産業保健・健康管理

産業医面談の対象者は?面談で話す内容・実施の流れなど徹底解説

日付
更新日:2023.05.17

産業医面談は、従業員の心と体の健康管理を目的に実施されますが、「産業医面談では何を話すの?」「自分が面談の対象者なのか知りたい」「面談を受けることで休職を勧められたり、仕事に影響がでることは?」など不安を抱える従業員も少なくありません。

企業の担当者の方は、産業医面談を受ける対象者の選定方法や、産業医選びに迷っている人も多いでしょう。

そこでこの記事では、産業医面談とは何かといった基本知識から、面談の対象者、実施の流れなどについて詳しく解説しますので、ぜひ参考にしてください。

産業医面談とは

産業医面談とは、従業員の健康管理を目的として、産業医と従業員がマンツーマンでおこなう面談のことです。

面談では、産業医が従業員の健康状態やメンタルヘルス、就業状況などについて質問し、従業員の心と体が健康な状態で働けるようにサポートします。

産業医には守秘義務があるため、面談の内容が上司や職場の人に知られてしまうことはありませんが、産業医は従業員との面談内容を踏まえ、企業側に必要な措置を提案することもあります。

ただし、産業医の提案をすべて受け入れる必要があるわけではなく、最終的な判断は企業側で下すことになります。

産業医面談では何を話す?質問7項目を解説【人事・管理職向け】

オンラインでも産業医面談は受けられる

産業医面談は、2020年11月よりオンラインでの実施が可能となりました。ただし実施には、以下の要件を満たす必要があります。

  • ・対象者の顔色や声が確認できるような環境でおこなう
  • ・情報漏洩防止のためセキュリティ対策をおこなう
  • ・対象者が面談しやすいパソコンやツールを使う

従業員が安心して面談を受けるためにも、上記は重要なポイントとなります。企業側は、オンライン面談を充実させるためにも、事前に対象者の就業状況や業務内容について、産業医に共有しておくと良いでしょう。

産業医面談の対象者は?

産業医面談を受ける対象者は、主に以下の通りです。

  • ・長時間労働者
  • ・健康診断で異常が見られた者
  • ・ストレスチェックで高ストレスだった者
  • ・休職や復職、労働環境について希望がある者 など

企業は、上記に該当する従業員に対して面談希望の有無を確認して、産業医面談を実施しますが、労働安全衛生規則によって面談が義務付けされている人もいます。詳しくは以下の見出しで解説しますが、上記に該当する従業員以外でも、希望がある場合は面談が受けられます。

“引用:厚生労働省面接指導の対象となる労働者の要件等(第五十二条の二)」”

産業医面談が義務|長時間労働者

2019年に施行された働き方改革関連法では、「時間外労働が単月80時間を超える場合には、労働者からの申し出があった場合に、医師による面接指導を行わなければならない。」「単月100時間を超える場合には、労働者の申出の有無にかかわらず、医師による面接指導を行わなければならない。」という項目が定められました。

つまり、以下の長時間労働者に対して、産業医面談を受けさせることは、企業の義務ということになります。

・時間外労働が100時間を超える従業員全員
・時間外労働が80時間を超え、かつ、本人から面談の申し出がある従業員

また、月80時間超えの労働者に対しては、時間外労働時間の算定を行った時点で、企業から本人へ「時間外労働時間が今月80時間超えました」という通知をしなければいけません。

同じく、産業医に対しても、月80時間超えの「①労働者の氏名 ②時間外労働時間に関する情報(具体的な時間など)」を毎月提供する必要があります。

長時間労働の上限はどこまで可能?

長時間労働の上限は、特別な事情がある場合でも以下の労働時間を超えることはできません。

・年に720時間
・複数月平均80時間(休日労働含む)
・単月100時間(休日労働を含む)

また、月45時間を超えることができるのは、年間6回までです。これに違反する場合には新たに罰則が規定され、1人当たり30万円以下の罰金または6か月以下の懲役が科されますので、企業の担当者は注意しましょう。

過重労働とは?長時間労働との違いや起こり得るリスク・企業の取り組み事例を解説

産業医面談は任意|健康診断で異常が見られた従業員

労働安全衛生法に基づき、健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると診断された従業員を対象に、産業医の面談で健康指導を受けられるように企業は努める必要があります。

健康診断の結果、異常の所見があると診断された従業員について、企業側は健康診断実施日から3ヶ月以内に産業医へ意見聴取をおこない、産業医により就業上の措置が必要と認められた場合は、従業員に産業医面談を促すことが推進されています。。

しかし、長時間労働者とは違い義務ではないので、従業員に対して産業医面談の強制はできません。企業側は従業員に産業医面談が必要な理由を説明して、従業員が納得した上で面談を受けてもらうことが望ましいです。

“引用:厚生労働省労働安全衛生法 第七章 健康の保持増進のための措置(第六十四条-第七十一条)」”

産業医面談は任意|ストレスチェックで高ストレスだった従業員

ストレスチェックは、労働安全衛生法に基づき、労働者数が50人以上の事業場で年に1回の実施が義務づけられており、その結果に伴い産業医面談の実施が必要になります。

ストレスチェックの結果、医師や産業医、保健師等が評価結果を踏まえて、面接指導を受ける必要があると判断された従業員は産業医面談の対象になります。

その後、対象となった従業員が面談を希望し、企業側が産業医へ面接指導を依頼、1ヶ月以内に実施するという流れになりますが、強制はできないため、企業の担当者は従業員に産業医面談の必要性をしっかり説明してなるべく受けてもらうようにしましょう。

“引用:厚生労働省改正労働安全衛生法に基づく「ストレスチェック制度」の具体的な運用方法を定めた省令、告示、指針」”

ストレスチェックの案内文作成のポイントは?記載例文も紹介

産業医面談は任意|休職や復職、労働環境について希望がある従業員

産業医面談では、業務内容や労働時間といった就労に関することも質問されます。体調やメンタルヘルスを加味したうえでベストな選択肢を一緒に考えてくれるので、休職や復職希望者にも産業医面談を受けてもらうのが一般的ですが、義務ではないため強制はできません。

また、労働環境や就労状況について産業医に相談したいという希望がある従業員にも、企業は面談の機会を設ける必要があります。

休職から復職までに必要な4つの産業医面談を解説!面談情報の取り扱い注意点も

産業医面談を受ける前に記入する2つのチェックシート

長時間労働者の産業医面談では、2つのチェックリストを活用しよう!

基本的には「時間外労働が月80時間以上」の労働者全員に産業医面談をおこなうことが推奨されています。しかし難しい場合には、厚労省が指定する以下の2種類のチェックシートに本人より回答してもらい、産業医面談の希望有無を確認しましょう。
チェックシートの結果、疲労蓄積が大きかったり病気のリスクが高いと思われる場合には、希望がなくても産業医面談を実施する必要があります。

【① 疲労蓄積度チェックリスト】

産業医が疲労蓄積を確認するためだけでなく、本人に自身の疲労蓄積を自覚してもらうことも目的です。

「疲労蓄積度チェックリスト」は、月80時間以上時間外労働をしている労働者全員に必ず記入してもらうようにしてください。またその際に、産業医面談希望の有無の部分は必ず記入してもらうようにしましょう。

※Dr.健康経営が提供するテンプレートはこちら!ぜひご活用ください。
・疲労蓄積度チェックリスト

【② 心身の健康状況、生活状況の把握のためのチェックリスト】

長時間労働は、脳や心臓の病気、メンタル不調との関連性が強いため、産業医面談では、本人の心身の状況を確認していきます。そのための事前情報がこのチェックリストになります。

※Dr.健康経営が提供するテンプレートはこちら!ぜひご活用ください。
・心身の健康状況、生活状況の把握のためのチェックリスト

産業医面談では何を話す?実施の流れ

長時間労働者への産業医面談は、以下の流れで実施していきます。

1:長時間労働者と上司への通知、2種類のチェックリストの配布と提出
2:産業医面談の希望有無の確認
3:産業医面談の準備
4:産業医面談の実施

①長時間労働者と上司への通知、2種類のチェックリストの配布と提出

人事労務担当者は、時間外労働が規定時間(80時間)を超えた労働者と、その上司に対して、時間外労働が80時間を超えた旨の通知をおこないます。
その際に、2種類のチェックリストを配布し、記入・提出をしてもらいましょう。

②産業医面談の希望有無の確認

疲労蓄積度チェックリスト」には、産業医面談の希望の有無を確認する項目があります。

回収したチェックリストの中から、産業医面談の希望有にチェックが入っている従業員を選別します。80時間以上の長時間労働者の全員へ産業医面談を実施している場合は、この過程が除かれます。

③産業医面談の準備

産業医面談をおこなうことになった長時間労働者に関する情報を、人事担当者から産業医へ共有します。

共有する情報は、2つのチェックリスト、直近の健康診断の結果、通院している場合にはお薬手帳、血圧や体組成の測定結果(会社に血圧計など器具がある場合のみ)をできる限りそろえましょう。
さらに、産業医面談の前には、その人がどのような人か、どのような仕事内容や職場環境かについて、人事担当者から産業医に簡単に説明できるといいでしょう。

④産業医面談の実施

産業医は、本人に記入してもらった「心身の健康状況、生活状況の把握のためのチェックリスト」の内容に沿って、以下の3つについて確認をしていきます。

身体状況

脳や心臓の病気に関係する既往歴(高血圧、コレステロール値など)、喫煙や飲酒といった嗜好歴、睡眠時間や食事・運動などの生活状況について確認がおこなわれます。
これらのコントロールが不良、生活習慣が特に乱れている場合には、産業医から本人へ健康生活指導がおこなわれたり、場合によって就業制限が必要になることもあります。

精神状況

落ち込み、不安、焦燥感、意欲低下、希死念慮などの精神症状、また睡眠障害の有無について確認がおこなわれます。
これらの症状が強く出現している場合は、産業医から本人へ病院の受診を推奨したり、場合によって就業制限が必要になることがあります。

業務状況

業務内容、職場環境や対人関係、周囲のサポートの有無、通勤時間について確認がおこなわれます。例えば、家に帰ってから出勤するまで何時間あるか、睡眠時間や休息時間は確保できているかといった内容です。

産業医面談の内容のうち、会社に報告すべき、報告したほうがいいと考えられる内容について、産業医から本人に共有の同意確認がおこなわれます。

本人が共有を拒否する場合には、基本的にはその内容について人事担当者や上司には報告されません。

ただし、本人の安全や健康を確保するために会社へ伝えることが必要な場合(自傷他害の恐れがある場合など)においては、本人の同意の有無にかかわらず、産業医から会社へ必要な内容が共有されることもあります。

産業医の面談内容について詳しく知りたい人は、以下の記事もあわせてご覧ください。

産業医面談とは?目的やメリット、拒否されたときの対処法まで解説

産業医による報告書の提出|長時間労働者面談報告書とは?

産業医面談が終了したら、産業医から企業へ、長時間労働者面談報告書(就業上の措置に係る意見書を含む)が提出されます。

人事労務担当者と職場上司は、長時間労働者面談報告書を確認し、必要に応じて就業制限や病院を受診する際の配慮などの対応を検討しましょう。報告書の内容は、基本的に本人に共有の同意確認がとれた範囲に限ります。

産業医の意見書とは?診断書との違いや役割を解説【フォーマット例付き】

※Dr.健康経営が提供するテンプレートはこちら!ぜひご活用ください。

・長時間労働者面談報告書

・時間外労働に関する衛生委員会用報告シート

まとめ

長時間労働者に対する産業医面談や事後措置をおこなった際には、月に1回開催される衛生委員会において、実施状況を報告する必要があります。

具体的には、長時間労働者の人数、産業医面談の対象人数、産業医面談後の事後措置について共有します。人事担当者がまとめて報告をする場合が多いですが、産業医が変わって報告するケースもあります。

その際に、必ず個人が特定されない配慮が必要です。報告は、口頭でおこなう場合と資料を用いて報告する場合がありますが、口頭でおこなう場合は、必ず衛生委員会の議事録へ記載しましょう。

そのお悩み、Dr.健康経営に相談してみませんか?

「従業員数が初めて50名を超えるが、なにをしたらいいかわからない…」
「ストレスチェックを初めて実施するので不安…」

そんなお悩みを抱える労務担当者の方はいませんか?
Dr.健康経営では、産業医紹介サービスを中心にご状況に合わせた健康経営サポートを行っております。
些細なことでもぜひお気軽にご相談ください。

鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

関連記事