産業医の役割・選任

主治医と産業医の違いとは?それぞれの役割や仕事内容・意見に違いがある場合に企業がするべき対応

日付
更新日:2023.10.21

従業員の健康管理で重要な役割を担うのが産業医です。しかし、従業員には主治医がいることも多く、健康上の問題があった場合や休職や復職の判断は、主治医か産業医どちらの判断を優先するべきか迷うところです。

本記事では、従業員の健康管理を担当している経営者や企業担当者に向け、主治医と産業医における役割や職務内容などの違いを、両者を比較しながら解説します。

さらに、主治医と産業医の意見が違った場合に、企業としてどう対処するべきなのかも解説しますので、ぜひ参考にしてください。

\復職の対応・判断には産業医が必要!/
Dr健康経営に問い合わせる

主治医と産業医の定義と役割

主治医と産業医はともに医師であることは変わりませんが、両者には要件や役割の違いがあります。まずは、それぞれについての概要を知っておきましょう。

主治医とは

主治医とは、厚生労働省の定義によれば、主に次の役割を担う専門家です。

・複数の慢性疾患を有する患者の対応
・必要な時にいつでも連絡が取れ、適切な指示を出せる体制の確保
・専門医や介護保険施設などへの適切な紹介
・継続的な服薬や健康管理

平たく言えば、主治医は身近でいつでも通える医者で、自分の健康状態についてよく知っている存在です。また、病気を発症していない状態でも相談に乗ってもらえます。

なお、主治医が「かかりつけ医」と違う点は、専門的な分野があることです。したがって、眼科や心療内科などで複数の主治医がいることは、ごく一般的です。

引用:厚生労働省「外来医療(その2)」

産業医とは

産業医の要件は、労働安全衛生規則第十四条2項に定められています。重要なポイントを要約すると以下のとおりです。

・労働者の健康管理に必要な医学を持つ者
・産業医科大学その他の大学で正規の課程を修了した者
・労働衛生コンサルタント試験(保健衛生)に合格した者
・大学で労働衛生に関する科目を担当している、していた教授、准教授、講師
・厚生労働大臣が定める者

出典:e-Gav「昭和四十七年労働省令第三十二号労働安全衛生規則」

産業医の主な役割は以下のとおりです。

・労働者の健康の保持増進、健康障害が出た際の調査と再発防止策の作成
・作業環境のチェック、管理
・健康、衛生の教育、アドバイス
・健康診断の実施、判断
・ストレスチェックの実施、措置
・長時間労働者の面談
・職場巡視や衛生委員会への参加

参考: 厚生労働省「産業医ができること」

従業員が50人以上いる企業では、法律で産業医の選任が義務付けられていますし、休職、復業の対応や判断、労働環境について従業員とトラブルが発生した際なども、産業医は重要な役割を担います。

以下の記事では、産業医の選任基準や役割、産業がいない中小企業がおこなうべき対処法などを詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。

参考記事:産業医がいない中小企業は?罰則や相談先、対処法を解説

\メンタルヘルスケアに強い産業医をお探しなら!/
Dr健康経営に問い合わせる

主治医と産業医の違い

主治医の活動は主に患者が対象であるのに対し、産業医では企業に属する労働者が対象です。それによって以下のような違いがあります。

項目 主治医 産業医
活動場所 病院やクリニック 雇用された事業所
活動の対象者 主治医の患者 勤務する事業所の従業員
職務内容 診察、治療、処方 面談、本人や企業への報告、アドバイス、健康指導
立場 従業員が健康的に生活できるかを考える 従業員が健康的に勤務できるかを考える
事業主への勧告権の有無 なし あり

それでは、各項目について詳しく解説していきます。

活動場所

主治医の活動場所は病院やクリニックなど医療機関です。緊急の場合や健康上の理由で動けない場合は医師が自宅などに出向きますが、病院やクリニックで診療します。

一方、産業医の活動は企業内がメインです。例外的に産業医の病院やクリニックで従業員の方を面談することもありますが、基本的には企業内にある産業医の勤務室等で活動します。

活動の対象者

主治医が担当するのは、病気やケガなど健康上の問題がある患者です。時には、未病の人に対して健康上の相談に乗ることもあります。

一方、産業医の対象者は雇用されている事業所の労働者です。

例えば、長時間労働をした従業員や、ストレスで心身の不調がある人などとの面談を行います。また、室内の換気が適切に行われているか、休憩時間が確保されているかなど、職場環境や業務状態のチェックも産業医の仕事です。

職務内容

主治医は診察や検査を行い、治療や薬の処方を行います。専門外の疾患である場合や、医療設備などの関係で対応できない場合は、他の病院の紹介状を書いて患者に渡すこともあります。

一方、産業医は面談、健康診断の結果判定などをしますが、診察・治療は行いません。従業員の健康を阻害している要因や、従業員の健康増進のためのアドバイスを本人や企業に伝えるだけです。

つまり、医学の専門家として健康的な企業活動をサポートする職務にとどまります。

立場

主治医は患者が健康的な日常生活を送れるように、病気やケガなどを治療し、必要に応じて健康上のアドバイスをします。

また、できるだけ患者の希望する治療方針に従うことも主治医の特徴です。この意味では、患者の人生を含めて全般的にサポートする立場になることもありえます。

一方、産業医は従業員が職場で健康上や衛生上の問題がないように措置を講じる立場です。

また、産業医は従業員の健康増進による生産性向上や、優秀な人材の確保など、企業に対して貢献する役割も担います。したがって、事業者と労働者の両方に中立的にかかわる立場になります。

事業主への勧告権の有無

主治医は医師法に従って活動するため、事業主への勧告権はありません。主治医が患者の職場環境を詳しく知っているとは限らないため、当然といえるでしょう。

一方、産業医には労働安全衛生法十三条3項および4項によって、事業主への勧告権があることが定められています。

産業医から勧告を受けた事業者は、勧告された内容について措置を講じて衛生委員会に報告しなければなりません。勧告に従わない場合も、企業が考える正当な理由を衛生委員会に報告します。

\メンタルヘルスケアに強い産業医をお探しなら!/
Dr健康経営に問い合わせる

復職判定では主治医と産業医の意見に違いが出やすい

復職判定では主治医と産業医の意見に違いが出やすい

復職判定では、主治医と産業医で意見の違いが出ることがあります。その理由は、主治医が患者の生活全般を考慮して判断する立場であるのに対して、産業医は業務に支障が出ないかを基準に判断する立場であるからです。

よくあるケースは、メンタル不調により休職していた従業員が復職するようなケースです。

例えば、「休職によって生活が困窮し、精神的なストレスが大きい」などと患者に伝えられれば、主治医は患者の立場になって総合的な判断を下して復職を許可する場合があるでしょう。

一方、産業医の場合は、所定の労働時間を勤務できないと考えれば、もう少し休職が必要であると判断します。

従業員の休職と復職に関しては、以下の記事で詳しく解説しているのであわせてご覧ください。

参考:休職には診断書が必要?休職の手続きや期間・休職者への対応の注意点を解説

参考:リワーク費用はどれくらい?施設ごとの制度の違いや復職の際の注意点を解説

職場復職の手順

健康上の何らかの理由で休職していた従業員の復職手順は以下のとおりです。ここでは企業側の視点で流れを解説します。

1. 主治医が書いた診断書を、従業員に提出してもらう
2. 産業医による面接を実施し、産業医に復職の可否を判断してもらう
3. 従業員が復帰しやすいように勤務時間や職場環境のプランを立てる
4. 最終的に企業が職場復帰の可否を判断する
5. 可能と判断した場合は職場復帰させる
6. 必要に応じて従業員のフォローを行う

このように、主治医の職場復帰の判断は復職手続きの一部にすぎません。主治医は職場環境までは熟知できないため、産業医や企業の判断を含める上記の手順になっています。

従業員がスムーズに職場復帰をするためにも、産業医の役割は非常に重要だということがわかります。

なお、職場復帰の流れや注意事項、復帰支援プランの作成方法などについては、厚生労働省作成の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」に詳しく記述されています。

参考:厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」

\メンタルヘルスケアに強い産業医をお探しなら!/
Dr健康経営に問い合わせる

主治医と産業医の意見に違いがある場合の対応方法

主治医と産業医の意見に違いがある場合の対応方法

主治医と産業医の意見に違いが出た場合は、最終的には企業が判断しなければなりません。主治医と産業医の意見をすり合わせるには、診療情報提供書を活用する方法があります。

最終判断は企業が行う

主治医と産業医の意見が異なる場合は、最終的に企業が判断を下すことになります。多くの場合に判断の基準になるのは以下の3点です。

・従業員に働く意志があるか
・通常の勤務時間に耐えられる体力と心身の安定があるか
・健康上の問題になった要因が改善されているか

いずれの基準も復職後に再び休職にならないかどうかがポイントです。特に業務環境の改善や復職後のサポート体制などは主治医や産業医が判断しにくい部分であるため、最終的には企業が総合的に判断する必要があります。

産業医意見書を活用する

産業医意見書とは、産業医が従業員を面談した結果や意見を述べた文書で、企業を介して主治医に渡されます。

その目的は主治医と産業医の意見をすり合わせるためで、企業が産業医に依頼して記述してもらう文書です。

具体的には、健康管理に留意して長時間労働を改善したため復職可能であるなどと産業医が意見を書きます。また、作業時間や通勤時間、作業状況(一人作業、暑熱・寒冷作業の有無など)などを伝えて、主治医が正しい判断をしやすいように情報を提供します。

産業医意見書を活用する際の注意点は、企業側の希望を通すために用いないことです。あくまで再発防止の観点で、妥当な判断を導き出すために活用しましょう。

産業医意見書について、フォーマット付きで詳しく解説した以下の記事もあわせてご覧ください。

参考:産業医の意見書とは?診断書との違いや役割を解説【フォーマット例付き】

まとめ

主治医と産業医は立場や判断基準がそれぞれ異なります。

主治医が患者を総合的に診療、治療し、継続的に関係を持ち続けます。一方、産業医は従業員が健康的に働けるように従業員を面談しますが、診断・治療はしません。

しかし、産業医は職場環境の改善や維持、従業員の休職、復業サポートもおこなうため、企業にとっては重要な存在です。

企業が従業員の健康のためにできることは、自社に合った産業医を選定し、必要に応じて主治医と連携をとりながら従業員に活用してもらうことです。違いや特徴を理解した上で、健康管理の水準を高めていきましょう。

そのお悩み、Dr.健康経営に相談してみませんか?

「従業員数が初めて50名を超えるが、なにをしたらいいかわからない…」
「ストレスチェックを初めて実施するので不安…」

そんなお悩みを抱える労務担当者の方はいませんか?
Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

関連記事