健康経営・職場改善

健康経営で得られるメリットとは?求められる背景や成功につなげるポイントを解説

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更新日:2023.02.22

健康経営とは、従業員の健康管理によって企業の業績向上を目指す経営戦略です。企業が健康経営を実施することにより、企業・従業員の双方にメリットがあります。本記事では健康経営の概要や認定制度の仕組み、健康経営が求められる背景などについて解説します。あわせて健康経営を成功させるポイントも紹介するのでぜひ参考にしてください。

健康経営とは?

まずは、健康経営の概要や定義や健康経営認定制度の概要について解説します。

健康経営の概要

経済産業省によると健康経営とは「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践すること」と定義されています。健康経営の考え方は、アメリカの臨床心理学者ロバート・ローゼン博士が提唱した『ヘルシーカンパニー』の概念が基本となっています。

ヘルシーカンパニーの考え方では、企業で働く従業員がそれぞれの健康を管理することで企業の生産性を高めることを目的としています。一方、健康経営では企業が従業員の健康づくりを経営戦略に組み込み、組織マネジメントと従業員のセルフマネジメントを組み合わせて考えます。

健康経営とは簡潔にいえば企業で働く一人ひとりの健康を大切にすることです。従業員への健康投資は結果的に、企業の業績向上につながることが期待されます。健康経営は日本再興戦略、未来投資戦略に位置づけられた取り組みの一つです。

健康経営認定制度について

優良な健康経営を実践する法人は、経済産業省が設ける健康経営優良法人認定制度によって「従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として顕彰されます。本制度は優良法人を可視化し、社会的評価を受けられるような環境を整備することを目的として設置されました。

健康経営優良法人認定制度の評価項目は経営理念、組織体制、制度・試作実行、評価・改善、法令遵守の5つです。健康経営優良法人認定制度には、大規模法人部門・中小規模法人部門の2つの部門があり、大規模法人部門の中でも上位500法人はホワイト500、中小規模法人部門ではブライト500に認定されます。

東京証券取引所の上場会社のうち健康経営に優れた企業は、長期的な業績向上が期待できる投資先として経済産業省によって健康経営銘柄に選定されます。健康経営銘柄になると投資家から注目されやすくなり、メディアで取り上げられることもあります。

ホワイト500について詳しくは『ホワイト500とは?認定を受けるメリットや必要な認定・申請方法を解説』を参考にしてください。

ホワイト500とは?認定を受けるメリットや認定に必要な条件・申請方法を解説

健康経営が求められる背景

健康経営が求められる背景
健康経営が求められる背景には人材不足や長時間労働の是正、健康保険料支払いの増加などがあります。

人材不足による影響

少子高齢化が進む現代では労働人口が減少し、働き手が足りず社会問題となっています。特に中小企業ではこの傾向が顕著です。令和2年度版の厚生労働白書では、今後ますます少子化に伴う人口減少が進行し、慢性的な人材不足が引き起こされることを予測しています。

人手が不足する大きな原因は少子高齢化ですが、それ以外に離職率の増加なども人材確保を阻む要因です。離職が生じる理由として多いのがメンタルヘルスの不調です。離職を防止し従業員の定着を強化するためには、企業として従業員の健康を守る必要があります。

出典:厚生労働省「令和2年版厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える」(参照:2022-07-17)

長時間労働の是正

現代では長時間労働をはじめとした過重労働が問題となっています。長時間労働は従業員の身体・メンタルの不調を引き起こし、休職や離職の原因となるものです。また休職や離職に至らずとも、従業員の健康が害されていれば業務の効率が低下します。

従業員が健康的に働き続けるためには、適切な時間内で仕事を完了させられる業務設定が大切です。企業は従業員の就労時間について正確に把握し、問題がある場合には労働環境を改善する必要があります。従業員の長時間労働が一定の基準を超えてしまう場合は、産業医など専門家による面接指導を行うのも一つの方法です。

健康保険料支払いの増加

労働者の健康が守られない労働環境では病院にかかる従業員が増えます。従業員の医療費の一部は企業が負担することになるため、体調不良の従業員が増えれば企業の支出も大きくなります。

また、日本では高齢者人口の増加や医療技術の高度化に伴って医療費が増大しており、健康保険における赤字の割合も上昇傾向です。支出が増えれば健康保険料が値上げされる可能性があるため、負担を減らすにも医療費をできる限り減らさなければなりません。医療費を抑えるためには企業が従業員の健康を考えた運営戦略をとることが求められます。

【企業側】健康経営のメリット

【企業側】健康経営のメリット
健康経営に取り組む企業側の主なメリットとして、労働生産性の向上・離職率低下・優秀な人材の確保という3つが挙げられます。

労働生産性の向上が期待できる

健康経営は従業員の健康管理を経営戦略に組み込み、労働生産性を向上させる戦略的な取り組みです。生産性の向上は健康経営のメリットであり、最終的なゴールでもあります。

企業で効果的な健康経営が実施されることで、従業員は心身ともに健康で効率的に働けます。従業員一人ひとりのストレスが軽減され業務のパフォーマンスが上がれば、企業全体が活性化して生産性も上がるでしょう。体調不良による休職者も減り、安定した労働力の確保も容易になります。

労働環境を改善し働きやすい職場を整えることは、結果的に労働生産性の向上につながります。従業員のパフォーマンスを引き出し、企業の業績アップのためにも健康経営の実施が有効です。

従業員の離職低下につながる

前述したとおり離職は企業が抱える人材不足の大きな原因の一つです。健康経営に取り組むことで従業員の離職防止と人材の定着が期待できるでしょう。

従業員が離職する原因として健康状態の悪化が挙げられます。長時間労働や業務内容、職場の人間関係によっては従業員が心身の健康不安を抱え、離職につながるケースが少なくありません。健康経営を実施することで従業員一人ひとりの健康状態が良くなり、前向きな気持ちで仕事を続けられるでしょう。

また、健康的に働けることはパフォーマンスの向上につながり、日々の業務に対する意欲向上につながります。活き活きと仕事に取り組める環境ではモチベーションが維持しやすくなるため、離職者の低下が期待できます。

優秀な人材の確保につながる

従業員の健康管理を重視する企業はイメージが良く、就職活動中の人材に対しても好印象を与えます。現代ではワーク・ライフ・バランス、つまり仕事と生活のバランスがとれた働き方を求める労働者が増えています。

経済産業省による労働市場におけるインパクト調査では「どのような企業に就職したいか、またはさせたいか」という質問に対し、最も多かった回答が「従業員の健康や働き方に配慮している」企業でした。この回答は就活生・就活生の親のどちらにおいても40%を超える回答率となっており、現代の若い働き手に重視されている要素であることがわかります。

出典:経済産業省「第13回健康投資WG事務局説明資料」(参照:2022-07-17)
https://www.meti.go.jp/committee/kenkyukai/shoujo/jisedai_healthcare/kenkou_toushi_wg/pdf/013_02_00.pdf

優秀な人材を確保するためには健康経営に取り組み、就活生が求めるワーク・ライフ・バランスを重視した企業であることを分かりやすくアピールすることが大切です。

企業価値や企業イメージの向上につながる

健康経営を行うことは求職者に対してだけでなく、社会全体に対しての企業価値の向上につながります。また、経済産業省主催の健康経営優良法人や健康経営銘柄に選出さると企業イメージの向上が期待できるでしょう。優良企業としての認知度を高められれば株価向上が期待でき、安定した企業運営につながります。

健康経営優良法人の選定フローは、経済産業省が実施する『従業員の健康に関する取り組みについての調査』への回答、(健康経度が上位50%であれば)申請資格を獲得して保険者と連名申請、認定審査、日本健康会議での認定の5段階です。

健康経営銘柄の選定フローは、経済産業省による健康経営度調査の実施、評価基準に基づいた健康経営の優良企業選出、財務指標スクリーニングを経た健康経営銘柄の選定の3段階です。

企業が負担すべき医療費負担の軽減につながる

前述のとおり企業は従業員が医療機関にかかる際の費用の一部を負担しています。従業員に体調不良が多ければ、企業の医療費の支出も大きくなります。反対に従業員が健康ならば医療機関の受診頻度が減り医療費の削減が可能です。健康経営は従業員が心身の健康を保ちながら活き活きと働ける環境作りに役立ちます。

今後はますます少子高齢化が進む見通しです。結果的に医療費や健康保険料は増大傾向になるでしょう。医療費や保険料の負担が増えていくと考えられる中で、少しでも企業の医療保険料の支出を抑えることが大切です。そのためには、従業員の健康を良好に保ち医療機関にかかる機会を減らす必要があります。

【従業員側】健康経営のメリット

企業が健康経営に取り組むことによって、従業員側にも主に3つのメリットがあります。ここでは、従業員側の主なメリットである、健康維持促進・モチベーションアップ・業務効率化についてそれぞれ解説します。

健康維持や促進につながる

健康経営が企業方針の場合、日々の仕事の中で健康管理の重要性に触れることになるため、従業員自らの健康意識が高まります。健康維持や促進には正しい知識や心がけが重要です。

従業員が普段から自身の健康へ意識を向けることは、長期的に健康な身体作りやメンタルケアに欠かせません。長時間労働や休日出勤など働き方によっては、十分な睡眠や栄養をとり、適度な運動の機会を設けるなど健康維持や促進に取り組むことが後回しになってしまうことがあります。

企業が率先して従業員の健康を重視することで、従業員の健康への意識づけが可能です。自身の健康状態にさほど関心がない従業員にも、企業全体でコツコツと働きかける必要があります。

モチベーションアップにつながる

企業が健康経営を実施すると従業員のモチベーションアップにつながります。健康経営によってストレスの少ない職場環境が整えば、従業員一人ひとりが仕事に集中できるようになるからです。従業員の意欲を高めるためには快適な環境作りが欠かせません。

また健康経営をすることで従業員の健康を考える企業として印象が良くなり、従業員の企業に対する貢献意欲も高まります。自身の働く企業が好印象であれば、業務へのモチベーション向上につながるでしょう。

業務の効率化につながる

健康経営によって従業員の健康状態が良好になれば、一人ひとりが業務に集中できるようになります。業務の効率化のためには仕事に集中して意識を向け、適切なプロセスを踏んでいくことが大切です。従業員がベストなパフォーマンスを発揮できるようになれば、業務にかかる時間や費用を最小限に抑えられるでしょう。また、効率的な仕事が可能になることで、仕事に対する自信や自己肯定感にもつながります。

健康経営を成果につなげるポイント

健康経営を成果につなげるポイントは主に3つあります。3つのポイントとして、企業全体で取り組む・健康経営の重要性を伝える・社内外へのアピールについてそれぞれ解説します。

企業全体で取り組む

健康経営を効果あるものにするには、経営戦略として企業全体で取り組むことが重要です。健康経営を導入するには、取締役や執行役など経営陣の理解を得なければなりません。
企業の経営陣に新制度の導入を認めてもらうためには、導入が利益につながることを分かりやすく示していきます。経営陣に対しては健康経営の目的とメリットを簡潔にアピールしてください。

また、健康経営の担当者を決めておくことも大切です。担当者が積極的に健康経営の導入に取り組むことで、自社における具体的な戦略や展望を詳細に説明できるようになります。健康経営の正しい知識が身についた担当者がいれば、担当部署が他の部署と連携をとる際にも安心です。

全従業員に健康経営の重要性を伝える

経営陣の理解が得られて導入が決まった後は、全従業員に健康経営の重要性を伝えます。いくら企業が健康経営に取り組んでいても、従業員が健康について関心を持たなければ社内の健康状態の改善は期待できません。健康経営では企業が一丸となって努力する必要があります。

健康経営を全従業員に浸透させるためには社内体制を整えることが大切です。社内報などで健康の重要性を周知しつつ、必要に応じて社外の専門家のサポートを受けると良いでしょう。企業内での健康意識が高まれば、健康経営の取り組みが従業員からの賛同を得やすくなり効果が発揮されます。

自社の取り組みを社内外にアピールする

企業が健康経営を実施している場合、取り組みについて社内外にアピールも行っていきます。健康経営が福利厚生の一貫として認識されてしまい、その目的やゴールがきちんと理解されていないと、健康経営の本来の効果が現れません。健康経営の実施は正しく知ってもらってこそ効力を発揮します。

前述したように、社内には社内報などで周知する方法があります。また、社内外にはプレスリリースや株主総会などによって、自社の健康経営の展望を発信していくことが求められます。『健康企業宣言』を行うのも一つの方法です。健康企業宣言とは、企業全体で健康づくりに取り組む宣言をすることです。一定の成果を得られた場合は、健康優良企業として認定されます。

取り組みのPDCAサイクルを回す

健康経営の効果的な取り組みのためにはPCDAサイクルを回すことが必要です。PCDAサイクルとはPlan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)の一連の作業を指します。事業などを成功させるには計画を実行した後、評価による改善の実施を継続的に行い、絶えずブラッシュアップすることが求められます。

ストレスチェックや健康診断といった健康上の取り組みは実施するだけでなく、結果を分析して課題を洗い出すことが重要です。従業員の残業時間や休日出勤の状況、有給休暇の消化率などもデータとして分析することで課題が見つかるかもしれません。

課題が抽出できた後は改善策の思案・実行をしてください。実行後には施策が予想通りの効果を得られているかについて評価することも大切です。効果が得られていない施策があれば改善を行います。

多くのメリットが得られる健康経営を目指そう

健康経営は従業員・企業の双方にメリットがある経営戦略です。従業員は快適な職場環境で意欲的に働けるようになり、企業にとっては業績が向上するなどさまざまな効果が期待できます。健康経営は従業員の心身の健康管理を重視しています。健康の取り組みにおいては社外の専門家のサポートを受けることもおすすめです。

Dr.健康経営はメンタルケアに強い産業医サービスです。『産業医コンシェルジュ』では経験豊富なプロの産業医を紹介しています。社内の健康管理に悩んでいる場合や産業医の導入を検討している場合はお気軽にご相談ください。

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些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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