健康経営・職場改善

健康経営のメリット・デメリットとは?成功のコツとなぜ中小企業で重要なのかを解説

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更新日:2023.07.27

従業員の健康に配慮することで企業成長を目指す「健康経営」は、企業にとっても従業員にとってもメリットが豊富な事業戦略です。

日本政府にも推進されている健康経営ですが、実施価値やメリットについて深く理解していない担当者は少なくありません。

この記事では、健康経営のメリットや注目されている背景、実施時の注意点までまとめて解説します。

これから健康経営に取り組む企業担当者は、ぜひ本記事でメリットの最大化を目指してみてください。

健康経営のメリット・デメリット一覧

健康経営のメリット・デメリットについて、「企業側」と「従業員側」の視点に分けて以下の表にまとめました。

メリット デメリット
企業側 ・生産性の向上が見込める
・企業価値が高まる
・離職率の低下が期待できる
・優秀な人材を確保しやすい
・保険料の負担を軽減できる
・準備から実施までに労力がかかる
・成果を測定しにくい
・従業員が不満を抱く可能性がある
従業員側 ・健康維持の促進につながる
・モチベーションアップが期待できる
・業務の効率化につながる
・業務以外の手間がかかる
・個人情報への不安が残る

健康経営には多くのメリットがある一方で、デメリットも考慮しなければなりません。デメリットを把握しておけば、あらかじめ対策を講じることができるでしょう。

例えば、健康経営の取り組みを実施しても準備を怠ると従業員から協力を得ることが困難となる可能性があります。そのため施策を打ち出す際は、あらかじめ健康維持の重要性を理解してもらう対策が必要です。

具体的には医師や健康アドバイザーなどの権威ある専門家にセミナー・研修を実施してもらうなどがあげられます。

健康経営に取り組む具体的なメリット

企業が健康経営を取り入れると、生産性の向上や企業イメージアップ、離職率の低下や優秀な人材の確保、医療費の負担軽減など多くのメリットが生じます。

ここでは企業側のメリットを5つ解説します。

    • ・生産性が向上する
    • ・企業価値や企業イメージが向上する
    • ・離職率の低下が期待できる
    • ・優秀な人材を確保できる
    • ・保険料の負担を軽減できる

生産性の向上が見込める

健康経営で従業員の健康状態を良好に保てれば、企業の生産性向上につながります。

心身ともに健康な従業員は仕事に対するモチベーションが高く、業務に対して積極的に取り組んでくれるためです。仕事が効率的に進むようになれば、さらに意欲がわきやすくなり、業務が円滑化するというプラスの循環が生まれます。

反対に、健康状態が悪くストレスが蓄積していると、従業員の生産性が低下します。職場全体の雰囲気が悪化し、人間関係がうまくいかなくなることも考えられるでしょう。結果的に、離職を考える従業員が増える可能性もあります。

このように、従業員の健康は業務や職場の雰囲気に大きな影響を与えます。企業の生産性を向上させるためにも、積極的に健康経営を取り入れるべきなのです。

企業価値や企業イメージが向上する

健康経営は、企業価値や企業イメージの向上にも効果を発揮します。従業員を大切にする企業には、ホワイト企業のイメージが定着しやすいためです。

経済産業省主催の「健康経営優良法人」や「健康経営銘柄」に選出されれば、より企業イメージの向上が期待できるでしょう。優良企業としての認知度を高められれば株価向上が期待でき、安定した企業運営につながります。

近年は、長時間労働やワークライフバランスの重視など、「従業員の健康に配慮する企業の取り組み」に関する関心が高まっています。健康経営は、求職者はもちろんのこと、社会全体における企業価値の向上に役立ってくれるでしょう。

離職率の低下が期待できる

健康経営は、離職率の低下にも効果的です。

従業員の体調が良好であれば、健康不安を原因とする休職や退職が減少し、離職率の改善につながります。仕事へのモチベーションも高くなるため、転職を考えることも少なくなるでしょう。

特に、中小企業における人材不足は深刻化しています。労働力の不足は長時間労働や職場環境の悪化につながり、さらなる離職を招く可能性があります。最悪の場合、事業の継続が難しくなることも少なくありません。

健康経営による従業員の離職率低下は、人材不足に悩む企業にとっては大きなメリットであるといえるでしょう。

優秀な人材を確保しやすい

健康経営に取り組めば、有能な人材の確保が期待できます。

近年は、「従業員の健康に配慮する企業に就職したい」と考えている求職者が増えてきました。そのため、企業が健康経営に取り組めば、就職活動中の人材に対してアピールすることができます

また就職活動では、職場見学や現場の従業員による座談会などが設けられることがあります。いきいきと働いている従業員を目の当たりにすれば、求職者の就職意欲は高まるでしょう。結果として、企業は有能な人材を確保しやすくなるのです。

また、健康経営によって企業の評判が高まれば、自然に就職希望者が増加し、有能な人材が集まりやすくなります

社会保険料の負担を軽減できる

健康経営を実施することで、社会保険料負担を軽減できるというメリットもあります。

従業員の社会保険料は、企業と従業員が折半して支払う仕組みです。したがって、従業員に体調不良が多ければ、企業の医療費の支出も大きくなります。反対に、従業員が健康ならば医療機関の受診頻度が減り、医療費の削減が可能です。

「見えない人件費」と呼ばれることもある社会保険料は、気づかないうちに大きな負担となっている可能性があります。健康経営で従業員の健康を維持し、治療や投薬を減らすことができれば、企業の費用負担を大きく抑えられます。

健康経営における従業員側のメリット

健康経営における従業員側のメリットは主に以下の3つです。

    • ・健康維持や促進につながる
    • ・モチベーションアップにつながる
    • ・業務の効率化につながる

それぞれを深掘りしてみましょう。

健康維持の促進につながる

健康経営は、従業員の健康維持や促進に高い効果を発揮します。

健康経営を実施する企業では、日々の業務のなかで健康管理の重要性に触れることが増えるため、おのずと従業員の健康意識が高まります。健康維持や促進には正しい知識や心がけが重要なので、健康意識が高まることは非常に効果的です。

長時間労働や休日出勤など、従業員の働き方によっては、健康維持や促進に取り組むことが後回しになってしまうことがあるかもしれません。そのようなときも、企業が率先して従業員の健康維持に取り組むことで、健康への意識づけが可能となります。

モチベーションアップが期待できる

健康経営の実施は、従業員のモチベーションアップにつながります。健康経営によってストレスが少ない職場環境が整えば、従業員一人ひとりが仕事に集中できるようになるためです。

また、健康経営に取り組むことで企業の印象がよくなり、従業員が抱く企業に対する貢献意欲や帰属意識も高まります。自身が働く企業にプラスの印象を抱いていれば、よりいっそう業務へのモチベーションが高まるでしょう。

業務の効率化につながる

健康経営によって従業員の健康状態が良好になれば、一人ひとりが業務に集中できるようになります

業務効率化のためには、仕事に集中して意識を向け、適切なプロセスを踏んでいくことが大切です。従業員がベストなパフォーマンスを発揮できるようになれば、業務にかかる時間や費用を最小限に抑えられるでしょう。

また仕事が効率化することで、仕事に対する自信や自己肯定感にもつながります。

健康経営にデメリットはある?

メリットが豊富な健康経営ですが、デメリットも存在していることを理解しておかなければいけません。健康経営のデメリットとしては、準備と実施に時間や手間がかかることや成果を測定しにくいこと、従業員が不満を抱く可能性があることなどが挙げられます。

以下では、健康経営のデメリットを「企業側」の視点で考えられるデメリットを3つ解説します。

    • ・準備と実施に時間や手間がかかる
    • ・成果を測定しにくい
    • ・従業員が不満を抱く可能性がある

各項目を詳しくみてみましょう。

準備から実施までに労力がかかる

健康経営は、準備と実施に多くの時間や手間を要します。例えば、企業側に次のような業務負担が増加します。

    • ・従業員の健康状況の把握
    • ・産業医との契約
    • ・定期的な健康診断やストレスチェックの実施
    • ・産業医面談の実施
    • ・イベントの開催
    • ・個人情報の適切な管理 など

場合によっては、担当者の業務時間を調整したり、業務時間外に仕事をしてもらうことになることになるかもしれません。その場合、担当者から不平不満を訴えられる可能性があります。

さらに、健康経営を実施する際だけではなく、健康意識の浸透と定着にも手間と時間がかかります

そのため、「張り切って健康経営を導入したものの、なかなか取り組みが浸透せずに長続きしなかった」という事例は決して少なくありません。

成果を測定しにくい

成果を測定しにくいのも、健康経営のデメリットでしょう。「従業員がどれくらい健康になったか」「どれくらいいきいきと働けているか」を数値化することは難しいためです。

健康診断の結果や離職率などで、ある程度の成果を測定することは可能です。しかし、これらの結果が健康経営でもたらされたものなのか、それとも他の要因があるのかを判断することはできません。

健康経営の成果は、取り組み始めてから5年後、10年後に現れてくるものです。短期的に測定できるものではないことを理解しておきましょう。

従業員が不満を抱く可能性がある

健康経営は従業員にとってもメリットが多い取り組みですが、施策によっては不満を抱かれるリスクがある点に注意が必要です。

例えば、社内で分煙や運動習慣などを実施する場合、理解を得られない社員から不満が漏れることは容易に想像できます。また、メタボリックシンドローム対策の施策などを打ち出す場合、コンプレックスを抱き不満を覚える従業員は増えてしまうでしょう。

健康経営に取り組む際は、従業員の気持ちに配慮することが大切です。「無理強いをしない」「いくつかの選択肢から自由に選ばせる」など、従業員にとって負担のない方法で取り入れることを意識しましょう。

健康経営における従業員側のデメリットは?

健康経営における従業員側のデメリットについても把握しておきましょう。具体的なデメリットとして以下2つがあげられます。

    • ・手間がかかる
    • ・個人情報への不安がある

各項目を詳しく解説します。

業務以外の手間がかかる

企業が健康経営に取り組むことになれば、従業員に課される業務以外の手間が増えます。健康診断やストレスチェックの実施、各種アンケートへの回答、イベントへの参加などが例として挙げられます。

もちろん、これらはすべて従業員にとってプラスに働くものばかりです。しかし、日々業務に追われている従業員にとっては負担が大きく、仕事を邪魔されていると思われることもあるでしょう。

業務以外の手間が発生してしまうことが、従業員が感じる健康経営における最大のデメリットです。

個人情報への不安が残る

健康診断の結果やメンタルチェックの内容など、健康経営では従業員の個人情報を多く扱うことになります。このような個人情報について、「会社に知られたくない」「周囲に漏れたらどうしよう」と不安を抱かれる可能性がある点も健康経営のデメリットです。

万が一、個人情報が流出することになれば企業は責任を問われます。適切に個人情報を管理するのはもちろんのこと、管理方法や情報の用途を明示し、従業員に安心して健康経営へ参加してもらえる環境を整えましょう。

健康経営とは

企業にとっても従業員にとってもメリットが豊富な健康経営。そもそも、健康経営とはどのような取り組みなのでしょうか。

ここからは、健康経営の概要を以下の順に沿ってわかりやすく説明します。

    • ・健康経営の概要と目的
    • ・健康経営に取り組むべき企業の特徴
    • ・健康経営に関連する政府の制度や取り組み

健康経営の概要と目的

経済産業省は、健康経営を以下のように定義しています。

「健康経営」とは、従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践することです。

“引用:経済産業省健康経営とは

健康経営をわかりやすくいうと、経営課題のひとつとして従業員の健康管理を盛り込み、健康維持や促進のためにいろいろなことに取り組む経営戦略です。

経済産業省の資料では、以下のような取り組みを健康経営の一例として挙げています。

    • ・昼食後に歩行運動を行う
    • ・分煙に取り組む
    • ・従業員の血圧や体重をシステムで管理し、個別アドバイスを行う
    • ・歩数計を持ち歩き、歩数を集計して実績を公表する
    • ・運動会を開催する など

このように、さまざまな取り組みが健康経営の一環として実施されています。

企業が健康経営を取り入れる目的は、従業員の活力や生産性の向上です。従業員がいきいきと働けるようになれば、結果的に業績やブランドイメージが向上し、企業利益につながります。

“参考:経済産業省「健康経営優良法人取り組み事例集」

健康経営に取り組むべき企業の特徴

健康経営はすべての企業にメリットをもたらしてくれる取り組みですが、特に実施が推奨される企業の特徴として次のようなものが挙げられます。

    • ・長時間労働が常態化している
    • ・長期求職者が複数人いる
    • ・従業員の年齢層が高い
    • ・健康診断やストレスチェックの結果に問題がある
    • ・離職者や求職者が増加傾向にある

このような企業は、従業員の健康や労働環境に問題が隠されている可能性が高いでしょう。

言い方を変えると、健康経営によって高い成果が得られる可能性がある企業ということです。当てはまる項目が1つでもある企業は、ぜひ可能な範囲から健康経営を取り入れてみましょう。

健康経営に関連する政府の制度や取り組み

健康経営を促進するために、経済産業省はさまざまな制度や仕組みを設けています。特に押さえておきたいのは、次の3つです。

    • ・健康経営優良法人認定制度
    • ・日本健康会議
    • ・健康経営銘柄

それぞれの詳細を解説します。

健康経営優良法人認定制度

健康経営優良法人認定制度とは、特に優良な健康経営を実践している大企業や中小企業等の法人を「見える化」する制度です。

健康・医療新産業協議会健康投資ワーキンググループで定められた評価基準に基づいて、日本健康会議が「健康経営優良法人」を認定します。中小企業(中規模法人)を対象とする、「ブライト500・中小規模法人部門」の認定も行われています。

健康経営優良法人に認定されるメリットは、次のとおりです。

    • 1.健康保険の保険者や自治体が実施する健康宣言事業に参加する
    • 2.自社の具体的な取り組み状況を「健康経営優良法人認定申請書」に記載する
    • 3.日本健康会議認定事務局へ申請する
    • 4.認定審査が行われる
    • 5.日本健康会議において認定される

※「ブライト500・中小規模法人部門」の場合
“出典:経済産業省「健康経営優良法人の申請について」

健康経営優良法人については、こちらの記事も参考にしてください。

日本健康会議

日本健康会議とは、国民ひとり一人の健康寿命延伸と適切な医療を目的に活動を行うために組織された、民間組織や自治体が連携した活動体です。経済団体や医療団体、保険者などの民間組織や自治体によって構成されており、職場や地域の課題解決に向けた活動を行っています。

健康経営優良法人認定制度の認定は、この日本健康会議が実施しています。

健康経営銘柄

健康経営銘柄とは、経済産業省が特に優れた「健康経営」を実践している企業に認定を与える制度です。東京証券取引所の上場企業の中から選定されます。

健康経営銘柄として認定される際のプロセスは、次のとおりです。

    • 1.自社の具体的な取り組み状況を「健康経営度調査票」に記載する
    • 2.日本健康会議認定事務局へ申請する
    • 3.認定審査が行われる
    • 4.健康経営優良法人への申請法人のうち、上位500位以内の上場企業を候補として抽出する
    • 5.財務指標スクリーニングや加点等を実施する
    • 6.経済産業省と東京証券取引所が共同で「健康経営銘柄」を選定する

健康経営銘柄として認定されると、「長期的な企業価値向上を重視する、投資家にとって魅力的な企業」としてみなされます。株価上昇が期待できるため、企業にとってメリットが大きい認定制度であるといえます。

なぜ中小企業で健康経営が重要なのか

中小企業において健康経営が重要とされる理由として、以下の4つの要因が挙げられます。

    • ・人材不足の深刻化
    • ・ワーク・ライフバランスの重視
    • ・長時間労働の是正
    • ・健康保険料支払いの増加

ここからは、それぞれの要因を詳しくみていきましょう。

人材不足の深刻化

人材不足の深刻化は、健康経営の重要度を高めた大きな要因です。

少子化によって労働人口が減少する日本では、特に中小企業の人材不足が深刻化しています。中小企業庁の「従業員数299人以下の企業における大卒予定者求人数・就職希望者の推移」を見ると、求人数に対して就職希望者が大幅に少ない状況であることがわかるでしょう。

※画像引用:中小企業庁2020年版「小規模行白書」

職場の労働力が足りなければ、一人当たりの業務負担は大きくなります。従業員の負荷が大きくなれば生産性が下がり、さらなる労働力不足を引き起こすでしょう。

職場環境の悪化は従業員の離職にもつながり、人手不足はいっそう深刻化していきます。就職希望者が少ない中小企業こそ、健康経営によって従業員の生産性や定着率を高めることが大切なのです。

ワークライフバランスの重視

近年の求職者が就職先を選ぶ際にワークライフバランスを重視する傾向にある点も、健康経営の重要性が増した要因です。

内閣府が発表したデータによると、仕事選択に際して重要視する観点について、「子育て、介護等との両立がしやすいこと」と答えた割合は約7割、「自由な時間が多いこと」と答えた割合は約8割となりました。(「とても重要」または「まあ重要」と回答した割合の合計)

※画像引用:内閣府特集就労等に関する若者の意識

「仕事と家庭・プライベートとのバランス」におけるアンケートでも、「仕事よりも家庭(プライベート)を優先する」と回答した人の割合は、平成23年度調査では52.9%でしたが、平成29年度調査では63.7%と増加しました。

このことから、仕事ばかりに尽力するのではなく、生活も大切にしたいと考える労働者が増えていることがわかります。

健康経営を実施する際は、取り組みの一環として労働時間の削減や最適化を行います。ワークライフバランスを重要視する現代だからこそ、健康経営は重要性が高まっているのです。

長時間労働の是正

長時間労働を是正することも、健康経営の必要性が増した要因です。

日本では、長時間労働が大きな問題となっています。実際、過重労働や過度な残業による労働災害や、事件に関して報道されているのを目にしたことがある方は多いでしょう。

厚生労働省の『令和2年版過労死等防止対策白書』によれば、労働者の年間総実労働時間は減少していることがわかっています。

※画像引用:厚生労働省令和2年版過労死等防止対策白書

しかし、その一方で職場の勤務問題を理由に自ら命を絶った人の数は、平成10年を境に大きく増加しています。

そして、自殺者総数のうち勤務問題を原因のひとつとして挙げている人の割合は年々増加しており、その動機でもっとも多いのが「仕事疲れ」ということも判明しました。

※画像引用:厚生労働省令和2年版過労死等防止対策白書

長時間労働は、従業員の心身における健康を大きく阻害し、命を脅かすこともあります。最悪の事態を防ぐためにも、健康経営で労働時間を最適化し、心と体の健康を維持することが大切なのです。

健康保険料支払いの増加

健康保険料支払いの増加も、今健康経営が重要視されている要因のひとつです。

内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省が共同で発表した「社会保障給付費の見通し(ベースラインケース)」では、2040年度の医療費は2018年度の約1.7倍にも上ると予想されています。

※画像引用:内閣官房・内閣府・財務省・厚生労働省|2040年を見据えた社会保障の将来見通し

医療費が増大すれば、当然健康保険料にも影響するため注意が必要です。事実、全国健康保険協会を例に挙げてみると、平成元年は8.40%だった健康保険料率が、平成24年には10.0%にまで増加しています。

健康保険料率が上がれば、事業者の保険料負担も増大します。ひとり一人の保険料がそこまで高くなくても、会社全体でみると大きな負担となることは間違いありません。

また、医療費の増大は政府の財政を圧迫する要因にもなります。そのため、政府は健康経営を重要な課題としてとらえているのです。

“参考:全国健康保険協会「保険料率の変遷」

健康経営を導入する流れ

健康経営を導入する流れは以下のとおりです。

    • 1.健康経営宣言を行う
    • 2.横断的な組織体制を整える
    • 3.課題を明確にして優先順位を決める
    • 4.スケジュールを策定する
    • 5.施策を実行しPDCAサイクルを回す

順に沿って具体的に解説します。

1.健康経営宣言を行う

まずは、企業として社内外に健康経営宣言を行います。

健康経営宣言とは、企業が従業員の健康維持・増進に向けた取り組みの実施を社内外に表明することです。また健康経営宣言は、「健康経営優良法人」における認定要件の1つです。

健康経営に取り組むことを周囲にアピールすれば、従業員の健康意識のモチベーションアップや企業イメージの向上につながるでしょう。宣言を行う際は自社における健康問題を把握し、目的や具体的な取り組み内容をわかりやすく説明することが重要です。

健康経営宣言を表明する方法としては、自社のWebサイトやプレスリリース配信サービスへの掲載などがあげられます。

2.横断的な組織体制を整える

健康経営を効果あるものにするには、横断的な組織体制を整備し経営戦略として企業全体で取り組むことが重要です。

そもそも健康経営を導入する際は、経営陣からの理解を得なければなりません。企業の経営陣に新制度の導入を認めてもらうためには、導入が利益につながることを分かりやすく示す必要があります。健康経営の目的とメリットを、しっかりとアピールしましょう。

また、健康経営の担当者を決めておくことも大切です。担当者が積極的に取り組むことで、具体的な戦略や展望を従業員にも説明できるようになります。

担当者は人事・労務からマーケティング、営業、財務まで部門・部署を横断して選出し、健康経営専門のチームを作ることも1つの手です。それぞれの組織に健康経営の正しい知識が身についた担当者がいれば、他部署の連携もスムーズになるでしょう。

3.課題を明確にして優先順位を決める

次に自社の課題を明確にして解決すべき優先順位を決めます

課題を抽出する方法は、ストレスチェックやアンケート調査、健康診断などにおけるデータの分析などです。データに基づいて課題を考察することで、客観的で効果のある施策を練られるでしょう。

また課題に対して優先順位を決めることも大切です。厚生労働省の令和3年雇用動向調査によると、転職者が前職を辞めた個人的理由として男女ともに以下の3つが上位を占めています。

    • ・職場の人間関係が好ましくなかった(男性:8.1%、女性9.6%)
    • ・労働時間、休日等の労働条件が悪かった(男性:8.0%、女性10.1%)
    • ・給料等収入が少なくなかった(男性:7.7%、女性7.1%)

“参考:厚生労働省「令和3年雇用動向調査」

「人間関係」「労働条件」「給料」に対する企業への不満は、従業員のメンタルヘルスに悪影響を与えるうえに、離職するリスクも高いといえます。上記3点に該当する可能性がある場合は優先的に対処することで、健康的に働ける職場環境を構築でき、結果的に人材の定着率の向上も見込めるでしょう。

企業によって課題の優先順位は異なるため、自社の従業員の声を収集して重要度が高い問題を見極めることが重要です。

4.スケジュールを策定する

洗い出した課題と優先順位をもとに、健康経営のスケジュールや具体的な取り組みを策定しましょう。

一般的に健康経営は短期的な計画によって効果を得ることは困難です。そのため5年、10年などの中長期的な目線で取り組むことが重要といえます。

またメインとなる目標を設定したあとは、スケジュールに細かく中間目標を盛り込むことも大切です。一つひとつのゴールに向かって行動でき、中間目標ごとに軌道修正もしやすくなるため、自社がやるべきことが明確となります。

具体的な施策の例については後述する「健康経営の効果的な施策」の項目をご覧ください。

5.施策を実行しPDCAサイクルを回す

健康経営へ効果的に取り組むためには、PCDAサイクルを回すことが必要です。

PCDAサイクルとは、「Plan(計画)・Do(実行)・Check(評価)・Action(改善)」の循環を指します。計画を実行した後は、評価・改善を継続的に行い、絶えずブラッシュアップすることが求められます。

健康経営では、ストレスチェックや健康診断といった健康上の取り組みを実施するだけでなく、結果を分析して課題を洗い出すことが重要です。従業員の残業時間や休日出勤の状況、有給休暇の消化率などもデータとして分析すれば、隠れていた課題が見つかるかもしれません。

課題が抽出できたあとは、改善策の思案・実行をしてください。実行後には、施策が予想通りの効果を得られているかについて評価することも大切です。効果が得られていない施策があれば、改善を行います。

健康経営の効果的な施策

健康経営の効果的な施策の例を紹介します。

    • ・ストレスチェックを実施する
    • ・セミナーや研修を開く
    • ・職場環境を整備する
    • ・産業医からサポートを受ける

それぞれ具体的に解説します。

ストレスチェックを実施する

ストレスチェックを実施し、データを集団分析することで職場のストレス要因の特定につながります。

例えば、ストレスチェックにおいて高リスクな集団と判断できる部門や部署などに対し、まとめてメンタルヘルスの研修やセミナーを開催するなどがあげられます。

定期的に従業員のストレスチェックをおこなえば、ほかの施策でどのような効果が得られたのかを把握することにもつながるでしょう。これにより、客観的なデータを活用してPDCAサイクルを素早く回せるはずです。

セミナーや研修を開く

従業員の健康増進につながるセミナーや研修を開くこともおすすめです。

例えば自社の新入社員向けの研修プログラムにおいて、メンタルヘルス対策に関する講座を組み込めば、健康意識を早期に高める効果が期待できます。

また健康経営を自社の経営戦略に取り入れたい場合も効果的です。自社の担当者にセミナーに参加してもらえれば、ストレスチェックの活用方法や職場のハラスメント対策など、健康経営に関するさまざまなポイントを把握できるでしょう。

健康経営や産業医に関するセミナー・講演について気になる方はぜひ下記ページをご覧ください。

セミナー・講演依頼 | 産業医紹介の株式会社Dr.健康経営

職場環境を整備する

職場環境を整備することも健康経営の取り組みの1つです。

快適に働ける環境づくりをおこなえば、従業員の職場におけるストレス軽減が期待できるだけでなく、優秀な人材の確保や離職率の低下などの効果も見込めるでしょう。

具体的なチェックポイントとしては作業場・オフィスの空間や福利厚生、人事評価などがあげられます。職場環境の改善に関するアイデアやポイントについては下記ページで詳しく解説しているのであわせてお読みください。

産業医からサポートを受ける

産業医は労働者が50人以上在籍する事業所において選任が義務付けられています

従業員の健康相談や休職から復職までのサポート、長時間労働者への面接指導なども実施してくれるだけでなく、専門的な立場から企業にアドバイスを提供してくれることが特徴です。

“参考:厚生労働省「産業医ができること」

例えば、新型コロナウイルス感染症のような未知の感染症が流行した場合において、産業医がいればアドバイスをもらえます。感染症対策などをスピーディに行うことができるでしょう。

健康経営のメリットを活かした企業事例

健康経営優良認定制度には「ホワイト500」と「ブライト500」の2部門が存在します。

ここではホワイト500とブライト500に認定された企業の事例を解説します。

ホワイト500|阪急電鉄株式会社

阪急電鉄株式会社は、「生活習慣病」「女性特有の疫病」「メンタルヘルス」「職場の禁煙」の4つを重点的に対処すべき健康課題として健康経営に取り組み、ホワイト500に認定されました。

具体的な取り組みは以下のとおりです。

    • ・生活習慣病:保健師によるサポート面談、健康保険組合実施の特定保健指導の勧奨など
    • ・女性特有の疫病:女性がん検診の実施、セミナーの開催など
    • ・メンタルヘルス:カウンセリングルームの設置、職場復帰時の支援など
    • ・職場の禁煙:禁煙治療への費用補助、職場での禁煙推進イベント実施など

阪急電鉄株式会社は従業員だけでなく家族の健康課題を分析し、施策の立案・実施・検証を行っています。

“参考: ACTION!健康経営「健康経営優良法人2023一覧」

ブライト500|株式会社タニタ

株式会社タニタは「タニタ健康プログラム」を開始しました。通信機能を持つ歩数計や体組成計などを活用して、社員の歩数や体重、体脂肪率などを計測・管理し、健康づくりのPDCAサイクルを実践していることが特徴的です。

また健康経営における指標と目標を設定し、定量的にモニタリングしながら施策を実施しています。特にBMI(体格指数)をもとに適正体重者の割合を増やすことを重点的に取り組んでいます。

毎年新たな健康増進施策に取り組み、歩数イベントやメンタルヘルスプログラム、朝食提供やヘルスツーリズムなどを実施しています。

“参考:株式会社タニタ「健康経営への取り組み」

健康経営のメリットを最大化するポイント

最後に健康経営のメリットを最大化するポイントを紹介します。

    • ・健康経営優良法人認定を目指す
    • ・健康アドバイザーから助言を受ける
    • ・助成金を活用する
    • ・社内外のPRを欠かさない

それぞれ詳しく解説します。

健康経営優良法人認定を目指す

健康経営優良法人に認定されると、従業員の健康に配慮する「ホワイト企業」として活動できます。そのため企業イメージが向上し、人材を確保しやすくなるでしょう。

政府や顧客、取引先、投資家などの信頼を得ることとなり、資金調達のハードルが低くなる可能性もあります。

また「健康経営優良法人に認定される」という明確な目標を持つことができます。従業員は目的意識を持って健康経営に取り組むことにつながるため、生産性向上にもつながるでしょう。

健康アドバイザーから助言を受ける

健康アドバイザーとは、従業員の健康状態やライフスタイルに応じて改善策を提案してくれる専門家のことです。「心身健康アドバイザー」や「健康食アドバイザー」「健康経営アドバイザー」などの種類があります。

自社の課題に合わせた助言を受けることで、より効果的なアイデアを健康経営の施策に取り入れることができるでしょう。また自社の従業員に健康経営アドバイザーの資格取得を促し、社内に健康経営の専門家を育成することも1つの手です。

“参考:東京商工会議所健康経営アドバイザー」

助成金を活用する

中小企業が健康経営に取り組む際は、積極的に助成金を活用しましょう

健康経営に関する助成金にはさまざまなものがありますが、ここでは2つの例を紹介します。

受動喫煙防止対策の助成金

受動喫煙防止対策を推進する中小企業に向けた助成金です。一定の要件を満たす喫煙室の設置費用のうち、100万円を上限として3分の2までの補助が受けられます

対象となるのは労働者災害補償保険の適用事業主であって、かつ中小企業事業主に該当する企業です。中小事業主となるための条件は、労働者数または資本金の条件のどちらか一方を満たすことですが、その条件は業種によって異なります。

受動喫煙防止対策助成金を申請するには、都道府県労働局などに書類を提出する必要があります。審査期間は、原則1カ月以内です。交付が決定した場合は、企業が工事費用を支払ったあとに事業実績と支払請求書を提出すれば、助成金を受領できます。

“出典:厚生労働省受動喫煙防止対策助成金 職場の受動喫煙防止対策に関する各種支援事業(財政的支援)」

ストレスチェック助成金

独立行政法人労働者健康安全機構では、ストレスチェック実施促進のための助成金を給付しています。企業がストレスチェックを実施する際は、助成金を受けられる可能性があります。

助成金の対象となるのは、労働者が50人未満の事業場で、かつ労働保険適応事業場である中小事業主です。

ストレスチェックの実施費用として従業員1名につき500円まで、医師の活用費用として1事業場あたり1回の活動につき21,500円までの補助が受けられます。申請したい企業は、ストレスチェック実施後に必要書類を揃え、独立行政法人労働者健康安全機構に提出してください。

“出典:独立行政法人労働者健康安全機構「令和4年度版「ストレスチェック」実施促進のための助成金の手引

社内外のPRを欠かさない

健康経営の取り組みは、社内外にしっかりとアピールしましょう。

健康経営の目的やゴールがきちんと理解されていなければ、本来の効果は現れません。健康経営は、その意義を正しく知ってもらってこそ効力を発揮します。

前述したように、社内へのアピールには社内報などで周知する方法が有効です。社外へのアピールには、プレスリリースや株主総会を活用した発信が適しています。

「健康企業宣言」を行うことも、ひとつの方法です。健康企業宣言とは、企業全体で健康づくりに取り組む宣言をすることです。一定の成果を得られた場合は、健康優良企業として認定されます。

まとめ

健康経営は、従業員と企業の双方にメリットがある経営戦略です。従業員は快適な職場環境で意欲的に働けるようになり、企業にとっては業績が向上するなど、さまざまなプラスの効果が期待できます。

従業員の心身における健康を管理する健康経営は、専門知識を必要とする取り組みです。「自社で取り組むノウハウがない」「リソースが割けない」という場合は、専門家のサポートを受けることも検討してみてください。

Dr.健康経営は、メンタルケアに強い産業医サービスです。『産業医コンシェルジュ』では健康経営に精通したプロの産業医を紹介しています。健康経営に関して悩んでいる企業や導入を検討している企業は、ぜひお気軽にご相談ください。

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鈴木 健太
監修者
鈴木 健太
医師/産業医

2016年筑波大学医学部卒業。
在学中にKinesiology, Arizona State University留学。
国立国際医療研究センターでの勤務と同時に、産業医として多くの企業を担当。
2019年、産業医サービスを事業展開する「株式会社Dr.健康経営」を設立、取締役。

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