産業医の役割・選任

産業医を変更するには?手続きの方法や自社にマッチした産業医の選び方

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更新日:2022.06.06

自社の産業医は労働安全衛生法で決められた役割を果たしているでしょうか。産業医が本来の仕事をしなければ労働者の健康が脅かされ、企業の経営にも影響します。

本記事では、現産業医に不満がある方、現産業医との契約が満了する企業の方に向けて、変更すべき産業医の特徴や産業医を変更する方法などを解説します。自社にマッチする産業医を選ぶポイントも解説するので、スムーズな産業医の変更にお役立てください。

変更を考えるべき産業医とは?

適切な役割を果たさない産業医は速やかに変更する必要があります。働かない産業医を選任していると企業も責任を追及されかねません。以下では、変更を考えるべき産業医の特徴を解説します。

産業医としての役割を理解できていない

産業医は労働安全衛生法に定められた役割を果たす義務があります。労働安全衛生法は平成29年に改正されました。長年トラブルなく契約してきた産業医でも法改正に対応できていない可能性があります。産業医の勤務状態を今一度把握しましょう。

また、産業医に必要な役割を理解していないケースも変更を検討する必要があります。具体的には、健康診断のみに対応すればよいと思っている、月に1回の職場巡視を行わないなどです。

なお、産業医の主な役割は以下の5つです。

・月に1回以上、衛生委員会のメンバーとして会議に参加する
・月に1回以上、職場巡視をする
・健康診断の結果をもとに事後措置を実施する
・定期健康診断結果報告書に署名する
・労働者からの健康相談に対応する

産業医が行う役割について、詳しくは『産業医って何をしてくれるの?産業医が必ず行う5つの役割。』を参考にしてください。

産業医として適切な役割を果たさない

産業医としての役割を理解するものの、故意に役割を果たさないケースも問題です。

近年は新型コロナウイルス感染症の対策に非協力的な産業医により、企業が安全配慮義務違反を追求されるケースも増えました。職場クラスターが発生すると企業の感染症対策が問われます。十分な対応ができていなかったと見なされると、安全配慮義務違反となる可能性が高いと考えられます。

このように労働者の健康障害に対応しない産業医は名義貸し状態といえます。正しく職務を遂行しない産業医は「ブラック産業医」と呼ばれています。名義貸し状態の産業医もブラック産業医に含まれます。

ブラック産業医について、詳しくは『ブラック産業医の実態とは?企業が知っておくべきことや注意するべきことを解説』も参考にしてください。

ストレスチェック実務者の役割を拒否する

労働者50名以上の事業所は、労働者に対しストレスチェックの実施が義務付けられています。ストレスチェックを行う人は、労働安全衛生法に定められた実施者のみです。実施者には、医師・保健師・厚生労働大臣が定める研修を受けた看護師または精神保健福祉士などが該当します。

産業医にも実施者の資格があります。しかし、ストレスチェックの実施を拒否する産業医も存在します。

ストレスチェックの目的は、労働者自身によるストレスの自覚と、ストレスの少ない職場環境の構築です。労働者が働きやすい職場に向け、適切な産業医を選任してストレスチェックの体制を整えましょう。

ストレスチェックの義務化について詳しくは『ストレスチェック制度とは?義務化の背景や労働者への対応・手順や費用など詳しく解説』も参考にしてください。

産業医としての的確なアドバイスができない

事業者や労働者に対し、適切なアドバイスや改善策を提案できない産業医も変更する必要があります。

労働者からの相談や面談への対応は産業医の役割の中でも重要です。近年はメンタル面でのサポートが必要になるケースが多く、精神疾患に強い産業医の需要が高まっています。

令和2年の労働安全衛生調査によると、過去1年間で精神疾患を理由に連続1ヵ月以上休業した労働者や退職した労働者がいた事業所の割合は全体の9.2%でした。事業所の規模が大きくなるほど、労働者が休業しがちです。

また、産業医が不適切なアドバイスをしてしまうと労働者の健康状態を悪化させ、企業力が弱まってしまう可能性があります。うまくアドバイスできない背景には、産業医としての経験やスキル不足があると考えられます。取り返しの付かない事態にならないうちに産業医の変更を検討しましょう。

参考:厚生労働省「令和2年 労働安全衛生調査(実態調査) 結果の概況」

コミュニケーションが取れていない

産業医は労働者とのコミュニケーションはもちろん、人事や労務など経営側とのコミュニケーションも必要です。労働者の健康に向けた職場環境の改善には経営側の協力が不可欠です。

産業医には、労働者の健康と経営面の両方を考慮した適切なアドバイスが求められます。しかし、産業医が本質的な役割を自覚していなければ、経営面を無視したアドバイスをする可能性があります。

また、産業医は中立的な立場です。企業と産業医が結託して復職可能な労働者を退職に追い込むような行為はあってはなりません。また、過剰に労働者に肩入れする産業医にも注意が必要です。

産業医を変更する方法

変更を考えるべき産業医とは?

産業医を変更する方法や、記載する内容について解説します。産業医選任報告書類を記載し、証明書も添えて労働基準監督署に提出しましょう。

産業医選任報告書類を記載する

産業医を変更する際は、基本的に産業医の選任と同じような手順で行います。ただし、現産業医を解任後、14日以内に新たな産業医を選任しなければいけない点に注意しましょう。

産業医選任報告書は、労働基準監督署の窓口や厚生労働省の公式サイトから入手できます。なお、報告書に記載する内容は以下のとおりです。

・事業場の名称や所在地、連絡先、事業の種類
・労働保険番号
・労働者数
・新たに選任した産業医の氏名や連絡先、経歴、医籍番号などの情報
・新たな産業医を選任した年月日
・産業医が安全管理者または衛生管理者を兼任する場合は担当すべき職務
・前任の産業医の氏名と辞任または解任の年月日

以下の書類は、産業医選任報告書類である『総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告』です。

総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告
画像出典:厚生労働省「産業医選任報告様式」

産業医報告書類を届け出る

産業医選任報告書類を記載したら労働基準監督署に届け出ましょう。選任報告書類は遅滞なく提出することが定められています。上述したように、前産業医の解任から14日以内に新たな産業医を選任しましょう。辞任・解任の年月日は、新たな産業医の選任日と同一でなくとも構いません。

前産業医を解任した旨の報告は不要です。産業医選任報告書類の提出を持って、前産業医の解任も報告したことになるためです。産業医選任報告書類を紙の用紙で提出するときは、提出先窓口に持参するか郵送します。手間をかけずに提出したければ電子申請も検討しましょう。

なお、産業医報告書類を提出するときは、医師免許証の写しと、「報告書類の別表コード1から7までのいずれに該当するか」を証明する書類が必要です。

また、産業医選任報告書類の記載方法は、労働基準監督署によって異なる場合があります。提出先の労働基準監督署に記載方法や必要書類について確認しておきましょう。

理由があり現産業医を変更できない場合

産業医を変更したくてもすぐに手続きができないケースも少なくありません。産業医本人が変更を拒否する、産業医を紹介してくれた人との付き合いがこじれそう、などの状態では産業医の変更に時間がかかります。加えて、契約上の理由で急に産業医を変えられない場合もあります。

すぐに産業医を変更できない場合は、一時的に産業医を2名体制にするという対処法があります。労働者が健康に働ける環境を作ることで、休職・退職を選ぶ人材が減り、企業が安定して経営を続けることが可能です。また、働きやすい職場には応募者も集まりやすいと考えられます。

ただし、新たな産業医と契約すると元々契約していた産業医から不満を訴えられる可能性も考えられます。また、2名の産業医を雇えばその分の費用が必要です。

このようなメリット・デメリットを理解した上で、産業医を2名体制にすることを検討しましょう。

自社にマッチした産業医を選ぶポイント

産業医を変更する方法
産業医の変更に失敗しないために、自社に合った産業医を選ぶ必要があります。以下では、産業医を選ぶポイントについて解説します。産業医紹介サービスの活用についても解説するのでぜひ参考にしてください。

自社の問題点・課題を明確にする

自社にマッチした産業医を選ぶには、自社が抱える課題や問題点を明確にする必要があります。一般社員の採用過程と同様に「会社の求めている産業医かどうか」をよく考えましょう。

産業医に関する、企業課題や問題の一例を紹介します。

・精神疾患に陥る労働者が多いため、特にメンタルヘルスに対応してほしい
・離職率を下げたいため、原因究明も含めアドバイスがほしい
・テレワークの比率が高いため、テレワークならではのケアをしてほしい
・女性が多いため、女性が相談しやすい産業医を求めている
・高齢の社員が増えているため、生活習慣病をケアしたい
・業界特有の傾向があるため、業界の特徴を理解できる産業医を探している
・残業時間が多い労働者、深夜勤務の労働者のケアをしてほしい
・労働者に、心身のセルフケアを促したい
・衛生委員会に出席してほしい

前任の産業医が自社に合わなかった理由も明確にして採用基準に盛り込みましょう。

産業医紹介サービスを活用する

自社にマッチする産業医を探す方法として、産業医紹介サービスの利用がおすすめです。人脈を通じて産業医を探しても自社に合う産業医を見つけられるとは限りません。地域の医師会に相談するという手もありますが、事業所が複数あると産業医の確保が大変です。

また、面識のある医師に産業医を依頼したくても直接契約の方法がわからない場合もあります。

産業医紹介サービスは、産業医に関して熟知しているスタッフが企業と産業医の間に入り中立的にサポートします。産業医紹介サービスにはさまざまな経歴の人材が多数登録しているため安心です。前任の産業医の問題点や企業の課題を伝え、自社にマッチする産業医をスムーズに見つけられます。

株式会社Dr.健康経営の産業医コンシェルジュは、経験豊富なプロ産業医が多数登録しています。メンタルヘルスや休職復職、感染対策まで、自社の課題に合わせて柔軟な対応が可能です。

まとめ

役割を果たさない産業医は変更を検討しましょう。産業医が労働安全衛生法で義務付けられた業務に従事しないと労働者の健康が損なわれ、企業にも悪影響が発生します。産業医を変更する際は産業医選任報告書類を記載し、労働基準監督署に提出しましょう。

株式会社Dr.健康経営の産業医コンシェルジュには、さまざまな産業医が登録しています。自社にマッチする産業医をお探しの際は、ぜひ、産業医コンシェルジュをご検討ください。

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Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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