望しているものの、産業医の診断などから復職は認められないと判断して退職させた場合、不当解雇を理由に訴えられる可能性があります。

訴訟などの問題を避けるためには、あらかじめ就業規則に会社へ医療情報開示同意書の提出を求める旨を記載しておくことをおすすめします。

社員のうつ病と休職・復職に関する事例

うつ病の社員を抱えている企業の成功事例を把握しておけば、自社の社員に対応する際に役立てることができます。

以下では、うつ病の社員の休職・復職に関する事例を紹介します。

復職後の対応やフォローが効果的であった事例

社員数が600人の製造業の事例を紹介します。休職の対象となったのは、うつ病の既往歴がある30歳代の男性です。

業務上の注意を受けたことがきっかけで体調不良を訴えるようになり、うつ病であることが発覚しました。2ヵ月間の休職後復職しています。

会社側が行った支援は、対象者に対応する担当者への助言です。例えば、復職後は担当者が毎日対象者に声をかけて体調などを確認する、疲労感や体調不良を訴えた場合は本人が希望すれば早退させるなどが挙げられます。

特に、毎日の声かけによって対象者の体調などを把握できたため迅速かつ柔軟に対応できたと評価しています。

※参考:労働者健康福祉機構 福井産業保健推進センター.「事業場における うつ病社員への対応事例集」

主治医との連携が効果的であった事例

1,000人以上の小売業の事例を紹介します。支援の対象者は40歳代の男性で、店長職2年目に適応障害と診断されました。

主治医から提供された意見書に基づいて、休日を増やしたり残業なしにしたりして様子を見ましたが、状況は変わりませんでした。

会社側は対象者と担当者を含めた面談を実施した他、本人の同意を得て担当者が主治医から意見をもらうなどの対応を取りました。

効果的であった支援は本人の同意を得た上で主治医と連携できたことです。主治医から病状や治療経過などの情報を得られたことで配置転換などの適切な対応が取れるようになりました。

※参考:労働者健康福祉機構 福井産業保健推進センター.「事業場における うつ病社員への対応事例集」

再休職の判断に関する事例

社員数が100人の情報通信関連業の事例では、うつ病と診断された30歳代男性が再休職に至るまでの会社側の対応を紹介しています。

会社側は産業医と対象者の面談を実施し、本人の同意を得て産業医と主治医間で対象者の情報交換を実施しました。

主治医と産業医の意見を基に人事担当者と協議した結果、会社側は再休職を判断しました。対象者には根拠を示した上で、再休職を判断した経緯を説明しています。

効果的であった支援は、産業医と主治医間での情報提供や会社にとって必要な人材であることを伝えて対象者を安心させられたことです。

※参考:労働者健康福祉機構 福井産業保健推進センター.「事業場における うつ病社員への対応事例集」

社員のうつ病疾患を防止する方法

社員のうつ病疾患を防止する方法として以下の例があげられます。

    • ・ストレスチェックを活用する
    • ・社内の健康意識の向上を目的とした研修を実施する
    • ・いつでも体調不良を相談できる窓口を設置する

たとえば、部門・部署ごとのストレスチェックの結果を分析すれば、そのグループごとに職場環境の改善を実施しやすくなります。メンタルヘルス研修をおこない、睡眠や食生活などの重要性を理解すれば、社員一人ひとりが健康維持の意識を持つことにつながるでしょう。

また産業医などの専門家へ気軽に相談できる窓口を設置すれば、自分の体調に異変を感じた際にアドバイスを求められます。これらのメンタルヘルス対策は、うつ病疾患を予防する効果が見込めるでしょう。

それぞれの予防策について気になる方はぜひ下記ページをご覧ください。

ストレスチェック:専門医監修のストレスチェック「ストレポ 」
研修・セミナー:セミナー・講演依頼
産業医の選任:社員の健康管理を促進する「産業医コンシェルジュ 」

うつ病×休職によくある質問

ここではうつ病と休職でよくある質問と回答を紹介します。

こころの病気で休職するのはずるい?

うつ病などを含めたこころの病気で休職することに問題はありません。しかし、うつ病は明確な身体症状が現れないため、社員によっては「ずるい」と感じることがあります。

このような状況はうつ病に疾患した社員がさらに復帰しにくくなります。そのため、企業側は社員にこころの病気に対して理解を深めてもらうことが重要です。

うつ病で休職するデメリットは?

うつ病で休職するデメリットとして、自身の評価やキャリアに影響がないか気になってしまうことや、給料に対する不安を感じてしまうことがあげられます。

企業によって休職に対する考え方は異なります。もし一度の休職で評価やキャリア、給与に大きな影響が出る場合は転職を視野に入れて検討することも一つの手です。

メンタルヘルス不調が見られる社員への対処法は?

部下にメンタル不調が見られる場合は、まずは相手の話を聞いて状況を把握することが重要です。不用意に決めつけやアドバイスをすることは避け、あくまでも社員の話を聞く姿勢を示しましょう

話の内容に合わせて産業医や心療内科への受診を勧め、適切に対処することがうつ病などの予防につながります。

治療方針について確認しておきたい

一般的にうつ病の治療は「休養」「薬物両方」「精神療法・カウンセリング」の3本柱で進めますが、個人の症状によって具体的な方針は異なります。

また治療期間は「急性期:1~3か月」「回復期:4~6か月」「再発予防期:1年以上」ともいわれています。復職する際は、通院を続けながら薬物療法や精神療法を併用して治療を進める人もいるでしょう。

※参考:
厚生労働省「こころの耳」|Q4:うつ状態の診断で休職中の社員の治療方針を知りたい
厚生労働省「こころの耳」|3 うつ病の治療と予後

まとめ

社員がうつ病で休職する流れや必要な手続き、企業側が注意したいポイントを詳しく解説しました。

うつ病による休職手続きをおこなう際は、社員が不利とならないように企業側が配慮する必要があります。具体的には休職によって受け取れる手当や療養中の過ごし方、給料や社会保険についてなどです。適切な対応を図れば、社員が復職する可能性も高まるでしょう。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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