産業医の役割・選任

嘱託産業医とは?専属産業医との違いやメリット・デメリット・選び方のポイントを解説

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更新日:2023.02.24

従業員の健康管理をするために重要な産業医ですが、産業医には嘱託産業医と専属産業医がいます。両者にはどのような違いがあり、どのように選べばよいのか分からない人もいるでしょう。

本記事では、嘱託産業医について知りたい方に向けて、そもそも産業医とは何か、嘱託産業医と専属産業医の違いなどを解説します。また、嘱託産業医と専属産業のメリット・デメリット、選び方のポイントなども解説するため、産業医選びにぜひ役立ててください。

産業医の役割

産業医とは、事業所で従業員が心身ともに健康な状態で業務ができるように医学的な観点から健康管理のアドバイスや指導などを行う医師のことです。産業医の主な業務内容は以下の4つです。

・毎月1回以上職場巡視をし、労働環境の改善や維持のアドバイスを行う
・労働者の健康診断結果のチェックとフォロー
・労働者へのストレスチェック、保健指導や面談
・安全衛生委員会の開催

このように、産業医は労働環境などを確認して従業員が健やかに業務に従事できる環境を整えることや、従業員のストレスチェックや健康診断、それに基づくアドバイスや指導などが重要な役割となります。

産業医の役割について詳しくは、『嘱託産業医とは?専属産業医との違いは?メリット・デメリットや選び方のポイント』を参考にしてください。

嘱託産業医とは?

嘱託産業医とは?

 

嘱託産業医とは、非常勤の産業医を指します。嘱託とは、正式に任命せずに業務に従事してもらうように依頼することです。嘱託産業医も正社員として契約したり正式な任命を受けたりせずに産業医として従事します。

嘱託産業医の勤務時間や勤務日数は、事業規模や業務内容などによって異なります。一般的には、月に1回程度事業所に訪問して産業医としての業務にあたるケースが多いでしょう。

嘱託産業医は非常勤であり勤務日数や時間も専属産業医より短いため、他の企業の産業医と兼任する場合もあります。また、医療機関に勤めながら嘱託産業医として従事しているケースもあるなど、柔軟な働き方をしている医師も多いです。

嘱託産業医と専属産業医の主な違い

専属産業医とは、事業所専属の産業医を指します。基本的には常勤することになり、原則として他の事業所と兼任することはできません。契約した企業の事業所のみで業務にあたります。

本章では、嘱託産業医と専属産業医の主な違いについて具体的に解説します。

選任要件

労働安全衛生法によって、事業所の従業員が50人以上いる場合には産業医を設置しなければならないと定められています。

また、産業医は事業所の規模に応じて設置する必要があります。以下の表にまとめました。

事業所規模(労働社員数) 産業医の種類 必要な産業医の人数
50人未満 産業医選任の義務なし
50人~999人 嘱託産業医 1名
1,000人~3,000人 専属産業医 1名
3,001人以上 専属産業医 2名

このように、小・中規模の事業所であれば嘱託産業医の設置で問題ありません。1,000人以上という大規模な事業所の場合には専属産業医を設置しなければならないため注意しましょう。

勤務時間

嘱託産業医の場合、事業規模や業務内容などにもよりますが、月に1回のペースで事業所を訪問して産業医としての業務にあたるケースが多いです。月に1回程度の勤務時に労働環境の確認や従業員との面談をし、企業側に指導や報告をします。

一方、専属産業医は基本的に常勤することになります。勤務先の企業にもよりますが、週に4日程度勤務するケースが一般的です。通常、専属産業医は他の従業員と同様に勤務する企業が定める時間帯で勤務することが多いでしょう。

勤務体制

嘱託産業医と専属産業医は、勤務体制にも違いがあります。前述したように、嘱託産業医は多くの場合は月に1回程度事業所を訪問することになります。嘱託として正式な任命を受けずに非常勤として勤務することになるため、拘束時間が短く本職は医師として医療機関に勤めているというケースも多いです。

専属産業医の場合は、企業によって異なりますが、週に4日程度は勤務することが多いため、医療機関などと兼任せずに専属産業医を本職として勤務しているケースが一般的です。

嘱託産業医のメリット

事業所の従業員数が50人未満の場合、産業医を設置する義務はありません。しかし、小規模事業所でも嘱託産業医を設置している企業もあります。企業に嘱託産業医を設置するメリットにはどのようなことがあるのでしょうか。本章では、嘱託産業医を設置するメリットについて詳しく解説します。

適切な健康管理ができる

前述したように、小規模事業所では産業医を設置する義務はありません。そのため、産業医を設置しなくても問題はありませんが、嘱託産業医を設置することで、従業員に対する健康管理を適切に行えるというメリットがあります。

嘱託産業医が面談をすることで、従業員に対して健康管理の重要さを意識させることに繋がります。健康診断などの結果、再検査が必要となっても面倒、仕事が忙しいなど理由をつけて検査に行かないケースも少なくありません。

嘱託産業医が面談することで、適切な指導やアドバイスができる、検査のための日程調整などのフォローができるなど、従業員が再検査を受けるための後押しが可能です。

広い視野で対応できる

前述したように、嘱託産業医は非常勤のため医師と兼任しているケースが多いです。普段は医療機関に務める医師としてさまざまな患者や医師、看護師などと関わっているため、広い視野での面談や指導が期待できます。

また、嘱託産業医が事業所に訪問した際に事業所の外で得た知識や経験などを、自社に活かしてもらえる可能性もあります。自社の労働環境で改善すべき点など、事業所内だけでは気付きにくい部分に対応できるでしょう。

従業員の様子を客観視できる

嘱託産業医の多くは、月に1回程度事業所を訪問します。時々訪問するだけでは分からないと考える人もいるかもしれませんが、訪問する日数が限られているからこそ、従業員の様子を客観視できる可能性もあります。

普段、事業所の中で一緒に働いている場合、客観視することがむずかしく、些細な変化に逆に気付けないケースも少なくありません。久しぶりに面談をするからこそ、従業員の様子や体調の変化などの異変に気付きやすいこともあります。

費用が抑えられる

嘱託産業医は、費用を抑えながら産業医の設置が可能です。嘱託産業医は非常勤で勤務する日数も限られているため、常勤の専属産業医と比較すると報酬は少なくなります。そのため、できるだけ費用を抑えて産業医を設置したい場合にも向いています。

また、助成金を活用すればさらに費用を抑えられるため、予算に不安がある小規模な企業でも安心です。事業所の従業員数が50人以下の場合には、さまざまな助成金制度を活用できます。経済的負担を最小限にしながら、従業員に対して適切な健康管理ができるため、積極的に助成金制度を活用しましょう。

嘱託産業医のデメリット

嘱託産業医を設置するメリットは多くありますが、デメリットもあります。嘱託産業医の主なデメリットとしては、急な対応ができないことや見極めが必要という2点です。以下では、それぞれのデメリットを解説します。

急な対応ができない

嘱託産業医は非常勤で、訪問する日時が限られています。企業によっても異なりますが、訪問は月に1回から数回というケースが多いため、急な対応はできません。何らかの問題があり、すぐに面談してほしい、職場の巡視を行い指導や改善をしてほしいという場合でも、急いで対応することはむずかしいでしょう。

また、嘱託産業医との面談を予定していても、急きょ対応が必要な案件ができてしまった、トラブルが起こってしまい面談できないという場合もあります。嘱託産業医が訪問する日数は限られているため、面談が必要な従業員がいる場合には、しっかりと調整したり、業務面での考慮をしたりする必要があります。

人柄を見極める必要がある

前述したように、嘱託産業医は月に1回程度の訪問と拘束日数や時間が短く、他の医療機関で医師として勤務しながら兼任しているケースが多いです。そのため、嘱託産業医の中には、副業のような感覚で産業医を行っている方もいます。副業感覚の場合には、事務的な対応になる、作業として業務を行うなど、従業員や事業所に寄り添った対応をされない場合もあります。

そのため、嘱託産業医を設置する際には、しっかりと従業員や事業所に寄り添ってくれる産業医かどうか見極めが必要です。副業の感覚で事務的な対応をされないか、従業員に親身になってくれるかなどを見極めてから選任しましょう。

専属産業医のメリット

専属産業医の主なメリットは事業所内部を把握しているため、従業員の異変に気がつきやすく、対応しやすいという点です。本章では、それぞれについて詳しく解説します。

事業所内部を把握している

専属産業医は常勤で、従業員同様に勤務時間のほとんどを事業所で過ごすため、事業所内部の事情に関してしっかりと把握できます。事業所の巡視なども時間をかけて行え、職場環境における小さな変化や改善すべき点などを把握しやすいでしょう。

また、事業所と従業員とを繋ぐためのパイプ役としても機能でき、事業所と従業員の双方にとって心強い味方になれます。

従業員の異変に気がつきやすい

専属産業医は事業所に常勤しているため、従業員にとっても身近な存在です。事業所に密着し、従業員や労働環境などに目を光らせている専属産業医は、従業員の変化に気付きやすく早期対応が期待できます。

例えば、従業員それぞれの性格や趣味嗜好などは、たまに面談するだけでは把握しにくいでしょう。しかし、専属産業医として従業員と接していれば、性格や趣味なども把握しやすく、それらの情報を基にして適切な健康指導が可能です。そのため、従業員それぞれに合った健康管理や指導ができます。

対応しやすい

専属産業医は常勤のため、ほとんど事業所にいて勤務をしています。何らかの問題がありすぐに対応してほしいという場合でも対応しやすいです。従業員への対応や指導、職場環境のチェックや改善など、さまざまな問題に対応しやすく、事業所にとっても心強い存在になれます。

また、人事側との連携が取りやすいこともメリットです。例えば、従業員が職場の人間関係に悩んでメンタルヘルスを悪化しているなどの場合、産業医が人事担当者に伝えて配置転換を相談するといった対応もとりやすいでしょう。

専属産業医のデメリット

専属産業医の設置にはデメリットもあります。専属産業医の主なデメリットは、費用がかかる、相性が合わないケースがある、苦手分野への対応がむずかしいなどです。本章では、それぞれのデメリットを詳しく解説します。

費用がかかる

専属産業医の場合、勤務日数に応じた報酬を支払う必要があり、企業と直接契約しているため支払う報酬額が高くなりがちです。そのため、嘱託産業医と比較すると費用は高額になります。

しかし、専属産業医は常に事業所にいて従業員や事業所に寄り添った対応をしてくれます。事業所に専属産業医がいることにより従業員の心の支えになる、適切な健康管理が受けられるなど多くのメリットがあります。そのため、従業員の心身の健康を守るためにも必要な経費だといえるでしょう。

相性が合わないケースがある

従業員も産業医も人間です。そのため、どうしても相性が合わない場合もあるでしょう。産業医との相性が合わない場合、さまざまな悩みや体調などについて従業員が相談しにくくなります。専属産業医の場合には企業と直接契約するため、相性問題があってもすぐに変更できないという事情もあります。

産業医がいるのに相談できずに、大きな問題に発展してしまう可能性もあるため注意しましょう。専属産業医を選ぶ際には、高いコミュニケーション能力があるかどうか、従業員に寄り添う姿勢があるかどうかなどを重視する必要があります。

苦手分野への対応がむずかしい

産業医は専門知識や経験などを持ち合わせていますが、苦手な分野があるケースもあります。苦手分野がある場合、相談をされても対応がむずかしいなどの問題が出てしまいます。

また、女性の従業員は男性産業医に相談しにくいケースもあるでしょう。大規模な事業所で産業医を2人置く必要がある場合は、男女それぞれ1名ずつ設置することもできますが、産業医を1人のみ設置する場合は困難です。

そのため、女性が多い事業所なら女性の専属産業医を選任するなどの対応が必要です。また、自社に所属している産業医の対応ができない場合に備えて、他に対応できる産業医を新たに選任しておくと安心です。

【嘱託産業医・専属産業医】選び方のポイント

【嘱託産業医・専属産業医】選び方のポイント

 

嘱託産業医でも専属産業医でも企業のニーズや環境に合った質のいい産業医を選ぶことが重要です。しかし、どうやって産業医を選べばいいのか分からない場合も多いでしょう。産業医を選ぶ際のポイントは、大きく分けて3つです。それぞれのポイントについて解説します。

産業医を選任する目的を明確にする

事業所の従業員が50人以上いる場合には、産業医を設置する義務があります。しかし、産業医を有効的に活用するには、義務だから設置するという意識ではなく、産業医を設置する目的を明確にすることが重要です。

産業医を設置する目的は、従業員が心身ともに健康に業務にあたれるようにすることです。そのため、従業員の健康管理を適切に行える産業医を選任しましょう。また、危険な業務に従事する事業所では、より専門的な知識のある産業医が求められます。

相場を確認しておく

産業医を探す方法はさまざまですが、事前に相場を確認しておくことも重要です。相場を把握しなかったことで、想定よりも報酬が高くなり経費を圧迫するというケースも少なくありません。

相場を把握する方法としては、インターネットで検索してみる、産業医紹介サービスで比較してみるといった方法があります。産業医紹介サービスを利用する際には、紹介料もかかるため紹介料についても調べておきましょう。

産業医紹介サービスに依頼する

産業医紹介サービスは、紹介経験が豊富で厳選された質のいい産業医が数多く在籍しています。そのため、自社で独自に産業医を探すよりも手間がかからず、自社のニーズに合った産業医を探せます。

また、産業医に求める点や重視するポイントなどを紹介サービス側に伝えておけば、希望条件の産業医をマッチングしてくれるため、自社のニーズに合った産業医と出会いやすくなるでしょう。費用面についても相談できるため安心です。

まとめ

産業医は従業員が心身ともに健康で業務にあたれるように、健康管理の指導やアドバイス、面談などを行います。非常勤の嘱託産業医、常勤の専属産業医に分かれていますが、それぞれにメリット・デメリットがあるため、自社のニーズに合った産業医を選任しましょう。

株式会社Dr.健康経営の「産業医コンシェルジュ」は、産業医紹介サービスです。はじめての産業医選任や衛生委員会の運営などをプロ産業医がサポートし、各企業に合ったプランを提案します。産業医の選任でお悩みの方はぜひご相談ください。

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Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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