産業医の役割・選任
産業医の役割は7つ!権限や医者との違い、依頼する流れを解説
産業医には、衛生委員会への出席や職場巡視の実施、産業医面談などさまざまな役割があります。一般的な医者とは役割が大きく異なる産業医には「できること」と「できないこと」があるため、双方を理解して活用することが大切です。
本記事では、産業医の役割や臨床医との違い、嘱託産業医へ依頼する流れを紹介します。産業医の正しい知識を身につけ、健康経営に役立てていきましょう。
目次
産業医の主な役割
常時50名以上を使用する事業所では、産業医を選任することが義務付けられています。産業医と聞くと、産業医面談や健康相談などをイメージする方が多いかもしれません。しかし、産業医には他にも多くの役割があります。
産業医の主な役割は、以下の7つです。
- ・安全・衛生委員会への出席
- ・職場巡視
- ・健康診断の判定、労基署への報告書作成
- ・ストレスチェック実施者、高ストレス者面談、労基署の報告書
- ・長時間労働者面談
- ・健康やメンタルヘルスに関する相談・教育
- ・休職や復職の判断
産業医が具体的にどのようなことをするのか、詳しくみていきましょう。
1.安全・衛生委員会への出席
産業医は衛生委員会の構成員として出席し、事業場をよりよくするために助言する役割を担っています。
衛生委員会とは、従業員が安全かつ安心して働くために、健康管理に関する調査審議を行う組織です。従業員が50名以上の事業所では、衛生委員会を月に1回以上開催しなければいけません。業種によっては、安全委員会と合併して「安全衛生委員会」を開催することもあります。
衛生委員会を実施したあとは、議事録を作成・保存してください。この議事録には、産業医にコメントと押印してもらいましょう。産業医のコメントや押印も義務ではありませんが、産業医と連携して従業員の健康管理に取り組んでいることを証明する際に役立ちます。
なお、衛生委員会についてはこちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
2. 職場巡視
50名以上の事業所では、産業医が月に1回以上職場巡視(条件を満たせば2カ月に1回以上)を行う必要があります。職場巡視とは、産業医が従業員の作業や職場環境を見てまわり、健康や安全を損なうリスクがないかを確認することです。
職場巡視では、例えば以下のような内容をチェックしていきます。
- ・4S(整理、整頓、清掃、清潔)
- ・VDT作業環境
- ・照度
- ・室温
- ・AED、消火
- ・トイレの衛生環境
- ・休憩室 など
職場巡視の際は、見るべきポイントをまとめた「職場巡視チェックシート」を共有して、産業医と企業担当者が一緒に職場を巡回します。計画的に職場巡視を進めるためにも、チェックポイントや担当者、巡視する順序でなどを話し合っておきましょう。
3. 健康診断の判定、労基署への報告書作成
企業では、少なくとも年に1度は健康診断を行います。健康診断の判定や労働基準監督署への報告書作成も、産業医の重要な役割です。
健康診断の結果が返却されたら、産業医はひとり一人の結果判定を行い、結果に応じて産業医面談を行います。必要であれば健康指導や受診勧奨、病院の紹介、就業制限などを実施することもあります。
健康診断の実施後は、遅延なく「健康診断結果報告」を作成して提出しなければいけません。労働基準監督署へ提出する報告書には、産業医の氏名や所属先、所在地を記載する必要があります。
4. ストレスチェック実施者、高ストレス者面談、労基署の報告書
50名以上の事業所では、年に1回ストレスチェックを実施する必要があります。産業医は、ストレスチェックの責任者である「ストレスチェック実施者」を担当し、専門的な立場からアドバイスを行います。
ただし、ストレスチェック実施者は医師や保健師でも担当可能です。ストレスチェックは、必ずしも産業医だけの役割というわけではない点を押さえておきましょう。
実施後は、ストレスチェック結果や集団分析結果の確認を行います。高ストレス者判定となり、かつ面談を希望する従業員がいれば、産業医面談を実施します。
ストレスチェックも、実施後は労働基準監督署へ報告書を提出しましょう。こちらにも産業医の氏名や所属、所在地の記載が必要です。
5.長時間労働者面談
長時間労働者面談の実施も、産業医が担う役割です。面談で健康状態やストレスの度合いを確認し、必要に応じて労働時間や業務の調整を行います。
以下の要件を満たす長時間労働者には、医師による面談が義務付けられています。
- ・時間外労働が100時間を超える研究開発業務従事者
- ・時間外労働が80時間を超え、かつ本人から面談の申し出がある従業員
※出典:厚生労働省|長時間労働者への医師による面接指導制度について
長時間労働は、従業員の心身を害する可能性があります。そのため、専門的な知識を持つ産業医が面談を行い、必要な措置を講じる必要があるのです。
6.健康やメンタルヘルスに関する相談・教育
産業医には、従業員の健康やメンタルヘルスに関する相談を受け付ける役割もあります。健康診断やストレスチェック、労働時間に問題があった従業員はもちろん、その他の従業員が産業医に健康に関する悩みを相談することも可能です。
また健康に関する教育を行い、健康経営をサポートする役割も担っています。その一環として有効なのが、職場や衛生委員会で行う衛生講話です。
衛生講話とは、季節や社会情勢、会社の課題に応じて健康に関する情報提供を行うことです。衛生講話は義務ではありませんが、従業員の健康意識を高める効果があります。
7.休職や復職の判断
従業員がケガや病気、メンタルの不調で通常の業務を行うことが困難になったときは、産業医が休職するかどうかを判断します。同様に、休職していた従業員が復職できるかについての判断も、産業医が行います。
産業医は、従業員の病気やケガの程度だけでなく、「通常業務を遂行できるか」という視点で休職や復職を判断する点が特徴です。
特に従業員を復職させる際は、再び健康を害することがないよう、産業医の意見を聞きながら慎重に進めることが大切です。産業医の判断に基づき、時短勤務から徐々に慣らしていくなど、できるだけ従業員の負担を軽減できるように配慮しましょう。
産業医ができること・できないこと
普段私たちが病気やケガを治療してもらっている一般的な医者(臨床医)とは違い、産業医には「できないこと」が存在しています。
産業医には、どのような権限があるのでしょうか。ここでは、産業医が「できること」と「できないこと」について解説します。
産業医ができること
産業医ができることは、企業における業務調整と医療機関の紹介です。どのようなことなのか、詳しく解説します。
企業と連携して業務調整を行う
産業医は、労働者の健康を維持・促進するために必要な業務調整や具体的な配慮を、事業者に対して意見・指導できます。この権利は、労働安全衛生法 第13条の5に定められています。
例えば、高ストレス者の配置換えを指示したり、長時間労働者の業務調整を指導したりすることが可能です。もちろん、このような業務調整は従業員とよく話し合い、本人の希望や健康状態を加味したうえで行うことが大切です。
医療に関してだけではなく、企業経営や業務についても精通した産業医であれば、従業員ひとり一人に対して適切な業務調整案を提示してくれるでしょう。
医療機関を紹介する
産業医は、検査や受診が必要だと判断した従業員に対して、医療機関を紹介することができます。
「どのような検査が必要なのか」「どのような状態で何科にかかればいいのか」などの判断を、従業員本人や事業主が下すのは難しいことです。医学的な知識を持った産業医には、従業員が適切な医療を受けられるようにするため、医療機関へバトンを渡す役割もあります。
産業医ができないこと
産業医ができないことは診察や治療、それから診断書の発行です。その理由を詳しくみていきましょう。
診療や治療
産業医は医師免許を持っていますが、医療行為を行うことはありません。そのため、病気やケガの診察・治療はできないのです。
産業医の役割は、従業員の健康を管理・促進することです。その他の医療行為は労働安全衛生法に定められた産業医の業務に含まれていないため、原則実施することはありません。
ただし、企業内に診療所を併設するなどの一定の要件を満たすことで、産業医が臨床医として医療行為を行える場合もあります。
診断書の発行
産業医は従業員の診察をしないため、診断書を発行することもできません。ただし、休職や復職の判断をして、企業に必要な措置を講ずるように伝える「意見書」を発行することは可能です。
産業医は、「従業員が健康を維持しながら業務に従事できるか」を判断基準にしています。一方で臨床医(主治医)は、「安定して日常生活を送れるかどうか」を判断基準にしています。
このように、それぞれでは判断基準が大きく異なるのです。そのため、「産業医からは復職不可の意見書が出て、主治医からは復職可能の診断書が出た」といったように、意見が分かれることは珍しくありません。
産業医とは?医者との違い
産業医とは、事業所内で働く従業員の心身の健康や健全な職場環境を維持するために、専門的知識を持って指導やアドバイスを行う医師です。
ここからは、役割とともに押さえておきたい産業医の基本知識を解説します。
なお、産業医の詳細はこちらの記事でも紹介しています。あわせてご覧ください。
産業医が必要な事業所の条件
常時50人以上の従業員がいる事業所には、産業医の選任義務があります。事業者は、事業所で働く従業員の人数に応じて、専属の産業医または嘱託の産業医と契約する必要があります。
必要な産業医の人数と種類は、以下のとおりです。
従業員の人数 | 産業医の人数 | 産業医の種類 |
50 人〜999人 | 1人 | 嘱託 |
50~999人まで (※有害な危険を含む業務) |
1人 | 専属 |
1,000~3,000人未満 | 1人 | 専属 |
※出典:厚生労働省|産業医について
50人〜999人までの事業所では嘱託産業医を1人選任し、月に一回または週に一回などのペースで事業所へ来てもらいます。
なお、労働安全衛生規則 第13条1項3号に定めている一定の有害業務に該当する場合は、50人〜999人までの事業所であっても専属の産業医が必要です。
1,000人以上の従業員を使用している事業所では、人数に応じた専属の産業医が必要となります。専属産業医は、事業所に所属し事業所の勤務時間にあわせて仕事をします。
なお産業医の選任は、常時50人以上の従業員が働くようになってから14日以内に行わなければいけません。産業医を選任したり交代したりしたときは、すみやかに労働基準監督署へ届け出ましょう。
産業医選任届については、こちらの記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
産業医と医者の違い
産業医と一般的な医者(臨床医)の違いは、表のとおりです。
産業医 | 臨床医 | |
資格 | ・医師免許 ・厚生労働省が定める一定の要件を満たす |
医師免許 |
立場 | 企業に選任され、中立の立場で助言したり措置を講じたるする | 患者の立場に立って病気や怪我を治療する |
対象者 | 選任した企業が雇用している従業員 | 医療機関を受診した患者 |
事業主への勧告権 | ある | ない |
職務 | 職場における健康管理 | 診察や検査、治療 |
産業医と臨床医はどちらも医師免許を持った医師ですが、それぞれでは立場や対象者、職務などが大きく異なります。
また、厚生労働省が定めた以下の要件のいずれかを修了しなければ、産業医にはなれません。
- 1:厚生労働大臣の指定する者(日本医師会、産業医科大学)が行う研修を修了した者
- 2:産業医の養成課程を設置している産業医科大学その他の大学で、厚生労働大臣が指定するものにおいて当該過程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
- 3:労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、その試験区分が保健衛生である者
- 4:大学において労働衛生に関する科目を担当する教授、准教授、常勤講師又はこれらの経験者
出典:厚生労働省|産業医の要件
産業医は医療に関する知識に加え、労働衛生に関する専門知識も持っています。そのため、企業や従業員は安心して業務や健康のことを相談可能なのです。
産業医はどこにいる?
産業医は、次の4つの方法で探すことができます。
- 1:地元の医師会による紹介
- 2:検診機関による紹介
- 3:産業医紹介サービスの利用
- 4:地域産業保健センターからの紹介
医師会や検診機関は必ずしも産業医の紹介に対応しているわけではないため、注意が必要です。また、地域産業保健センターでは産業医を紹介できる事業場や人数を制限している場合があります。
スムーズに産業医を探したいのであれば、産業医紹介サービスを検討してみるとよいでしょう。事業所の特色や希望に合った産業医を紹介してもらえるため、より高い健康経営効果を得られます。
産業医面談は産業医の大事な役割
産業医にはさまざまな役割がありますが、そのなかでも重要性が高い役割として「産業医面談」が挙げられます。
産業医面談はどのような場合で必要になり、何を相談すればよいのでしょうか。以下では、産業医面談について詳しく解説します。
産業医面談が必要になる条件
産業医面談が必要となるのは、次のような場合です。
- ・健康診断の結果が悪い従業員がいる場合
- ・ストレスチェックの結果に高ストレス者がいる場合(法定面談)
- ・長時間労働者がいる場合(法定面談)
- ・メンタルヘルス不調者がいる場合
- ・休職復職者がいる場合
- ・身体疾患を持つ従業員がいる場合
- ・健康やメンタルヘルスに関する相談をしたい従業員がいる場合
高ストレス者や長時間労働者に対する産業医面談は、法律で実施が義務付けられています。
その他の従業員に対する産業医面談は任意ですが、健康維持や促進のため積極的に実施することが推奨されています。
産業医面談では何を相談する?
従業員のなかには、「産業医に何を相談するべきかわからない」という方が多いかもしれません。産業医面談では、次のような内容を相談できます。
- ・体調
- ・メンタルヘルス
- ・生活習慣
- ・就業
- ・休職や復職
- ・退職
産業医面談は、仕事のことや体調のことはもちろん、プライベートの悩みなどあらゆる相談に対応しています。
また、ここで相談した内容が本人の同意なく外部に漏らされることはないので、安心して相談することが可能です。
嘱託産業医に依頼する際の注意点
嘱託産業医に毎月の業務を依頼する際は、3つの注意点を押さえておく必要があります。ここでは、具体的な注意点を解説します。
衛生委員会の開催日を決める
嘱託産業医に業務を依頼する際は、慎重に衛生委員会の開催日を決めましょう。なぜなら、衛生委員会(安全衛生委員会)には、人事総務を中心とした複数のメンバーが出席するためです。
また産業医が訪問する際は、衛生委員会や職場巡視、従業員への産業医面談などをまとめて行うこともあります。つまり衛生委員会の開催日は、各関係者にとって都合がよく、まとまった時間が確保できる日程に設定しなければいけないのです。
まずは関係者のスケジュールをよく確認し、適切に衛生委員会の日程を決定しましょう。
産業医面談に必要な時間を確認し、訪問当日の流れを調整する
産業医面談を行う場合は、事前に面談に必要な時間を確認し、当日の流れを調整しておくことが大切です。
産業医面談の人数は、長時間労働者やメンタル不調者の人数に応じて、毎月変動します。そのため、あらかじめ「今日は何人面談予定で、何時間かかる」というスケジュールを明確にしておく必要があるのです。
特に、嘱託産業医は訪問時間が限られます。訪問当日の流れや時間配分を事前に相談して、時間内にすべての面談を終わらせられるように段取りしておかなければいけません。
面談人数が多いときは、訪問時間を延長したり翌月に繰り越したりして、面談時間を調整するとよいでしょう。
2カ月に1回の産業医訪問の場合
平成29年に労働安全衛生規則等が改正されたことにより、産業医の職場巡視を2カ月に1回以上にすることが可能になりました。ただし、職場巡視を2カ月に1回以上にする条件として、「企業から産業医に所定の情報を提供すること」が定められています。
産業医訪問が2カ月に1回の場合は、産業医が訪問していない月に行った職場巡視の結果や、長時間労働者の情報などを共有できるように準備しておきましょう。
初めて嘱託産業医を招き入れる企業では、どのような情報をどのように共有したらいいか迷ってしまうこともあるでしょう。
そのようなお悩みをお持ちの企業担当者は、ぜひDr.健康経営が提供するテンプレートを使用してみてください。このテンプレートを活用すれば、初めての企業でもスムーズに産業医へ情報提供を行えます。
まとめ
産業医には、職場巡視や産業医面談、休職・復職の判断など多くの役割があります。産業医を招き入れる際は、「できること」と「できないこと」をしっかりと理解のうえ健康経営に活かすことが大切です。
業務上のストレスによるうつ病や過労、深刻な労災を未然に防ぐために、産業医の需要は年々高まっています。ぜひ、従業員の健康を維持しいきいきと働ける職場環境を整えるために、産業医を上手に活用してみてください。
産業医を探すときは、産業医紹介サービスを利用するとスムーズです。Dr.健康経営では、経験豊富な産業医による健康経営サポートを提供しています。産業医や健康経営でお困りの方に向けて「質問箱」を設置しているので、お気軽にご活用ください。
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